弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

NHKスペシャル「日米安保50年」

2010-12-12 18:09:06 | 歴史・社会
12月11日のNHKスペシャルシリーズ 日米安保50年 第4回 日本の未来をどう守るのかを途中から観ました。

NHKが行った世論調査を踏まえながら、以下の人たちで討論が行われました。
○福山哲郎 内閣官房副長官
○寺島実郎 日本総合研究所理事長 
○田中均  日本総研国際戦略研究所理事長
○添谷芳秀 慶應義塾大学東アジア研究所所長
○豊下楢彦 関西学院大学法学部教授
○キャスター・国谷裕子

この議論を聞いたこととも関連して感じたことを何点か。

キャスターの国谷さんが「自主外交」「対米従属からの脱却」という観点で話題を提供したことに対し、さまざまな議論がありました。

私は今、永井陽之助著「平和の代償 (中公叢書)」を読み返しています。こちらこちらに書いたように、私は図書館で「平和の代償」を借りて読んだのですが、一読で内容を理解するには至らず、5500円で古書を入手したのです。
この本を読むと、印象に残る箇所が随所に見つかります。

『(戦後の日本人にとって)「防衛」とは、自国のためであり、また、そうでなければならないということが、疑わざる当然の前提のようになっている。その前提そのものが少しも疑われていない。戦後われわれ日本人が、いかに国際的責任感と、平和への連帯意識を喪失し、一種の孤立主義に陥っているかの証拠である。国連中心の日本が、海外派兵の義務を拒否して、権利のみ主張する態度にもそれがあらわれているが、防衛とは自国のためだけでは決してないのだ。隣人のためなのである。アメリカのためであり、ソ連、中国のためであり、南北朝鮮、台湾、あるいは東南アジア諸国民のためでもある。(p65)』

『「全能の幻想」とは、自国だけの「一方的行為」で、国際問題や紛争が、すべて片づくと考える妄想である。国際政治はつねに、対他的行動であって、相手方の出方に依存していること、を無視することである。(p73)』
(原著の傍点部を太字にしました)

鳩山前首相が普天間問題について「国外、少なくとも県外」と連呼したことについては、鳩山氏が「全能の幻想」に陥っていたと考えると説明がつきます。
つい先ごろの尖閣問題についていえば、民主党政権が「国内法に基づいて粛々と対応」と述べていた頃はまさに「全能の幻想」に陥っていたようです。それが、レアメタル禁輸と邦人4人逮捕のニュースに接したとたんにもろくも崩れました。

これからの日本の安全保障についても、「日本は米国の言いなりではないか」との主張は、裏を返せば「主権国家として自主的に安全保障政策を立案すべきだ」ということになりますが、関係諸国が日本の提案を受け入れてくれない限りなんの役にも立たない、ということにまず気付くべきでしょう。

番組では、「今後の日本の安全保障はどのように進めるべきか」という世論調査の結果を示していました。①「日米同盟を基軸に」は19%しか得られず、正確な表現は覚えていないのですが②「アジアの諸国と相互安全保障」といった選択肢に半分ぐらいの得票がありました。設問の構造からいって、②は①を前提にしていないことになります。
しかし、番組出席者が述べていましたが、日本が安全保障問題でアジア諸国から尊敬され、重きを置かれるとしたら、それは日本が日米同盟を堅持しているからに他なりません。日米同盟を軽視する現在の民主党政権に対して、東アジアの諸国は唖然としているでしょうし、“そんな政策で東アジアの安全を毀損してほしくない”というのが本心でしょう。
今回の世論調査結果を見る限りでは、日本国民の「全能の幻想」はまだ強固に実在しているようです。

ところで、すでに放映されたシリーズ日米安保50年第2回は、副題が「沖縄 “平和”の代償」でした。私は見なかったのですが、放映後に気づきました。「平和の代償」といえば、安全保障の世界では、永井陽之助氏の著書名であることは周知の筈です。番組製作者はどのような意図でこの副題を決めたのでしょうか。もし「永井陽之助氏の著書名は知らなかった」というのであれば“もぐり”といわざるを得ません。
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特許制度小委員会報告書の結論を抽出

2010-12-10 21:03:32 | 知的財産権
産業構造審議会知的財産政策部会第33回特許制度小委員会の「配付資料」の案内と、
同委員会報告書「特許制度に関する法制的な課題について」(案)に対する意見募集が、ともに12月3日にはアップされていたのですね。
報告書「特許制度に関する法制的な課題について」(案)(pdf)を読むことができます。100ページの大部です。

