真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫女医の舌技カルテ」(1999/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:森山茂雄/監督助手:横井有紀・長谷川光隆/撮影助手:石野朝子/照明助手:森角威之/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/出演:佐倉萌・水原かなえ・河村栞⦅新人⦆・千葉誠樹・幸野賀一・池島ゆたか・おくの剛・平川ナオヒ・かわさきひろゆき・山ノ手ぐり子・間中朱音・As・小池蓮・錠三枝子・HITOMI・神戸顕一・のろけん・石動三六・白木努・山本幹雄・佐川一政)。出演者中、のろけんがポスターには本名の木村健二で、河村栞の新人特記と間中朱音から神戸顕一までに、石動三六以降は本篇クレジットのみ。
 公園の木陰で草臥れてゐたかわさきひろゆきが起動、水飲み場で飲むのでなく水を顔に浴びてゐると、背後からフェイスタオルを差し出される。礼がてら、かわさきひろゆきは竹宮探偵事務所と印刷された封筒で調査報告書をタオルの主に手渡す。振込の念を押した上で、竹宮がタオルを返してタイトル・イン。このアバン、こゝで御役御免のかわさきひろゆきには、いふほどの意味もない、かわさきひろゆきには。
 タオル氏と甚だ紛らはしい、主観視点が「湊メンタルクリニック」に来院。この辺りの無造作さが、実に池島ゆたか。もしも仮に万が一、ミスリーディングだとしたらそれは流石にリーディング自体がミスだろ。終盤、男子トイレの千葉誠樹に、再びタオルが差し出される件は折角綺麗にキマッてゐたのに。閑話、休題。結構美人の受付(多分間中朱音)を通過、既に八人待つてゐる待合室が序盤最大の見せ場。手前から抜かれる順に、箍の外れたマザコンの横須賀正一は、小池蓮名義かなあ。本クレと本篇の、頭数は一応合ふ、イコール大場一魅のHITOMIはハードコアな不眠症。診察を撮影した―体の―ビデオ映像に於いて、神戸顕一がたゞ一言叩き込む「なんだばかやろ」が何気に超絶。池島ゆたか監督作に神戸顕一が兎にも角にも何が何でも、百本連続出演する。要は悪し様に片づけるならばノルマごなしのキャスティングにあつて、ドリフ狂で知られる神顕らしい一撃離脱を披露する披露させる、案外完璧なタクティクスには感心した。間中朱音との消去法で錠三枝子は、特徴らしい特徴にも欠く純然たるワン・ノブ・ゼン。そして何処から連れて来たのかギャランティは幾ら発生したのかしなかつたのか、限りなくヒムセルフ造形の佐川一政に度肝を抜かれる。いはずと知れた、サンテ刑務所から唐十郎に手紙を寄越したあの佐川君。寧ろある意味、石動三六なり木村健二を載せるくらゐなら、馬鹿デカくポスターに佐川一政の名を大書して巷間の耳目を惹かうとする色気をみせても、別に構はなかつたところではある折角の飛び道具。白木努は吃音、後述するさやか先生に岡惚れを拗らせる通り越して爆ぜさせる八神(千葉)挿んで、山本幹雄は終始ぐるんぐるんバンギングとふよりヘッドローリングしてゐる人。
