真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セクハラ洗礼 乱れ喰ひ」(2008/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介/照明助手:藤田朋則/助監督:横江宏樹・安達守/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/協力:一水社・桃太郎映像出版・ラッシャーみよし/キャスティング協力:株式会社スタジオビコロール/出演:北川明花・安奈とも・佐々木基子・荒木太郎・国沢☆実・石川雄也)。出演者中国沢☆実は、ポスターにも国沢☆実。
 蜘蛛の巣にも似た一種幻想的な模様の入つた、茶葉を使用した中華風煮玉子・茶葉蛋(チャイエタン)のイメージ・ショットで開巻。児童公園、恐る恐る卵から孵るかのやうに遊具から這ひ出て来た男(石川)を、修道女の倉部沙耶(北川)が拾ふ。男は、記憶を喪失してゐた。署名を集める活動中といふ沙耶は、逗留する日本旅館に男を招き入れる。男が記憶を取り戻すにはセクシュアルな要素が必要なやうだとか、何のかんの聖書の一節も引用しながら沙耶はあらうことか体を任せる。換骨奪胎ここに極まれり、嗚呼、何と麗しき世界よ。男が所持してゐたエロ本と、記憶の断片として口にした卵といふキー・ワードとから、沙耶がネット検索で割り出した出版社「Egg&Egg」に、男は向かつてみる。安直さが画期的な展開に、今更ながら新時代の息吹が感じられもする。すると高飛車な女性社員の橋川ユリ(安奈)と、先輩の割にはユリにすつかり顎で使はれる榎本一多(国沢)は、男を見るなり「社長!」と目を丸くする。フレームの大き過ぎる何時ものメガネを外させた国沢実は、意外に地味に精悍な顔立ちをしてゐる。どうやら、男は十日前から消息不明の「Egg&Egg」社長・君塚俊一であるやうだ。穏やかなどころではなく弱々しい現在の姿とは異なり、姿を消す以前の君塚は、過激に攻撃的な男であつた。試用期間のユリを手篭めにすると正社員も通り越し無理矢理愛人に、挙句に社内で堂々と陵辱しては、それを前に無言で立ち尽くすばかりの榎本に対しては、お前は電柱だとまるで人を人とも思はぬ振る舞ひであつた。更にはエロ本出版業以外に、君塚はユリを囲ふ目的で用意したマンションの一室にて、注射針を用ゐ中毒性を持つ違法な薬物を注入した、茶葉蛋を通信販売で売り捌く危ない橋も渡つてゐた。
 配役残り和装の佐々木基子は、君塚の妻・孝枝。個人的には今回初めて気づいたのが、首から上はあまり変らないものの、二の腕の辺りに、キャリアの長さが窺へて来た。荒木太郎は君塚家の税理士にして、この場合勿論孝枝の不義の相手ともなる富田浩介。
 君塚がロストしたアイデンティティーを摸索する物語は、前作「変態穴覗き 草むらを嗅げ」(2007)ほど木端微塵ではないとはいへ、前々作「社長秘書 巨乳セクハラ狩り」(同)と同程度には、十全な着地は果たさないまゝに終幕を迎へる。加へて、己の節穴ぶりも憚らずにぬけぬけといふが、最終的にといふかそもそもといふか、山﨑邦紀が持ち出した茶葉蛋に一体何のイメージを添付しようとしてゐたのかは、実は清々しく判らない。そろそろ、ファンであるからこそ認めるべきかとも思ふが、きのふけふの山﨑邦紀は、かつて感じさせた最強を思はせる輝きは、幾分喪つてゐる。天外な奇想と他では絶対に見られない奇矯な意匠とは従前と変らないにせよ、それらを一本の劇映画として統べる技といふよりは力が、明らかに弱まつてはゐまいか。そんな中、これまでからは意外に思へた輝きを見せるのが、北川“新体操”明花。沙耶はかつてモデルと称して誘ひ出した君塚に矢張り強姦され、修道院に逃げ込む。この回想シーンに於ける、カメアシ役は誰なのか不明。ところがその後ポルノ小説を書き始め修道院を追ひ出されてしまふといふ、出自を沙耶が自ら明らかにしてからの以降に際しては、君塚が半ば中途で投げ出される一方で、与へられた通りに演ずるだけのところから、シークエンスを自ら支配する地点に至つた北川明花の進境が光る。

 君塚が薬物の作用もあつてか、一時的に記憶を取り戻した際に放つ名台詞、「俺が鬼畜なら、お前らは家畜だ!」。劇中時制の、予め殆ど全てを喪つた君塚と、暴君然とすらいへるかつての姿との甚だしい落差は素晴らしく、正しく劇的ではありつつ、残念ながら、一本の劇映画としてその二人の君塚が満足に束ねられる結実がなかつた点に、最終的に今作は尽きる。尤も、最も迫力のある安奈ともの濡れ場を中心に、桃色方面には、勿論今回も何ら不足はないのだが。

 ステルスに備忘録的付記< オーラスは、沙耶根城の旅館「中田屋」、と称した毎度の浜野佐知自宅。劇中二度目の沙耶戦を経て一人目覚めた君塚が、鏡に映る己の顔に向かつて「オマエハ誰ナンダ」、とわざわざスーパーで


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