真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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女教師 汚れた放課後
な行
/
2023年08月09日
「
女教師 汚れた放課後
」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:根岸吉太郎/脚本:田中陽造/プロデューサー:岡田裕/撮影:米田実/照明:田島武志/録音:小野寺修/美術:徳田博/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:鈴木潤一/色彩計測:松川健次郎/現像:東洋現像所/製作進行:三浦増博/出演:風祭ゆき・太田あや子・鹿沼えり・三谷昇・藤ひろ子・小池雄介・花上晃・木島一郎・浜口竜哉・粟津號・北見敏之・ 影山英俊・ 水木京一・南部寅太・溝口拳/協力:松丸家辨太郎一座)。出演者中、粟津號と南部寅太は本篇クレジットのみ、協力の松丸家辨太郎一座も。配給に関しては、実質“提供:Xces Film”。
最初の画は刑務官も見切れる留置場、都立第一高校に勤務する倉田咲子(風祭)宅に、渋谷署少年係(声の主なんて不明)から電話がかゝつて来る。咲子が名前も知らない、第一高生徒の野本スエ子が補導されたとのこと。ところでその時咲子はといふと、男と乳繰り合つてゐる真最中。「兎に角そちらに伺へばいゝんですね」、とりあへず咲子が受話器を置いた流れで画面左半分を占めるテレビに入れる、案外頓着ない構図のタイトル・イン。アバンは大人しく隠れてゐた小沢(小池)と咲子が背面座位で交はりつつ、一旦俳優部限定のクレジットが先行する。あの男の、名前のない。
スエ子(太田)を迎へに行つた上で、一緒に住んでゐるのかといふ勢ひで改めて咲子は小沢と寝る。咲子は忘れてゐたが、スエ子は教育実習先である中学分校の生徒だつた。当時手洗でストッキング男(実は南部寅太/現:南部虎弾)に犯された咲子は、ストッキングを被せた男を三人並べた面通しに於いて、体に染みついたシンナーの匂ひからスエ子の父親を犯人認定してゐた。
配役残り、滔々とした説明台詞も的確なメソッドで卒なく聞かせる粟津號は、スエ子の外堀を埋める担任か学年主任的な山川先生。三谷昇が件のスエ子父・末吉である鼻の差、面通しの場にて睨みを利かせる刑事役で、ノンクレの高橋明が飛び込んで来るのが今作最大の衝撃。台詞の与へられない高橋明はまだしも、粟津號に至つては後述する水京より余程大きな役に思へなくもないのは、ポスターに名前が載る載らぬの不遇に関しての疑問。閑話休題、北見敏之はスエ子をナンパする男・三井。金を払ふ気満々につき、世間一般的なナンパといふのとは少し違ふのかも。咲子の婦女暴行事件はのちにアンパン常習者のフーテンが真犯人―が南部虎弾―である旨明らかとなつたものの、末吉が出稼ぎ先で蒸発したスエ子は、母親と姉を頼り上京、藤ひろ子が母親のサチ。木島一郎は、サチがレジ打ちのパートで働くスーパーの、正確な役職は不明ながら管理職ポジションにある人・杉原。鹿沼えりが紅丸物産に就職した姉のトモ子、一間のヤサに転がり込んで来た、母と妹を邪険に煙たがる。影山英俊は、トモ子が結婚を迫る恋人・遠藤。そして水木京一が咲子と末吉を繋ぐ、掃除夫の同僚。浜口竜哉は小沢と事実上破局を迎へた咲子に、「レイズ・ザ・タイタニック」(昭和55)上映館の表で声をかける男・伊東。当初気配を殺すが如く雑踏に潜んでゐたハマタツが、悄然と一人佇む咲子を認めるや俄かに起動する瞬間が、二つ目の白眉、そんなとこしか見てゐないのか。溝口拳は、殴つた末吉に後ろから石で殴られるヤクザ。伊東との事後、凄まじいタイミングでその場に居合はせた咲子と、末吉を東京から離れさせる動因。咲子と末吉は、末吉にとつて思ひでの場所とかいふ海町の旅館に流れ着き、電車の中で昏倒した父親の様子を見に、スエ子も合流する。松丸家辨太郎一座の皆さんは、そこで大衆演劇を上演中のゼムセルフ、花上晃が座長の板東栄次郎。その、他。どうも根岸吉太郎は、背景に通行人を歩かせてゐないと不安で不安で仕方のない御仁らしく、全篇通して不自然なほど潤沢にエキストラが投入される。その中でも、咲子がスエ子と入る旅館の女風呂に、五十路前後の裸要員をも配してのけるクルーエルな逆眼福には目を覆ひはしないが流石に疑つた、誰得なのよ。
同年監督に昇進した鈴木潤一(=すずきじゅんいち)の、翌昭和57年第二作が第七作「
女教師狩り
」(脚本:斎藤博/主演:風祭ゆき)で、西村昭五郎の昭和58年第六作が最終第九作「
女教師は二度犯される
」(脚本:熊谷禄朗・城谷亜代/原作:佐治乾/主演:志水季里子)。買取系にも門戸を開いてゐる、団地妻はその点もう少し緩いのかも知れない、上の句を共有してゐるだけで括る漠然とした連作構成には正直無理も否み難い、「女教師」シリーズ第四作とされる根岸吉太郎昭和56年第一作。要は、単なる女教師ものといふ話に過ぎまい。兎も角唯一複数作主演を果たす風祭ゆきは、第八作「襲はれる女教師」(昭和58/監督:斉藤信幸/脚本:桂千穂)でも相変らず襲はれてゐる。
冤罪に加担してしまつた、被害者であると同時に一種の加害者でもある女教師。明確にドロップアウトした父親と、道を踏み外すにしては眼差しのしつかりした娘。三人を軸に、物語が織り成されは、するけれど。風祭ゆきのバッキバキにソリッドな絶対美人ぶりは四十有余年の時を経て、世紀と二つの元号をも跨いだ今なほ、一くすみたりとて輝きを失ひはしない。さうは、いへ。三谷昇相手でも堂々と互角以上に渡り合ふ、二番手が方言まで含め達者な反面、主演女優の口跡が最終的には宙に浮いてゐる、三角形の一角に穴の開いた土台破綻気味のパワーバランスが地味でないアキレス腱。結局咲子はといふと、重たい過去を持て余した小沢と、別れるのが精々関の山。何時しか“女教師”も“放課後”もへつたくれもなく、彷徨するスエ子いはく“欠陥人間”の父娘が、偶さか出会つた剣劇の世界に身を投じて更生を果たす。だなどと大概素頓狂なホームドラマに帰結してみせる、癖の強いドラマツルギーが出色。相手を欠いた咲子が末吉と突入する時点で、既に十分か随分な飛躍をものともせず。早朝の一人稽古を目撃したスエ子が、座長に抱かれる模様をクロスカッティングで放り込む、力技に力技を合はせて来る壮大か壮絶な締めの濡れ場にも軽く吃驚した。結局、咲子と山川が会話を交す、二人以外誰もゐない職員室と、セピア色が判り易い回想パートの手洗。あとはラストのどうもそこら辺の公園臭いグラウンド脇―と出勤時の校門ロング―くらゐしか校内が舞台に使はれず、挙句劇中終ぞ不登校のスエ子が制服姿を拝ませる訳でもない、どころか。咲子とスエ子に山川以外、生徒教職員問はず学校関係者なんて猫一匹出て来やしないぞ。全九作といはれても元々掴み処のない以前に、そもそも相当「女教師」みの薄い、電車に乗らない痴漢電車のやうなフォースである。
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