真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「エイズをぶつ飛ばせ 桃色プッツン娘」(昭和62/製作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/企画:塩浦茂/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:五十嵐伸治・横田修一/色彩計測:稲吉雅志/撮影助手:中松敏裕/照明助手:田端一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:IMAGICA/主題歌:“桃色プッツン娘”作詞:川上謙一郎 作・編曲:西田一隆・近藤正明 唄:滝川真子/出演:滝川真子・橋本杏子・山口麻美・藤冴子・ジミー土田・池島ゆたか・山本竜二・螢雪次朗)。出演者中、山口麻美と藤冴子が本篇クレジットのみで、逆にポスターにのみ秋本ちえみ。大分派手なやらかしに紛れ、池島ゆたかがポスターには池島豊、何処まで自由なのか。
 雲に隠れる満月がファースト・カット、時は江戸。水を浴びる滝川真子に、左手が藪蛇に手の込んだ金属製義手の螢雪次朗が忍び寄る。月姫(滝川)からいはゆる逆夜這ひを仕掛けられた、若侍が次々と死に至る怪事件の捜査を家老から依頼された包茎坊(螢雪次朗のゼロ役目)は、逆回転や壷の内側視点の魚眼レンズ等、案外サマになるプリミティブ特撮を駆使して月姫を壷の中に封じ込める。折角封じ込めたのに、その壷をいとも容易くその場に放つて帰るのは無造作なツッコミ処、本気で退治する気あんのかよ。無念を嘆く月姫護衛のくノ一・熊笹(山口)が、天変地異的な現象に見舞はれて赤バックのタイトル・イン。明けて―三十三年前の―現代、専門商社「任賑堂」、何の専門かは等閑視。エイズ騒ぎで歓楽街に閑古鳥が鳴く世風に触れつつ、社内に二人きりのプログラマ―といふ設定に、特段の意味は一欠片たりとてない―である屋上松太郎(ジミー)と横島英司(山本)の顔見せ、特定不能のもう二人見切れる。レス・ザン・モチベーションな横島が医務室に行くと称して平然と油を売りに行く一方、袋小路社長(池島)の令嬢・菊乃(橋本)が、大学生なのか専門商社のレポートを書くといふので社内見学に現れる。横島が会議室でサボつてゐると蛍光灯が点滅、観音様を光り輝かせた熊笹が、所謂おつぴろげジャンプ的に、あるいはフライング顔面騎乗を横島に直撃させる形で飛び込んで来る。それ、なのに。即座にオッ始まる濡れ場に際しては、熊笹が何故黒い下着を着けてゐるのか。兎も角熊笹と致した横島は、案外クオリティの高い吹き出物メイクとベタな隈取でゾンビ化。横島が担ぎ込まれた任賑堂医務室の産業医・異常愛作(螢)は一瞥するや、「まるでこりやエイズだ」とか大雑把極まりない臨床診断を下す。配役残り藤冴子は、医務室の看護婦・七本樫。螢雪次朗の異常愛作医師といふと、確認出来てゐるだけで九作前の昭和61年第二作「ロリータ本番ONANIE」(脚本:平柳益実/主演:大滝かつ美)に続いて二度目、但しここでの七本樫は、藤冴子ではなく清川鮎。異常も異常で左手が、包茎坊と同じ義手になつてはゐない。
 渡辺元嗣昭和62年第四作は、第一作「痴漢テレクラ」(脚本:平柳益実/主演:滝川真子)から二本空けての買取系第二作。三百年の時空を超えて、江戸時代から滅法男好きなお姫様とくノ一がエイズ?を持つて来る大騒動。といふと一見如何にもナベシネマらしい趣向にも思へ、昭和末期の獅子プロ作をある程度数こなしてみるに、俳優部の近似も踏まへれば尚更、偉大な兄弟子である滝田洋二郎の背中を渡邊元嗣が追ひ駆けてゐた風情が窺へなくもなく、当時的には寧ろ、至極当然にさう看做されてゐたのかも知れない。それはさて措き、さて措けないのが映画の仕上り。盛大な超風呂敷を広げ倒しておいて、ものの見事にといふか、より直截には見るも無惨に畳み損なふ。端的に酷い、一言で片付けると酷い。結局月姫と熊笹が伝染すゾンビ的な奇病が、単なる過労で形がつく豪快な方便は豪快すぎて理解に激しく遠いどころか、そもそも全く以て説明不足、こんなもの理解出来る訳がない。無理から一件を収束させての、各々の行く末に関してはナレーションの日本語からへべれけ。画は菊乃と熊笹であるにも関らず、“月姫と熊笹はこの現代に新しい安住の地を見つけたやうだつた”と観客を煙に巻き、改めて“そして月姫は”と月姫―と松太郎―の着地点に入るのは、最初の月姫が余計であつたやうにしか思へず、公園で他愛ないチャンバラに戯れる画を見る限り、“新しい安住の地”の中身もてんで判らない。月姫の松太郎に対する呼称が一貫して“殿”であるのに呼応させての、ジミ土がバカ殿になるクッソ下らないオチは、一旦失せた呆れ果てる気力が、グルッと一周して腹が立つて来る。それ以前に、例によつて過剰な山竜のメソッドを主に姦しい意匠と劇伴から徒にラウドで、おちおち女の裸さへ満足に愉しませさせない体たらく。ピンクと買取系と本隊ロマポ、三者の大まかな序列がリアタイ如何様に捉へられてゐたのかは知らないが、決然と斬つて捨てるとピンクの顔に泥を塗る一作。いつそ買取拒否されてゐれば、平然とか臆面もなく新東宝から配給されてゐたりもしたのかな。


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