真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「年増女のスケベ襦袢 尻が壊れるまで!」(2002『和服妻凌辱 -奥の淫-』の2011年旧作改題版/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/音楽:戎一郎/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:鵜飼邦彦/録音:中村幸雄/助監督:堀禎一/監督助手:横井有紀・森角威之/撮影助手:杉本友美照明助手:永田英則ヘアーメイク:岩橋奈都子/スチール:山本千里/制作応援:城定秀夫/タイトル:道川昭/タイミング:冨田登協力:深川栄洋、上井努、サトウトシキ、平川真司、木田弘、日本映機、シネキャビン、報映産業、湘南動物プロダクション、松岡誠、加藤義一、小泉剛、林雅貴、長谷川光隆、日活株式会社、JKS編集室、東映ラボ・テック、セメントマッチ/出演:AZUSA・河村栞・工藤翔子・園部貴一・岡田智宏・沢田夏子・黒川孟・吉田祐健)。出演者中、沢田夏子と黒川孟は本篇クレジットのみ。それにつけても、新題のぞんざいさはここに至ると最早輝かしい。
 平野美紀(AZUSA)が運転する乗用車が、周囲には田畑の広がる田舎道を走る。助手席の饒舌な男は美紀の夫ではなく、その友人・江口則夫(園部)。美紀の夫・英輔(岡田)は、江口の後ろの席で生気なく押し黙る。詳細は語られないが英輔が多額の借金を抱へ、美紀は物騒な取立てからひとまづ逃れるために、江口の伝(つて)で東京を離れた農家に身を隠す手筈となつてゐた。一旦小休止した車から、英輔はそのまゝ降りてしまふ。不意の別れに慌てる美紀に対し、なほも江口が強引に走らせるやう促す車を、農薬をジャブジャブ撒きながら吉田祐健が一流の不穏な風情で見やる。目的地の一軒家に辿り着くと、江口もそこに美紀一人残し立ち去る。部屋の中には、和服超美人と丸坊主の少年(沢田夏子と黒川孟)とが写つた古い写真があつた。当然不安を隠せぬ美紀の前に、その家の主・北日出男(吉田)が現れる。北によると写真の女は北の母親で、少年は幼少期の自らであるとのこと。母の形見の着物を着てみせるやう強要がてら、北は早速美紀を犯す。和服姿で夜は物置部屋に押し込められる、美紀の軟禁生活。北家にはほかにどう見ても北の実娘には見えない、マンガを読み耽る時以外には表情を失つた少女・和美(河村)と、江口の愛犬・ラブリーが、何時の間にかジブシーと名を変へ飼はれてゐた。基本万事に口煩く高圧的に怒鳴り散らしてばかりの北ではあつたが、夜になると、そんな和美を抱いた。取立ての恐怖を持ち出されると美紀は逃げ出す訳にも行かず、北から陵辱される日々が続く。そんなある日、北家に江口が再び姿を見せる。
 配役残り工藤翔子は、江口からも手篭めにされ、終に逃げ出した美紀を救出すると見せかけ回収する、江口の元妻・沢田洋子。フと気づき改めて調べてみたところ、実は今作が工藤翔子にとつて、少なくともピンク最終作となる。してみると、橋口卓明翌年の私立探偵・園部亜門シリーズ第四作に際して、それまでは工藤翔子のレギュラーであつた宮前晶子役の酒井あずさへの変更も、否応なかつたのかも知れない。
 ビリング頭のAZUSAとは、その昔日本テレビ系バラエティ番組「進め!電波少年」内にてデビューした初代電波子改め滝島あずさであるといふギミックは、封切り当時既に十分微妙であつたのもあり、正味な話が更に年月を経た現時点にあつては鮮度は元より、歴史的な価値を見出す物覚えのいい御仁も、決して多くはないのではなからうか。寧ろ、いふまでもなく知らされてはゐまい今新版公開は、現在でも滝島梓名義で、日本茶業界を中心に―またメジャーなのかニッチなのだかよく判らんフィールドだ―活動を継続するといふ、滝島サイドからしてみては正直勘弁して欲しい話かとも邪推し得よう。枝葉的な外堀はさて措き、徹頭徹尾無力なダメ夫も等閑視するとして、曲者揃ひの悪党に囚はれた若妻が、酷い目に遭ひ貪り尽くされる品性下劣系ピンク。美紀を北の下に連れ戻すべくハンドルを握る洋子こと工藤翔子の表情が、江口への憎悪にみるみる歪むショットには、松岡邦彦らしい黒い迫力が漲る。一方で、母子関係に源がありさうな気配も窺はせながら、諸悪の本丸たる北が裡に抱へる巨大な闇についての掘り下げは激しく薄い。それゆゑ、是非はどうあれ劇中世界を支配する悪意への理解なり感情移入は発生し難い。反面、ネーム・バリューとしては一応兎も角、演技者としてはどうにもかうにも拭ひきれない主演女優の覚束なさは、結果的にせよ何にせよ、案外翻弄ものに映えてみたりもする。ところで今作の公開は、2002年の年末。即ち2003年正月映画といふ位置づけも働いてか、微妙に潤沢なプロダクションを持て余した訳でもなからうが、ラスト乱交に付随しての、何しにその場に居合はせたのか感動的に理解に苦しむ英輔の扱ひなり、工夫に欠き決まらない決め台詞とともにジブシーだかラブリーを連れ画面奥に掃ける和美のカットの、しかも間をダサく飛ばしてみせる間抜けな編集。畳み処の脇の甘さに象徴的な、滝島あずさの裸を見せる目的はとりあへず十全に果たしてはゐるものの松岡邦彦作にしては馬力の感じられない、最終的には心許ない一作である。

 末尾に改めて、工藤翔子と同時に、沢田夏子にとつても、確か本作がクレジットに名前の載る最後のピンク映画となる筈。それと、筆の根も乾かぬ内に何だが、工藤翔子に関しては、ラスト・ピンクといふのは実は必ずしも正確ではない。「シングルマザー 猥らな男あさり」(2003/監督:吉行由実)に於いて、ヒロイン(秋津薫)の声をアテレコした吉行由実の、声を更にアテたのが友人の工藤翔子であるといふエピソードを、SNSのコミュニティを介して監督御本人様より伺つた。


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