弁理士の日々

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相対的貧困率とは

2021-10-09 10:32:45 | 歴史・社会
岸田新政権で、「成長と分配」がキャッチフレーズとなり、その中でも「分配」が大きく取り上げられています。「格差是正」は以前から言われていましたが、「分配」がこれだけ声高に主張されてはいなかったように思います。

国民の経済格差を表す指標である「相対的貧困率」を政府が初めて公表したのは2009年(民主党政権の長妻厚労大臣時代)でした。2007年調査(2006年対象)は15・7%で、算出を行った1998年以降で最悪となりました。経済協力開発機構(OECD)が昨年に公表した加盟30カ国の比較では、日本は4番目に悪かったのです。
このときは、1997~2006年のデータがアップされており、それよりも前の時期との比較はできませんでした。
今回、「相対的貧困率」で検索してみると、現在の厚労省発表では、1985年からのデータが見られるのですね。
貧困統計ホームページ
子どもの7人に1人が貧困状態 18年調査で高い水準に 2020年7月17日 朝日新聞デジタル

2009年に1997~2006年の相対的貧困率データが公表されたとき、私は、それ以前からの推移を知りたいと考え、いろいろ調査してみました。その結果のブログ記事を、ここに再掲することとします。

相対的貧困率データが意味するものは 2009-11-08
--以下、再掲---------------
貧困率、19年は15.7% 世界ワースト4位
『10月21日7時56分配信 産経新聞
 厚生労働省は20日、国民の経済格差を表す指標である「相対的貧困率」を初めて発表した。平成19年は15・7%で、7人に1人が貧困状態という結果。算出を行った10年以降で最悪となった。経済協力開発機構(OECD)が昨年に公表した加盟30カ国の比較では、日本は4番目に悪かったが、国はこれまで数値を出しておらず、労働者団体から「現状把握のために調査をすべきだ」との声が上がっていた。
 政権交代で就任した長妻昭厚労相が今月上旬に算出を指示、この日の会見で「来年度から支給する『子ども手当』などの政策を実行に移し、数値を改善していきたい」と説明した。
 相対的貧困率は、一家の収入から税金やローンなどを除いた自由に使える「可処分所得」を1人当たりに換算し、高い人から順に並べた場合の中央値の半分に満たない人の割合を出したもの。子供の相対的貧困率は、全体の中央値の半分に満たない子供の割合を示している。今回の調査は、3年に1度実施している国民生活基礎調査の結果の数値を使い、10年にさかのぼって3年ごとの値を算出。OECDが採用している計算方法を用いた。 最悪の水準となった19年は、年間所得の中央値が228万円で、相対的貧困率の対象となるのは所得が114万円未満の人。この比率が15・7%を占めた。
 OECDが公表した2000年代半ばの各国の相対的貧困率の比較によれば、日本はメキシコ(18・4%)、トルコ(17・5%)、米国(17・1%)に次いで4番目に高かった。』

10月下旬に上記報道がありましたが、その後、相対的貧困率という数値が今の日本の何を示しているのか、どうすべきなのか、といった議論が深まる気配はありません。

できる範囲内で調べてみました。
厚労省の発表については「相対的貧困率の公表について」にデータ(pdf)として上がっています。
調査対象年として、1997、2000、2003、2006年のデータがアップされています。このグラフを見る限り、「1997年から10年間、相対的貧困率は漸増している」と言えますが、「急激に貧困率が増大した」とは言えないでしょう。
1997年というと、拓銀や山一証券が破綻した年ですが、「貧困が急激に増大した」という認識は特に記憶していません。
2000年は森政権、2003年は小泉政権中期ですが、小泉政権になって貧困は若干改善したと見るのでしょうか。2006年に貧困率は一番悪い数字ですが、急速に悪くなったわけではありません。

マスコミでは、2006年のワンポイントの数値のみを話題にしていますが、1997年、さらにそれ以前からの推移についても解析してほしいものです。

次に、OECD加盟30ヶ国の中で日本は4番目に悪いということです。
対外比較では日本は所得が比較的均質な国であると、今までは理解していました。その理解が間違っていたのでしょうか。なぜ日本は貧困率が高いのでしょうか。以前(1997年以前)から、日本は貧困率が高かったのでしょうか。

ネットで調べてみましたが、なかなか統一的な解析を発見することができません。

勝間和代さんの発言を見つけました。勝間和代のクロストークにおいて以下のように主張されています。
「日本の貧困率が高い理由は、所得の再配分機能が他のOECD諸国に比べて弱いためです。市場所得ベースで比べると、相対的貧困率は他のOECD諸国と大きく変わりません。しかし、失業給付や生活保護など貧困層に対する政府からの社会保障が少ないため、税金・手当配分後の可処分所得ベースでは、差が開いてしまうのです。
 また、もう一つの要因として、パート賃金がフルタイムに比べて安いことが挙げられます。ひとり親家庭が貧困になりやすいのは、パート賃金労働者が多いためです。
 相対的貧困率が日本で拡大してきた背景としては高齢化も指摘されています。年功序列賃金が主流の日本では高齢者が高賃金になりやすい一方、若年層は失業率が高く、職があっても賃金が安いため、高齢者が増えるほど格差が数値上広がっていくのです。」

連合は、2005年9月にすでにこの問題を取り上げていました。日本の所得格差指数、貧困率は何故高いのかにおいて、以下のように論じています。
「日本の可処分所得ジニ係数、貧困率が高いのは何故であろうか。この「レポート」の分析から、以下二つの要因が指摘できる。その一つは、政府の社会保障給付(児童手当・失業給付・生活保護など現金給付のみを分析)および税による所得格差の縮小策が、日本は他のOECD諸国に比べ極めて貧弱なことである。税・社会保障給付を含めない市場所得のみによる貧困率と、税・社会保障給付を含めた可処分所得の貧困率の2つを比較した分析(原図14)を行なっているが、それによれば、市場所得の貧困率では日本は、フランス,ドイツ、ベルギー、デンマーク、イギリス、アメリカなど主要な欧米諸国よりは低い。しかし可処分所得における貧困率では、日本は米国を除いた他の諸国の貧困率を大きく上回る結果となる。つまり、ヨーロッパ諸国は、税および社会保障給付によって低所得者の可処分所得を引き上げ、貧困率を引き下げている。一方、日本はその再分配政策が極めて弱く、その結果として可処分所得の貧困率は高くなっているのである。
 二つめの要因は、日本における広汎な低賃金(パート賃金)の存在がある。子どもがいる片親世帯の貧困率は、日本よりも米国、英国、カナダ、オーストラリアまた地中海諸国が高いが、働いている片親世帯の貧困率は、日本がトルコとともに60%以上で群を抜いて高い(米国でも約40%)。また、生産人口における貧困層においても日本は2人働き世帯所属の貧困者がその4割弱、1人働き世帯所属の者が3割強を占め、無業者は1割強である。一方他の先進国の貧困層では、2人働き、1人働き世帯所属の貧困者の比率は大幅に小さく、無業層が中心となっている(原図12)。さらに高齢者の貧困層においても、日本の場合には約半数が働いており、他の先進諸国には見られない特異な特色を見せている。すなわち、日本ではパートなど低賃金労働が広汎に存在し、この勤労層が低所得層を形成し貧困比率の高さを生み出している。」

勝間さんの主張はこの連合の主張と一致しています。

本川裕さんとおっしゃる方のサイト社会実情データ図録の中に、相対的貧困率の国際比較が含まれています。2007年11月21日収録です。
「年齢別賃金格差と相対的貧困率との相関図を参考に掲げたが、対象国数は少ないものの年齢格差が大きい国ほど相対的貧困率も高いという結果になっている。このように日本は年齢格差が大きいから相対的貧困率も高く出るという側面があり、このことを無視して貧困度を論ずることは妥当ではなかろう。」

「日本は所得の再配分機能が弱い」という指摘ですが、所得税については十分に累進課税になっています。これ以上はないくらいです。「金持ちからたくさん税を取る」点は十分なされているものの、「貧困層にそのお金を還元する」点が不十分だということでしょうか。具体的に、OECD諸国の中で貧困率が低い国と対比し、日本がどの程度「貧困層への還元」で落差があるのか、数字で知りたいところです。

一方で、例えばVoice11月号で富山和彦氏(経営共創基盤)は「日本はいまだ、社会福祉や社会保障にしても理念的に大いなる勘違いをしています。弱者救済の論理で社会保障システムを作っている国は、OECD加盟国にはあまりありません」と発言されており、上記認識とは正反対です。

「正社員とパート・派遣とでは、同じ仕事をしても時給に大きな差がある」という点については賛成です。このような実態についてはできるだけ早急に問題を解決するよう、民主党連立政権には大いに望むところです。

日本の厚労省が相対的貧困率のデータを公表したのは今回が初めてですが、OECDは従来からデータを公表しているわけです。この公表データを用いて、日本の実態を解明する努力をぜひ専門家にはお願いします。
長妻厚労大臣も、単にデータを公表するのみではなく、深く解析して日本が進むべき道を指し示してください。
--再掲、終わり---------------

2009年当時、勝間さんは上記のように、
「日本の貧困率が高い理由は、所得の再配分機能が他のOECD諸国に比べて弱いためです。市場所得ベースで比べると、相対的貧困率は他のOECD諸国と大きく変わりません。しかし、失業給付や生活保護など貧困層に対する政府からの社会保障が少ないため、税金・手当配分後の可処分所得ベースでは、差が開いてしまうのです。
 また、もう一つの要因として、パート賃金がフルタイムに比べて安いことが挙げられます。ひとり親家庭が貧困になりやすいのは、パート賃金労働者が多いためです。」
とされていました。これが現在でも正しい解析なのかどうか、岸田政権の厚労省ではぜひこのあたりの解析をしっかり行ってもらいたいです。

次の記事で、上記ブログ記事に対して皆さんからいただいたコメントをアップします。
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