真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…
や行
/
2011年07月12日
「
色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…
」(2010/制作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:伍代俊介/撮影監督:創優和/撮影助手:柴山明史・酒村多緒/照明助手:宮永昭典・高橋舞/助監督:小山悟/監督助手:北川帯寛・布施直輔/音響効果:山田案山子/ヘアメイク:芦川善美/スチール:阿部真也/編集:有馬潜/音楽:山内大輔/出演:北谷静香・里見瑤子・佐々木基子・柳東史・佐々木恭輔・世志男・サーモン鮭山)。ところで音楽が山内大輔といふのは、耳慣れぬソリッドな劇伴を自分で演奏したのか?
廃墟か地下室か、薄暗く荒れた一室。乞食のやうなボロボロの服装に帽子を目深く被り、その下に隠された顔は更に所々滲む血で汚れた包帯でグルグル巻きに覆はれた、無茶苦茶に異様な風体の女が自ら設置したビデオカメラに向け、口元を半ば塞ぐ布の所為か、くぐもつた声で語りかける。ここで、途切れ途切れ且つ内に籠りながらも絶妙に明瞭な発声により、包帯女の正体が実はその人であることに、意外と容易に辿り着けぬでもない。兎も角、自死を決意した女は、正しく血塗られたとしかいひやうのない自身の生涯を辿る、ダイイング・メッセージを残さうとしてゐるやうだつた。
「ふれあいハウス不動産」に三日前に就職したサダコ(北谷)が、社長の前川(佐々木恭輔)が構へるデジカメに向かひ、モデルハウスの玄関で覚束ないポーズを取らされる。室内に入り掃除を命ぜられたサダコがフと振り返ると、超絶の変り身の早さを駆使し前川は全裸に。しかも右手は柱に添へ、挙句に左手は腰だ。以来ホテルですらなく何時もそのモデルハウスで情事に及ぶ、サダコの愛人生活がスタートする。そんなサダコの初体験は、三年―もう少し?―前の女学生時分。正しくゴミ屋敷のやうな実家で、母・美津子(佐々木基子)の情夫・健治(世志男)がサダコの破瓜を散らした。やがて男の味も次第に覚え始める一方、健治が昼夜でいはゆる親娘丼を完成せしめる爛れた生活に耐へかねたサダコは、包丁で健治の一物を切断する。鮮血に塗れのたうち回る健治、ショック描写に、些かの躊躇なし。健治からの性的虐待、といふ方便が通つたサダコは三年間の施設暮らしを経て、前川の会社に拾はれる。前川は、避妊といふ言葉を知らない男だつた。妊娠能力の喪失に怯えつつ三度目に堕胎したサダコは、同じタイミングで前川の正妻・ハルカ(里見)が身籠つたことを知り、箍が外れる。浴室にて前川の腹に突き立てた果物ナイフで続けて男根を抉り取ると、捨てたと称して隠し持つてゐた健治のモノと同じく、物理的にも自分の所有物としてサダコは姿を消す。追はれる身となつたサダコは、変装した上で街娼に身を落とす。そんな折、繁華街の掃き溜めの如き最延部にて、サダコは麻薬売人のキーチ(柳)と出会ふ。コックカッター・ミーツ・ドラッグディーラー、警察の指名手配に加へハルカからも二百万の懸賞金をかけられながらも、セックスと薬とに溺れる日々。キマッたキーチに殴られ卒倒したまま抱かれることさへあるといへ、それでもサダコにとつては漸く辿り着き得た、至福の一時であつた。たとへそれが、傍目の世間一般的には最下層すら突き抜けた、地獄のやうな暮らしであつたとしても。ところが、神は居ないのかあるいは悪魔に魅入られたか、そんなサダコの壮絶な幸福も、長くは続かない。キーチはサダコを、オフ・ビートの強面の巨漢・小林(サーモン)に二百万で売る。と、ここまで。身勝手な好色漢・前川役の佐々木恭輔に、生活無能力者のセックス狂・健治に扮する世志男。スカスカジャンジャンなジャンキー・キーチを快演する柳東史と、正体不明の悪漢・小林が身に纏ふ重量級の得体の知れなさを、静かに充溢させるサーモン鮭山。先走るが、ひとまづ俳優部の頑丈な充実ぶりは全く磐石。
ファンタジー的には不発気味の反面高水準の実用映画にして、日本語の不自由なタイトルの2007年第三作「
性執事 私を、イカして!