取り敢えずは、その中から結論部分を抽出してみました。以下に列記します。

《Ⅰ.活用の促進》
《Ⅰ-(1)登録対抗制度の見直し》
対応の方向
通常実施権を適切に保護し、企業の事業活動の安定性、継続性を確保するため、登録を必要とせず、自ら通常実施権の存在を立証すれば第三者に対抗できる、「当然対抗制度」を導入すべきである。

《Ⅰ-(2)独占的ライセンス制度の在り方》
.対応の方向
独占的ライセンス制度の在り方については、改めて検討を行うことが適当である。

《Ⅰ-(3)特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁
特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁については、改めて検討を行うことが適当である。

《Ⅱ.紛争の効率的・適正な解決》
《Ⅱ-(1)特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方》
対応の方向
「ダブルトラック」について指摘される問題を解消するためには、「Ⅱ-(2)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い」で扱われる課題を解決するため、無効審判等の審決確定の遡及効又は遡及効に係る主張を制限して再審による紛争の蒸し返しを防止すること、無効審判の更なる審理の迅速化等進行調整の運用の改善を図ることが必要である。
その上で、侵害訴訟ルートと無効審判ルートのそれぞれの制度の特徴、技術専門性を活かし紛争処理において無効審判が有効に活用されている現状、無効審判と特許権侵害訴訟の関係に関するキルビー判決や特許法第104条の3の制定等に至るこれまでの検討経緯を踏まえ、現行どおり両ルートの利用を許容することとすべきである。

《Ⅱ-(2)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い》
4.対応の方向
(1)再審を制限することの適切性について
① 再審を制限することの必要性について
再審の制限について制度的な手当てをすべきである。
(2)再審を制限する方法
再審を制限する方法としては、)先に確定している特許権侵害訴訟判決との関係で、確定審決の遡及効又は遡及効に係る主張(以下「遡及効等」という。)を制限する方法による方が適切である。
(3)再審を制限する範囲(遡及効等が制限される審決の範囲)
遡及効等が制限される審決の範囲については、)無効審判又は訂正審判を請求した時期にかかわらず、特許権侵害訴訟の判決確定後に確定した特許無効審判及び訂正審判の審決確定の遡及効等を制限することが適切である。
5.具体的な制度設計に係る論点
(1)差止めを命じる判決について
特許権侵害訴訟の差止請求認容判決が確定した後に、)無効審決が確定した場合や、)訂正認容審決が確定し、かつ訂正後の特許の技術的範囲に被告製品が含まれない場合について、差止めは解除されるべき(差止判決に基づく強制執行を認めるべきではない)である。

《Ⅱ-(3)無効審判ルートにおける訂正の在り方》
3.対応の方向
(1)「審決予告」の導入と出訴後の訂正審判請求の禁止
現行制度について指摘されている点を踏まえ、審理の遅延や無駄を解消するために、審判合議体による特許の有効性の判断を踏まえて訂正ができるという現行制度の審決取消訴訟提起後の訂正審判における利点を確保した上で、この訴訟提起後の訂正審判請求については禁止して、キャッチボール現象が発生しない制度を導入すべきである。
具体的には、審判請求から口頭審理までは現行制度と同様に審理を進め、「審決をするのに熟した」と判断されるときに、審判合議体は判断を当事者に開示する手続(例えば、名称を「審決予告」とする。以下本報告書ではこの名称を用いる。)を行う。「審決予告」は現行制度の審決と同内容47として、特許権者が「審決予告」中に示された審判合議体の判断を踏まえて訂正請求をすることができるようにする。

《Ⅱ-(4)無効審判の確定審決の第三者効の在り方》
1.現行制度の概要
無効審判の確定審決55の登録後は、何人も同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判を請求することはできないとされている(特許法第167条)。
2.問題の所在
(1)第三者の手続保障の問題
特許が有効である旨の審決が既に確定したことのみを理由に、当該審判に関与していなかった第三者に対しても同一の事実及び同一の証拠に基づいて、その特許の有効性について審判で争う権利が制限されること(このような制限がされることを、「無効審判の確定審決の第三者効」という)、ひいてはその審判の審決の当否を裁判で争う権利が制限されることは、不合理である。
4.対応の方向
指摘される諸問題に鑑みれば、特許法第167条において規定される無効審判の確定審決の効力のうち、第三者効については、廃止すべきである。

