真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「先生の奥さん したがり未亡人」(2006/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:羽生研司/脚本:吉野洋/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:原田清一/照明:小川満/撮影助手:成田源/照明助手:八木徹/助監督:加藤義一/監督助手:竹洞哲也/ヘアメイク:徳丸瑞穂/編集:フィルム・クラフト/制作協力:フィルムハウス/出演:山本瞳子・日高ゆりあ・瀬戸恵子・柳之内たくま・山本東・牧村耕次)。
 鏡台の前に妻を立たせての、美穂(山本瞳子)と高校教師の夫・桜井英明(山本東)の夫婦生活。夫婦役の演者が二人とも山本姓であることに、本当にたつた今気が付いた。主演の山本瞳子はグッド・ルッキングといへば確かにグッド・ルッキングなのだが、少々、首から上にも下にも人工的を香りを感じる。因みに、映画の中身とは一切何の関係もないが、山本瞳子の改名前AVデビュー時の名義は志村あいん、狙ひ過ぎだ。話を戻して、一通り熱くこなした上での事後、満ち足りた美穂の左手の甲には、蝶の形をした赤い痣が浮かび上がる。美穂はそれは、英明との愛の証だと信じてゐた。蝶の形といふよりは、アルファベットのHに見えるのだが、それはそれでいいか。英明の元教へ子・井村和彦(柳之内)が、彼女の三咲真理(日高)を伴ひ桜井家に食事に来る。英明は暴走族にも入つてゐた井村を更正させ、現在は大学に通ふ井村は、英明のことを恩人だと慕つてゐた。と同時に、井村が恩師の妻に向ける視線に、ただならぬものを感じた真理は臍を曲げる。後に、真理相手に事務的に井村が腰を振る濡れ場演出には、ピンクで映画なピンク映画に真摯に向き合つた姿勢が、確かに看ても取れたのだが。英明の父・正吾(牧村)が、息子とは三つしか歳も違はぬ後妻・敬子(瀬戸)を連れ、東京旅行がてら息子宅に遊びに来る。敬子から釘も刺されつつ息子嫁に性的関心を覚えることを禁じ得ない正吾は、二人で見物に行つた筈の表参道から体調を崩したと偽り一人戻ると、美穂を犯す。台所に手をつかせ腰を突き出させた美穂を、正吾が後ろから責めたてるショットが、私見では今作に於ける桃色の頂点。下着越しに美穂の太股を伝はる愛液が、超絶にいやらしい。結局、さういふ形でも矢張り浮かび上がつてしまつた赤い蝶の痣に美穂が愕然としてゐたところに、追ひ討ちをかけるのを通り越した一報が入る。英明が、交通事故死したといふのだ。失意に沈む美穂に対し、井村は、英明の代りになることを誓ふ。
 瑞々しいポップ性が未だ脳裏に鮮やかなデビュー作翌年の「白衣の痴態 淫乱・巨乳・薄毛」は、三監督(もう二人は、坂本太と佐々木乃武良)によるオムニバスの一篇を担当した故、羽生研司第二箇三分の一作は、大袈裟な破綻も見当たらない代りに、残念ながら中身も殆どない物語ではある。井村が、真理のことはさて措き美穂に熱烈な想ひを抱いてゐることは兎も角、英明没後何時の間にか、美穂の方からもコロッと相思相愛になつてしまふ段取なり手数が、画期的に薄い。美穂が井村の部屋へと向かひ、真理の登場にも阻まれ一旦は手ぶらで戻る復路。三叉路を、往きとは違ふ道に帰ることによつて、心理の決定的な変化を表したのだとしたならば、さりげないにもほどがある。プログラム・ピクチャーといふものは、もう少し懇切丁寧であつていいのではなからうか。ドラマとしての質感を感じさせるのは、局所的に孤軍奮闘する日高ゆりあの熱演くらゐで、案の定誰に抱かれたとて現れる左手甲の痣を見詰める美穂の、「貴方許して、私は女」、「ただの、女なの・・・・」といふオーラスを別に飾りもしないモノローグが、右から左へと流れた映画を一昨日に放り投げる。キリストを信じてもゐない癖に愛の証だの何だのと、小癪なロマンチシズムの名を借りた勘違ひに後足で砂をかける、逞しい即物性がテーマなのかといへば、さういふ、強かさを有してゐる風でも特にない。表面的な煽情性の面に関しては非常に素晴らしい出来映えながら、最終的に何がしたかつたのかといへば、両手の平を上に向け、ポカンと首を傾げざるを得ない。実用性方面に潔く、あるいは開き直つて特化してゐるでもない分、却つて釈然としない心持ちも残してしまふ一作である。

 詰まるところはさしたる説得力も欠くままにルーズな勢ひで済し崩される展開を見るにつけ、実はわざわざ、英明を藪から棒に殺して退場させる必要もなかつたやうにも思へる。美穂が、喪服を装備する訳ですらなし。


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