真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「豊満OL 寝取られ人事」(2018/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:江尻大/撮影助手:小関裕次郎/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:優梨まいな・真木今日子・美村伊吹・折笠慎也・安藤ヒロキオ・なかみつせいじ)。撮影助手がKSUといふのは何かの間違ひかとも思つたが、実際さうクレジットされてゐた。
 形だけ勉強机に向かひつつ気もそぞろな折笠慎也の背中で、張り詰めた風情で電話を待つ主演女優。ピザ屋にかけたつもりのベタな間違ひ電話一本挿み、スーパーでない派遣社員・平野千春(優梨)に、何と実に三十箇所目の派遣先が決まる。同じ―派遣―会社とは限らないが、二十九回辞めた人間に、次の口を宛がふ方も宛がふ方ではある。折笠慎也は千春が居候する、高校のテニス部の先輩で、目下は国立医大を目指し四浪中の霧島弘樹。いざ初出社、オフィス街に降り立つた千春が、「ようし頑張るぞ!」とジャンプした背中にタイトル・イン。てな塩梅で千春の新しい職場は、零細通販会社「ビーワン通販株式会社」の、支社経理課。経理だけで一部屋使ふ、支社まであるのに零細なのか。兎も角経理課の面々は、千春入れて三人。セクハラ課長の中村克弘(なかみつ)と、もう一人高橋直哉(安藤)。今年からピンクに参戦した安藤ヒロキオが、盆の薔薇族入れて何時の間にか五戦目。脱ぐと体が緩んでゐるのは頂けない反面、佇まひ自体は案外落ち着いて手堅く見えるのは場数の結実かそれとも、これで満更でもない関根和美演出力の証左か。それはさて措き、非現実的にフリーダムな中村が早速千春に抱きつき、オッパイを揉むやボイーンボイーンとジューズハープが唸り、尻を撫でるやホイッホイッとコントみたいなSEが鳴る。ダサさとベタさに一目散に突つ込んだ上で、見事その先に突き抜けグルッと一周する音効が馬鹿馬鹿しい、もとい清々しい。
 配役残り、白髪メッシュがオッカナい美村伊吹は、新人研修と称して千春をいびり倒す、秘書課のお局・坪倉江里。だ、か、ら。支社があるのみならず、しかも秘書課まで擁するのに零細なのか。それもさて措き、今年度から無期休業に入つた美村伊吹(ex.緒川凛)にとつて、今作が六戦目にして一旦ラスト・ピンク。真木今日子は、月例監査で中村以下支社経理課を―それぞれの意味で―震へあがらせる、本社経理の池田美緒。交際する高橋の前では、元ヤンの美緒が見事に猫を被る様に目を丸くした千春が、豹変をジャガーチェンジと言ひ換へるのは関根和美にしては随分と瑞々しいレトリックをと感心しかけたものの、どうやらジャガーチェンジといふのは、山下洋輔発祥のズージャー隠語らしい。それと真木今日子はカジュアル時の、ニットに包まれたオッパイの破壊力がエクストリーム。大事な点ゆゑもう一度書く、真木今日子の、ニットに麗しく包まれたオッパイがエクストリーム
 大晦日スレスレに封切られ、元日公開の加藤義一新春痴漢電車と正月番組を分けた格好の、関根和美2018年第四作。我等が前田有楽こと六月末で閉館する有楽映画劇場に、山内大輔や工藤雅典の電撃大蔵上陸作をも追ひ越し飛び込んで来た。
 千春が無限に職歴を積み重ね続ける所以が、優しくされると抱かれたくなる、とかいふ性癖。二十九ある退職理由に、百合も含まれるか否かは不明。といふか、気儘に筆を滑らせる弾みで気づいたが、これ関根和美は何気に大魚を釣り逃がしてはゐまいか。何れ菖蒲か杜若、真木今日子と美村伊吹なら、相手がどちらでも凄い大輪が咲いたのに。話を戻して、千春の如何にもピンク的に底の抜けたアキレス腱を一応の軸に据ゑ、男女三人づつのデフォルトな俳優部から、三組のカップルが最終的に誕生する展開はその限りに於いて全く以て磐石。面白味ないし、女の裸以外の見所は特にも何も見当たらないけれど。活力源とか称した中村のセクハラに関して、千春から相談を持ちかけられた高橋が我慢するしかないの一点張りに止(とど)まる。あるいは止まらざるを得ないのは、大御大の時代から半歩たりとて進歩してゐない世界観。馬鹿者、関根和美の辞書に十年一日なり、プログレスなんて単語がある訳ないだらう。とかく素面の劇映画的には、これで寝落ちないのが不思議な一作ではあれ、ポップに表情を操り、若々しく弾け輝く優梨まいな映画としては完璧に成立してゐる、多分。江里の竹刀が脳天に入つた千春が、反撃しながらも頭を抱へうづくまるカットには思はず声が出た。怒涛のジェット・ストリーム・アタックを敢行する、巨乳部を三枚揃へた布陣も無論申し分ない。あと物足らなさが否めないのは、優梨まいなと安藤ヒロキオ以外はおんもに出もしない、引きこもつた省力撮影。映画的なショットのひとつも撃ち抜いてあれば、印象は全然変つて来たやうに思へるのだが。挙句、思ひきりモアレが出てゐるカットも散見されるのは大いに、もしくは普通に考へもの。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )