真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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肉体秘書 パンスト濡らして
池島ゆたか
/
2010年01月18日
「
肉体秘書 パンスト濡らして
」(2005/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:田中康文/監督助手:中川大資/撮影助手:斎藤和弘・平原昌樹/スチール:山本千里/照明応援:茂木孝幸・金沢雄大/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:池田こずえ・華沢レモン・山口真里・本多菊次朗・竹本泰志・樹かず・山ノ手ぐり子・津田篤・神戸顕一/特別出演:佐々木麻由子・後藤大輔)。
プロジェク太上映の地元駅前ロマンにて、インターフィルムよりリリースされたVシネ題「肉体秘書~パンストのしたたり~」の形で観戦後、以前に書いた感想があまりにも出来が酷いゆゑ全面的に改稿したものである。
認知症の母親がホームヘルパー・タカハシユカリから現金や預金通帳を盗まれたと、ヒステリックな山ノ手ぐり子(五代暁子の女優名義)が二人連れの刑事に訴へる。画面向かつて左側の、小沢仁志チョイ似の刑事1が後藤大輔で、山ノ手ぐり子の剣幕に食傷しつつ渋々メモを取る、右側の刑事2が津田篤。とりあへずその場から逃れようと、後藤大輔が捜査を約するとともに山ノ手ぐり子に見せた容疑者の写真は、タカハシユカリとは似ても似つかぬ全くの別人であつた。何処から転んで来たのか判らないその写真の、肥えた女役が誰なのかまでは不明。タイトル・イン明けその頃、バック・ショットのみ抜かれる髪を鮮やかなオレンジ色に染めたタカハシユカリ当人は、
普通の携帯電話
で“組織の支部長”とやらに任務の完了した旨報告する。そんなビビッドなヘルパーゐねえよといふツッコミは、ひとまづ禁止の方向で。シティ・ホテルの一室でユカリはヘア・マニキュアを落とすと、本名・中津川フユミ(池田)としての顔を取り戻す。口跡だけで戦慄を覚えさせる池田こずえは、逆の意味で素晴らしい。
次の仕事を探すフユミは、同居する看護婦・エミカ(華沢)と遊びに来てゐたエミカの彼氏・タカシ(樹)の勧めに応じ、弁護士・咲坂真一郎(本多)の秘書に応募してみることに。フユミにとつてはそれが驚くべき常態なのか、提出する履歴書は経歴はおろか名前さへも偽り、エミカが適当に作成する。ともあれ採用された中津川フユミ改め桜木亮子の不器用ではあれ誠実さうな様子と、ここは掛け値なく魅惑的な若い肢体の威力とに、離婚暦もあり現在は絶賛フリーの咲坂は次第に心惹かれて行く。仕事帰りのフユミに、仮面をつけた“組織”のエージェントのルナと月読(実は華沢レモンと樹かず)が接触する。支部長(竹本)の御前に通されたフユミは、タカハシユカリ時の功を労はれ月読(つきよみ)に抱かれる。喜悦するフユミに、支部長は次なる指令を下す。咲坂が栃木地裁宇都宮支部に向かつた隙に、フユミは事務所の金庫を狙ふ。咲坂の不在を知らず訪ねて来た、咲坂とかつては男女の仲にあり、現在でも仕事上の付き合ひは続く私立探偵・竹宮ユイ(佐々木)やトイレの修理に現れた青井住設の水道工事人(神戸)に脅かされながらも、天、といふか直截には虚空からの支部長の声に従ひ、フユミは現金と小切手総額八百万円相当とを持ち逃げする。惚れかけた小娘に金品を盗まれ二重に情けなく頭を抱へる咲坂に、ユイは昔のよしみで調べ上げたフユミの詳細な素性調査の結果を渡す。主演女優が登場すると良くも悪くもシークエンスが荒れてしまふ中、酒場を舞台とした本多菊次朗と佐々木麻由子による、大人の二人芝居の抜群の安定感は一際光る。
