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真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「快感ヒロイン ぷるるん捜査線」(2019/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:増田貴彦/撮影・照明:飯岡聖英/録音:小林徹哉/編集:酒井正次/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:近藤祥平・森田亮/照明助手:広瀬寛巳/協力:中野貴雄/スチール:本田あきら/選曲:徳永由紀子/MA:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄/出演:妃月るい・美咲結衣・桜ちなみ・原美織《愛情出演》・小滝正大・津田篤・ケイチャン)。出演者中原美織のカメオ特記は、本篇クレジットのみ。
 レス・ザン・バジェットな、異世界「ハナビランド」のイメージ。アイデンティティを喪失し破滅的な行動に走るルイを、ハルナが諫めるライン風会話。転じて現し世、公園的な原つぱに唐草模様の風呂敷と所謂ピコピコハンマーを背負つた水木ルイ(妃月)が現れるや、松本から家出したルイの両親に娘捜しを依頼された、私立探偵の真島祐二(ケイチャン/ex.けーすけ)も後(あと)を追つて駆けつける。たかと思へば再度矢継ぎ早にルイが待ち合はせてゐた、河田俊雄(津田)が何者かに襲はれ後頭部から出血した状態で倒れ込む。しかも河田はルイに渡す約束になつてゐた、フラワー戦士「シノビーナス」幻の十三回にして最終回のDVDを奪はれてゐた。とかいふ次第で、ハナビランドからやつて来たサクラビーナス(美咲結衣のゼロ役目)とラベンダービーナス(原)が、ドワルダー(ケイチャンの二役目)率ゐる悪の組織「ドグサレンダー」と戦ふ女の子向け低予算特撮番組。であつたものが、低視聴率とスポンサーの倒産とで十二話で打ち切られた、シノビーナスのイントロダクションまで済ませてタイトル・イン。何気な神速を誇る新田栄と比べると幾分以上か以下に粗雑ではあれ、高速かつ情報密度の濃いアバンに軽く意表を突かれる。のと、ルイが正真正銘全篇駆使し倒すハナビランド語が、大体のりピー語。ついでか更にスチールを繋げたシノビーナスイントロに登場する、ドグサレンダーの女怪人は中野貴雄の配偶者である春咲小紅?
 ルイを松本に連れ戻さうとする真島に対し、当のルイは最終回DVDを手に入れるまで帰らないの一点張り。シノビーナスの必殺ならぬ必生技「ヒーリングウェーブ」と称した、要はルイの色仕掛けに当然勿論世界の真理に従つて真島は懐柔。探偵兼のボディガードといふ形で、ルイと行動を共にする格好に。
 配役残り、ぼちぼちピンク第四戦の桜ちなみは、保険証で見た住所を頼りに河田の自宅を訪ねた二人を迎へる、河田の妹を騙る女・ハルナ。どんな服を着たとて隠せまい、琴線にフルコンタクトを叩き込む爆乳の圧倒的な破壊力は兎も角、幾らお眼鏡とはいへ、流石にクリムゾンのボストンはダサいものはダサい。そこを譲るのは、思想の後退であると難ずる。河田が十三話DVDを闇サイトで入手したとの情報を得て、真島はルイを知人のギークでナードな中野孝史(小滝)の下に連れて行く。ここで特筆すべきが、ファンタな造形を施された中野の、レインボーなドレッド風のウィッグ。ほかでも使つてゐるかも知れないが「女痴漢捜査官4 とろける下半身」(2001/脚本:波路遥/主演:美波輝海/a.k.a.大貫あずさ/a.k.a.小山てるみ)に於いて、根久田判二羽留役の螢雪次朗が被つてゐたものと同じブツ。これはネットで見られる今作の予告篇と、ex.DMMで女痴漢捜査官4を何度も見比べて確認した、物持ちいいな!中野が割り出した、闇サイト業者の住所・阿玖芽町十三丁目五番地十七号(アクメの漢字は適当)を、ルイと真島は次に訪れてみる。改めて、こちらは国沢実2015年第二作「スケベ研究室 絶倫強化計画」(2015/脚本:高橋祐太/主演:竹内真琴)以来の五本目となる美咲結衣は、そこで整体院「やすらぎ整体院」を営む榛名智美。美咲結衣が前四回の国沢組含め、五作連続二番手といふ案外離れ業を達成。
 増田貴彦とのコンビで三作目となる、渡邊元嗣2019年第一作。目下確認出来る範囲では増田貴彦脚本ナベシネマは次作までで、2019年第三作では山崎浩治が2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(主演:星美りか)ぶりとなる大復活を遂げてゐるのが地味なトピック、地味でない。
 特オタ女が自らの肉体で男を誑かし、お目当てのお宝DVDゲットに邁進する前半は文句なく完璧。職務上の要請を抱へる真島と、容易に予想される怖い筋の存在に、下手に首を突つ込むのに抵抗を覚える中野。極めて常識的か論理的な男衆の障壁を、ルイがピッチピチの美身で突破する展開は綺麗な説得力を獲得。「美乳夜曲 乱れる白肌」にあつては違和感を覚えなくもなかつた、妃月るいの少々ラウドな嬌声も底を抜いたファンタジーには瑕疵なく親和する。反面、最終話DVDの出処と、ルイが大切にする―オフの面識はない―同好の士・ハルナの正体を巡るサスペンスは、元々脚本がトッ散らかつてゐたものか演出の鈍りかは判らないが、一応映画的ではあるラストまで含め結構ガッチャガチャ。手放しで絶賛するには、如何せん遠い、ものの。正直いふと泣いたのが、失恋に心を痛めたルイがハルナのレコメンドで救はれた、フラワー戦士がドグサレンダーのどうせ私なんか仮面に立ち向かふシノビーナス第八話の件。一撃必殺で涙腺を決壊させる渾身のエモーションこそが、“傷ついてゐる全ての人が救はれる感涙必至のハッピーエンド”に違ひないとルイが予想を通り越して確信する、シノビーナス最終回の内容に仮託した、鉄の信念に貫かれたナベシネマがナベシネマたる所以。桜ちなみの乳も太いが実は余らせた腹肉は見なかつたことにすると、アヤメビーナスとカキツバタビーナスにショウブビーナスをも揃へた、三者三様に三百花繚乱の三本柱は鉄板。クライマックスまで三番手を温存するだなどといふ、平素ならば悪手をも見事に引つ繰り返す、ユリビーナスが爆誕する秀逸な構成も相俟つて裸映画的には磐石の安定感を誇る。結局十三話の中身が明らかにならないのは、わざッと持たせた余裕。渡邊元嗣相手にワーキャー騒ぐほどには当たらないにせよ、ナベシネマの堅調に枕を高く出来る一作である。


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 「熟女ペッテイング とろける」(1994/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:秋田健二/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:しのざきさとみ・杉原みさお・林由美香・神戸顕一・杉本まこと・池島ゆたか)。
 嵐の東化玄関に、津山指圧診療院の看板。「それは三年前の夏の終り頃」、「私は師匠の津山悦郎からある秘儀を伝授された」。性的不能の治療を専門とする指圧師の津山悦郎(池島)と、弟子で元泡姫の梅子(しのざき)が対座する、屋内は今も御馴染津田スタ。津山家に代々伝はる古文書『経脈経穴絶倫奥儀』を持ち出した津山は、秘儀の伝授にはデンジャーも伴ふリスクを梅子に提示。限りなく男女の色恋に近い、師弟の一応信頼関係で双方腹を固めた流れで、文字を普通紙に白黒印刷しただけのタイトル・イン。貧相のその先に突き抜けて、寧ろアバンギャルドにさへ映らなくもない、映らねえよ。
 秘儀といふのが、要はもう片方の手で丹田を人工呼吸風に圧迫しつつ、利き手での前立腺マッサ。尻内模型の前立腺が、何故かウンコの如き造形。インポは全快させ得るものの、逆に健康者に対しては強過ぎる秘儀を被験した津山は、佐々共のやうなメソッドで目を見開きレイプゾンビ起動、殆ど一晩中梅子を犯す。翌日、自ら曰く“理性がなくなる”副作用を克服するつもりであつた、津山は自戒の置手紙を梅子に残し修行の旅に出る。三年後、即ち劇中現在。一人で津山指圧診療院を切り盛りする―ここでの患者部が今岡信治―梅子の下を、ソープ嬢時代の妹分・洋子(杉原)が弟子入りを志願し訪ねる。
 配役残り、チェッカーズみたいなジャケットで飛び込んで来る神戸顕一は、梅子が草鞋を脱いでゐたソープのオーナー・白子。白子の不能を梅子が治したのが、騒動の発端。ところで神戸顕一は確かネイティブであつたやうな気がするのだが、他地方人が下手糞に真似るやうな関西弁を操る。のと、この男は扇子ひとつ満足に畳めないのか。ほぼ純粋三番手の林由美香は、こちらもこちらで白子経由で津山流秘儀に首を突つ込む沙貴。そして杉本まことが沙貴とは駆け落ちる形で田舎を出て来た仲の、スケコマシ・中田。元々誇る絶倫を、世界一に加速せんと目論む。更に榎本敏郎と津田一郎が、患者部に追加。自宅以外に津田一郎当人が見切れるのは、滅多にないことにも思へる。
 北沢幸雄と杉田かおりの買取系ロマポに偏りを覚え、箸休めに渡邊元嗣1994年第三作。jmdb準拠だと、前作「いんらん熟女 濡れ盛り」(渡邊元嗣名義/脚本:双美零/主演:しのざきさとみ/ex.DMM未配信)が渡辺と渡邊の境目に当たる。今後の展開は当サイト的には柴原光のピンク第二・三作をコンプ戦、一方大蔵がバラ売りに新着させた旧作を、かつてない早さで月額に放り込んで来る。
 梅子の下で修行を始めた洋子こと杉原みさおの、判り易く含みを持たせた表情に伏線の気配を感じかけたのも本当に束の間。勃起不全に苦しむ婚約者の存在を騙るに至つては、馬鹿にアッサリ割るんだなと呆れかけたなほ一層矢継ぎ早、洋子の動機が単なるナンバーワン売れつ子に過ぎなかつた時点で、物語的に膨らむなり転がる余地は概ね閉ざされ、実際結果的に膨らみも転がりもしない。元も子も、実も蓋もない。津山なり梅子の真心も、所詮は為にもし損なふ方便。秘儀の施術に際し、梅子が一々脱ぐはおろかローションまで持ち出すかと思へば、梅子V.S.白子戦では前立腺を刺激する毎にチリンチリンと鈴の音を鳴らし、インドに気触れた、もといインドで修行して来た津山は、適当にフラワーな扮装で南酒々井に帰国する。ある意味色気を捨てた、より直截には映画的な色気を捨てた潔い裸映画は、時に地を穿つまで底を抜く。一ッ欠片たりとて別に面白くもないものの、決められた尺をサックサク見させる。完成形でも到達点でも何でもないにせよ、それはそれとしてそれでも、量産型娯楽映画ひとつの然るべき姿。唯一軽く心が残る不足感を感じさせるのは、津山流秘儀で風俗界の女王―なんだそれ―に上り詰める野望まで開陳しておきながら、以降一切全く通り過ぎられる沙貴の去就。尤もその点に関しても、三番手の宿命に殉じた、気高く咲き美しく散るバラにも似たエモーションが窺へなくもない。


