真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美畜令嬢 おとなしさうな顔して」(1996『深窓の令嬢 レイプ狂ひ』の2011年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:田中譲二・松本治樹・鏡早智/照明:秋山和夫・渡部和成/音楽:藪中博章/助監督:森満康巳/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/出演:遠藤悠美・田口あゆみ・吉行由実・平賀勘一・杉本まこと・甲斐太郎)。
 御馴染みミサトスタジオこと―どうしたことか、公式サイトが開かない―白亜の洋館、庭のプールの水面に揺れる月明かり、タイトル・イン。甲斐太郎に寝込みを襲はれた、その屋敷に住む女子大生・的場由香(遠藤)が母の寝室に助けを求め飛び込むと、母親・菊美(田口)はあらうことか、憚りもせず連れ込んだ由香の高校時代憧れの教師・国坂功(杉本)と、乳繰り合ふ真最中であつた。因みに、由香父親の不在の詳細に関しては、一切触れられず。兎に角、お父さんの“お”の字も出て来はしない。いはば母に男を奪はれた格好の光景に、衝撃を受けた娘が改めて甲斐太郎に犯されるのは、由香が日々苛まされるナイトメア。大学の近くに駐輪場が出来て以来、そこの管理人・長田浩一(甲斐)に強姦される悪夢なり幻想に度々囚はれるといふ悩みを、由香は神経科医・倉旗高志(平賀)に訴へる。倉旗が由香の症状に殊更に深刻に取り組む一方で、そんな夫の姿に対し、妻・奈津江(吉行)はミイラ取りがミイラになりはせぬかと気を揉む。実際に、よくある話でもあるらしい。
 浜野佐知1996年第十作。サラッと書いてしまつたが幾ら量産型娯楽映画とはいへ、一年間に劇場本篇を十作とは箆棒な本数にも思へるが、それで打ち止まらずもう一本加はる当年の前後1995・1997年は、更に上回る十三作づつを浜野佐知は発表してみせてゐる。流石に無茶苦茶とでもしかいひやうのない、怒涛どころでは済まない製作ペースで、私見ではこの辺りの九十年代中盤が、少々の瑣末は捻じ伏せるのも通り越し薙ぎ倒す熱量と勢ひとに満ち満ち溢れた、浜野佐知の最高潮ではないかと常々秘かにでもなく目するものである。その上で今作に話を絞ると、詰まるところは、長田にとつてはとんだ傍迷惑でしかない令嬢のレイプ妄想を軸とした、正直物語としての完成度は決して高くはないサイコ調サスペンス風味の一作。扱けた頬と目の下の隈が心を病んだ女にハマリ役ではあるけれども、正直些か厳しい主演女優の脇で、全盛期の田口あゆみが貪欲な毒婦役を力強く狂ひ咲かせる。対して、少々勿体ないが吉行由実は三番手として、おとなしく物語の周縁に止まる。端的には由香が陵辱されては夢かイマジンかは兎も角非現実オチ、の一点張りで脈略には清々しく欠いた濡れ場の羅列に正直くたびれかけた終盤、論理的な段取りは軽やかにスッ飛ばした一ネタで強引に畳み込むと、フィニッシュは終に真実に辿り着き得たヒロインの、切れ味も抜群な決め台詞で鮮やかに締め括る。まるで絵に描いたやうな、終り良ければ全て良しといはんばかりの力技には当時女帝の強靭な充実が窺へると同時に、下衆が深読みするならば、そこに至るまでのダラダラとした迷走は、深層に隠された真相を巡り奔走する倉旗と由香に軸を据ゑた脚本と、偏に良くも悪くも能動的な菊美の姿に狙ひを定めた演出との、齟齬が生み出したものでもなからうか。


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