」(主演:中島佑里・岡田智宏)以来三年ぶりの山内大輔新作は、とりあへず、無闇矢鱈と人死にに関しては大盤振る舞ひの、空振り続きの2010年エクセス振り切り路線の中にあつて、最初の、しかも特大のホームラン。里見瑤子と佐々木基子の濡れ場は、何れもお約束の顔見せ程度に限られる。とりわけ、鮮烈なワン・ショットも叩き込むものの、佐々木基子の出番は画期的に短い。ピンク映画の販促媒体にしては微妙におどろおどろしい、ポスター・スチール写真からはいい意味で予想を裏切り、心を病んだ沢木まゆみといつた風情の北谷静香が機能させる案外正方向の煽情性は、然れども、情け容赦ない正しく修羅場に文字通りズタズタに切り裂かれる。彼我を滅ぼすともなほ已まぬ凄惨な激愛物語は、余程特殊な性癖の持ち主の御仁でなければ間違つても呑気な下心を満足させる筋合のものではないばかりか、暗鬱も激越に通り越し、陰惨としたバッド・テイストをも惹起しかねない。ところがこれで、娯楽映画としては実は極めて誠実。一見、鬼畜系Vシネ時代に原点回帰した山内大輔が好き勝手にし倒したやうにも見せて、特殊造形に費やすバジェットの欠如、といふ消極的な要因も作用してか、見せていいものと、見せてしまつては一線を跨いでしまふものとの分別は、一貫して失はれない。開巻に於いて既に、さりげなく蒔いた種をラストに至つて結実させる構成から完璧な、大胆極まりない驚愕の落とし処に関しても、わざわざ時系列をグルッと丁寧に一周する、過不足ない真相明かしに努める。首尾よく目的を果たし生き残つた者達を、淫らに死に急がせはしない点にも、安定感を覚えた。更に深読むと、名前の目新しさはさて措き映画的に最終的には心許ない、如何にもエクセスライクな主演女優に代り、山内大輔にとつては付き合ひも長い熟練の芸達者に作劇の要を委ねる戦略は、圧倒的に秀逸といへるのではなからうか。さう捉へる時、女の裸は度外視した残虐映画のやうにも思へて、今作が矢張り、特有の力学なり論理なりに統べられた、ピンク映画にほかならないことも見えて来よう。後述するVシネに触れた際には危惧を抱いたものだが、帰還を果たした本篇で本気を出した山内大輔は、従来知る姿から更に加速した山内大輔であつた。女達の歪み抜いた情念が極彩色に狂ひ咲く、スラッシュ・ピンクのエクストリームな傑作。斯様に特殊中の特殊な領域にあつては、逆にルーチンワークにお目にかゝることの方が難しいやうな気もするが。とまれ今作、単なる徒花扱ひには、決して止まるまい。願はくば、それが消える間際の蝋燭の炎でないことを、切に切に祈るのみである。少なくとも作品としての未来は未だ、我々の手の中に残されてゐるではないか。
最後に余談ではあるが、因みに、サダコと前川の情痴の舞台となる「ふれあいハウス不動産」所有のモデルハウスは、プロジェク太上映の地元駅前ロマンにて予習がてら観た、同じく山内大輔のAVに二、三本毛を生やした程度の2010年凡作Vシネ「
美熟女姉妹スワッピング 貞淑な姉と淫乱な妹
」(2010/主演:友田真希)に登場する、主人公夫婦(夫は佐々木恭輔)の新居と同じ物件。キッツキツの目張りを入れた佐々木恭輔の造形も、「美熟女姉妹スワッピング」と同様。それが何れ主導によるものかは、佐々木恭輔の他監督出演近作を観てはゐないゆゑ不明。
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