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 「暴虐女拷問」(昭和53/製作:若松プロダクション/配給:新東宝映画/監督:若松孝二/脚本:出口出/企画:新東宝興行株式会社/製作:若松孝二/撮影:伊東英男/照明:磯貝一/録音:杉崎喬/編集:竹村編集室/音楽:出口出/効果:大和グループ/助監督:堀ノ内透/演出助手:磯村一路/撮影助手:古川丈夫/照明助手:松尾進/録音所:ニューメグロスタジオ/現像所:ハイラボセンター/協力:騒動社/出演:今泉洋・野上正義・中野リエ・高鳥亜美・宮崎あすか・浦野明香・杉佳代子・港雄一・龍駿介)。出演者中、宮崎あすかと浦野明香は本篇クレジットのみ。逆にといふか代りにといふか、野口美沙と桜マミの名前がポスターには載る、逆とか代りとは何なんだ。とかく新東宝はこの辺り、謎のフリーダム。新東宝に限らず、ピンク映画全般かも。
 明治初頭、維新のどさくさに紛れ成りあがつた金貸し・井原権之介(港)が、手篭めにした女中のふさ(高鳥)を儂様の子を産むなど罷りならんと、流産させるべく激しく責める。高鳥亜美にいはゆる電気アンマをグイッグイ捻じ込みながら、憤怒の港雄一が「流れろ!」だ「掃き出せ!」だ極悪非道なシャウトを連呼、見るも無残な開巻に眩暈がする。ふさが乳も放り出して逃げる、霧に煙つた川原にタイトル・イン。確かに暴虐極まりなく女を拷問する、公開題を早速拾つてのけた極彩色のアバンではある。
 人里軽く離れた川原に棲む研師・捨造(今泉)と留吉(野上)の掘立小屋に、ふさが転がり込む、のも通り越し殆ど倒れ込む。そこに続けて現れたのは、部下(騒動社計七名)を従へた、井原懐刀の官憲・桜井(龍)。衰弱してゐるゆゑ庇はうとする二人を排し、桜井はふさを連行。井原に改めて責めたてられたふさは、憐れ終に舌を噛む。ふさの死を桜井は乱心した末の事故として処理、井原からの謝金を受け取る。
 配役残り宮崎あすかは、井原の娘・えみ。杉佳代子が妻のときで、中野リエが新しい女中のゆき。当然といはんばかりゆきも手篭めにする井原は、乳首を口に含み回春剤だと満喫、あんた大絶賛現役だろ。浦野明香は、何故かえみに悶々とする桜井が、買ふ夜鷹・月奴。
 新東宝の新版は藪蛇に結構な速さで着弾する、地元駅前ロマンにて若松孝二昭和53年第一作。何気に、小屋で若松孝二のピンクを観るのは初めて。故天珍シネマ(2009~2010)前身の、シネテリエ天神に何か特集を観に行つた記憶は何時かも忘れた昔にウッスラあるけれど。
 真面目にやらうとするとそれなりに手間暇かゝらう、当時隆盛を誇つたロマポのSM路線に対する、要は低予算なりの対抗策であるいはあつたのか。今の傍目からするとどうかしてゐた風にしか思へない、煽情性が無闇にブルータルな方向に振れた風潮に、若松孝二の思想なり姿勢がある意味綺麗に親和。虐げられた女達と出会つた棄てられた男達が、粗暴な権力者に敢然と立ち向かふ展開はひとまづ形になる。さうはいへ頭数はそこそこ潤沢な割に、女優部は正直得点力不足。直截にいつて額面の担保か繋ぎ役が精々で、定石を覆しビリング頭に飛び込んで来る今泉洋を文字通りの筆頭に、物語の主たる動因は男優部が担ふ。ガミさんが若き熱量で直線的なエモーションを撃ち抜き、巧みに深慮を窺はせる今泉洋が丁寧に外堀を埋め、そして未だスピード感も失はない港雄一が、少々粗雑なシークエンスをも、正しく怒涛の突進力で案外無理も感じさせず押し込む。入水したゆきの処遇を巡り、いつそ死なせてやつた方がと限界のヒューマニティーを滲ませる留吉と、あくまで生を尊重する捨造の静かな対峙は、ある意味で単なる図式を超えたハイライト。拳銃を入手する段取り込みで先に始末された結果、飼主の娘に岡惚れする桜井こと龍駿介が、たとへば最期に咲かせる一花が見事に等閑視された点には幾分の後ろ髪も引かれつつ、そもそもさういふ惰弱な嗜好は、若松孝二が志向するところではなかつたのかも知れない。尤も最終的に際立つのは、矢張り如何ともし難い安普請。物置から二三本鼻毛を抜いたが如きあばら家が、ボワンと気持ち気の抜けた発火で力なく小炎上するラストは、浦野明香以外全員、しかも虫ケラ以下ゴミのやうに死んで行く無体な映画を、企図したものでは恐らくないいはば無作為の、突き放された清々しさで呆気なく締め括る。

 一旦脱稿後寝かせてゐるうちに、久保チン発石動三六経由で港雄一の訃報が飛び込んで来た。深町章2004年第二作「痴漢探偵 ワレメのTRICK」(主演:里見瑤子)を少なくともピンクに於ける最後の仕事に、近年は矢張り久保チンから、認知症により再起不能の状態にあると伝へられてゐた。享年八十四、龍駿介の存否は判らない。これからタイムマシンで改めて逐一追ひ駆けでもしない限り、大御大・小林悟の監督本数同様、港雄一出演本数の正確な記録は恐らく何処にも残つてゐまいが、量産型裸映画を粉骨砕身支へ抜いた、莫大な戦歴に敬意を表する。jmdb準拠で唯一の脚本作とされる、小林悟1993年第三作「痴漢電車 拝ませて貰ひます」(主演:西野奈々美?)を、大蔵は追悼新規配信して呉れないものか。他方、新東宝作フィルム上映企画の会場に、たかとりあみは思ひのほか変らぬ若々しい姿を見せてゐる。


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 「団地妻を縛る」(昭和55/製作・配給:新東宝株式会社/監督:渡辺護/脚本:小水一男/撮影:鈴木志郎/照明:近藤兼太郎/撮影助手:遠藤政夫/照明助手:野添義一/助監督:樋口隆志・中田義隆/編集:田中修/効果:秋山実/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/出演:丘なおみ・大杉漣・木村明民・市村譲・日野繭子)。出演者中丘なおみと木村明民が、ポスターには岡尚美と木村明良。ポスターにのみ載る企画の門前忍は、渡辺護の変名。
 八百屋の表を、恐らく喫煙者ではないと思しき丘なおみが、煙突みたいにプッカプカ煙草を吹かしながら軽く覘く。まるでチャリンコ感覚に夥しく泊められた通称べか舟こと、海苔採り用の一人乗り平底舟から、画面奥遠く、電車が通過する鉄橋にパンしてタイトル・イン。ヤッてゐる時以外は概ね肌身離さぬ煙草を手に、小橋に佇む団地妻・沼田峰子(丘)の傍らを、背広姿の大杉漣が通り過ぎる。通り過ぎた大杉漣の後を峰子が尾けて行つたかと思ふと、カット跨いで青姦に突入。工具箱を手に結構距離のある高架下に歩み寄る、映える割に何をしてゐるのかよく判らない不自然ないし不審さも否み難い画を経て、後々実店舗も抜く市舟電器の倅か店員(木村)が二人の逢瀬を目撃する。峰子は隣家の和夫(大杉)と、継続的に関係を持つてゐた。和夫とといふか、和夫とも、峰子はさう囁かれるやうな女だつた。
 配役残り日野繭子は、和夫の妻・由美。既に和夫は峰子に心を移し、二人の関係を未だ知らぬまゝ、電気屋含め放埓にお盛んな峰子に由美が敵意を燃やす御近所付合ひ。そして市村譲が、今の目からするとグルッと一周して清々しい亭主関白ぶりを尊大に披露する、峰子の夫・英太郎。晩酌中もサドマゾのエロ本を読み耽る大層な御仁で、峰子は激しく嫌ふくさやを高圧的に焼かせた上で、くさやで女体を弄る等々、豪快か玄人跣な夫婦生活を日々展開する、しかも部屋に暗室ばりに赤い照明まで焚いて。因みにjmdb準拠では今作辺りが、市村譲が俳優部から演出部に転身するちやうど過渡期に当たる。
 赤い鉄の塊なビジュアルが印象的な、堺川にかゝる今川橋を地理的なアイコンに、翌年から市制の敷かれる浦安を舞台とした渡辺護昭和55年第六作。この年全十五作といふのが、もしも仮に万が一当時的には大して騒ぐほどの数字でもないとしても、矢張り改めて凄い。量産型娯楽映画が現に量産されてゐた時代の麗しさは、幾度蒸し返したとて足るまい。
 由美と和夫が燻らせるかより決定的に拗らせる不仲から、片や沼田家はといふと峰子が英太郎に大絶賛ビッシビシ責められてゐたりする、限りなく笑ひ処に近いザックリした繋ぎ。のこのこ遂に対峙して来た由美を難なく迎撃した峰子が、画面右半分は何某か建設予定の更地といふ、何気に荒涼とした風景の中歩を進めるロング。ロングに、まるで西部劇よろしく風音の音効つきで砂煙を舞はせてみせる、冗談スレッスレの外連。馬鹿馬鹿しさを被弾してなほ撃ち抜く、クロスカウンターの如き鮮烈は強い印象を残す。とは、いへ。峰子と和夫は無軌道に出奔、やぶれかぶれに由美も縛りあげる明後日なアクティビティはさて措き、ポップに憤怒を燃やす英太郎は兎も角、粗雑な諦観で腹を括り、トレンチでキメた由美が団地を捨てるラストは、確かに十五発も乱射してゐたらかうもなるだらう、とも思はせる大雑把な仕上り。渡辺護だ何だと徒に有難がるのはためにならず、クソより酷いパーマ頭と、無闇に下衆い口跡で逆向きに飾られた大杉漣も、特段も何も魅力に乏しい。センシティブな電気屋が出し抜けに開陳する、団地を通した社会全体に対する憎悪も、所詮は木に接いだ竹に止(とど)まる。それでゐて、昭和の、あるいは昭和な画力(ゑぢから)の雰囲気一発勝負でそれなりに見せてもしまふのは、まだもう少し通用した神通力。更にもう少しして下手をすると、80年代のダサさを幾らフィルムの魔性を以てしても誤魔化せなくなる。