 配役残り、来院視点の主は不眠を訴へる、「薬はヤるもんぢやなくて売るもん」とか利いた風な口を叩く幸野賀一。幸野賀一がクリニックの敷居を跨いだ時点で、診察を受けてゐた石動三六を手短か適当に切り上げる、内科医の亡父から居抜きで医院を継いだ、湊さやか先生(佐倉)が漸く大登場。水原かなえと山ノ手ぐり子(=五代暁子)は別室でカウンセリング中の、臨床心理士・榊久美と患者のサイトウ。河村栞が、軽く眠れない女子高生・阿久津リカコ。池島ゆたかはさやかの目下不倫相手、大学病院時代の恐らく上司・一ノ瀬。未配信かつ、nfajもプリントを所蔵してゐない前作「魅惑の令嬢 Gの快感」に出てゐない場合、初めてののろけん名義での出演作となるのろけんは、間男を作つた嫁に逃げられて以来、壊れてしまつた瓶投げオジサン。午後八時きつかりに、ガード下で悪態つきながら大量の空瓶を投げ割り始める、物騒で哀しい御仁。たゞ、その午後八時といふ時刻には、職業は映写技師といふこの人もヒムセルフ造形からすると、些かならず無理も否めない、終映何時なのよ。そ、れとも、オールナイトの小屋で交代制?今度は小池蓮との消去法でAsと平川ナオヒ(a.k.a.平川直大)はさやかが使ふ飲み屋のバーテンと、大学の同期・ナカハラ。そしておくの剛が、さやかに入れ揚げ勝手に離婚し妻と娘を捨てた挙句、逆鱗に触れさやかから捨てられたかつての不倫相手・阿久津。元来、相手は妻子持ちの方が却つて楽とするのがさやかの恋愛観ないし性愛観につき、この点に関しては阿久津が要は自壊したに過ぎないと捉へる、さやかの徹底して自己中心的な言ひ分にも決して分がなくはない。
 池島ゆたか1999年最終第六作、薔薇族入れると第七作は、森山茂雄の通算第三作となる2003年第一作「美人保健婦 覗かれた医務室」(脚本:黒沢久子/主演:麻木涼子)の三番手で事実上引退した、河村栞のデビュー作。“事実上”とか回りくどい物言ひを選択したのが河村栞にはその後、矢張り池島ゆたかの2006年第五作「ホスト狂ひ 渇かない蜜汁」(脚本:五代暁子/主演:日高ゆりあ)に於ける、カメオもあるにはある。
 初陣にして河村栞が思ひきり完成してゐる早熟ぶりと、形式的な濡れ場の回数も踏まへるとなほさら、河村栞と水原かなえのビリングがおかしい疑問にさへ目を瞑るか気づかなかつたフリをするならば、裸映画としてとりあへず以上に安定する。周囲からガン見えの結構スリリングなオープンから、豪快な跨ぎで突入する連れ込み。河村栞と千葉誠樹の一戦は、気合の入つた艶出の力も借り裸仕事ごとの初土俵らしからぬ堂々としたエクストリーム。尤もその前段、大概ノーガードな外階段踊り場にて、リカコが八神に吹く尺八。ジョイトイを咥へる以上ノー修正で攻めろやといふのも兎も角、大人しくディルドにしておけばいゝものをバイブを使つた結果、陰核を責める突起がボカシ越しに見切れてゐるのは、地味なのか派手なのか議論の分かれる粗忽。何れにせよ、劇映画的には佐川一政をも擁し枝葉を茂らせるのに躍起になつてゐるうちに、本丸が掘立になつた印象は如何せん否み難い一作。そもそも本筋の復讐自体が逆恨みと紙一重な上、さやかが絶体絶命まで追ひ詰められた修羅場に、上手いことしかも飛び道具持ちのGAICHIが闖入するクライマックス。所在なさげにブリ一でもじもじするチバマサが逆の意味で可笑しくて可笑しくて堪らない、四人をほぼ棒立ちで捉へる画角もクソもない引きのフィックスにも、匙かタオルを投げるワインドアップの勢ひ余つて引つ繰り返つたが、其処が底ではないんだな、これが。一貫して利己的なさやかが一件を経て全てを失ひもせず、ナカハラに何となく救済して貰ふ、霞より希薄なラストには畏れ入つた。観る者見る者のエモーションないしカタルシスを何処に持つて行きたいのか皆目釈然としない、へべれけなドラマツルギーこそ演者としても演出家としても大根と当サイトは目する、池島ゆたかの池島ゆたかたる所以。


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