真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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妻のいとこ 情炎に流されて
荒木太郎
/
2011年07月24日
「
妻のいとこ 情炎に流されて
」(2006/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:三上紗恵子・荒木太郎/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/撮影・照明助手:関根悠太・広瀬寛巳/応援:小林徹哉・田中康文・内山太郎/タイミング:安斎公一/出演:平沢里菜子・里見瑤子・愛川京香・淡島小鞠・支那海東・安田憲明・丘尚輝)。応援中、内山太郎だけがポスターでは出演者に名前が並ぶ。協力をロストする。
1990年バブル華やかなりし頃、当時左団扇の青年実業家・小実晶(支那海)は部下二人(内山太郎、他一名)を連れ手漕ぎボートで大海に漕ぎ出す冒険旅行に。ここで、部下もう一人の禿頭が田中康文でないことは明らかなので、となると、協力勢からの動員でなければ小林徹哉か。一行が辿り着いた南の島は、ヌーディスト島とナレーションでは謳ひながらビキニ上下にパレオといふ、看板を偽るにもほどがあるといふか舌の根も乾かぬ内にとでもいふべきか、兎も角島民は何故か女しか見当たらぬ陽気な楽園。部下二人がチャーム(愛川京香/a.k.a.紅蘭)を交互に抱き、その周囲では何故か仏頂面の淡島小鞠(a.k.a.三上紗恵子)がウクレレを掻き鳴らす中、少し離れた波打ち際にて小実晶が平沢里菜子とイイ雰囲気になりかけたタイミングで、清水正二の手によるホーム・メイド感の爆裂するCGが仕出かすやうに起こす、闇雲なレンズフレアに連動してタイトル・イン。
時は過ぎ、2006年当時現在時制。泡と共に事業もポップに弾け、小実晶は今では建築家の妻・みつ子(里見)の帰りを主夫として待ちながら、どぶろく作りの研究にしがなく明け暮れる日々。開巻から軽快に躓いた映画が、いよいよ本格的に壊れ始める。寝こける夫に対し、「ハアッ、呑気なもんね」と見事な嘆息混じりの第一声と共に、くたびれ果てたみつ子が帰宅。腰も満足に使はない支那海東が、阿呆みたいに首だけ必死にガンガン振る間抜けな夫婦生活を経て、満ち足りぬみつ子は妙にエクストリームな風呂場オナニー。翌日、カミさんを送り出した小実晶が、どぶろくの本を出版することと店を出す―そこは特区なのか?―こと、そして“南の島で味はつた、体の底から湧き上がるやうな感情を成就させること”といふ三つの夢を開陳したところで、カット変ると四人の画家(荒木太郎と、後の三人は応援勢か)を前に水着でポーズを取る、みつこの従姉妹・知里子(平沢)登場。その場を訪れた彼氏・秀雄(丘)と、服の上からの愛撫だけで猛烈にターップリと尺を喰ふ、驚くほどに長々とした濡れ場を披露。結婚観の相違から秀雄と別れた知里子は、二役である以上当たり前の話でしかないが、かつて南の島で見初めた女と瓜二つである点に関しては非感動的に綺麗に通り過ぎてみせた上で、無人販売所で鬼のやうに安い野菜を買ふ小実晶の前に現れる。ここで淡島小鞠も、世間の猜疑心担当の近所の人役で再登場。配役残り安田憲明は、度派手なクラシックのオープンカーでみつ子を迎へに来る、正体不明の強面・健二。
2006年五月末の故福岡オークラ閉館の影響と、元々の荒木太郎嫌ひとから回避してゐた同年最終作―挙句に2007年正月映画に相当する、頭を抱へるぜ―に、今回この期に初めて挑んだものである。さうしたところが、聞きしに劣るとも勝らない、壮絶な木端微塵。箱の内側から撮る形で見る者の表情を捉へるテレビに、被害妄想で健二を相手としたみつ子の不貞の現場を覗いた小実晶は、錯乱したのか台風十八号の最中知里子と再び南の島へ。少しカメラが引くと狭さが際立つ南の島での、手篭め気味の小実晶と知里子の濡れ場を通過し、一体ここから如何にこの支離滅裂を畳むものかと別の意味で固唾を呑んでゐると、「台風で心配して迎へに来て呉れたのね?」と、画期的に頓珍漢な台詞とともにみつ子が小実晶に合流。
( ゜д゜)ポカーン
・・・・ええと、当該“南の島”とやらは何処ぞの南洋に浮かぶ天国に一番近い島ではなくして、単なるそこら辺の国内?ほんでその状況から小実晶はみつ子と帰宅するとなると、勝手に連れて来られた知里子は、一人で帰らないかんの?思ひのほか案外近場みたいなので、それでも別に構はぬとでもいふ方便なのか。いつそのこと、単に横好きの娯楽映画が出来損なつたといふよりは、初めから観客を煙に巻く主旨の、不条理映画で御座いとでも開き直りすらしてみせて呉れた方が、まだしも下手な地雷を不用意に踏んでしまつたと諦めもつかう。重ねて、ただでさへ軸といふものが存在しない滅茶苦茶の更に全篇を通して、商業水準には遠く達しない清水正二作のコンピューターならぬチープ・グラフィックスと、少なくとも映画的には凡そ満足な芝居も出来ない癖に、妙に自己主張の激しい支那海東の顔面とが火に油を注いで散らかし倒す。荒木太郎の三上紗恵子との心中ないしは情死路線の中でも、流石に逆向きに抜きん出た問題作も激越に通り越した壊滅作。強ひていい面を挙げることを試みるならば、今作を通つておけば、後は大概の代物はどれだけ酷からうともう怖くはない、断じて有難くはない一作である。
リアルタイムの
m@stervision大哥のレビュウ
によれば今作は今村昌平映画の翻案であるらしく、調べてみると成程確かにその通りのやうだ。その限りに於いては、前述したみつ子の映画史上空前に唐突な珍台詞も、オマージュとしては辛うじて通らぬではない。とはいへ、然様なシネフィル臭いコンセプトなんぞ、純正ピンクスの小生にとつては知つたことか。実は、前半で稼いだ平沢里菜子と里見瑤子の裸比率は結構なものなのだが、ここまで映画全体が壊れてしまつてゐては、とてもではないがそれどころではない。こんなザマで幾ら女の裸を見せられたとて、到底首を縦になど振れるものか。どちら様に捧げられたリスペクトであらうとなからうと、とりあへずは小屋に木戸銭を落とした客の前に、独立したマトモなピンク映画を出せ。話はそこからだ。
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