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 「痴漢電車 あの娘にタッチ」(昭和63/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/企画:白石俊/撮影:志賀葉一/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:小原忠美・小笠原直樹/計測:宮本良博/撮影助手:中松敏裕/照明助手:王子貞治/美術協力:佐藤敏宏/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:荻野目翔子・橋本杏子・川奈忍・松本ちえみ・小林あい・池島ゆたか・ジミー土田・山本竜二・久保新二・螢雪次朗/友情出演:たかとりあみ・滝川真子)。製作の伊能竜は、向井寛の変名。正確なビリングは、久保チンと螢雪次朗の間に友情出演を挿む。
 映画「東京の休日」(監督:ウヰリー綾羅/主演:鳳直子)上映中の、“名画の殿堂”「駅前キネマ」。実際に駅前キネマといふ小屋が存してゐたのか否かにはニュートラルな名称すぎて辿り着けず、「東京の休日」といつて、皇女でなく帝自身がランダムに出歩く、荒木太郎の封印ピンクが時空を超えた訳ではない。与太を吹かねば死んでしまふ病ならば、息すんのやめれ。マリア(滝川)と久保田(久保)が原付で二尻してみたり、真実の口ならぬ針千本の泉に赴く「東京の休日」の終映後、眠る主演女優の後方に若き渡邊元嗣も見切れる場内。駅前キネマ三代目館主・マキノ松太郎(高田宝重ばりにモジャモジャの螢雪次朗)が寝倒した客を起こさうとすると、響未来(荻野目)は一瓶の眠剤を呑んでゐた。未来が、「蕾の薔薇・・・・」と譫言を漏らすや雰囲気一転、西武新宿線にジャジャジャジャージャジャージャジャンジャンと(仮称)「痴漢電車のテーマ」大起動、タイトル・インするものかと、思ひきや。タイトルは、後述する駅前キネマの新装に合はせ、エンド・クレジット前に回る。盲のヤクザとかいふただでさへ闇雲な造形を、白痴と錯乱を7:3の割合で搔き回す、もといブレンドする十八番のメソッドで、貞夫(山本)が―ナベの―兄弟子・滝田洋二郎と螢雪次朗による名探偵黒田一平よろしく電車痴漢を通して、指に残る名器の感触を頼りに未来を捜す。貞夫いはく“なかなかのもんやけど違ふ”、松太郎とは別居中の妻・淳子(橋本)にヒット。弾みで貞夫のタイピンが順子の手荷物の中に落ちる、逆痴漢のカウンターも火を噴く指戯に暫し耽りつつ、松太郎の友人で淳子とも往診と称して男と女の仲にある、医師の則平(チョビ髭の池島ゆたか)が介入、貞夫はその場を離脱する。
 配役残りジミー土田は、駅前キネマに出入りする新東宝の営業マン・北川。川奈忍は、亭主が来てゐないかと駅前キネマに乗り込む則平の妻・千明。松本ちえみと小林あいは、駅前キネマの常連客にして、双子感覚のシネフィル・松本いちごと小林あけび。そしてたかとりあみが、未来の母・寿美子。
 ハンドレッド戦以来御無沙汰のナベキューを久し振りに見てみるかとした、渡辺元嗣昭和63年第二作。ナベキューといつて渡辺久信では勿論なく、渡邊元嗣旧作の意である。
 “好きな映画を観ながら夢見るやうに死”なうとした女と、プリントの使用量も満足に支払へない名画座の館主がミーツする。ダサさ臭さに一瞥だに呉れずどストレートな映画愛を謳ひあげる反面、再三嘆かれもする斜陽ぶり。淳子が経営するビデオレンタル店の表を通りがかつた松太郎は、折角撮影に貸して貰つてゐるにも関らず、「いい加減な商売しやがつて」と悪し様に毒づく。“蕾の薔薇”なる如何にもロマンティックな謎まで含め、当時、よもや三十年後も現役でピンクを撮つてゐようなどとは思つてゐなかつたにさうゐない渡辺元嗣が、既に一線を退いてゐたたかとりあみと滝川真子をも擁し、並々ならぬならぬ意気込みで今作に挑んだ風情は、ひとまづ透けて見える。さうはいへ貞夫の正体が、トルコ嬢であつた未来の単なるヒモである旨が判明する辺りから、オッ広げられた大風呂敷はみるみる尻窄む。何だかんだであれよあれよと駅前キネマに俳優部が集結しての、上へ下への大騒ぎは如何にもこの頃のナベシネマらしさが微笑ましく、切れたフィルムが洪水の如くのたうつパニック描写は、島鉄雄の暴走する肉塊のイメージに鼻差で先行しつつも、締めの濡れ場を雑なフェードで中断する以上だか以下の最大の疑問手は、北川の提示を脊髄で折り返し、頑なに拒んでゐた松太郎が手の平返すラスト。再度抜いた「東京の休日」ポスターから、カット跨いで駅前キネマの新春番組は今作とナベ二作前「Eカップ本番」(昭和62/主演:田中みか)の豪華二本立て。即ち、大人から子供まで楽しめる娯楽をと、松太郎が先代も持ち出し北川に反駁してゐながら、駅前キネマはケロッと成人映画館に衣替へしたといふ寸法である。北川の手引きにより、劇中「あの娘にタッチ」の主演でデビューしたいちごとあけびが舞台挨拶で気前よく脱ぎ、駅前キネマ上映開始の体で新東宝カンパニー・ロゴとタイトルが入る趣向は素敵に洒落てゐるにせよ、流石に一欠片たりとて方便も設けないまゝ、主人公が右でも左でもどちらでもよいが、一昨日から明後日に転んでゐては凡そ満足に物語が成立し得まい。直截に切り込むと終りの見えたピンク映画に、ナベが賑々しくレクイエムを捧げようとした節は窺へなくもないものの、如何せん諸々伴はない一作である。“蕾の薔薇”の拍子も外れる真相に関しては、連れて来られたたかとりあみの面子に免じ、ここはさて措く。

 一箇所激しく琴線に触れたのが、フィルムの洪水にトチ狂ひ、何かの赤穂浪士もの主人公の口跡を真似自害しようとした貞夫を、未来が平手で張つた上で「何でアンタは何時もさうなのよ!」と一喝。ハハハハ、超絶正しく、何で山竜は何時もかうなんだ。