《Ⅱ-(5)同一人による複数の無効審判請求の禁止》
4.対応の方向
無効審判制度は主に紛争解決を目的として利用されている一方、公益的機能も有すると考えられるところ、それぞれの視点から総合的には同一人による複数の無効審判請求を制限し、一回的な解決を目指すという方向性を導きにくいと整理されるものと考えられる。また、最近の無効審判に係る制度改正が審理促進を念頭に行われてきているという経緯や、制度利用者の実務上の意見等も勘案すれば、現時点の結論としては、現行制度を維持すべきである。
一方で同一人による複数の無効審判請求の制限について検討すべきとの指摘がある。また、制限の方法について、無効審判請求を1回のみ請求可能とすることのほか、2回目以降に何らかの形で制限をする中間的な制度も検討の余地があるとの指摘がある。これらを踏まえ、無効審判制度の基本的な趣旨・目的等も含めた在り方について、今後、引き続き検討すべきである。

《Ⅱ-(6)審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方》
3.対応の方向
(1)請求項ごとの取扱い
無効審判を請求項ごとに請求できるとする無効審判制度の基本構造は維持しつつ、明細書等の一覧性の確保といったわかりやすい公示に一定の配慮をしたうえで、特許無効審判における訂正の許否判断及び審決の確定を、請求項ごとに行うことを前提とする制度整備のための改正を行うべきである。また、訂正に係る制度の一貫性を図るため、訂正審判についても請求項ごとの扱いを行うよう制度改正を行うべきである。

Ⅲ.権利者の適切な保護》
Ⅲ-(1)差止請求権の在り方》
4.対応の方向
本小委員会においては、特許法において差止請求権を制限する規定の要否を検討していくに当たって、いわゆる「パテントトロール」や国内外の技術標準をめぐる権利行使の実態、諸外国における議論、国際交渉や我が国における判例などの動向を踏まえつつ、差止請求権の在り方について多面的な検討を行うことが適当であるとの指摘がなされた。
この点を踏まえ、多面的な検討を加速化しつつ行った上で、引き続き、我が国にとってどのような差止請求権の在り方が望ましいか、検討することが適当である。

《Ⅲ-(2)冒認出願に関する救済措置の整備》
4.対応の方向
近年冒認等が発生しやすい状況となってきているにもかかわらず、真の権利者の救済が十分とはいえず、また、諸外国の制度との調和の観点や、産業界等からのニーズも踏まえれば、真の権利者が出願したか否かにかかわらず、特許権設定登録後に、特許権の移転請求を認める制度を導入すべきである。

《Ⅲ-(3)職務発明訴訟における証拠収集・秘密保護手続の整備》
3.対応の方向
以上のような指摘があることを踏まえ、職務発明訴訟における証拠収集・秘密保持のための制度設計の在り方については、検討を継続することが適当である。

《Ⅳ.ユーザーの利便性向上》
《Ⅳ-(1)特許法条約(PLT)との整合に向けた救済手続の導入》
、)我が国の外国語書面出願1における翻訳文の提出期間、、)外国語特許出願3の翻訳文の提出期間、、)特許料等の納付期間については、PLTに準拠した救済手続を導入することとし、その主観的要件と時期的要件については、以下の方向で対応するべきである。
なお、PLTへの加盟を含めた他の手続の導入については、新システムが安定的に稼働した後に、改めて検討を行うべきである。
(1)救済を認める要件(主観的要件)について
欧州等が採用するDue Care(相当な注意)の救済例を参考に、PLT上のDue Care(相当な注意)に相当する主観的要件を導入するべきである。
(2)救済規定により手続が可能な期間(時期的要件)についてPLTは権利の回復の申請を行うにつき「理由がなくなった日から2月以内(期間経過から1年以内)」という期間を最低限のラインとして規定している。諸外国においても、同様の水準の救済手続が設けられており、国際調和の観点からして、我が国もこの時期的要件に従うべきである。

《Ⅳ-(2)大学・研究者等にも容易な出願手続の在り方》
(3)具体的な対応
大学・研究者等も含めた特許制度利用者が、広く強い権利を取得するためには、適切な特許請求の範囲や実施例の記載が必要であり、現状においては、こうした認識を大学・研究者等に広めていくことが必要である。
ただし、論文をベースに一刻を争って出願しなければならない場合には、現行制度においても、
・ 明細書については、出願日の確保に必要な最低限の様式を整える
・ 特許請求の範囲については、研究者が把握している発明のポイントを最低限記載することによって、容易に方式上の不備のない出願を行うことも可能である。
しかし、この出願手法により論文の記載をベースとして出願した場合には、権利範囲が狭すぎる特許権となってしまう等のリスクが発生し得ることから、そのリスクについて十分な注意喚起も同時に行うべきである。

