真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・妊婦 不倫!多情!淫乱!」(1992『ザ・妊婦』の2008年旧作改題版/製作:吉満屋功/企画:オフィスKUBO/配給:新東宝映画/監督:川村真一/脚本:友松直之・川村真一/撮影:中本憲政/照明:平岡裕史/編集:酒井正次/音楽:遠藤浩二/助監督:小坂井徹/監督助手:藤原健一・新里猛作・佐藤睦/撮影助手:鈴木一博・青木一茂/照明助手:山崎満/協力:若月美廣・中村和愛・藤原健一・シネマジック 宮本良博/制作協力:ペンジュラム/出演:竹村祐佳・摩子・鈴木奈緒・伊籐猛・久保新二・三上寛・井口昇・松岡千穂・青木綾子)。出演者中、松岡千穂と青木綾子は本篇クレジットのみ。但し、何処に出て来たのかも正直力強く判らない。今回新版ポスターに於いて、摩子は“魔子”と誤植、あんまりだ。そもそも、旧題もあんまりなのだが。といふか、新題も新題か。
 臨月の村上真美(竹村)が夕食を作り待つ中、年下の夫・キヨシ(伊藤)は何時まで経つても帰つて来ない。結局帰宅せぬまま翌朝、真美は夫の上司・市川(三上)の電話から、キヨシが営業車で外回りに出たまま帰社せず、けふも無断欠勤してゐるといふ事実を告げられる。因みに三上寛は数日後真美宅を訪問し、白日夢の濡れ場も触りだけ見せる。そんな真美の姿を、隣のマンションから有名作家の久保健二(久保)が、天体望遠鏡と高感度指向性マイクとでモニタリングする。二十年前事故により、臨月の妻・陽子(全く登場せず)と自身も歩行の自由を喪つた久保は、以来妊婦のいはゆる蛙腹に、尋常ならざる偏愛を抱いてゐた。ところでそれではキヨシはといふと、呑気といふか刹那的にとでもいふか、愛人・ひろみ(摩子)と、会社の車で横須賀を当てもなくほつつき流してゐた。二人は神戸から家出して来たといふ、ヒッチハイク少女・沙織(鈴木)を拾ふ。
 書生のタケシ(井口)を伴なひ真美に接近した久保が繰り広げる、軽めのSMを主体とした妊婦ポルノと、キヨシ・ひろみ・沙織による移動範囲の小さなプチ・ロードムービーとは、実は清々しく交錯したりも特にしない。殆ど平行線に近くすらある一篇を、結局臆面もなくキヨシが家に戻り、一方真美は久保と関係を持つたことは秘めたまま、夫婦はひとまづの平穏を取り戻すといふ形で畳んでしまふラストは、別の意味で大胆だといへなくもない。とはいへ、個人的にはその属性は一欠片どころか全速転進で持ち合はせるところではないが、正真正銘の臨月にある竹村祐佳の御姿に、その筋の諸兄は垂涎であらうし、一方別にさうでもない向きに対しては、面子も、廃造船所を主舞台に据ゑたロケーションも頗るフォトジェニックなキヨシらのパートは、映画的に正方向に見応へがある。さう考へると、即ち一見表面的なちぐはぐさは、妊婦ものといふ言葉は悪いがいはばゲテモノ料理を、博い客層に食せしめる為の戦略であつたとしたならば、変則的ではありつつ秀逸な一作といへよう。
 その上で改めて整理すると、時代の為せる業ともいへるのかも知れないが、安手の商売女のやうなパーマ頭は好みではないものの、大人の女の色気を綺麗に放つ摩子と、未だ残す少女の面影を輝かしく振り撒く鈴木奈緒、そこに殆どマンガのやうに手足の長い伊籐猛も加へたスリー・ショットは、遠近の別なく抜群に画になる。美人と美少女と伊籐猛、この三人だけでも、六十分を十二分に戦へる筈だ。対して竹村祐佳は首から上も少々キツく、ギャグは一切封印した久保新二の変態あるいは猟奇演技は、ためにする領域を超え出でるものでもあるまい。ただとりあへず、見事に膨らんだ巨腹―久保チン台詞ママ―は、正しくお腹一杯に拝ませては呉れる。AVの撮影は論外といふ意味で兎も角、ピンクの場合は擬似で事済む、といふか演技するべきであるとするならばそれが本道でもあるので、母体への負担も少なからう。

 川村真一といふと兎にも角にも、野上正義と久保新二によるピンク版「真夜中のカーボーイ」、「髪結ひ未亡人 むさぼる快楽」(1999/監督:川村真一/脚本:友松直之・大河原ちさと/2002年に『愛染恭子 むさぼる未亡人』と改題)を、是が非とも再見したいところではある。


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