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 「美乳夜曲 乱れる白肌」(2018/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影 照明:飯岡聖英/録音:梅原淑之/編集:酒井正次/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:岡村浩代・スルグルン/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/選曲:徳永由紀子/MA:ポストモダーン/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/出演:妃月るい・里美まゆ・横山みれい・小滝正大・本多菊次朗・ケイチャン)。
 スナップ写真の貼られた部屋で、主演女優が身支度。口遊み始めた鼻歌はドリフの「誰かさんと誰かさん」、ではなく、スコットランド民謡を基にした唱歌「故郷の空」。スナップの中から小滝正大を抜き、深夜の公園。自作イラストでTシャツをわざわざ作つたのか、泥酔した怪獣絵師・蜂谷真(小滝)が、ブランコで「故郷の空」を鼻歌で口遊む妃月るいを目撃。「平安《ひらやす》京子ちやん・・・・!?」と、一々固有名詞を口に出し絶句する。軽くパンチラ掠めるズームを暫し見せた上で、混乱し卒倒した蜂谷が意識を取り戻すとブランコには朽ち果てた、草で編んだ髪飾りが残されてゐた。画面左半分をデカデカ占拠する、非現実的に大きく鮮明な満月にタイトル・イン。確かに闇雲な月フィーチャーに、窺へなくもなかつた趣向にしても。
 こちらは“筋肉は剣よりも強し”、“僕のアソコはムキムキマン”。冷蔵庫の中のミネラルウオーターにまで“筋肉の水”、手書きの―他愛ない―筋肉ネタが膨大か執拗に貼り巡らされた一室。日課の筋トレに余念のない、蜂谷の大学時代の同級生・燕和男(本多)が、数十年前と変らぬ京子を見たとする蜂谷の電話を一笑に付す。社長の倅である蓬莱渉(ケイチャン/ex.けーすけ)の家に、今と殆ど全く変化のない蜂谷と、バンカラな燕は当時居候してゐた。そんな三人といふか三馬鹿にとつて、矢張り同じ大学に通ふ京子(妃月)はマドンナであつた。ところで、自慢の筋肉を活かしたジゴロ。とかいふぞんざいな造形を振られた本多菊次朗は、「女子トイレ エッチな密室」(2014/監督:中川大資/脚本:小松公典/主演:由愛可奈)以来結構久々のピンク復帰。それも、それとして。中川大資、今何処。
 配役残り、横山みれいはアポなしで燕宅を急襲する、ワン・ノブ・顧客の中田マリ。横山みれいと本多菊次朗による色々重量級の一戦に際しては、フィニッシュは男優部もフレーム外に排し、実用的、あるいは即物的なアプローチに徹する。2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(脚本:山崎浩治/主演:星美りか)・2017年第一作「揉んで揉乳《もにゆ》~む 萌えつ娘魔界へ行く」(脚本:増田貴彦/主演:佐倉絆)と、地味に二番手キャリアを着々と積み重ねる里美まゆは、“秘密クラブの人気ホステス”を嫁にした、蓬莱の妻・高山タツコ。親爺の会社を継いだにしては、別姓なのか?二番手三番手とも誠麗しき絡み要員であるのは、いはずもがなといふ奴か。
 2014年第一作「天女の交はり ぬくもり昇天」(脚本:山崎浩治/主演:樹花凜)セカンド助監督でピンク初参戦し何時しか五年、小関裕次郎の監督デビューが洩れ聞こえて来る一方、前述したメグアノを最後に、長く続いた座付き脚本家のポジションを退いた山崎浩治に続き、何気に永井卓爾も遂に外れた渡邊元嗣2018年唯一作。ナベ自身ピンク前作「神つてる快感 絶頂うねりびらき」(2017/脚本:波路遥/主演:あかね葵)からだと一年、正月薔薇族でも九ヶ月といふ異例の長期空いてゐこそすれ。小川欽也1998年第四作「悩殺占ひ 巨乳摩擦」(脚本:水谷一二三=小川欽也/原作:睦月影郎/主演:風間今日子)チーフ助監督―セカンドはひろぽん―で初土俵を踏んで早二十年!最後の大物助監督たる永井卓爾が、小山悟との共同といふか半分こ監督作「いんらんな女神たち ~目覚め~」(2014/永井吾一名義/主演:友田彩也香)を遺し戦線を離脱したトピックには、更に驚かされた。と何時もの如く、与太を吹きかけて。何か引つかゝりを覚えよくよく調べてみたところ、工藤雅典の電撃大蔵上陸作と、それ以前に清大2018年第二作のチーフについてゐたのを忘れてゐた。改めて、単独デビューを果たして呉れて全然構はないんだぜ。
 映画の中身に、話を戻せ。人生の折り返し地点もとうに通り過ぎた男達の前に、在りし日と同じ姿のまゝ現れた、憧れの君。卒業と同時に帰郷した京子は、実は燕と蓬莱とは一度限りでシテゐながらも、蜂谷含め三人の誰とも、固定した関係は持たなかつた。ツイッター上で激賞する声もちらほら見かけたゆゑ、満を持した渡邊元嗣の渾身に猛然と期待して小屋の敷居を跨いだ、ものではあつたものの。終盤、蓬莱の出し抜けな一言で「かぐや姫」に持ち込むのは、些か無理筋ではあるまいか。帰京する女に男達が銘々贈り物をする、確かに「かぐや姫」といへば「かぐや姫」なのかも知れないが、如何せんニュートラルに過ぎよう、そこだけ抽出するにもほどがある。本来然るべき位置の締めの濡れ場をあへて排したラスト十分も、美しいことは美しいにせよ、捻りのない展開にはストレートの威力と諸刃の剣の、平板さも決して目立たなくはない。逆に、締めの濡れ場を然るべき位置に置けない分、序盤から裸映画を貪欲に攻める姿勢、ないし至誠は、外様が跋扈する昨今にあつてはなほさら、万感胸に迫るものもありつつ、その点もその点で、妃月るいの嬌声が地味にラウドなのが、軽く琴線を逆弾きしもする。十二分に真心の込められた映画ではあれ、天下御免の大エースである以上、ワーキャー騒ぐ出来でもない、としか思へなかつた一作。渡邊元嗣がこの程度ならば、加藤義一が奇跡の確変に突入するか、森山茂雄が轟音鳴らす大復活でも遂げない限り、城定秀夫に対抗する弾がなくなるぞ。こんなもんぢや、ナベはないだらう。


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 「神つてる快感 絶頂うねりびらき」(2017/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宮原かおり・西村翔/照明助手:広瀬寛巳/選曲:徳永由紀子/効果:梅沢身知子/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あかね葵・横山みれい・桜ちなみ・小滝正大・ケイチャン・津田篤)。
 作家志望の東光(津田)が、のちに当人曰くオリンピック(東京/2020年)までの完成を目指す長篇小説『破壊』を書き始めて、“それは”と最初の三文字を打つたところで暫し長考。その内夕方五時の目覚ましが鳴り、東はバーテンダーを務める「ステージ・ドアー」に出勤。客が来る前に店の酒を飲み干す勢ひの、どエロいママ・日暮燿子(トメ予想を覆した横山みれい)の顔見せ噛ませ、大学の同期・白鳥かなえ(桜)がゐる縁で潜り込んだ何処ぞの編集部。尤も世間はさうさう甘くなく、没を被弾した東は、祭囃子流れる中帰途の草叢に原稿の束を放り捨てる。ところが放り捨てると祭囃子が止み、風に吹かれ足元に舞つた幟で、東が劇中用語では社―寧ろ祠に近い―の、人に忘れられ汚れた小さな女神(をんながみ)像を拭き清めると、再び祭囃子回復。家に帰ればデータがあんだろといふツッコミはさて措き、気を取り直した東が一旦捨てた原稿を回収、女神像にタイトル・イン。女の裸も見せない割に、アバンが随分と潤沢に時間を使ふ。
 内縁の夫が服役中の燿子に捕食された東の、ステドからの帰路。林中の神社に通りがかつたタイミングで、胸元に花もあしらつたワンピース・ドレスのあかね葵が、一目散に東めがけて走つて来るや抱きつきチュー、しかも一回リフレインして都合二度。但しそこはフィニッシュもう一回の、画竜点睛を欠いてもゐまいか。兎も角、あるいは兎に角。追はれてゐるだ匿つてだと称する星茜(あかね)は、そのまゝ東が暮らすカマスタに転がり込む。ドロップアウト・ミーツ・ガール、その一点突破でときめけたなら、どんなに幸福であつたらう。
 配役残り、編集部内に見切れる広瀬寛巳に続いて小滝正大が、かなえに対する下心を隠さうともしない編集長・加賀美克巳。そしてハット×着流し×グラサンがサマになるケイチャンが、近所八股の結婚詐欺で臭い飯を食つてゐた燿子内縁の夫・夜見野将人。ところで広瀬寛巳はかれこれ三十年、助手なり内トラのポジションで第一線に止(とど)まつてゐる。何だかんだで、この人が死ぬまでピンクは生き続ける。逆からいふと、広瀬寛巳とピンク映画の命運は連動してゐるのではないかとすら思へて来た。
 小滝正大に施された何時も通りのアイコニックな悪魔メイクに、例によつての神と悪魔のかと思ひきや、神々のナベシネマであつた渡邊元嗣2017年第二作。で、当サイトにとつては小屋だけで達成した無冠の帝王・新田栄、DMMの下駄も大分履き新作を狙ひ撃つた浜野佐知に次ぐ、三人目となる感想百本のハンドレッド戦。今回は必ずしも狙ひ撃つた訳ではなく、DMMに眠る未見作の数にハンドレッドに届くと気づき、狙ふといふよりは合はせた格好。同じ条件が池島ゆたかでも成立し、深町章も今からDMMを掘り進んで辿り着くのは十二分に可能だが、目下意識的に目指してゐるのは、今後の新作だけで残り十一本詰めなければならない関根和美。バラ売りを買ふから、DMMに旧作をメキメキ新着させて呉れると非常に有り難いが、さういふ酔狂ないし素頓狂な需要の有無に関しては知らん。
 他愛のない閑話休題、映画の中身に話を戻すと。どうやら凡そ二十年続いた―あるいは育て育てられた―座付脚本家・山崎浩治との、旦々舎やセメントマッチをも超える安定を感じさせたコンビは残念ながら解消したのか、脚本は前二作の増田貴彦挿んで、2015年第二作「女忍者 潮吹き忍法帖」(主演:つぼみ)以来の波路遥。尤も、この期に及んで平柳益実の世紀を跨いだ帰還とも考へ難い以前に、出来からして甚だ怪しいゆゑ21st Century 波路遥は渡邊元嗣自身の変名なのではあるまいか?と直截に勘繰りつつ、端的に片付けると、これ、ナベシネマ厳しかねえか?
 満足に機能したのは、眼力が些か怖い横山みれいのアシストも借り、ex.けーすけのケイチャンが正体不明の突破に近い説得力で通す八百万の超風呂敷程度。それを通してのけただけで、流石ではあるのだけれど。アイコだロンリー・ガイだ結界オーライだと枝葉の小ネタをこどごとくスッ外した上、人の心に届く言葉を軸に据ゑた主眼は、ピンク初陣の主演女優のみならず、いい加減齢のとり方も覚えて貰はないと苦しい津田篤も如何せん硬く、終始一貫して心許ないといふかぎこちない。それともしかして、ツダアツは満足に走れない?挙句の果てに、裸映画としても弱いのが詰み処。序盤で横山みれいが飛び込んでは来るものの、脱ぎ込みであかね葵の濡れ場初戦が尺の折返し前後、KAGAMIの覚醒を待たざるを得ない構成もあれ、桜ちなみは大概残りも押し迫つた五十分付近とかいふペース配分は大いに考へもの。さして展開を繋ぐでなく、三番手を放り込んでゐる場合なのか。あかね葵は終盤時間差の二連戦で猛スパートを仕掛けるとはいへ、そこでもパチンコの大当たり画面感覚の、木に竹を接いだ大技が“うねりびらく”疑問手。バカをやりさへすれば、ナベシネマを観てゐる人間は脊髄で折り返して喜ぶとでもいつたつもりならば、山内大輔に於けるスラッシュ同様、それは観客を馬鹿にするにもほどがある。要は、前半の女の裸に頼らない―ほぼ―純正アイドル映画パートでノレるか否かが雌雄を別つにせよ、だとすると、茜がスローモーションで駆けて来るファースト・ショット。まさか実際に裸足で木々の間を走らせたのか足元が気になつて気になつて仕方ないらしく、あかね葵が始終下を向いてしまつてゐるのが地味でない致命傷。折角の、カメラを通して客席を撃ち抜く一撃必殺絶好の好機であつたのに。半公式ながら引退した新田栄、第158回芥川賞候補作『雪子さんの足音』(木村紅美)の映画化を発表したばかりの浜野佐知とは異なり、渡邊元嗣は今後も大蔵本隊のエース格としてキャリアを積み重ねて行く、筈。年末封切りの正月薔薇族を現時点での最後に、第一作の話が未だ聞こえて来ない2018年。我々は遂に、長く続いたナベ・ゴールデン・エイジ第二章(2006~)の終焉を目撃する羽目となるのか、俄かに藪から棒な風雲急を告げて来た。


