真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「好奇心の強い義母 昼顔の汗臭」(2007/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:関根和美/企画:亀井戸粋人・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/協力:報映産業/出演:酒井ちなみ・合沢萌・久保田泰也・なかみつせいじ・久須美欽一)。製作のシネマアークは、本篇クレジットには無し。
 居間で勉強中うたた寝してゐた宅浪生の木下雅之(久保田)は、義母・まゆみ(酒井)がトイレに入つた気配に目を覚ます。雅之はまゆみが脱衣籠に脱いだパンティをくすねつつ、下元哲一流の、タップリと尺も費やし描かれる義母の排泄の喜悦を覗き見る。ハッと雅之が振り返ると、そこにはパンティを返して、と個室に入つてゐる筈のまゆみが立つてゐた。再び改めて居間で目を覚ました雅之は頭を抱へる、夢精してしまつてゐたのだ。
 セーラ服を着てゐる辺りで年齢設定がよく判らなくなつても来るが、彼女・前川由香里(合沢)が家を訪れ雅之の勉強を見てゐる。ここはひとまづ、多少を超えた無理も顧みず合沢萌にセーラ服を着せたかつたのであらう、といふことにして通り過ぎたい。ムラムラ来た雅之は由香里に覆ひ被さるが、むべもなく拒まれる。そこにまゆみがお茶を持つて登場。すると今度は雅之は、ローター、ボールギャグ、両乳首に吸引具のやうに取りつけて責める、何ていふのか全く判らない器具、張形。種々の淫具を駆使したまゆみが由香里を責め倒す、エクストリームな白日夢を見る。
 彫刻のやうに整つた顔立ちとタッパもあるダイナマイト・ボディを誇る、まるで白人女優と見紛ふかのやうな主演女優の酒井ちなみ。お芝居の方は進行を阻害せぬ最低限だが、腰から尻にかけての逞しい充実には、おとなしく心を持つて行かれる。以降は概ね美しい義母に狂はされた義息の幻覚にも似たイマジンが延々連ねられるのみといふ、殆どストーリーすら割愛したソリッドの向かう側の作劇を、主演女優の魅力の一点突破で頑丈に戦ひ抜く。幻想パートに突入するや否や随所で顕示的に炸裂する下元哲必殺のソフト・フォーカス撮影に加へ、高層マンションの外景が所々でカットの繋ぎ際に挿み込まれる以外には、実はカメラが舞台室内から一歩も外に出でないといふ省力設計も何気に光る。持てる戦力の全てをいやらしい女の裸を銀幕に載せることにのみ注ぎ込む。他の何物かを求めるならば他所に行つて呉れ、とでもいはんばかりの下元哲の潔さと、狙つたセンは全速力で撃ち抜いた清々しさが天晴な、正しくエクセス本流の実用的エロ映画の中でも、極めて高水準の一作である。
 クライマックスは、昼間から風呂を浴びては引き寄せられた雅之をまゆみ自ら誘ひ入れての、浴室での両義的な濡れ場。前段階での、入念にスローモーションで押さへられた、まゆみの肉感的な肢体を舐めるシャワーの飛沫をアップで捉へた画も強力。一般家庭にも関らず、いはゆるスケベ椅子が浴室にあつたりするのは最早御愛嬌だ。そこに出張に出た父親・孝雄(久須美)が忘れ物を取りに戻るちよつとしたサスペンスも織り込みながら、続けて雅之を訪ねて現れた由香里は、覗き見た彼氏と義母の情事に衝撃を受けると、何とそのまま脱衣場で立位のオナニーを、挙句に何故かまゆみのネグリジェを咥へながら展開する。しかもカットとしては省略されるが、由香里は果てるとそのまま退場。かうして改めて振り返ると何処から手を着ければよいのか判らなくなる程シークエンスとして無茶苦茶なのだが、この期に瑣末な蓋然性なんぞ、群を抜いた桃色の破壊力が有無もいはさず捻じ伏せる。カメラマン・ディレクターとしての洗練も伴はせつつ、確信的な下元哲の豪腕が振り抜かれる。唯一の難点は雅之役の久保田泰也の、強ひてよくいへば今時風のチャラ男ぶりくらゐ。劇映画としての中身はほぼ全く無いままに、同時に時代を越え得る威力を有した快作である。
 ところで何ともいやらしい雰囲気だけは伝はつて来るタイトルではあるが、“義母”といふ一単語以外には、感動的なまでにまるで実際の内容を即してはゐない、ままあることではあるが。

 なかみつせいじは、まゆみが通販で買つたバイブを届けては、冷たい水と気持ちいい尺八を御馳走になる宅配業者・圧田武史。なかみつせいじがワン・シーンにのみ登場の濡れ場要員とは、贅沢な配役ともいへる。改めて触れておくと声の張りには何ら不安を感じさせないが、久須美欽一の顔の左半分の強張りは矢張り気になる。下元哲もその点は慮つたのか、登場シーンは基本画面奥の上座に置いての家族の食卓風景で、唯一の濡れ場も、縛り上げたまゆみを後ろから浣腸で責めるといふ、殆ど腕の先しか映らないものである。その食卓風景すら、照明が不自然に暗い箇所もあるやうに思へるのは、流石に気にし過ぎか。全体的にも、少しお痩せになつたやうに見受けられる。


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