赤頭巾ちやん自体に気をつけてな出鱈目な衣装で、フユミは脳内にのみ存在するストーカーと携帯で声高に諍ひながら歩く。それが池田こずえの私服であるならば、ある意味現実は映画よりも奇なりだ。電話の相手を訴へるとを叫んだフユミの携帯を持つ左腕を、後ろから咲坂が掴む、「こつちも訴へようか?」。フユミ―とエミカ―の部屋に乗り込んだ咲坂は、相変らず支部長からの命を受けたフユミに色々と仕方なく篭絡される。事後、晴々しく底の抜けた達成感を漂はせるフユミに対し、諸方面に複雑な表情を咲坂は浮かべる。一貫して見えない相手との会話を続けてゐるらしきフユミの姿に疑念を禁じ得ない咲坂は、“組織の連絡専用”と称した、携帯電話を模したオモチャにフユミが語りかけてゐるのに気付き愕然とする。
純然たる裸要員の山口真里は、一息つかうと咲坂がシティ・ホテルに呼んだ、こちらも
髪をオレンジ色に染め抜いた
ホテトル嬢・洋子。俳優部クレジットはないまゝに池島ゆたかも、フユミを診察する咲坂の先輩で精神科医の宗方役で登場する。
統合失調症だとかで見えないものが見えたり聞こえないものが聞こえたりする主人公が、現代日本の浄化を標榜する謎の組織―但し全く実在はしない―に操られあちらこちらに潜り込んでは金品を盗む。要は現実に非ざる妄想に支配された女といふと、個人的には大好物のジャンルでもあるいはゆる「
くるくる少女
」ものの一篇。何が“いはゆる”なのか、アホンダラ。兎にも角にも今作に於いて特筆すべきは、池田こずえの清々しくすらある大根が、フユミの俗にいふ“デンパ系”の凄まじさを、結果的に妙な生々しさで体現してもしまふ稀に見るレベルの怪我の功名。本来ならば木端微塵にたどたどしい台詞回しが、却つて如何にもそれらしく見えもする逆説は、微笑ましく感興深い。尤もそれは池田こずえの手柄では別になく、結果論的に映画自体が形作られてゐるからにほかならず、さうなると何はともあれその偶然がラックとして機能し得るのも、自由に暴れさせておくしかない半分以上素人のヒロインに代り、佐々木麻由子を脇に従へ頑丈に展開を牽引する本多菊次朗の、堅牢な名演に依拠するところであらうところは論を俟つまい。桜木亮子の正体である中津川フユミの、更に真実に辿り着いた、辿り着いてしまつた瞬間に咲坂が見せるハッとした緊張感には起承転結の転部の要を支へる力強さが漲り、小さい芝居に際しても、とうの昔に別れてなほ、“真ちやん”呼ばはりするユイに眉をしかめてみせる件などが味はひ深い。壊れた女に中年男が惚れてしまふキナ臭くも美しいラブ・ストーリーは、十全な種明かしまで含め高いクオリティを維持する。
その上で、とはいへ池島ゆたかがピンク映画史上に残りかねない拍子抜けをやらかしてゐるのが、「あの男はフユミのその服装に弱い」とかいふ小網座の支部長からの職務命令に服したフユミが、別室でお色直しした上で部屋に乗り込まれた咲坂を誘惑する件。どうしてフユミのハサミ男が咲坂のストライク・コースを知つてゐるのだ?といふ点に躓くのは一旦控へて、一体池田こずえがどんな破廉恥な格好で出て来て呉れるのかと期待と股間とを膨らませて―デスればいいのに>俺―ゐると、居間に戻り仁王立ちするフユミの足の隙間越しに、咲坂が「君・・・・」と絶句する。そこからカット変ると、いきなり咲坂はタンクトップをたくし上げたフユミのオッパイにむしやぶりついてゐたりなんかする。
だから咲坂のツボはどんなエロ格好だつたんだよ!?
画竜点睛を欠くどころの騒ぎではない、そこを見せて呉れないと根本から成立しない。
最後に瑣末を一点。プロローグに続くオープニング・シークエンスに於いて、タカハシユカリことフユミが“組織”との連絡専用の携帯電話、の児童用玩具を用ゐてゐないのは、矢張りさりげなくも重大なミスではなからうか。
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