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 「色情狂日記 超いんらん」(1990/製作:《株》メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/撮影:清水正二/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/監督助手:梶野考/撮影助手:坂江正明/照明助手:田端一/美術協力:西岡正樹/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:修善寺温泉対山荘/出演:山本竜二・ジミー土田・伊藤清美・南野千夏・岸加奈子)。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 雲に隠れる満月に怪しげな劇伴が鳴り、障子越し鏡台に向かふ女の影。床の間の樽がグラグラしだすと女も俄かに苦悶、顔だけを闇に沈めるカメラワークの中、男が欲しいと絶叫するに及んで、漸く女が南野千夏―jmdbは南町千夏に誤記―であるのが判明、再び狂乱するシルエットにタイトル・イン。明けた先は東京の下町、民家屋根上の物干し場。私立探偵の車一平(山本)がカメラの望遠レンズを覗き、助手の松本三太(ジミー)は集音マイクは見当たらないゆゑ、恐らく盗聴器を用ゐて家内の模様を録音中。結婚を間近に控へた奈緒(岸)が、婚約者ではない男・ジュンちやん(特定不能)を連れ込む現場を押さへる。続いてハンフリー・ボガートのポスターが飾られた、「車たんてい事務所」。一平と三太が奈緒の痴態を捉へたスチールを、如何にも山竜×ジミ土らしい狂騒さで取り合つてゐると、当の奈緒が乗り込んで来る。一平の調査で玉の輿が破談となつた奈緒の―嘘―泣き落としで、一仕事タダで請け負ふ羽目に。とかいふ次第で一行は、旅館に嫁いだ奈緒の友達が、旦那の死後万古神社の祟りでおかしくなつたとかいふ修善寺温泉「対山荘」に。三人を迎へた女将の春美(南野)に三太が一目惚れする一方、一平と奈緒は何時の間にか距離を近づけてゐたりなんかする内に、その夜も樽に連動して春美起動、たまたま部屋の外を通りがかつた三太が捕食される。
 配役残り伊藤清美は、矢鱈と敵視する対山荘に、出入りするマッサージ師・恵子。V.S.恵子戦に際して、一平が気取るのはジェームズ・ボンド。尺八のサンダーボール作戦にボンドは二度イき、愛を込めてヤッて呉れと小ネタを繰り出し続け、ハモニカをオクトパシーのやうに吸ひ込んだ果てに、射精時のシャウトがデルデルセブン!下らなさを極めた感が、グルッと一周して清々しい。その他万古神社神主も特定不能、見れば判らなくもない梶野考は確認能はず。
 第三回ピンク大賞では作品部門ベストテン第四位を受賞した、渡辺元嗣1990年第五作。何はともあれ、キャイキャイした造形の岸加奈子が超絶。この人には物憂げな役よりも、明るい役の方が絶対似合つてゐるにさうゐないと確信するに足る、キシカナが可愛くて可愛くて映画の中身なんて最早どうでもいい。逆からいふと、要はその程度の出来。山竜とジミ土がワーキャー牽引する様は確かに楽しいものの、単なる全く以て水準的な何時も通りのナベシネマ。一撃必殺のエモーションを特に撃ち抜くでなく、締めの濡れ場がキシカナと山竜の一段限りで、ジミ土と南野千夏をスルーして済ますのも弱い。肯定的に復興する以前とはいへ、四天王の括りが既に存在してゐた時代にベストテン第四位に飛び込んだ点は天晴と行きたいところだが、正直な話殊更面白い訳でも何でもない。更によくよく検討してみると、観るなり見ただけで同年ベストテンは一位が「ぐしよ濡れ全身愛撫 BODY TOUCH」(監督:佐藤俊喜=サトウトシキ/脚本:小林宏一/主演:杉本笑)で、同率五位が「制服本番 おしへて!」(監督:常本琢招/脚本:石川欣・常本琢招/主演:山下麻衣)に、同票七位が「陵辱!白衣を剥ぐ」(脚本・監督:片岡修二/主演:橋本杏子)。直截に片付けると、てんでピンと来ないランキングではある。全般的な低調期にあつたのか、これなら今の方が全然レベルが高い。夕日を背負つた富士の妙に堂々としたラスト・カットが、結果論的な釈然としなさを別の意味で完成させる。


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 「巨乳発情ナース」(2000/製作・配給:大蔵映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影:飯岡聖英/照明:守利賢一/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:森角威之・下垣外純/撮影助手:黒田大介・比護富昭/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:神崎優・林由美香・西藤尚・佐々木共輔・ささきまこと・螢雪次朗)。
 ファースト・カットは馬鹿デカいビニール製のリボン、そんな代物何処で売つてゐるんだ。手毬で遊ぶ闇雲に幼児設定の神崎優に、要は志村けんの変なおじさんのエピゴーネンの佐々木共輔(a.k.a.佐々木恭輔)が、「オジサンが毬遊びよりも面白いことを教へてあげようか」。全く以て正体不明のシークエンスながら、神崎優のオッパイを弄びながらの「大きな毬が二つもほらほら」には、紛れもない天才の煌きも感じざるを得ない。何時しか佐々共の体が無闇な本数のコードで何某か計測器ぽいものに繋がれた上で、大絶賛騎乗位に突入。警報が鳴るどころかモックモック白煙まであがる中、カウントダウン・ゼロと同時に二人が絶頂に達するや、ボガーンとドリフ爆破、はせずにタイトル・イン。この時期の、貧相極まりないタイトル画面も、ぼちぼちグルッと一周したノスタルジアを獲得するのかしないのか。知らんがな(´・ω・`)
 閑話休題、二人が致してゐたのは「川崎快感クリニック」、看護婦の花園つぼみ(神崎)が、計測したデータを川崎(佐々木)に手渡す。曰く“人間の性行為に於ける固有の快感を絶対的に数値化することに成功”した川崎が、医学的実験と称して“快感指数”とやらを測定してゐたとかいふ寸法。如何にもピンク映画らしい、かつ見事に底の抜けた大風呂敷ではあるものの、終に濡れ場―の方便―を超えて機能する訳でもない。さうかうしてゐるところに現れた海野珊瑚(林)を、川崎とつぼみはすは重症だベッドの用意だと二人かがりでザクザク手篭め、もといあくまで治療、断じて治療。ところが珊瑚は患者ではなく、不能を拗らせ引きこもる、内縁の夫の相談に訪れたものだつた。
 俳優部残り、90年代後半以降、比較的チョイチョイ薔薇族含むピンクに出てゐた螢雪次朗が、問題の珊瑚内縁の夫・鳳学。往診したつぼみとの一戦を完遂した直後、「貴方があの青空組の組長!?」、一言の台詞で急旋回する展開が堪らない。組長の一人娘とデキたチンピラの学は、二代目を襲名する大出世。ところが兄貴分の妬みを買つた学は身を引く形で出奔、その後娘が継いだ青空組は解散寸前の状態に陥り、責任を学に押しつけた幹部連は暗殺命令を発する。逃亡生活の最中、学は深夜の公園にて暴力ヒモから逃げ出して来た珊瑚とミーツ。似た者同士が忽ち結ばれ、慎ましくも幸せに暮らしてゐたある日。見るから怪し気に尾行するささきまことの姿を目撃した学は、以来津田スタに籠つてゐた。多分佐藤吏でなければ、森角威之とも体格が異なるグラサンの黒服を従へ川崎快感クリニックに日参する西藤尚は、川崎目当ての蜘蛛の巣マダム・青空翔子。
 余程林由美香と螢雪次朗のパートが琴線に触れたのか絆されたのか、m@stervision大哥が妙に褒めておいでの渡邊元嗣2000年第一作。尤も、流石にそこの一点突破で是とするには、如何せん厳しい一作。出し抜けなつぼみのガンスリンガー造形に劣るとも勝らない、ささきまことのおとなしく珊瑚のDVヒモにしておけばいいのにな藪蛇配役にも阻まれ、ガチャガチャな始終はガッチャガチャなりに勢ひ―だけは―よく駆け抜けて行く反面、珊瑚と学のエモーションは最終的な結実には些か遠い。間に川崎を挟んだつぼみと翔子が織り成すトライアングルも、絡みの動因として以上に熟成されることもない。文字通り「ドヒャー☆」と振り逃げるラストは如何にもナベシネマ、この上なくナベシネマ、正真正銘生粋のナベシネマ、とはいへ。既に一般のフィールドで名を上げた螢雪次朗さんが、斯様に纏まりのないドタバタによくぞ快く、そこまで卑屈になる必要もなからう。寧ろ最たる見所は平素のキレを欠いたアイドル芝居でなく、m@ster大哥仰せの通りソリッドな毒婦役で予想外の輝きを放つ西藤尚なのではないかといふのと、もう一点。今をときめかない荒木太郎作でも見覚えのある、頓珍漢な筆致の経絡図の初出は全体何処なのか。更にもしかして、あれは林由美香画?

