真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「義母昇天 家庭内SEXとは?」(1996『義母の長襦袢 淫らな匂ひ』の2013年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/音楽:プロ鷹選曲/効果:協立音響/編集:井上和夫/助監督:近藤英総/出演:神代弓子・青山あずさ・林由美香・野方真・竹田雅則・大星輝宗)。出演者中、野方真がポスターでは何故か加藤健二に、もう好きなやうにすればいい。
 和服の神代弓子が自ら帯を解き、クレジットに併走して適当に裸を見せタイトル・イン。いきなり群を抜く、開巻の適当さが堪らない。深夜の梓邸、会社社長の牧夫(野方)と、割烹料理屋の女将であつたのが、四番目の妻に口説き落とされた由紀(神代)の夫婦生活。屋敷に暮らすのは、ほかに昼間は予備校に通ひ大学受験を目指す、お手伝ひの岡野昌子(林)。ところで顔がパンッパンに丸く個人的な体感で最重量級の林由美香は、それ以前に杉原みさおと相沢知美を足して二で割つたやうな声のアテレコ。ある朝、女に呼び出され牧夫はそそくさと外出、入れ替りで半勘当状態にある、死去した最初の妻との間に出来た長男・真一(竹田)がプラッと梓家に戻る。牧夫を呼び出したのは、前妻のエミ(青山)。エミの携帯に電話を入れようとした牧夫が、間違へて自宅にかけてしまひ慌てて無言で切り、昌子を憤慨させる件の不完全無欠な無用さは最早感動的。真一は昌子と気軽にセックスを楽しむ一方、由紀に対しても明確に女として意識する視線を向けてゐた。
 配役残り名前のゴージャス感が名が体を表さない大星輝宗は、牧夫に捨てられたのではなく、エミの側から乗り換へたらしい新しい夫・竹内伍一。
 よくいへば並居る列強を押し退け、ピンク映画最凶ランキングの先頭に珠瑠美が飛び込んで来かねない、物語の稀薄が極限に達する一作。正直自分でどんな寝言を垂れてゐるのかよく判らないが、瑣末な体裁を繕ふ余力なんぞとうに雲散霧消した。さえ子なる昌子の母親が、実は牧夫の二番目の妻。となると要は、真一と昌子の関係は義理ながら近親相姦に当たる。竹内とホテルに入るエミは、棹に釣られて選んだといふ割に、竹内でも物足りぬと牧夫を呼び出す。展開を膨らませる種を投げるだけ投げておいて、その後は一切全く本当に完放置。結局何だかんだで―とでもしかこの際いひやうがない―由紀と真一二人きりの夜を迎へた梓家、終に義母と義息が禁断の一線を超える。“だけ”といふ起承転結の溶解した始終の果てに、締めの濡れ場も達しさへせずに中途で強制終了される始末。いつそのこと、元々八十分だか九十分だかの尺を一時間にまで―それにしても実は、二分半余してゐる―無理矢理切つたとでもいはれた方が、まだしも合点が行く。勿論、断じて納得した訳では決してない。斯様な代物がイヴちやんのネーム・バリューのみを頼りに新版公開され続ける現状を鑑みるに、かつて夢見られた未来の筈の二十一世紀とは果たして何だつたのかといふ清々しいまでの虚無感が、薄い胸板に開けられた風穴を吹き抜ける。


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