真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「欲情妻 むかしの愛人」(1993『人妻・密会 不倫がいつぱい』の2004年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/製作・企画:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:北本剛・徳永恵実子/撮影助手:斉藤博/照明助手:広瀬寛己/録音:銀座サウンド/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/出演:小川真実・井上あんり・杉原みさお・荒木太郎・杉本まこと・平賀勘一)。
 六時四十五分の時計にタイトル開巻、どうやら小屋に端折られたスタッフのクレジットは、小川真実と小林夏樹を混同してのける、当サイトに劣るとも勝らず覚束ないnfajで補ふ、出鱈目にもほどがある。なので照明助手の広瀬寛己が、本当に寛巳でなく寛己でクレジットされてゐるのか否かは不明。寛巳を寛己で誤記するくらゐ、奴さんには茶飯事か朝飯前だろ。
 蘭(小川)が保険外交員の夫・槍田馬太郎(平賀)に朝食を食べさせようかとしたところ、団地の隣家から最初は犬の鳴き声かと聞き紛ふ箍の外れた嬌声が。当人いはく、日々槍田家が生じさせる夫婦生活騒音への対抗との、カラオケ感覚でマイクを握つた米子(杉原)の、朝つぱらから爆音轟かせる未亡人ONANIE。百歩譲つて対槍田家はまだしも、両隣の反対側―あと上下も―には如何に申し開くつもりなのか。それと僅かに見切れなくもない、亡夫の遺影は識別不能。この面子だと、定石的には渡辺元嗣かしら。さて措き、馬太郎はそゝくさ出勤。送り出しがてら帰宅時間を確認した蘭には、実はアメリカから一時帰国してゐる、馬太郎と結婚する以前からの不倫相手・精野サトシと日中密会。した上で、先に戻り素知らぬ顔で馬太郎を待ち構へる目論見があつた。一方、馬太郎は高額契約に判を捺させたい、米子宅に直行ないし並行移動する。こゝで画面(ゑづら)的にはスチールのみの出演であれ、電話越しの声は聞かせる精野役が中田新太郎。もしかすると誰も知らない、今何処。
 配役残り井上あんりは蘭の妹で、昨晩から家を空け男漁りに耽る恵。荒木太郎が姿を消した妻を捜し、それどころでない蘭に泣きつく義弟の太。恵が二時から会ふ予定の間男といふのが、蘭も蘭なら馬太郎も馬太郎。実はのクロスカウンターで、保険の顧客に金持ちの娘を紹介する交換条件で寝る、逆に義理の兄にあたる馬太郎だつた。杉本まことは米子に捕まり恵との逢瀬に行けなくなつた馬太郎が、代りに向かはせる部下の穴多。どうも社名不詳のこの会社、いはゆる枕営業が横行してゐる模様。それもそれで、女子社員も兎も角男は体力的にキツいだらう。実際終日米子の相手をしてゐたといふかさせられてゐた馬太郎が、終には凄惨な荒淫の果て死にさうな顔をしてゐる。
 国費を使ひながら所蔵プリントの翻刻も満足に出来ないnfaj共々、タイトルバックに裸がない隙あらばクレジットを割愛する悪弊が甚だ宜しくない、地元駅前ロマンに飛び込んで来た未配信の渡辺元嗣1993年第二作。何はともあれ、未見の旧作に触れられる機会は無上の僥倖。どうせクレジットなんて、新東宝ビデオ用に改竄された素材を使はれてしまへば木端微塵、それは“どうせ”で済む話なのか。
 元々恵が馬太郎のために押さへてゐた901号室にて、妹に引き合はせるべく―恵は801号に退避―連れて行つた太と、ドンピシャの入れ違ひで―恵がゐるものと―現れた穴多と蘭が二連戦を戦つたのち、結局会ひ損ねた精野をイマジンして米子のお株を奪ふ、朝まではふざけないワンマンショー。馬太郎と米子、あるいは平勘と杉原みさお(a.k.a.大滝加代)は全篇の大半を貫き、竜虎相搏つ壮絶な死闘を展開。シャワーこそ浴びるものの、よもや二番手―そもそも三番手が全てを食ひ尽くすか焼き払ふ勢ひでもあるのだけれど―が誰とも絡まぬまゝ映画が終るのか?と地味にでなく危惧させられた恵は、901号を辞した穴多と上手いこと合流。並走する漸くの槍田家夫婦生活と、遠回りの末辿り着いた恵と穴多のビジネス情事が、クロスカッティングで目まぐるしく交錯するのが締めの濡れ場。ラスト・カットも、来月精野が帰国する二十日に、赤丸のつけられたカレンダーといふ徹底ぶり。となると、要はナベもへつたくれもない。連れ込みの一室を軸に登場人物が器用に交錯する、グランドホテル的な面白味も幾許かはあるにせよ、深町章でクレジットされてゐたとて恐らく気づく者もゐまい、まあ清々しいまでに女の裸しかない純度の高い裸映画。いよー、ポン!歌舞伎調の掛け声と鼓を徒に多用通り越して濫用する、素頓狂な選曲。普通に美味しさうな、奮発してすき焼きの夕食。牛肉を満喫する小川真実と平賀勘一の、口元を妙な執拗さで狙ひ抜くのは、まさか―舌―鼓にフィーチャさせた奇手ではなからうな。顕示的なナベぽくなさすらちらほら際立つ、どうかしたのか軽く心配なほど風変りな一作ではある。


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