 ところで、螢雪次朗の現時点でのピンク最終戦は、矢張りナベシネマの2004年第一作「コスプレ新妻 後ろから求めて」(脚本:山崎浩治/主演:桜井あみ)。いや別に、今から大帰還を遂げて貰つて全然構はないんだぜ、つり合ひのとれる女優部は存在しないかも知れないけれど。


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 「若妻後ろから開く」(1989/製作:株式会社メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:カサイ雅弘/監督助手:松本憲人/撮影助手:田中一浪/照明助手:小田求/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:大沢裕子・伊藤清美・川奈忍・芳田正浩・山の手ぐり子・山本竜二)。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 俯瞰気味のロングで住宅街を抜いた画に、VHS題は大沢裕子を冠するタイトル開巻。玩具デザイナーの神崎聖吉(芳田)と花子(大沢)の若夫婦が、花子の母が生前暮らしてゐた長屋に越して来る。引越しも一段落、その他二人の業者作業員含め四人前注文したにしては、聖吉の蕎麦がない。すると、もといするてえと長屋の隣人・草加千平(山本)が、勝手に上がり込んで聖吉の分の蕎麦を食べてゐた。下町風情とやらでワイワイ一笑に付す千平と花子に対し、山手育ちの聖吉は憤慨気味に辟易する。その夜、下町の人間関係を図々しいと気さく、一方山手はといふと礼儀正しいとよそよそしいと、好対照に対立する夫婦喧嘩を軽く噛ませて、兎も角新作の作業に取りかゝるかとしたタイミングで、隣から洩れ聞こえて来るどころでない嬌声に聖吉は頭を抱へる。
 出演者残り川奈忍が、そんな千平の同居人。山竜と川奈忍の濡れ場がアラビア~ンな劇伴で火蓋を切り、二人して洋ピン的なメソッドを多用するのはこれまた藪蛇な演出だなあ、と生温かい心持ちで見てゐると、後述する伊藤清美の顔見せ等諸々挿んでの結構後々発覚するのが、川奈忍は独立したての小国・ヤカマシカから日本にやつて来た、ヤーデ・カセギーノとかいふ吃驚配役。とはいへ川奈忍のビジュアルを一欠片たりとて弄るでなく、映画の嘘を真面目につかうとする素振りさへ窺はせない。伊藤清美は、聖吉が勤務する「ドリームメーカーおもちや設計会社」―何かザックリした社名だ―の同僚・花園美沙、バツイチ。花子との衝突を拗らせ、遂に家を出た聖吉を自宅に招く際の口説き文句が、「冷静になるまで、ウチに泊まつてもいいのよ」、どうスッ転んでもなれねえよ。前述した引越作業員に加へ、千平のMCによるヤーデのセーラー服ショーの観客要員に、草加宅を飛び出したヤーデの、一発一万をまるで取り合はない男達、十人弱その他見切れる。ん、まだもう一人ゐる?暫し待たれよ。
 コッテコテした下町人情譚かに思はせて、思ひのほか豪快に舵を切る渡辺元嗣1989年第五作。話は変るがデビュー順に今上御大・小川欽也、浜野佐知に大きく間を空けてナベと、同年時間差の関根和美。以上四監督が、昭和・平成と来年人為的に幕を開けるその次。ピンク映画を三つ元号を跨いで撮るといふ何気に馬鹿にならない偉業を、案外何時も通りに成し遂げる、予定である。流石に、新田栄なり深町章らが大復活する芽はもうあるまい。
 閑話休題、川奈忍の吃驚配役が明らかとなる川原に於けるピクニック―あるいは酒盛り―の件で起爆装置が地表に露出する、大団円に何だかんだを通して辿り着く。ものかと、思ひきや。ところで今作のスピードポスターに勇ましく躍る惹句が、“男一人に女が三人!君ならどうやつてヤル!!”。男一人対女三人の絡みが盛り込まれる場合、劇中どう見ても男一人といふのは千平、聖吉はさういふ柄ではない。かといつて、ヤーデと美沙は兎も角花子が千平と寝てしまつては、壊れかけた神崎夫婦の仲が完全に修復不能にもなりかねない。全体どうする気なのかと、思つてゐたところ。身を引いたヤーデの肩を聖吉が持ち、一方美沙側には花子がつき膠着する神崎家に漸く現れた千平は、顔を煤つぽく黒く汚した第四の女たる、ルンペン女を拾つて来てゐた、これが地味に伊藤清美に感じが似てゐなくもない山の手ぐり子(a.k.a.五代暁子)。この年五代暁子は響子名義で脚本家デビュー、当時はカサイ組の座付的ポジションにあつた。正直この辺りは満足な記録も残つてないゆゑ、最終的には片端から観るなり見た上でないと正確なことはいへないにせよ、この映画が、俳優部時の山の手ぐり子(現:山ノ手)初陣となるのかも知れない。挿入する段を端折るのが激しく頂けない、仲直りした神崎家夫婦生活は完遂直前で、ルンペン女は眠る傍らのヤーデ×千平×美沙の巴戦に移行。目を覚ました山の手ぐり子は、ブラこそ外さないものの、諸肌までは脱ぎ三人の営みに参戦する。のが、パブにも謳はれた“男一人に女が三人!”の真相。四人での生活は長屋では手狭につき、山手の花園宅に千平以下三名が大八車でヨイショヨイショと移り住むラストは、一見何となくまとまつてゐなくもないとはいへ、一体誰が主人公なのかといつた疑問は拭ひ難い。主演―の筈の―女優も差し措いて、山竜が美味しいところを全部カッ浚つてゐる。企画が紆余曲折なり右往左往したのでなければ、そもそも物語の軸を何処にとかいふ以前に、置いてゐたのか否かから怪しい。表面的には賑々しい反面、冷静に検討してみると大いに覚束ない一作である。

 ヤカマシカから渡日し、豊かな大国への憧憬をストレートに表すヤーデに対し、千平は「日本だつて本当は貧しい国だぜ」と苦々し気に投げる。山竜が出し抜けに放つたニヒルが、よもや三十年後には斯くも身に沁みる破目にならうとは。平成元年は兎も角、四ヶ月は大胆に等閑視するとして平成末年、確かに日本は本当は貧しい国になつた。


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 「実写快感ONANIE 未亡人編」(1993『実写本番ONANIE 未亡人篇』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/企画・製作:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:国分章弘/監督助手:本多英生/撮影助手:村川聡/照明助手:広瀬寛己/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:伊藤清美・冴木直・杉原みさお・荒木太郎・川崎浩幸・山本竜二)。出演者中川崎浩幸が、VHSジャケには川崎浩之。照明助手の寛巳でなく広瀬寛己は、クレジットまゝ。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 身悶える伊藤清美の爪先、早速自慰に狂つてゐるものかと思ひきや、ベッドの中には川崎浩幸も。間男の銀二(川崎)を自宅の津田スタに連れ込んだ磯野慶子(伊藤)が、旦那の帰宅を理由に追ひ返す一方、慶子の義理の娘であるフグ田洋子(冴木)も洋子で、矢張り間男・敬一(荒木)の車の中にて別れは惜しむが周囲は憚らないベロチュー。この二人、洋子の父親が十年前に再婚した後妻が慶子といふ関係で、同居してゐる。銀二と時間差で入れ違ふ格好で帰宅した洋子と、慶子が互ひの浮気をダシに啀み合つてゐると、ポリスからの電話が。二人で海釣りに車で出かけた慶子の夫にして洋子の父・波夫(遺影はナベ)と洋子の夫・マス平(遺影は中田新太郎)が、車が海に転落し二人とも死亡したといふのだ。祭壇の前でも相変らず啀み合ふ慶子と洋子が、一周忌までの男断ち、その間はオナニーで我慢する旨を誓つたところでタイトル・イン。
 配役残り、さうはいへ耐へ難き肉の飢ゑに屈し、双方銀二と敬一の誘ひに応じた慶子と洋子が外出しかけた絶妙なタイミングで、「ハロー☆」×「ナイス・トゥ・ミーチュー☆」と飛び込んで来る山竜と杉原みさおは、当人曰く“ミーのママのカズンがマリッジした家のパパが波夫さんのアンクル”とやらの、波夫の訃報を聞きつけ駆けつけた松夫と、法律婚してゐるのか否かは不明ゆゑ、松夫のワイフでなければ少なくともハニー・千鶴子。
 「Viva Pinks!」殲滅戦第四戦にして初めて深町章から離れ、弟子の渡辺元嗣1993年第一作。何某かトラブルでも抱へてゐたのか、驚く勿れこの年全二作、現在よりも少ない。“未亡人篇”といつて、今回は珍しく無印第一作が存在する、鈴木敬晴1991年第三作「実写本番ONANIE」(主演:五島めぐ)。何れにせよ実写で本番のONANIEとなると、ちぐはぐがジェット・ストリーム・アタックで突つ込んで来るが如く公開題ではある。
 アバンでとりあへずの夫婦生活、したかと思へば筆の根ならぬカット尻も乾かぬ内に、タイトル明けるや事故死した夫の遺影の前で喪装のヒロインが悲嘆に暮れてゐたりなんかする。未亡人ピンクが往々にして採用するある意味鮮やかさに比べ、配偶者二人をまとめて鬼籍に放り込む今作の大技には、驚くと同時に感心した。そこから看板を偽らないONANIE映画が暫し続き、はてさてそれはそれとして、三番手と山竜の処遇に危惧も覚えかけた尺の折返し間際、<故人の遠い親戚を装ひ忌中の家に潜り込むコソ泥>だなどと、旦那二人同時死亡を超える松夫の荒業造形には、重ねて驚かされた。驚かされたが、ここは掛け値なしの松夫と千鶴子の蜜月ぶりと、松夫の口車に乗せられた慶子と洋子が、死んだ人間に操を立てる禁欲よりも、今も生きる自分達の幸福―より直截には快楽―を選ぶに至る即物的な大団円は、無茶を無茶で裏返して上手いこと風呂敷を畳み込む、グルッと一周して何気に魔術のやうな作劇が素晴らしい。いはずもがなを改めて整理すると、荒業で戦線に投入した三番手―と山竜―が、展開の動因を担ふ構成はピンク映画固有の論理上地味にでなく秀逸。冴木直の、肢体は超絶美麗かつ肉感的に捉へる割に、首から上を異様に不細工に撮るカメラには疑問を大きく残しつつ、全般的にフラットすぎる演出が案外よく出来た脚本をさうとは勿体ぶらせない、燻し銀の一作である。

