真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻の吐息 淫らに愛して」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:伊藤つばさ・星野スミレ/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:小関裕次郎/監督助手:菊嶌稔章/スチール:本田あきら/協力:鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・酒井あずさ・涼南佳奈・安藤ヒロキオ・櫻井拓也・竹本泰志《友情出演》・田中康文・広瀬寛巳・なかみつせいじ)。脚本の伊藤つばさと星野スミレは、それぞれ加藤義一と鎌田一利の変名。出演者中、竹本泰志のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
 必ずしも朝ぽくはない風景を三枚連ね、頭側の壁には子供が描いた家族の絵も飾られたベッドで、小林しのぶ(古川)が目覚める。お弁当を作る手元はしのぶではなく、父親と二人暮らしの葉子(涼南)。しのぶの朝シャンで古川いおりの裸を一旦丹念に見せた上で、葉子の父親・大竹信次(なかみつ)がネクタイを結ぶ。しのぶがチャリンコで出撃して、黄バックのタイトル・イン。傾(かぶ)くでなくチャラけてみせるでなく、至つて粛々とオーソドキシーに挑んだ節ならば窺へる。結論を先走れば、別に成功したとは誰もいつてゐない。
 小出しされる情報を整理すると一切登場しない夫の不貞を理由―のひとつ?―に別居中で、今のところ未だ配偶者の手許にゐる息子・栄作(奇矯な眼鏡をかけたスナップの主不明)の親権を得るためにも、しのぶは就活センターに登録して職探し中。しのぶがセンターの職員A(竹本)の話を神妙に聞いてゐると、隣のブースから禿のB(田中)に大竹がキレる怒号が飛んで来る。人事を担当してゐた大竹は部下の首切りに厭き会社を辞めておきながら、その旨を葉子には打ち明けられずにゐるどころか、中高年再就職のビターな現実を直視すら出来ずにゐた。度々センターで顔を合はせるしのぶと大竹は、何となくもマキシマムに通り越し、何が何だかてんで判らないけれど兎も角遮二無二距離を近づける。
 配役残り、難航する就活と首を縦には振つてゐない葉子の恋愛に燻る大竹が、吸殻の山を築き情報誌を眺めてゐるのを優しく窘める酒井あずさは、十年前に死去した亡妻・弥生。工藤雅典大蔵上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/橘満八と共同脚本/主演:並木塔子)の前に、正式な三本柱となると山﨑邦紀2017年第一作「性器の大実験 発電しびれ腰」(主演:東凛)まで気づくと案外空いてゐる酒井あずさが、この人は樹カズ(ex.樹かず/a.k.a.小林一三)と同じく齢の喰ひ方を忘れてしまつたらしく、まだまだ全ッ然イケる、最前線で戦へる。絡み初戦を完遂したのち、大竹が寝落ちたソファーで我に返るのは綺麗な夢オチ。櫻井拓也は、フリーターゆゑ大竹が交際を認めてゐない、葉子の彼氏・岡倉勇、手前は無職の癖に。安藤ヒロキオは、しのぶの味方を装ふ義弟・良。状況の如何に関らず、万が一この人が亡くなるとピンクも同時に消滅するやうな気がする広瀬寛巳は、性の根を入れ換へた大竹が、漸く面接に漕ぎつけた会社の担当者、社長かも。
 城定秀夫の大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015)から実に四年ぶりピンク二本目の、古川いおりを主演に据ゑた加藤義一2019年第二作。自身の2014年第二作「盗撮ファミリー 母娘ナマ中継」(主演:佳苗るか)以来の超電撃復帰を田中康文が遂げた何気に大きなトピックもなくはないものの、左背後から禿頭を掠める程度で、正直その人と識別可能な形で抜かれてはゐない。
 要はこれ百人この映画を観た人間のうち百五十人が同じ風に思ふにさうゐないが、少なくともミーツして二日目までは徹頭徹尾純然たる横柄でクソなプレ団塊ジュニアでしかない大竹に、しのぶといふか、より直截には古川いおりの方からコロッコロ惹かれて行くのが全く以て不完全無欠に理解不能。二人が互ひの―根本的に異なる―境遇に―便宜的極まりない―親近感を覚える契機―のつもり―の、“ブランク”とかいふ接着剤も、逆の意味で見事に木に竹すら接ぎ損なふ。一欠片の魅力も言ひ訳にも満たぬ方便さへあるまいと、兎にも角にもオッサンが黒髪ロングの麗しい、オッパイよりも尻がなほエロいしかも絶対美人に何故かモテる、何が何でもモテる。モテるべき理由の在不在などこの際関係ない、モテるためにモテる。主客層の琴線を激弾きする惰弱にして苛烈なファンタジーとしては酌めなくもないにせよ、その場合正攻法嗜好の落ち着いたドラマ作りが諸刃の剣以前の甚だ疑問手。師匠の新田栄ならば、潔く初めから底を抜いてみせたのではなからうか。ついでで些末な難癖をつけるやうだが、夜空の下で大竹がしのぶに「綺麗な星ですね」と声をかけるシークエンスは、そこは「月が綺麗な夜ですね」くらゐの漱石ライクな紋切型で切り出すのが、量産型娯楽映画らしい懐であるやうにも思へる。大絶賛堅調の酒井あずさ以外に唯一の見所は、極短の一回戦で欲求不満のフェイントをかけた上で、しのぶがサムシングに目を留めたカット跨いで突入する、質量ともに十全な古川いおりとなかみつせいじのエモーショナルな二回戦。を経ての、立ち尽くすしのぶからカメラが引くと、思ひ出のベンチに大竹が穏やかに座つてゐる見事なロング。たとへワン・ショットでも、一発でも撃ち抜いただけマシとでもいふことにして、今時のハイウエストに、激しく持ち上げられた涼南佳奈の腹肉に関しては見なかつたフリをする。

 ピンクに限らず著名なロケ物件なのか、チョイチョイ見かける喫茶店「マリエール」を、しのぶと大竹の買物デートで使用。


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