真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「風俗ルポ ポケベル《裏》売春」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:林田義行/撮影助手:郷田有/照明助手:佐野良介/ネガ編集:三上えつ子/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学《株》/出演:小川真実・水鳥川彩・西野奈々美・久須美欽一・太田始・鳥羽美子・杉本まこと)。
 七色に煌めく麗しの大蔵王冠ロゴ、杉本まことの開巻開口一番が「早く脱げよ」。長谷川文男(杉本)が同僚兼不倫相手のアイダ望(西野)に悪い顔で促す、帰社時間に迫られる昼下がりの逢瀬。望がブラウスをカメラ目掛け文字通り脱ぎ捨てて、暗転タイトル・イン。絡み初戦がタイトルバック、雑な体位移動はさて措き、締めの監督クレジットで乳に寄る。案外馬鹿に出来ない、強靭なジャスティス。寧ろ今時の外様辺りが積極的に、この手のコッテコテな古典的メソッドを模倣してみるのも面白い、やうに思へなくはない。
 大胆だか大雑把なのかよく判らないダイナミックな繋ぎで、ベンチに座つた長谷川が深刻な顔で黄昏る。箸が転べば公園、風が吹けば桶屋が往来。少々の不自然さなんぞてんで意に介さず、事ある毎に無料ロケーションを臆面もなく多用してのけるのは、確信犯的量産型娯楽映画の常。閑話休題、事後結婚を理由に望から不意の別れを通告された挙句、その結婚相手とやらが得意先である小林物産の社長子息だとかいふので、長谷川は声しか聞かせない部長(姿良三か小川和久)に馘をも宣告されてゐた。それで社員の首を切れるのか、なかなか機動性に富んだ会社ではある。実は、それだけでもなかつたのだが。再度閑話休題、キリがない。呆然自失と歩道橋から行き交ふ車列を見やる長谷川に、偶ッ々その場を通りがかつた女・冬美(小川)が「吸ひ込まれさう」と声をかける。適当な会話を流して、冬美の―スーサイドを―「少し先に延ばしてみない?」から、カット跨ぐとシャワーを浴びてゐる小川真実。少々無理か飛躍の大きなシークエンスであつたとて、女の裸で捻じ伏せてしまへば万事オッケー。ピンク映画固有の文法が、荒野にも似た地平を飄々と吹き遊(すさ)ぶ。正しく一発で冬美に執心した長谷川が、早速翌日貰つた番号にかけてみると、電話の先はホテトル店「キャンディ」だつた。矢張り声しか聞かせない電話越しの男には辿り着けないから、井戸田秀行なのかなあ。
 配役残り水鳥川彩は、長谷川の妻・唯。キャンディの店長(推定)に、長谷川が冬美の特徴を適当に伝へたところ、今上御大映画に於ける大御大映画影の女神・板垣有美こと、鳥羽美子が飛び込んで来るのが序盤のハイライト。長谷川は一旦落胆しかけたものの、チェンジせず先払ひまでしこそすれ、以降を端折り遂にかとときめかせられかけた、鳥羽美子の濡れ場が拝めはしなかつた点が最大の欠いた竜の睛。長谷川の―元―勤務先「黒川建設」から長谷川家に電話をかけ、当人はいひだせずにゐた失業を唯に発覚させる、だから声しか聞かせない中村はほぼほぼの自信を以て樹かず。その旨唯が長谷川に詰め寄る件に際しては、中村の名前が中本に変つてゐたりする不安定さが、変なところで妥協を知らないイズイズム。長谷川を放逐した唯は、最早声すら聞かせない電話の向かうの友人・キョーコに勧められか唆され、選りにも選つてキャンディでホテトル嬢に。それは余程世間が狭いのか、キャンディが独占的な大手なのか。太田始は冬美の源氏名・リカをチェンジする形での、唯の劇中最初の客、チュッパチャプスが偏執性を表するトレードマーク。久須美欽一は唯だけでなくリカも呼んでの、豪遊に興じる御仁。久須美欽一の、御仁感。最終的に、あるいは主体的に何某か展開の推移に関るでなく、概ね単なる純然たる巴戦要員。
 林田義行脚本にとりあへず驚いた、小川和久1994年第七作。慌てて当たつたjmdbによると、少なくとも1992年から1996年の間に四本ある模様、今作は二本目。後ろ三本が何れも小川和久であるのも兎も角、記録にある初陣がしかも新東宝の佐藤寿保―1992年第四作「制服ONANIE 処女の下着」(主演:浅野桃里)―といふのは何気に衝撃的、何が“しかも”なのか。望んだところで詮ないのは百億も承知の上で、存在を知つたが最後激越に観るか見たくなる、未練しか残らない無間地獄。
 長谷川が冬美に逃げ込んだとか何とか、二人が交す徒にアンニュイな会話周りには小賢しい才気が小走りしつつ、基本線としては久須りんを介して唯とも出会つた冬美が、長谷川の手荷物から二人の間柄を察知、元鞘に戻す御膳立ての手筈を整へるアーバン浪花節。冬美が長谷川とは普通に待ち合はせればいいハチ公前に、唯に対しては再び三人プレイのタッグを組むと称して呼び出すのは、久須りんの存在を紙一重で一幕限りから救出してみせる地味な妙手。結局結婚の破談になつた望も、別に気落ちするでなく出張風俗に転職してゐたりする、世間が狭いなり工夫を欠いたといつた以前の、女優部全員ホテトル嬢だなどと殆ど歪んだ世界観はこの際―どの際なんだ―等閑視すると、何処からでもビリング頭を狙へる加へて小川組に手慣れた三本柱の濡れ場を、何れも質量とも十全に披露する安心して見てゐられる裸映画。長谷川の望との不倫と冬美には求婚、一方唯も唯で歴然とした売春。絶大な火種は双方心に架けた棚に蔵入れ、締めの夫婦生活を堂々と完遂した上で、冬美のポケベルに新たなる招聘が着弾。颯爽と出撃する歩道橋から並木道に引くラストは、一応か力技で爽やかにピリオドを打つ。そんな、ツッコミ処の起爆装置が地表のそこかしこに露出してゐる中でも、一箇所素面で特筆しておきたいのは、長谷川が最初に冬美と寝たのが望と使つてゐたのと同じホテルだといふので、事の最中に望を想起してしまつた長谷川が一旦中折れする件。ハモニカを吹く口が、怪訝な面持ちで止まるシークエンスはそれはそれでそれなりに斬新、裸映画的にはなほさら正方向に煌めく。
 備忘録< “それだけでない”こゝろは、望は黒川とも関係を持つてゐた


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