 要は開巻を引つ繰り返したラストの“そして一年後”、それぞれの新規間男は演出部かとも思はれるが、特定不能。“人生はワンツーファック”、“汗かき腰振り励まうよ”と、臆面もなければ清々しいまでに下らない「三百六十五歩のマーチ」の替歌を、伊藤清美と冴木直が歌つて踊つてひとまづ賑々しく締め括る。今となつては、そんな力の脱ける真似が許された時代の麗しさが、寧ろかけがへのないものとさへ時に思へなくもない。


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 「揉んで揉乳《もにゆ》~む 萌えつ娘魔界へ行く」(2017/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:増田貴彦/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:西村翔・岡村浩代/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/効果:梅沢身知子/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/出演:佐倉絆・里美まゆ・桜ちなみ・ケイチャン・小滝正大・津田篤)。クレジットにもポスターにもないものの、中野貴雄が小道具協力してゐる筈。
 ファンタジー系のエロ漫画でレディースコミック作家を目指す女子大生の和智みくる(佐倉)が、“ぴいういず”とプリントされた謎のジャージの上に、どてらを羽織つてマンガの制作中。顔自体小さいのもあらうが、馬鹿みたいにデカいいはゆるアラレちやんメガネも装着し見るから地味な造形ながら、後にその件を揶揄されると、「ジャージは私の戦闘服よ」といつてのける姿勢は清々しい。俺も二十代までは、ジージャンがダメ人間の戦闘服だと思つてた。作業の手を止めたみくるは、自らの原点たる原典ともいふべき、祖母の代より伝はる飛び出す絵本「まほふ王子の花よめ」を取り出す。王子と花よめの小指が赤い糸で結ばれた絵が飛び出したタイミングで、目覚まし時計が。「行かなくちや」と、慌ててみくるが出撃してタイトル・イン。みくるが向かつた先は、丑三つ時、には見えない薄明るさのカラスノ公園。その時間大きな木の鳥の巣箱に白い花を入れると、魔法講座の通信教育を受けられるとかいふ都市伝説がネット上に流れ、現にみくるは添削を受講中であつた。その日も百点をゲットしたみくるの前に、白馬は潔くオミットしたタキシードに仮面の津田篤が現れる、コスプレか。魔法界「マジカルワールド」の王位継承者を名乗るディラン(津田)は、みくるに「魔法使ひにならないか?」と最短距離の内側を抉る素頓狂さで持ちかける。マジカルワールドから人間界を観察、みくるの左尻にある星型の黒子に注目してゐたディランと、みくるがいい雰囲気になりかけたところに、ディランに要はヤリ逃げされた魔女・アザリア(里美)が来襲。魔法でディランを先つぽに張形のついたバトンに変へ、持ち去つてしまふ。夢オチ風に目覚めたみくるの前に、今度は魔法学校の教師・キャサリン(桜)が現れる。ディランの筆も卸したキャサリンは、チンコに星型の黒子のあるディランに、“星型の黒子を持つ者同士は最高に具合がいい”との伝承を吹き込む。一見節操のないディランの女漁りは、運命の人捜しでもあつた。ディランを元に戻すにしても、キャサリンは魔力が衰へる齢につき、みくるがアザリアと対決する格好となる。ところで中野貴雄が協力してゐる筈の小道具といふのは、ディランが星黒子の伝承を知る、キャサリンに見せられた多分魔法大辞典的なハードカバーが、ピンサロ病院シリーズ第三弾「ピンサロ病院3 ノーパン診察室」(2000/脚本:中野貴雄/主演:黒田詩織)で登場したマグレアのベアトリス写本、物持ちいいな。
 キャサリン曰く魔力を得るには男の性的エネルギーを取り込む必要があるとの如何にも、狂ほしく如何にもピンク映画的な方便で、みくるに三つの課題を課す。配役残りケイチャンは、みくるが一つめの課題で飛ばされた山中の修験場にて修行中の、真言ならぬチン言宗(大絶賛仮称)僧侶・珍念、性的エネルギーを抑へ込んでゐる人。小滝正大はみくるが続いて自宅に飛ばされる、今世紀このかたインポの引きこもり・新保俊春、こつちは性的エネルギーを溜め込んでゐる人。
 確かにGARAKU(exウィズ)の名前が何処にも見当たらない、渡邊元嗣2017年第一作。もしかしたら、ぴいういずジャージは昔何かで観てたかな?凡そ二十年続いた山崎浩治とのコンビは残念ながら解消したのか、脚本は前作に引き続き、「未来H日記 いつぱいしようよ」(2001/監督の田尻裕司と共同脚本/主演:川瀬陽太・高梨ゆきえ)以来の超復帰を果たした増田貴彦。尤も更に次作の脚本はといふと、平柳益実の変名ともこの期には何となく思ひ難い、波路遥であつたりもする。
 混同するほどではないにせよ、髪型も体型も似通つた二三番手のキャラが被る点にはバラエティ面での不足も軽く覚えつつ、デジタルの果実もふんだんに享受した愉快な濡れ場の乱打は楽しく見させる。殊に、全盛期、もとい暗黒面に頭頂部まで沈んでゐた時期の清原和博ばりの顔面圧力で、チープか陳腐なギャグも底の抜けたシークエンスをも、異様な説得力で圧着せしめるケイチャン(ex.けーすけ)の働きは出色。古くはジミー土田なり十日市秀悦といつた、三枚目の不器用な純情を感動的に放ち得るタレントの不在は地味でなく厳しいとしても、飛び道具としては捨て難い。一欠片の中身もない展開から、今時二人の小指を結ぶ運命の赤い糸だなどと、苔生したモチーフを臆することなく撃ち込んで来ての、無理から捻じ込むナベモーションにはそれでもグッと来る。さうはいへ、ナベシネマは一見何時も通りのナベシネマなのだが、軽いといふか薄いといふか、些か雑な印象はなくもない。エクストリームに撮りあげた締めの絡みを経ての、チョロいオチに突つ込みを入れて終る軽妙なラストには、師匠である深町章のテイストも透けて見える。ここいらの円熟の境地でファンタ要素を一切排した、コッテコテの艶笑譚も見てみたい気持ちも過りかけたが、ところがさうなると流石に、今時の七十分は幾分長過ぎる。


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 「マリは天使の匂ひ」(昭和60『ロリータ喪失』のVHS題/製作:日本シネマ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:片岡修二/監督助手:高嶋靜子/撮影助手:片山浩/照明助手:田端功/制作進行:池田文彰/美粧:鷹嶋青子/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/主題歌“君と天使の風になる”作詩:川上謙一郎・作曲:鈴木智子・編曲:中谷靖・唄:鈴木智子/出演:松田ジュン・彰住響子・藤冴子・杉本未央・ジミー土田・池島ゆたか・金太&ヒロコ・螢雪次郎)。製作の伊能竜は向井寛の変名、監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 悪魔のイラストを、真ん中に配せばいいのに右上にチョコンと置いて、馬鹿にシャレオツなVHS題開巻。明けて手前の蝋燭越しに後背位、舞台は安普請な地獄。コードネームの―あるとするならば―含意に辿り着けない下級悪魔・サタンSGW2249(螢)と、魔女(藤)の一戦。線が細い上に今でいふゴスなメイクを施した螢雪次郎が、結構佐賀照彦に見える。大絶賛事の最中にも関らず、サタンに直属デビルの下に出頭するやう獄内放送。左右に地獄の番人(金太&ヒロコ)を侍らせた、池島ゆたかがサタン上司のデビル。といつてモップみたいな赤毛の鬘に、顔はホルスタイン柄の池島ゆたかが、声を発するまでその人とは判らない。地獄の番人に関しては恐らく画面左で尺八を吹いてゐるのがヒロコで、右からデビルとチューしてゐるのが金太か、パッと見二人ともオカマぽい。劇中台詞ママで“馬小屋で生まれたあの捻くれ者”の没後、かれこれ二千年。今回デビルがサタンに下した任務は、西暦二千年に新たなる救世主を産むやう天国が遣はせた新聖母候補を、堕落させての処女懐胎阻止。これまた画期的に気の利いた極大風呂敷を広げてみせたものだと感心しかけつつ、要は、時期的にドンピシャな「ターミネーター」の影響が色濃く窺へると解するのが正解なのか。デビルに指示された、三十分後に発車する地上行の普通列車・地獄69号、ではなく。その次の特急に乗れば間に合ふといふ口車に乗せられ、サタンは魔女と未遂の事を再開。改めてサタンが達すると、テレテレテレテレーンとトロい主題歌起動、高校三年生の杉本真理(松田)が着替へて外出、ショーウィンドウ越しに見初めた、サンタか何かのてるてる坊主みたいなマスコット?を買ふ。
 配役残り純然たる四番手濡れ場要員の杉本未央は、真理の姉・良江。嵐の夜、出没したサタンに籠絡される。目新しい機軸として悪魔は処女の血に弱い設定で、そのためサタンのミッションは、周囲をまづ攻略し真理を非処女にする作戦。二枚目ツッパリ造形が清々しく似合はないジミー土田は、真理にガッつく同級生・横島。彰住響子は、真理と同じマンションに越して来た、FM銀座のアナウンサー志望の女子大生・馬場明子。オーラスに飛び込んで来る、シン・マリ役の子役と、背中しか見せない母親は不明。
 単独第三作となる、渡辺元嗣昭和60年第一作。非常に壮大かつ魅力的な物語ながら、真理がてるてる坊主を買つたところから、サタンが嵐の杉本家に現れる件の繋ぎは甚だ手際が悪く、展開は序盤から順調に迷走する。サタンが明子なり横島から攻めるのは既定路線とはいへ、電話ボックスの中、悪魔と天使が当人を挟んでポップにせめぎ合ふ一幕は笑かせるものの、ジミ土が不器用な純情のエモーションを撃ち抜き、もせず。根本的に理解に難いのが、主演女優が男優部と本格的に絡むシークエンスに何故か頑なほど尺を割かないまゝに、サタンの姦計がサックサク実るよもやの悪魔勝利エンドには、度肝の以前に拍子を抜かれた。ところがその時、横島と邪に街に消える真理が見たのは。開巻の地獄パートで案外周到に撒いた伏線が見事に着弾する、まさかの大どんでん返しには正方向に驚かされた。いや別に、サタンそこから再始動すればいいぢやん、といふツッコミもしくは疑問は強ひて呑み込むとして。サタンに「それぢや、俺はまるでキューピッドぢやないか!」なる名台詞まで吐かせておいて、何となく国沢実の名前も浮かぶ、三転目が蛇の足気味な最終的なキレの悪さもさて措くとして。必ずしもどころでなく十全ではない演出を、秀逸な脚本が見事に救済した一作。雑な希望を述べると、今からでも遅くないから、といふか今こそなナベの盤石な円熟でセルフリメイクすることは出来ないのかな。らしからぬ与太を吹くやうだが、プラス戦線の決戦兵器を十二分に狙へる弾たり得るのではと、思つてみたりもした。

