真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:小山田勝治/録音:池田知久/編集:西山秀明/助監督:江尻大/小道具:愛河シゲル/選曲:効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:吉岡純平/撮影助手:邊母木伸治/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:花音うらら・愛葉るび・可児正光・二葉エマ・橘聖人・加藤絵莉・只埜なつみ・豊岡んみ・かわいゆうな・樹カズ)。その後就職して足を洗つた模様の、愛河シゲルのピンク映画参戦は同じく吉行由実の2014年第二作「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(2020/主演:奥田咲)と、小山悟2015年第二作「果てなき欲望 監禁シェアハウス」(脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:神咲詩織)ぶりの当サイトに抜けがなければ恐らく三戦目。コドーグコドーグいふほどの小道具が、何を指すのかは知らん。
 線路を跨ぐ歩道橋、エリカ(花音)が彼氏を寝取つた親友の佐藤樹里(二葉)に、憤然と決別を叩きつける。半ベソで踵を返すエリカ(花音)に入つた、母・真紀子(愛葉るびのゼロ役目)からの電話は父ないし、真紀子目線では夫の誕生日に合はせた温泉家族旅行のお誘ひ。尤もそれどころでない娘にはやんはりと参加を見合はされ、慎吾(樹)当人からは祝ふ齢でもないと企画自体否定された真紀子が、溜息ついてタイトル・イン。申し訳ないが花音うららは国沢実2020年第二作「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(脚本:高橋祐太/主演:東凛/二番手)を、全く覚えてゐなかつた。
 適当に散らかされた部屋に帰宅したエリカが、煙草に火を点けがてら樹里にカッ攫はれた元カレの直樹(橘聖人/橘秀樹には非ず)を想起。カットの割り具合から窺ふに、恐らく花音うらら当人は嗜まぬにさうゐない。絡み初戦は軽くイチャつく程度で一旦茶を濁し、玄関を開けるや勝手に上がり込んで来る仲の、幼馴染・秀一(可児)がハンバーグを作りに遊びに来る。上がり込むはおろか、それで事がオッ始まらないのが不思議な秀一はそのまゝ一泊。寝込みに手を出さうかしたところ、淫夢―で本格的な濡れ場初戦―を見るエリカが洩らす直樹の名前に、秀一が踏み止(とど)まつた翌朝。元々秀一と約束はしてゐたジョギングにエリカが音を上げてゐると、真紀子が家に戻らないとの電話が今度は慎吾からかゝつて来る。その通話を終へるや否やの正直へべれけなタイミングで、素頓狂に華美な扮装の真紀子改めマッキー(愛葉)が二人の前に大登場。どうやらエリカにとつて母親でなく、少しだけ年上のマブダチといふアイデンティティと思しきマッキーを、秀一の助言に従ひエリカは大人しく自室に転がり込ませる。
 配役残り、豪華四番手の加藤絵莉は、慎吾の浮気相手・佳奈、香菜なら頭をよくしてあげなくては。当然行くつもりのなかつたエリカは、今度はマッキーに背中を押され招待されてゐた、樹里の誕生日パーティー出撃を決定。只埜なつみと豊岡んみにかわいゆうなは、何故か主役が一番地味なドレスを着てゐるパーティーの名なし招待客。ビリング頭が三番手より着飾るのは別に構はないにせよ、そこはどうにかしてやれよと思へなくもない。その他吉行由実と、招待されてゐるのか店の従業員なのか微妙なEJD、更に特定不能の若い男が二人の計四名見切れる。画面の片隅に見え隠れする吉行由実の、ロイドのグラサンが浜野佐知みを爆裂させてゐるのが地味に可笑しくて可笑しくて堪らない。あと、秀一とのある意味プラトニックな関係以上に、エリカがホイホイ乗り気なのがなほパラノーマルに思へて仕方ない、結局樹里とも別れた慎吾がマキシワンピの中に淫具を仕込ませたエリカを、往来に連れ出す羞恥プレイ。の件に投入される通行人部が、潤沢を軽くオーバーシュート。
 上野の旗艦館始め公式に言祝がれてゐる割にその旨のクレジットは見当たらない、吉行由実監督生活二十五年の周年記念作。一年ずれるのは、撮影時カウントか。前作「同棲性活 恥部とあなたと…」(2020/主演:佐藤りこ)での、「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本:岡桜文一/協力≒脚本監修:関根和美)以来となる電撃復帰に驚かされた、愛葉るび的には芸能生活二十年の周年記念作。監督生活二十五年に話を戻すと、だから荒木太郎も同期なのに、清水大敬に関しては―当サイトが―忘れてゐた。
 母と娘が親友同士としての新しい関係を築きつつ、各々新しいパートナーにも恵まれる。量産型娯楽映画作家として吉行由実は既に成熟、大筋がとりあへず酌めるやうに撮られては、ゐるけれど。いやいやいや、この物語で、目出度し目出度しといふのは土台通らない相談。可児正光の男前力と、電飾ブランコの大技―こゝで装飾部の出番?―もそれなりに綺麗に決まり、エリカが秀一と結ばれる乃至、秀一積年の片想ひが漸く実るエモーションは素直に吞み込み得る。さうは、いへ。マッキー造形の痛々しさ以前だか以下に、全員偶さかな本命扱ひで、女優部三冠を華麗にでなく達成してのける達成しやがる、直樹の自堕落な浮気男ぶりが兎にも角にも即死級の致命傷。主演女優の裸を拝ませる方便以外に、そもそもさういふクソ男の相手を、何時までもエリカが嬉々と務めてゐる正しく腐れ縁が途轍もなく理解に遠い。挙句の、果てに。結果的かつファンタな母娘丼についてはまだしも、自分の気持ちを確かめるためにだとかで、女二人に目隠しさせた巴戦を仕込むやうな出鱈目な男を、エリカが母親に譲る構図が根本的に木端微塵。その場のショックで正気を取り戻した真紀子も真紀子で、「有難う、私を選んで呉れて」ぢやねえだろ。言葉を選ぶと二人とも頭おかしいのか、マッチポンプで恐縮ながら、全然正気取り戻せてない。性懲りもなく白馬の王子様を待ち焦がれてゐたりする、かつての―とうに少女ではない女が拗らせる―少女趣味を吉行由実が卒業したはいゝものの、これはこれで底の抜けたガッハッハに過ぎる。生まれ落ちて半世紀を通過、怠惰に堕ち続けるオッサンでも立ち止まらざるを得ないレベル。流石に幾ら何でも、ハッピー(風の)エンドを見せておけば、脊髄で折り返して客は喜ぶとでも思つてゐるのなら大間違ひだらう。


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