《Ⅳ-(3)グレースピリオドの在り方》
4.対応の方向
(1)改正点について
現行の新規性喪失の例外規定は、限定列挙された公表態様によって公知となった発明だけを適用対象とするものであるため、法の趣旨に照らせば本来適用対象とすべきものを網羅できていないといった問題や、同様の二つの発明公表行為について、一方は適用対象となり、他方は適用対象とならないといった不均衡が顕在化してきている。
よって、本来適用対象とされるべき公表態様によって公知となった発明を網羅的にカバーするため、特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に公表したことによって特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明17については、その公表態様を問わずに本規定の適用対象となるよう、新規性喪失の例外規定の適用対象を拡大すべきである。
なお、猶予期間については、少なくとも日米欧の三極で統一されることが好ましい等の意見があることから、現状どおり(6月)とすべきか、米国と同様に12月に拡大すべきかの判断は国際的議論のすう勢を見極めつつ行うべきである。現在、国際的な制度調和の議論が継続中であることから、現時点で現行の猶予期間を変更することは時期尚早である。
《Ⅳ-(4)特許料金の見直し》
1.特許料金の見直し
(3)対応の方向
特許特別会計の収支状況は、今般、特許料金の引下げが可能な見込みである。
① 審査請求料の引下げ
審査請求料に重点を置いて行う必要がある。審査請求料は基本料金(168,600円)と請求項毎の料金(4,000円)から構成されるが、審査請求料の引下げは基本料金について行うべきである。
② 国際出願の調査手数料等の引下げ

2.中小企業等減免制度の拡充

それぞれの内容の検討についてはまた改めます。
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「あかつき」の金星周回軌道投入失敗

2010-12-08 20:32:56 | サイエンス・パソコン
金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入失敗は残念でした。しかし、宇宙開発で初めての試みに失敗はつきものです。何回も繰り返して成功に至る、それがアメリカや旧ソ連のたどってきた道でした。

あかつき 日本の惑星探査に暗雲 軌道投入に失敗
毎日新聞 12月8日(水)11時54分配信
『探査機「あかつき」の金星周回軌道への投入は失敗に終わった。98年打ち上げの火星探査機「のぞみ」の失敗に続く再挑戦も実らなかったことで、今後、日本の惑星探査計画に暗雲が垂れこめる事態は避けられない。
 ・・・・・
政府の事業仕分けなどで宇宙事業はやり玉に挙がっている。あかつきは開発と打ち上げで約250億円を投入しており、「成果がない」との批判が出ることは必至だ。JAXAの管理体制など独立行政法人の見直し論に発展する可能性もある。中国など新興国の追い上げは著しく、「宇宙先進国」の座からの転落を招くおそれもありそうだ。』

たった250億円の予算で1回こっきりのトライをしてうまくいかなかったとき、結局日本ではこういうことになるのですね。
ソビエトは金星に61年から83年までベネラ・シリーズの16機を送り(そのほかに失敗して番号のついていないものなどが8機ある)、ベネラ3号ではじめてカプセルを金星表面に命中させることに成功し、7号ではじめて金星軟着陸に成功、9号ではじめて金星周回軌道に入りました。
アメリカの火星探査では、69年にマリナー6号と7号を相次いで打ち上げています。また、木星探査にはパイオニア10号と11号のペアを打ち上げ、木星と土星探査にはボイジャー1号と2号を相次いで打ち上げました。ボイジャー2号はさらに天王星と海王星も探査しました。
このようにアメリカや旧ソ連は、次から次へと打ち上げを繰り返し、あるいは同時に2機を打ち上げることによって成果を確実に出してきているのです。
(以上、野本陽代著「太陽系大紀行 (岩波新書)」から)

日本もたった1機の当面の失敗にめげず、何が本当に必要なのかを冷静に議論した上で次の方針を決めて欲しいです。

「はやぶさ」も、もしもはやぶさがカプセル回収に成功していなかったらで書いたように、もしサンプルリターンに失敗していたら同じようにひどい評価を受けたのでしょうね。たまたま成功したらものすごい賞賛の嵐になり、「はやぶさ2」の予算までついてしまいましたが。
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フェルディナント氏が製鉄所見学

