真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「連込み兄嫁 薬指の技」(1999『義姉と弟 はしたない人妻』の2007年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/監督:北沢幸雄/脚本:五代暁子/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/製作:業沖球太/撮影:小山田勝治/照明:渡波洋行/録音:中村幸雄/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/助監督:堀禎一/監督助手:城定秀夫・寺嶋亮/撮影助手:岩崎智之・関谷和久/照明助手:小倉正彦・和田正宏/ヘアーメイク:鷲野早苗/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:酒井正次/タイトル:道川昭/録音スタジオ:シネキャビン/現像:東映化学/出演:児島なほ・佐々木基子・小松ひろみ・池田一視・藤井浩史・杉本まこと・河合純・前川勝典・牧村耕次《友情出演》)。出演者中、主演女優の児島なほがポスターには児島なお、何と大らかな世界よ。それと、「何で?」と訊かれても回答に窮するが、監督助手に城定秀夫と寺嶋亮の名前が並ぶ辺りが感慨深い。
 大学生の本条和也(池田)が、主演女優の颯爽と街行く姿に目を留める。こゝで、本筋に関る関らない遠く遥か以前の瑣末ながら、以降妙に折に触れ繰り返し抜かれる和也の足下の、紐から薄汚れたコンバースが結構激しく頂けない。何も黒のショートカットであるからいかんといふ訳では必ずしもないものの、丈・太さともボトムとのコーディネートさへなつてゐない、手入れの行き届かぬ靴を幾度と見せられるのは、直截に映画のショットとして見苦しい、リアルでもなほ感心せぬが。吸ひ寄せられるが如く児島なほの後を尾けるも、住宅地の真ん中で見失つてしまつた和也はその日の当初予定に従ひ、贅沢にも勝手に和也の側から重たがる彼女のゆかり(小松)を、既に心は通はないまゝに抱く。離婚歴のある兄・ひろし(杉本)から再婚の報告を受け、兄宅に遊びに行つた和也は驚く。二代目兄嫁のエリカ(児島)こそが、先日自身が心を奪はれた美女であつたからだ。清らかな劇中世界の狭さに一々立ち止まらずにはをれない無粋者は、いつそ映画なんぞ観なければいゝ。靴の汚れが許せぬ神経質はどうなのか、といふツッコミに関してはひとまづ御容赦願はう。ゆかりからの相談を受けた関西弁の共通の友人・佐久間(藤井)が、二人の関係の修復に努めようとして呉れてゐるのにも邪険に耳を貸さず、和也は再び外出するエリカを尾行する。とはいへまんまと勘付かれ、エリカは捕獲した義弟を、美奈子(佐々木)が女主人の外見は変哲ない一軒家に招き入れる。驚くことにそこは、社会的地位のある男達(ファースト・カット左から前川勝典・河合純・牧村耕次)がエリカ・美奈子と乱交に戯れる、秘密クラブであつた。
 現状否定気味の大学生が街で見初めた美しい女が何と実は義姉で、しかも兄以外の男に体を売る秘密を持つてゐた。とかいふ次第の、甘美な中にも一摘みのほろ苦さを加味した近親相姦系青春映画。何はともあれ、容姿もお芝居の方もスマートな児島なほの脇をソリッドに妖艶な佐々木基子が固め、加へて三番手の小松ひろみも、地味な風貌に上手く馴染む終始オドオドしたディフェンシブな態度と、脱ぐと意外に成熟したアグレッシブな肢体とのギャップが、超絶に絶妙な琴線を掻き鳴らす。女優三本柱は、ひとまづ麗しく磐石。さうはいへ、物語的には本来主人公である筈ではないのかとも思へる、和也のバックボーンに関する描き込みなり掘り下げは清々しく薄い。更に、エリカが昼間は高級売春婦であるといふ大風呂敷を、妻が他の男と関係を持つところを見るなり想像すると燃えるといふひろしの、いはゆる昨今いふところのNTR“寝取られ”属性の一点突破に落とし込む大技は有効だとしても、そこから変に余らせた尺を、延々新展開には全く欠いた濡れ場で費やし失速感を加速する漫然とした構成には、強い疑問に首を捻らされるのも禁じ得ない。あるいは、劇映画としての体裁は早々に整へ、残りは兎にも角にも女の裸を見せる本義に専念すべし。さういふ設計乃至は心構へであるのやも知れないが、それにしても、中盤から終盤を中弛ませておいた上で、最後の最後をバシッと締め振り逃げてみせた方が、鑑賞後の感触も大きく変つて来たのではなからうか。などと、素人考へながらに思はなくもない。どうもといふか相変らずとでもいふべきか、北沢幸雄といふ人のペース配分あるいはリズムを、未だ量りかねる一作。寧ろ、綺麗なフィルム撮りの映像で捉へられた美人のオッパイと尻、それさへあれば後は余計だくらゐのブルータルな御仁には、逆に完成形たるのか。


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