真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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痴漢電車 ちんちん発車
た行
/
2016年03月28日
「
痴漢電車 ちんちん発車
」(昭和59/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:金沢正夫/編集:酒井正次/音楽:ロス・ギーワック/助監督:片岡修二/監督助手:笠井雅裕/撮影助手:乙守隆男、他一名/照明助手:吉角荘介/録音:銀座サウンド/効果:中村半次郎/現像:東映化学工業/出演:竹村祐佳・松原冷・甲斐よしみ・長友達也・池島ゆたか・立川世之介・藤田悦子・高橋宏美・周知安・笠松夢路・久保新二・堺勝朗・螢雪次朗)。撮影の志賀葉一が、頑ななまでにポスターには清水正二。出演者中、立川世之介から笠松夢路までは本篇クレジットのみ。
この物語はフィクションであり云々と、登場する人物・団体名等が架空のものである旨を、末尾は“ださうです”―原文珍仮名―と適当に謳ふ開巻。単なる緩めのギャグかと思ひきや、中身を観てみたらとんでもなかつた。昭和のおほらかさが、せゝこまさばかりが募るきのふけふとなつては無性に麗しい、後述する。
黒田一平(螢)が家電製品か何かの機械を修理する、黒田一平探偵事務所。助手の竹村浜子(竹村)は郷里の許嫁から届いた、迎へに行くとの巻手紙を受け取り頭を抱へる。浜子の里では女は二十三までに結婚しないと一族郎党晒首となる上、浜子は東京で金持ちと婚約したと嘘をついてゐた。作業に夢中で、まるで意に介さない黒田に腹を立てた浜子が事務所を飛び出すと、電車の画に(仮称)「痴漢電車のテーマ」がジャジャジャジャージャジャージャジャンジャン―これで伝はるのかよ―と起動してタイトル・イン。車中で指揮棒を振る二角帽子の久保チン―振りきれた造形だ―と出くはした浜子は、逆電車痴漢を仕掛け接近。そのまゝ作曲家・大野銀一(久保)の家だか常宿とするホテルに転がり込んだ浜子は、銀一に二日間限定の婚約を持ちかける。片や、右翼大物・大野大吉(堺)に呼び出された黒田は、さうも見えないけど兎に角大吉が余命幾許もないゆゑ遺産相続人たる、銀一ともう一人の子供で行方不明の宏美(甲斐)捜しを依頼される、松原冷は大吉秘書の糸井。銀一がイッパツ致した事後、眠る浜子の拇印を捺し婚約どころか婚姻届を勝手に提出してしまふ一方、大吉から与へられた、奥歯にダイヤモンドを詰めてゐるとの正直藪蛇気味な特徴を手掛かりに、黒田は歯医者に扮し「ハイ、行つてみよう!」と御馴染の痴漢電車宏美捜索を敢行。2代目快楽亭ブラックの十一番目の名前である―2代目快楽亭ブラックは十七番目―立川世之介と藤田悦子・高橋宏美が、その件の車内要員。ところが、ロサンゼルスから医療雑貨を輸入する会社を潰した、一本足りない二浦義和(長友)と結婚した宏美が昼間から夜の営み明けの散歩中、二浦共々暴漢の襲撃を受け、のちに搬送先の病院で死亡する。何か、何処かで聞いた話だな・・・・といふか
“ださうです”ぢやねえだろ!
“ださうです”ぢや。どうして斯くもフリーダムであれたのか、昭和、音楽担当もロス・ギーワックだぜ。
配役残り、イコール笠井雅裕の笠松夢路とイコール片岡修二の周知安は、テレビを見てゐた黒田の度肝を抜く宏美襲撃事件に関して二浦にインタビューするテレビリポーターと、黒田が話を訊きに行く週刊立春編集部の人。池島ゆたかが、新潟から四十八時間かけてトラクターで東京にやつて来る浜子の許嫁、愛称熊ちやんこと職業マタギ。
滝田洋二郎昭和59年第二作は滝田痴漢電車通算第七作にして、私立探偵黒田一平シリーズ第五作。ベッタベタな浜子の縁談狂想曲と、文春が疑惑の銃弾を撃ち抜いた直後といふタイミングも踏まへればなほさら、大胆不敵どころでは済まないロス疑惑のド直球フィーチャーで味つけされた、遺産相続絡みのミステリーとが見事に上手いこと十字の火花を散らす。滝田滝田と無闇に称揚するつもりは毛頭ないが、成程面白い。トリック的には小道具が見え見えの、ついでに微妙に回りくどいダイイング・メッセージ解きよりも、棚から三十億個の牡丹餅が雪崩を起こす死亡時刻時間差の方が、バタフライ・エフェクトじみた伏線回収の妙まで含め断然貫通力は高い。何気に驚いたのが、黒田一平シリーズが今作で明確に完結してゐるとは不勉強にして知らなかつた。考へてみれば以降も面子が変らないだけに一見連続してゐるやうに勘違ひしかねないものの、あくまで螢雪次朗が私立探偵黒田一平ではなく、
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チンドン屋
であつたり
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であつたりする訳である。改めて振り返つてみると、全然別物ではないか。これでは単なる馬鹿自慢だ、何を今更。とまれ、スレッスレの残り尺で黒田と浜子が滑り込む、ピンク映画史上最大級のハッピー・エンドのゴキゲンさ加減が賑々しく始終を駆け抜けた末に爽やかな後味を残す、盤石の娯楽映画である。
喧嘩別れした浜子の危険を察知、慌てて追ふ黒田と、浜子with怪人物が―黒田が乗る―エレベーター越しに交錯するのは、あれ何の映画のオマージュだつけ、「ミッドナイト・クロス」?
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