 最後に特筆すべきは、悪魔が神とか天使とかあるいは聖母(予)とか、兎に角悪魔がホーリーな存在に手を出すナベシネマとなると、2000年第六作にしてピンサロ病院シリーズ第三弾「ピンサロ病院3 ノーパン診察室」(脚本:中野貴雄/主演:黒田詩織)に、デジタル初陣の2015年第一作「いたづら天使 乱れ姿七変化」(脚本:山崎浩治/主演:桜木凛)。何気に十五年周期を採つてゐる―多分ほかには見当たらない、筈―点については、何某か大いなる意思の存在でも感じ取ればよいのであらうか。


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 「少女バンパイア あなただけ今晩は」(昭和61『ロリータ本番ONANIE』のVHS題/製作:日本シネマ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:末田健/撮影助手:片山浩/照明助手:森岡薫藻/協力:ホテル駒込アルパ/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/出演:大滝かつ美・彰桂響子・清川鮎・ジミー土田・ルパン鈴木・寺西徹・螢雪次朗)。製作の伊能竜は向井寛の変名、監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。それとjmdbによると、原題は「ひそやかに秋は沈黙する」、秋感特にないけどな。
 画面の中央が黄ばんでゐるのは何か意味があるのか、セピア調の、後述するがここが甚だ判り辛い、回想ではなくあくまで過去開巻。高校卒業間近、チャイムの音を名残惜しむ香島未来(大滝)の左右には、同級生の子守松雄(ジミー土田の二役)と異常愛作(螢)。仲の良さを冷かす声に、振り返つた三人のスナップにタイトル・イン。ところで、文字通り極まりなく異常なるストレンジな苗字の読みはコトヅネ、力技にもほどがある。のと、香島と子守の漢字は大絶賛推定といふ名の適当。
 タイトル明けて現代、といつてもう三十年以上も前なのだが。兎も角、食紅商事熱海支社から本社帰還を果たした小森松太郎(ジミー)が、喜び勇んで出勤。したはいいものの、始業時間より三時間も早く到着してしまつた松太郎が、如何にもジミ土ぽいメソッドで遊んでゐると、大谷あけみ(彰桂)を伴ひ課長の田中(ルパン)が出社。したかと思ひきや、二人はオフィスでオッ始める。それを見ながらマスをかく松太郎が果てたタイミングで、安普請のアイドル衣装みたいな素頓狂なワンピースの大滝かつ美が現れて、消える。謎の少女を見たと訴へる松太郎に対し、同期の横川(オッソロシク若い寺西徹)はまるで取り合はない一方、あけみにスッぽかされた田中が再び出現した大滝かつ美を抱いてみたところ、「これは違ふ」とルパンに匙を投げるや、モックモク気前よくあがる白煙とともに少女はまたしても消失。田中課長はカチンコチンに凍りつき、あまつさへ自慢の一物が捥げてしまふ怪事件が発生する。
 配役残り個人的にこの人のタッパが堪らない清川鮎は、松太郎が親父の幼馴染といふ縁で田中のチンコ接合手術を依頼する異常医院―ドームが特徴的な突飛な建物は、これが駒込アルパ?―の、チィース造形が意味不明な看護婦・七本樫。七本樫て何だそれ、何某か元ネタがあるのか?
 デビュー三年目となる、渡辺元嗣昭和61年第二作。ナベが相当入れ揚げたらしい大滝かつ美がクールを通り越したコールドビューティーに扮する、恋人探しの最終的には切なくも美しい物語。といふセンを、狙つたのだらうといふ節までは、酌めるのだけれど。渡邊元嗣世評では全盛期の一作かつ、如何にもナベシネマ的にファンタな物語ではあれ、直截に片付けると完成度は別に高くない。大滝かつ美が愚息の琴線に触れない点に関しては、偶さか極まりない要因につきさて措く。松太郎が謎の少女の正体を求め奔走する展開が、彰桂響子のわざわざバイブを持ち出しての第三戦まで設けてゐる内に、前半まるで進みやしないもどかしいペース配分に、まづ躓く。逆に異常が再登場を果たすと一息に真相が開陳されるインスタントぶりもインスタントぶりとして、そもそも、松太郎が松雄の息子で、ついでに松雄は既に故人である旨を観客なり視聴者に示す、情報が一欠片たりとて提示されてゐない。のが、最大の問題、ではないんだな、これが。一旦情報の非提示に話を戻すと、そのため、松太郎がどうして同級生である筈の大滝かつ美の顔が判らないのかが、普通に見てゐてサッパリ呑み込めなかつた。何より、改めて最大の問題、乃至は疑問手は、クライマックスの未来と松太郎の濡れ場を、異常に「美しい・・・・」と嘆息させるくらゐ大完遂してゐるにも関らず、その後に七本樫クンが改めてウィッスと飛び込んで来るのが、ピンク映画的にはなほさら蛇足中の蛇足といふほかない、グルッと一周して吃驚した。そんな中明後日だか一昨日な見所は、田中に続いて、横川がチンコカチンコチン事件―バカか、俺は―第二の被害者に。その際、後年とは本当に別人のやうにオチャラケて若い寺西徹が、御丁寧にカットも切り替へて「アチィーッ」を連呼する、いはば怪鳥音が可笑しくて可笑しくて仕方がなかつた。


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 「エロスの住人 ハメ快楽」(2001/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:小川隆史/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:石井拓也/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:黒田詩織・しのざきさとみ・間宮結・石川雄也・熊谷孝文・十日市秀悦)。
 速水万依作『愛の嵐』のワープロ原稿越しに、少女小説家志望の速水万依(黒田)当人と、『月刊少女小説』誌編集者・高坂(石川)の一戦で開巻。二人は平常の彼女彼氏ではなく、高坂と寝たら、万依をデビューさせてやる云々の関係。事後、約束を華麗に翻し『愛の嵐』に没を出した高坂は、『月刊少女小説』誌の販売不振による『桃色少女小説』への誌面刷新と、桃少巻頭小説を官能小説界の大御所・桑畑六剣郎ならぬ六十九郎(十日市)に依頼しようとしてゐる旨を告白。要は高坂の腹としては人身御供がてら桑畑六十九郎への弟子入りを勧められた万依は、コロッと快諾。「アタシ、官能小説家を目指すは☆」、と黒田詩織がレッツらゴーしてタイトル・イン、腰よりも軽いフットワークが清々しい。
 これといふほどの物語もないゆゑ配役残り、南酒々井の津田スタもとい桑畑六十九郎の自宅兼仕事場を訪ねた高坂と万依を出迎へる、一見書生とお手伝ひの熊谷孝文としのざきさとみは、家賃まで取られて桑畑家に逗留する、エロ書房編集者の岩下周平と、『レディースぬれぬれ』誌編集者・門倉希世子。その頃な桑畑先生の執筆部屋では白衣で尺八を吹いてゐた間宮結も、『週刊びんびんマガジン』誌の編集者・岸川沙月。オーラス万依が再開する形の編集者下宿で、シェーと仰け反る三馬鹿は、佐藤吏も含まれてはをらす不明、小川隆史がこの中にゐるのかな?
 主演女優といふよりも、不器用ながら三枚目のエモーションを撃ち抜く、ことも時にある十日市秀悦を目当てに選んでみた渡邊元嗣2001年第三作。実は桑畑六十九郎の処女作『お花畑で愛を追ひかけて』は、タイトルを偽らぬゴリッゴリのお花畑メルヘン。華々しく文壇に登場した桑畑であつたが、文学賞も受賞直前、恋愛感情を持つてゐたアシスタントに売名目的で巻き起こされたセクハラ騒動を被弾。その後失意の果てと生活のために、桑畑は官能小説に転向する。それなりの展開を辿るかに思はせた、にも関らず。公開当時m@stervision大哥に撮影部の不手際を中心に酷評され、それも全くその通りなのだが、それ以前に、単純に面白くないのには百歩譲るにせよ、そもそも物語の出来が頗る芳しくない。自身の立ち位置と重ならなくもない桑畑の過去に触れ、既定路線の筈の高坂とも寝たやうに桑原先生と男女の仲になることに関して、万依が俄かにジレンマに苛まされるかのやうに、一旦は見せかけて。カット跨ぐと大失恋後絶頂感を失つた万依と、桑原の俺が教へてやる的な濡れ場にサクッと突入してのけてゐるのには逆に吃驚した。ヒロインが思ひ惑ふ筈の葛藤をコマ単位で粉砕した日には、ドラマらしいドラマの成立しやうもない。万事目出度しの大団円といへば聞こえもいいものの、直截には御都合の嵐が吹き荒れるラストの落とし処も粗雑な印象が強い。桑畑が執筆に窮するや、寄宿する編集者が絡み込みでといふか絡みそのものの寸劇を披露する。となると迸る既視感、大門徹第三作「本番熟女 淫ら舞ひ」(1996/脚本:木村正/主演:さの朝香)と全く似たやうな話ながら、底の抜けた世界観を抜いたまゝ爽快に振り抜いた大門徹に対し、中途なお涙要素を盛り込みかけただけに、逆の意味で見事に仕損じたナベとのその限りに於いての優劣が、改めて際立つ一作ではある。

 ナベシネマ恒例楽屋オチ風のエンドロールにて、黒田詩織が手に持つカチンコには、“お世話になりました!”のメッセージが。黒田詩織は今作で一旦引退後、忘れた頃の2006年、黒田瑚蘭名義で電撃復帰。その後も国際魅力学会とかいふ、如何にも胡散臭げな団体で―少なくとも―つい最近まで活動してゐた痕跡が、You Tubeの中にゴロゴロ転がつてゐる。


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