真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟れどき妻 欲しがる下半身」(2004『四十路熟女妻 立たせます』の2019年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:中田桜/録音:シネキャビン/編集:フィルムクラフト/助監督:小泉剛/監督助手:山中雄作/撮影助手:橋本彩子/照明助手:池田直矢/スチール:阿部真也/小道具協力:アウトローカンパニー/スタジオ協力:カプリ/タイトル:高橋タイトル/現像:東映ラボ・テック/出演:瀬戸恵子・北川明花・坂入正三・柳の内たくま・柳東史)。出演者中柳の内たくまが、ポスターには柳之内たくま。柳の内名義をほかで目にした覚えもなく、寧ろクレジットの誤植ではないかと思はれる。
 タイトル開巻、住宅地の画を噛ませて、珍しく属性が等閑視される未亡人の如月静香(瀬戸)が、交際相手の山川幸雄(坂入)を自宅に連れ込んでの逢瀬の真最中。ズンチャカ走る劇伴も軽やかに、瀬戸恵子と坂入正三による濡れ場が面白可笑しさ含めてなほ、どエロく見せるのは何気な豊潤。鏡早智のカメラも、割とライブに動く。そこに女子高生の娘・有佳(北川)帰宅、居間のドアを開けた娘と目を合はせてゐながら、静香の腰が一戦を完遂するまで止まらないのは、たとへば女の業といつた高尚な代物などではなく、単なるポップな好色以外のなにものでもない晴れやかな即物性が清々しい。ショックを受け踵を返した有佳に、駅前のロータリーで何処そこ大学の法学部に通ふ宮下辰彦(柳の内)が声をかける。飯でもといひつつ、カット尻も乾かぬ内にほいほい自宅アパート―室内は如月家と同じハウススタジオの一部屋―について来た有佳を、文字通り敷居を跨ぐなり、豹変した宮下は犯す。犯されたら犯されたで、犯されてゐるのに有佳も何時しかアンアン大絶賛和姦に突入。浜野佐知紅蓮の憤怒に、全て焼き払はれてしまへばいい。兎も角事後、家に男を、選りにも選つて坂入正三を連れ込む静香を懲らしめてやらうと二人は意気投合。宮下が脊髄で折り返して思ひついた、有佳が自転車で衝突した老婆に対する示談金なる、アタシアタシ詐欺もとい狂言を敢行。どれだけ狭い町なのか、いはれた十万円を振り込み東京三菱から出て来た静香―と山川―は、みずほで金を下す宮下と有佳を目撃。山川の忠告で性急には動かず、一旦山川知人の探偵に、宮下の素性を調べさせてみることにする。裸映画に物語如き不要だとまではギリギリ紙一重首の皮一枚いはない瀬戸際で、反応反射音速高速、新田栄よりも速く、サックサク電光石火で進行する展開が心地よすぎて勃起する。
 配役残り、チョビ髭と顎鬚で如何にも胡散臭く武装した柳東史が、件の山川が連れて来た探偵・野呂康平。探偵とは、いふものの。個別に接触した有佳と静香を、底の抜けた方便で何のかんのと、あるいは何が何だかな勢ひで言ひ包め手篭めにする、桃色かつ愉快な飛び道具的怪人物。有佳が物心つく前に死去した設定の静香亡夫は、遺影すらスルーされる。
 ex.DMMにも入つてゐない2004年作で、今回小屋にて目出度く大門通コンプリート。三作目にして浅尾政行時代唯一のロマポ、「花と蛇 究極縄調教」(昭和62/脚本:片岡修二/主演:速水舞)は普通に月額ピンク映画chにも入つてゐるゆゑ、その内時間が出来たら見ておかう。
 反発を露にする有佳との関係を、思ひ悩む静香が溜息つくのも風呂の中。ぬかりない裸映画は序盤で母娘の対立軸をそれぞれの男込みで構築し、中盤は柳東史が出鱈目に暴れ倒すか喰ひ散らかした末に、ヤルだけヤッて潔く―実際に―ピューッと退場。いい感じに残り尺も整へた上で、終盤は将を射んと欲すれば先づ馬を射よとばかりに、説得させた有佳を懐柔するべく、静香が宮下を籠絡する神展開。静香の据膳に宮下が呑む生唾は、所詮クリシェに過ぎなくとも緻密に計算。流石に有佳×山川の母娘スワップには、羽目を外しはしない的確な匙加減。一見ハッチャメチャなりへべれけに見せて、案外完璧。しかもビリング頭が瀬戸恵子となると、固有名詞を公開題に冠し得る訳でもない女優部二枚看板といふ、実はタイトなプロダクションの不足も、然程でなく感じさせない。六十分とはいへ始終をポカリを飲むかの如くスイッスイ観させて、後に何にも残さないのは、却つて優れた娯楽映画の条件といへるのではなからうか。記録に残らず、記憶にも残らない名画。実は大門通か勝利一が、誰も気づかないところでコソッとピンクを完成させてゐたやうな気がする疑念は、この期に及んで改めて拭へない。
 一点断じて通り過ぎては済まされないのが、静香と山川のミーツ。リストラされた挙句妻子にも逃げられた山川は、公園で首を括らうとする。その場に居合はせた清掃員の静香が制止したのみならず自らをも捧げ、山川を再起させる。重ねて職も世話、目下同じ公園で働くセトケーとサカショーの画面(ゑづら)が、五ヶ月弱後公開の坂本太第四作「裏の後家さん 張<バイブ>形に夢中」(脚本:有田琉人/主演:結城綾音)と多分全く同じ。量産型娯楽映画ならではの、アシッドなショットに欣喜雀躍。

 とこ、ろで。何となく気になつて調べてみたところ、今作が東史×之内たくまのダブル柳初共演作。之内たくまが無理からすぎる、とかいふ至極全うな異論は受けつけない。以降は全て山内大輔、2006年最終作「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(主演:姫川りな)まで通算五本存在する。


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