真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団地妻を縛る」(昭和55/製作・配給:新東宝株式会社/監督:渡辺護/脚本:小水一男/撮影:鈴木志郎/照明:近藤兼太郎/撮影助手:遠藤政夫/照明助手:野添義一/助監督:樋口隆志・中田義隆/編集:田中修/効果:秋山実/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/出演:丘なおみ・大杉漣・木村明民・市村譲・日野繭子)。出演者中丘なおみと木村明民が、ポスターには岡尚美と木村明良。ポスターにのみ載る企画の門前忍は、渡辺護の変名。
 八百屋の表を、恐らく喫煙者ではないと思しき丘なおみが、煙突みたいにプッカプカ煙草を吹かしながら軽く覘く。まるでチャリンコ感覚に夥しく泊められた通称べか舟こと、海苔採り用の一人乗り平底舟から、画面奥遠く、電車が通過する鉄橋にパンしてタイトル・イン。ヤッてゐる時以外は概ね肌身離さぬ煙草を手に、小橋に佇む団地妻・沼田峰子(丘)の傍らを、背広姿の大杉漣が通り過ぎる。通り過ぎた大杉漣の後を峰子が尾けて行つたかと思ふと、カット跨いで青姦に突入。工具箱を手に結構距離のある高架下に歩み寄る、映える割に何をしてゐるのかよく判らない不自然ないし不審さも否み難い画を経て、後々実店舗も抜く市舟電器の倅か店員(木村)が二人の逢瀬を目撃する。峰子は隣家の和夫(大杉)と、継続的に関係を持つてゐた。和夫とといふか、和夫とも、峰子はさう囁かれるやうな女だつた。
 配役残り日野繭子は、和夫の妻・由美。既に和夫は峰子に心を移し、二人の関係を未だ知らぬまゝ、電気屋含め放埓にお盛んな峰子に由美が敵意を燃やす御近所付合ひ。そして市村譲が、今の目からするとグルッと一周して清々しい亭主関白ぶりを尊大に披露する、峰子の夫・英太郎。晩酌中もサドマゾのエロ本を読み耽る大層な御仁で、峰子は激しく嫌ふくさやを高圧的に焼かせた上で、くさやで女体を弄る等々、豪快か玄人跣な夫婦生活を日々展開する、しかも部屋に暗室ばりに赤い照明まで焚いて。因みにjmdb準拠では今作辺りが、市村譲が俳優部から演出部に転身するちやうど過渡期に当たる。
 赤い鉄の塊なビジュアルが印象的な、堺川にかゝる今川橋を地理的なアイコンに、翌年から市制の敷かれる浦安を舞台とした渡辺護昭和55年第六作。この年全十五作といふのが、もしも仮に万が一当時的には大して騒ぐほどの数字でもないとしても、矢張り改めて凄い。量産型娯楽映画が現に量産されてゐた時代の麗しさは、幾度蒸し返したとて足るまい。
 由美と和夫が燻らせるかより決定的に拗らせる不仲から、片や沼田家はといふと峰子が英太郎に大絶賛ビッシビシ責められてゐたりする、限りなく笑ひ処に近いザックリした繋ぎ。のこのこ遂に対峙して来た由美を難なく迎撃した峰子が、画面右半分は何某か建設予定の更地といふ、何気に荒涼とした風景の中歩を進めるロング。ロングに、まるで西部劇よろしく風音の音効つきで砂煙を舞はせてみせる、冗談スレッスレの外連。馬鹿馬鹿しさを被弾してなほ撃ち抜く、クロスカウンターの如き鮮烈は強い印象を残す。とは、いへ。峰子と和夫は無軌道に出奔、やぶれかぶれに由美も縛りあげる明後日なアクティビティはさて措き、ポップに憤怒を燃やす英太郎は兎も角、粗雑な諦観で腹を括り、トレンチでキメた由美が団地を捨てるラストは、確かに十五発も乱射してゐたらかうもなるだらう、とも思はせる大雑把な仕上り。渡辺護だ何だと徒に有難がるのはためにならず、クソより酷いパーマ頭と、無闇に下衆い口跡で逆向きに飾られた大杉漣も、特段も何も魅力に乏しい。センシティブな電気屋が出し抜けに開陳する、団地を通した社会全体に対する憎悪も、所詮は木に接いだ竹に止(とど)まる。それでゐて、昭和の、あるいは昭和な画力(ゑぢから)の雰囲気一発勝負でそれなりに見せてもしまふのは、まだもう少し通用した神通力。更にもう少しして下手をすると、80年代のダサさを幾らフィルムの魔性を以てしても誤魔化せなくなる。


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