真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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肉屋と義母 -うばふ!-
松岡邦彦
/
2008年06月11日
「
肉屋と義母 -うばふ!-
」(2005/製作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:秋山兼定《ネクストワン》/音楽:戎一郎/撮影:村石直人/照明:マタオチャン/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:竹洞哲也/監督助手:中川大資/撮影助手:清水康宏/照明助手:佐々木貴文/メイク:マキ/スチール:本田あきら/現像:東映ラボテック/出演:三東ルシア・しのざきさとみ・青山えりな・徳原晋一・綱島渉・那波隆史・由依靜)。照明のマタオチャンといふのは、実際さうクレジットされる、鳥越正夫を指すのか?
城南大学(撮影は法政大学にて)文学部講師の静(三東)は、弁護士の青山真一(那波)と結婚する。開巻は真一の連れ子・真人(網島)が彼女の木村可奈(青山)を家に招いての、四人の団欒。静と可奈が、ショパンと歌舞伎に関する会話で盛り上がると真一は、といふか
那波隆史はが恐るべき棒読みで
「すつかり意気投合したやうだね」
何だそりや
そもそも陳腐なシークエンスに止めを刺され、出鼻が木端微塵に挫かれたかと頭を抱へたが、幸にも那波隆史の出番は以降然程多くはなく、その限りに於いて傷口は広がらなかつた。その夜の夫婦生活、頭に白いものも混じる真一のセックスは淡白で、静は秘かに不満を覚える。ある日夕立に降られた静は、食肉卸店の軒先に逃れる。洩れ聞こえる尋常ならざる気配に静が店内の様子を窺ふと、肉屋の三木健次(徳原)とその妻・久子(しのざき)が交はつてゐた。獣のやうな二人の営みと、健次の逞しさに静は目と心を奪はれる。数日後、覗き見た肉屋夫婦の情交が頭から離れない静は、再びその肉屋を訪れる。小売はしてゐないといふ健次の言葉にその日はすごすご退散するも、更に数日後、意を決した静は結婚指輪を外し、変装のつもりか大きなサングラスをかけ再々度肉屋へ向かふ。健次は静を看て取ると、売り物ではないとつておきの肉がある、と静を裏手に誘(いざな)ふ。畳間へ通し、素振りとして一応は拒んでみせる静を、健次は繰り返し犯す。望んだ通りの激しい性行に、静は溺れる。
主演の三東ルシアは当サイトが生まれた翌年に、旧芸名の里美レイで芸能界デビュー、翌年三東ルシアに改名。更にその一年後の昭和50年、TOTOホーローバスのテレビCMでブレイク。以降70年代後半を今でいふところのグラビア・アイドルとして駆け抜け、ロマンポルノ「女教師 生徒の眼の前で」(昭和57/監督:上垣保朗/未見)主演でセンセーションを巻き起こしたのち、平成元年に一旦引退。2003年にグラビアで復帰後、Vシネ主演などを経て今作に至る。全盛期を子供ゆゑ全く通り過ぎた身としては正直なところ特段の思ひ入れは皆無で、さうなると首から上にカメラが寄る際、アップで撮られてゐること自体に三東ルシア自身の緊張が見受けられるのには苦笑しなくもなかつたが、2005年当時三東ルシアが御歳47歳であるといふ事実を改めて鑑みると、それはそれとして敬服するに吝かではない。正味な話、劇中設定的には歳の大きく離れた真一と結婚した静が性的なフラストレーションに苛まれる、といふ形になつてはゐるものの、実年齢では、三東ルシアの方が那波隆史よりも十近く上である。
上流階級に属する女が、粗野な男との逢瀬に溺れて行く。天衣無縫に大雑把にいふと、『チャタレイ夫人の恋人』のやうな物語かと思つてゐたところ、何と寡聞にして勿論未見だが、そのものズバリ全く同じやうなストーリーの「肉屋」(1998/伊/監督:アウレディオ・グリマルディ/原作:アリーナ・レイエス/主演:アルバ・ビアレッティ)なる、しかも日本でもそこそこヒットした映画があるといふ。となると、2006年の大傑作「
ド・有頂天ラブホテル 今夜も、満員御礼
」に遡る、ド直球翻案映画の第一弾、ともいへるのか。大きく開いた完成度の以前に、基本的な出来栄えないし肌触りの硬軟、といふ目立つた差異がありもするのだが。
タイトルに“義母”を冠しながら、真人と静間の双方向に、互ひに性的関心を寄せるやうな描写は欠片もなく、いはゆる―擬似―近親相姦ものとしての要素は感じられない。特筆すべきは、亭主を寝取られた報復にと久子が真人を蹂躙する展開。オリジナル版「肉屋」と比した際の、今作最大の特色といへよう。手切れ金と真人を買つた代金も兼ねてと、立ち去り際に久子が竹皮で包んだ肉を投げて寄こすカットには、強い映画的興奮が満ちる。今ひとつ盛り上がりに欠ける処女喪失の濡れ場をこなして退場したあとは、全く出て来ない青山えりなの扱ひが中途半端でぞんざいなのと、相変らずまるで使へない那波隆史の棒立ち大根ぶりに関してはひとまづさて措き通り過ぎると、些かの物足りなさを残すのは肉屋役の徳原晋一。何度も何度でも静を犯しがてら、「俺は何時も満タンだぜ」とイカした名台詞を決める辺りには逞しさも煌くとはいへ、少々小奇麗にすぎるか。元々明確に男前の枠内に収まる上、選りにも選つて敵に回すは三東ルシア、と更にしのざきさとみである。熟女に若いツバメが普通に可愛がられてゐるやうにしか映らず、些かならず弱い。平素の徳原晋一のイメージを覆すくらゐ思ひきり汚してみるか、別の可能性を摸索するとたとへば町田政則の肉屋であつたりしたならば、より画的にしつくり来たやうにも思へる。
穏やかに満ち足りた幸福感を醸し出しつつ、刹那に衝撃を叩き込むラスト・ショットは、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦一流。真人が久子のカウンターに沈んだ一件も経て、静が一旦は健次との関係を絶たうとはするものの、学内にまで追ひ駆けて来た健次と講義前の教室にて事に及ぶ濡れ場は、実際に大学内で撮影してゐる風に見える。学内の広さに、決死の覚悟で紛れたか。ただその際に、静が「生徒が来ちやふ・・・」と儚い抵抗を示してみせるのは、普通大学生を捕まへて、“生徒”とはいはないのでは。
配役残り、地味か絶妙に美人の由依靜は、休み時間に学食で歓談する静の同僚。静が勝手に追ひ詰められて行くさりげない会話の相手役を担ふ、展開上の送りバントをそつなく決める。
最後に三東ルシアに話を戻すと、ポスター惹句にはかうある。「私熟成した・・・かしら」、“少女から大人になつた 平成のルシアが眩しい”。熟成だの大人だのいつてゐる場合でも、既に遠くないのだけれど。エクセスの無茶振りも兎も角、それをそれなり以上に形に成さしめた松岡邦彦の功は、評価されて然るべきであるのやも知れない。
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