真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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小島三奈 声を漏らして感じて
か行
/
2008年06月08日
「
小島三奈 声を漏らして感じて
」(2003/製作:フリークアウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:樫原辰郎/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/助監督:城定秀夫/監督助手:大滝由有子/撮影助手:清水康宏/効果:梅沢身知子/音楽:因幡智明/協力:本田唯一、
ギャルリ・ド・ぽえむ
/出演:小島三奈・橘瑠璃・山名和俊・久保隆・東田敏幸・宇野美由紀)。出演者中宇野美由紀は、本篇クレジットのみ。
自宅室内で杏里(小島)と彼氏の健夫(山名)が、スカッシュに戯れる。高校卒業後も特にこれといつた目標も見付けられず、何をするでもない猶予期間をマッタリと過ごす杏里に対し、CGアーティストを目指してゐた筈の健夫も、専門学校は辞めてしまつてゐた。球を巡り縺れ合ひながらベッド・インしつつ、杏里が最後の一線を越えることは拒んだところに、声だけの―誰の声かは不明―父親帰宅。杏里は帰ることもないといふものの、健夫は裏からそそくさと帰宅する。不貞ながら杏里が仰向けにボールを宙に放り、手から零れたボールが転々とするのに合はせてパステル調の可愛らしいタイトル・イン。かういふのは、助監督である城定秀夫の手によるものであるやうに、うろうろとは覚えるのだが。
後日杏里は街で、見るからに怪しげなスカウトマン・井手(東田)に声をかけられる。ホイホイと喫茶店(ギャルリ・ド・ぽえむ)に連れ込まれた杏里が危うく口車に乗せられかけたところに、店を風来坊のマスターから預かる瑞穂(橘)は背後から絶妙な構図で忍び寄ると井出にコップのお冷を頭から浴びせ、文字通りの水を差す。井手は実は裏ビデオのスカウトマンで、加へて瑞穂にも過去に全く同じやうな口車で声をかけてゐたのだ。思はぬ伏兵、しかも最強敵の出現に狼狽する井手は、勘定にしては過分な金を瑞穂に巻き上げられ退散する。本作濡れ場の旨味に与ることもない東田敏幸、他の仕事を少なくとも同じ名義でこなしてゐる形跡は見当たらないが、ぼちぼちの男前ぶりにテンポいい軽快さで、ドジなスカウトマンを好演する。
健夫との関係に疑問を感じた杏里は、再び店に瑞穂を訪ねる。観客に対しては明確な瑞穂の自らに向けられた下心にも気付かず、杏里は瑞穂の家まで向かふ。シェイプ・アップ器具で戯れ合ひながら、二人は体を重ねる。今作はさういふ甘酸つぱいシークエンスにそこかしこで挑戦し、概ね成功してもゐる。
モラトリアムな不思議ちやん系少女が、時に硬質ささへ感じさせる成熟した女のレズビアンの魔手に絡め捕られる。少女の子供を産みたい、と一線を跨いだ願望を言ひ出した女は、少女を寝取られ憤慨する矢張りガキの彼氏も篭絡。突然の凶行を成長の契機と看做す、杏里の身勝手さには呆れ返らないでもない終盤の展開は、額面通り受け取つてもそれはそれとして衝撃的、といふか轟然とした物語のハード・ランディングではある。とはいへ更に、その斜め上を行く余地すら幾分残されてゐるやうに思へる。杏里が瑞穂と体を重ねたところから、カットは跨げど時制としては連続したやうな流れで今度は杏里と健夫の濡れ場に突入する箇所と、後をつけ部屋にまで乗り込んだはいいものの、健夫は瑞穂に半ば手篭めにされる。いいやうに大人の女に溺れさせられる健夫が我に帰ると、どうした訳か何時の間にか杏里も加はつての3Pに突入してしまつてゐた。ここの二箇所の編集に、<
瑞穂などといふ女はそもそも存在しなかつた
>、あるいは<
瑞穂は解離性同一性障害の杏里の、主人格と並立する器用な別人格である
>、といふ含みを看て取るのは横好きな勘繰りであらうか。とはいへそのまま受け取つた場合でも、杏里が身勝手に大人への成長を経たと称しておきながら、最終的には一応締めの濡れ場を挿んで、結局元と殆ど変らない地点へと戻つてしまつてゐる。恐らくは意図的に明確ではない語り口が、浅はかな読解力では理解を妨げる一作。不確かな部分を、遊びとして余裕を持つて味はへばよかつたのかも知れないが、少なくとも今回小生の肌には合はなかつた。
勇気あるスローモーションを結構あちこちで多用しつつ、杏里と瑞穂との件は展開上の余地を差し引けば、豊かに美しく撮り上げられてゐる。絶妙に不細工に片足を突つ込んだ小島三奈は、さういふところがモラトリアムな不思議ちやんには却つて効果的にハマつてゐる。何にも増して素晴らしいのは、黙つてそこに出て来ただけで、忽ち画面を完成させてしまふ橘瑠璃の、美しさを通り越した最早強度。少々の不備ならば易々と捻じ伏せてもしまへるところではあつたのだが、残念ながら少々ではなかつたのが山名和俊。彼女と彼女に恋した大人の女とに翻弄される情けなく心許ない役柄とはいへ、心許ないにも程がある。小島三奈の相手も満足に果たせないところで、橘瑠璃登場とあつてはどうにもかうにもまるで形にならない。杏里と瑞穂、といふか杏里を肴にした瑞穂一人で優に成立し得た筈の映画が、健夫が出て来たところで崩れてしまふ。
久保隆は二年後を描いた終幕に登場する、杏里の夫・剣持。乳母車を押す女との件は、不自然に冗長。宇野美由紀は、ギャルリ・ド・ぽえむから退散しかけた井手が、来店しようとしてゐたところを捕まへ新たに声をかける女か。協力の本田唯一は、画面中の何処にも見切れてはゐない筈だ。
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