真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻 いんらんな私」(1991『いんらん巨乳妻』の2008年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/配給:新東宝映画/監督・脚本:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:沖茂/音楽:映像新音楽/編集:竹村峻司/効果:協立音響/出演:高崎慶子《高崎麗子》・中川みず穂・広瀬未希・木下雅之《木下雅巳》・牧村耕治《牧村耕次》・野沢明弘)。出演者に関するやゝこしい表記については。高崎慶子(高崎麗子)の場合、高崎慶子が本篇クレジットに従ひ、高崎麗子は今回新版ポスターによるもの。恐らく少なくとも1991年当時にあつては、先にある方が正しかつたものではないかと思はれる。助監督クレジットは、確かなかつた。なほ“今回新版ポスター”といふのは、例によつて今作は少なくとも2002年に一度、「私いんらん妻」なる投げやりな新題で旧作改題されてゐる。元々の旧題は「いんらん巨乳妻」といふが、オッパイは妻役の高崎慶子よりも、夫の不倫相手役の広瀬未希の方が大きいのだが・・・・>もうどうでもいいよ
 朝食の後片付けをしてゐた綾子(高崎)は、電話で夫の時男(木下)から忘れた定期券を届けて呉れるやう頼まれる。時男がきのふ着た背広を探つた綾子は手帳を見付ける、そこには、夫の浮気を示す形跡があつた。綾子は亡兄の友人であつた井川一夫(牧村)に相談を持ちかけるが、井川はかつて若い想ひを寄せてゐた綾子に、今でも複雑な感情を抱いてゐた。
 クッキリと太い眉毛と今でいふところのアヒル口が堪らない中川みず穂は、井川行きつけのスナックのママ・佳子。スペックとしての破壊力は残る二人に見劣りながらも、キュートな魅力と若干勝つた演技力とで、ビリングは二番手ながら劇中での印象は最も強い。広瀬未希は時男の部下、兼不倫相手の千恵子。作中随一の肉感的な肢体を誇りはすれ、いやらしさはあまり感じられないタイプの女優さんではある。野沢明弘は、千恵子のセフレ・下村。
 漸く終盤に及んで時男は千恵子に誘はれ、一方綾子は井川・佳子経由で、夫婦で同じ乱交パーティーに知らずに参加することとなる。といふ形で話は動き始めるのだが、そこに至るまでのまるで明確な志向を感じさせないランダムな展開は、タマルミ映画の常ともいへ、淫夢を通り越し最早悪夢に近いものもある。加へていふても詮無いのは百も承知しつつ、件の乱交パーティーといふのが、参加者は総勢綾子・佳子・千恵子・時男・井川・下村の計六人に限られる、といふ安普請には、仕方のない不平と頭では判つてゐても、矢張り拍子抜けさせられずにはをれない。一同皆マスクを着け、どれが誰やら微妙に判然としないまゝ六人の男女が延々ヤリ倒すばかりのパーティー描写には、この際興奮すればいいのか困惑すればいいのか。最終的にグルッと回つて、知らずに本来の夫婦同士でセクロスしてゐた綾子と時男。射精と同時に相手の女のバタフライマスクを外した時男は、現れた妻の顔に驚愕する。「綾子!」、「貴方・・・!」、“完”。文字通り矢継ぎ早のカット割で一気に映画を畳んでしまふ終幕には、ヤリ逃げといふ言葉すら想起させられる。物語が濡れ場に完全奉仕する、といふ以前に最早殆ど物語が存在しない一作。大筋すら存在しない割に、本質は決して宿さないディテールに変にこだはつてみせる辺りも相変らず。矢張り珠瑠美といふ人は、日本人出演者による洋ピンを志向してゐたのだ、とでもしか理解のしやうもないのか。救ひは十七年前の映画にしては、女優が三人とも概ね時代の波に沈まないことと、偶さかプリントが驚くほど綺麗である点。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )