真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女忍者 潮吹き忍法帖」(2015/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宮原かおり・小西楊太・樋口覚/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一・阿久津亮太/協力:株式会社アシスト/協賛:GARAKU/出演:つぼみ・五十嵐しのぶ・津田篤・ケイチャン・西藤尚《愛情出演》・横山みれい)。
 何処ぞの山奥、蜩牛一族の里。くノ一・伊武(つぼみ)と、師匠・蜩牛珍宝斉(ケイチャン/a.k.a.けーすけ)の―普通の―忍術の修行。一汗かいた後、夜の稽古の支度を言ひ渡された伊武が、溜息ひとつついてタイトル・イン。珍宝斉が到着するのを待ちきれない伊武が秘裂に宛がつた横笛を破砕すらする、お定まりのくノ一夜の稽古。“もみ”と“ツボ”のチープな応酬を経て伊武が達するや、地震の如く周囲は轟き里の山を紫色の光芒が貫いた。チンコ型の道祖神上空に出現した、マンコ風の時空の裂け目を前に珍宝斉が「また現れよつた」と固唾を呑む一方、数百年の時を越え二十一世紀に彷徨ひ込んだ伊武は、消えゆく風景をカメラに収める、本多雅人(津田)と出会ふ。蜩牛の山は、デベロッパーである雅人の父親が仕掛ける再開発によつて、消滅の危機に瀕してゐた。
 配役残り、2013年第四作「淫Dream まどろむ白衣」(主演:大槻ひびき)から、ぼちぼちしたペースでキャリアを積み重ねるピンク第四戦の五十嵐しのぶは、後妻の雅人義母・ゆたか。考古学者といふ設定にかつて蜩牛が忍者の里であつた歴史を投げる意味しかないのはいいとして、下手にプロにしてしまつた以上、山で見つけた道祖神を自宅に持ち帰つてゐるのが地味に藪蛇な大問題。今やトメの座が完全にサマになる横山みれいは、本多開発の社長秘書にして、社長即ち雅人の父・与志郎(珍宝斉と遺伝情報を共有する所以は軽やかにスッ飛ばして済ますケイチャンの二役)の浮気相手・山川あかね。結構際どい衣装で登場する西藤尚は、おてもやんなメイクで出オチを滑らせるデリヘル嬢。
 渡邊元嗣2015年第二作は、手間がかゝるのかそもそも安普請が通さない無理なのか、案外珍しいくノ一ピンク。ここで近年の女忍者ものの歴史を今世紀分からザックリ振り返つてみると、PINK‐Xプロジェクト第三弾「につぽん淫欲伝 姫狩り」(2002/監督・脚本:藤原健一/主演:西村萌)には、舞台は戦国時代なれど厳密あるいは明確には忍びの者は出て来ない。した場合最新もしくは事実上最後の本格時代劇「好色くノ一 愛液責め」(2003/監督:かわさきひろゆき/脚本:かわさきりぼん/主演:麻白)以外となると、今作同様くノ一が時空を超えて飛び込んで来る現代劇、「くノ一淫法! おつぴろげ桜貝」(2004/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/主演:美咲江梨)くらゐしか見当たらない。あともう一本、純然たるピンクよりは幾分バジェットも大きいと思しき、艶剣客第二作「艶剣客2 くノ一色洗脳」(2011/監督:藤原健一/脚本:能登秀美/主演:吉沢明歩)も一応書き添へておく。
 一度目の現代行は夢で片付けた上で、珍宝斉の命を受けた伊武は一族の存亡を賭け、雅人の待つ蜩牛の山を目指し改めて時空の裂け目を潜り抜ける。如何にもな大人のジュブナイルが最も弾け―かけ―るのは、与志郎の所在を求め雅人があかね宅に突入するパート。あかねが自ら下着をチラ見させながらの―社長は―「秘書の秘所が大好き」なる駄ギャグに、雅人があかねのワインに蜩牛秘伝の自白剤を仕込む隙を生じさせる地味な妙手と、伊武が雅人に渡したのが自白剤ではなく媚薬で、あかねが口を割るどころかみるみる悶え始める、つぼみにテヘペロさせないのが寧ろ不思議なほどのジャスティス展開には、一旦ナベの天才を確信しかけた。ところが、デジタル化の恩恵が、今回は諸刃の剣。あかね籠絡のために雅人をアシストする伊武が、蜩牛流忍法と称した要は種々の淫技を繰り出す毎に、テッテレー♪と判り易く鳴るアタック音自体は必ずしもデジタル化自体とは関係ないとしても、一々わざとらしく入るテロップが完全にテレビ感覚で、残念ながら履き違へたポップ・センスの限界に興を削がれる。そもそも代り映えしない物語は以降もGARAKU魂が迸る以外には一欠片の捻りにも工夫にも欠き、演出部と撮影部と主演女優が三位一体で一撃必殺の可憐さを撃ち抜くラスト・シーンで大幅に持ち直すものの、ゴールデン・エイジの第二章を長く軽快に走り続ける渡邊元嗣にしては、この程度で首を縦には振りかねる単調な一作である。

 凄いスパンの返り咲きづいてゐる2015年ピンクにあつて、当初誤植かと目を疑つた脚本の波路遥は、女痴漢捜査官シリーズ最終作「女痴漢捜査官4 とろける下半身」(2001/主演:美波輝海/a.k.a.大貫あずさ・小山てるみ)以来のこれまた結構な超復帰。他の脚本家との併用で1997年から四年間のナベシネマ脚本の約半分を担当、目下長く座付を務める山崎浩治のデビュー二作「痴漢海水浴 ビキニ泥棒」(1999/主演:黒田詩織)・「派遣OL 深夜の不倫」(2000/主演:黒田詩織)に際しては共同脚本の形で支へた波路遥といふのは、この期に及ぶのもほどがありつつ渡邊元嗣の変名?


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