2010-12-07 21:02:56 | Weblog
フェルディナントヤマグチ氏は、日経ビジネスONLINEにフェルディナント・ヤマグチ 走りながら考えるという自動車批評を連載しています。数回シリーズで特定の車種を取り上げ、まずはフェルディナント氏が試乗し、次いで国産車であれば開發責任者にインタビューしてとっておきの話を引き出す、という筋立てです。私はいつも楽しみにしています。このブログでも、1年前に日産GT-R開発者水野和敏氏として紹介しました。

そのフェルディナント氏が、「番外編」として新日鐵君津製鐵所を取材した記事が掲載されました。
ヘルメットイッキはやめたけど まだまだ強いニッポンの鉄~番外編:燃える男の製鉄所“萌え”編
君津製鐵所こそ、私がサラリーマンとして最初の13年間を過ごした職場です。
フェルディナント氏はここで、3人の研究者・技術者から、主に「ハイテン」の日本鉄鋼業優位が今後とも続くのかどうかという点について話を聞き出します。「ハイテン」とは、高張力でかつ加工性の良好な鋼板を意味し、主に自動車の軽量化を実現する上で要求され、製鉄メーカー各社がしのぎを削っている品種です。

まず、フェルディナント氏はヘルメットをかぶって製鉄所内を見て回ります。転炉工場にも行ったのですね。転炉工場とは、NB-OnLine記事1ページこの写真にもあるように、高炉から出銑した溶銑(炭素濃度4%程度の溶けた銑鉄)を鍋から転炉の炉内に装入し、炉内で酸素ガスを吹き付けることによって炭素を燃焼させ、溶鋼(炭素濃度を所定の濃度まで減少させた溶けた鋼)を作る工程です。私の職場だったところです。写真では実感が湧きにくいですが、写真にある鍋には約300トンの溶けた鉄が入っているのです。
鍋から溶銑を転炉内に入れ替える「溶銑装入」という工程は、安全性の観点から直接眺めることは最近では許されません。フェルディナント氏はNB-OnLine記事4ページこの写真にあるように、ちょっと遠目からですが溶銑装入の瞬間を見ることができたのですね。
私も入社早々、この溶銑装入を目にして「男の現場だ!」と実感したものです。

さて、NB-OnLine記事5ページでは(FU:薄板材料研究部のF田氏、F:フェルディナント氏)、
『FU:新入社員が寮に入ると歓迎コンパをやる訳なんですけど……。
F:はあ……。
FU:昔はあのヘルメットに日本酒をなみなみ注いで、イッキ飲み大会をやったものです。一升ちょっと入るんですよ。あのヘルメットには。
F:げ。日本酒一升イッキ。そんなムチャな……。』
という話が紹介されています。

君津製鐵所は特に田舎ですから、君津製鐵所に配属になった独身の新入社員は皆、寮に入ります。入寮した新入社員に歓迎コンパでヘルメットイッキ飲みをさせるという儀式は、私が入社した昭和48年にはまだありませんでした。私の入社より数年後から始まったらしいです。寮の名前に因んで“八重原の儀”と呼ばれていました。
イッキ飲みの弊害が知られるようになった以降、もう止めているとは思いますが・・・。
それにしても、現在会社の中核を担っている社員の人たちにとっては、重要な記憶として残っているのですね。

ところで、「ハイテン」です。
フェルディナント氏は、「今は日本の製鉄メーカーはハイテンの技術で優位に立っているかもしれないが、いずれ中国その他にキャッチアップされるのではないですか?」と質問します。
これに対して新日鐵の研究者たちは、「他の国々が今の日本メーカーのレベルに到達したときには、日本メーカーはさらにその先を行っているので、10年やそこらでは追いつけません」と断言していました。
その断言が未来においてそのまま実現するかどうかは、その未来になってみないとわかりませんが。
また、別のところで聞いた話では、ハイテンにもさまざまなグレードがあり、日本が図抜けているのはそのうちの最高級グレードだけであり、自動車に使われるハイテンのうちの中級以下については他の国も追いついている、ということらしいです。
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尖閣“衝突”と日中関係

2010-12-05 08:40:28 | 歴史・社会
世界 2010年 12月号 [雑誌]

岩波書店

このアイテムの詳細を見る
「世界」12月号には、『特集 尖閣“衝突”と日中関係』として、以下の記事が掲載されています。
高原明生(東大)  中国にどのような変化が起きているか
辻康吾(現代中国資料研究会) 中国対外政策の決定過程
莫邦富(ジャーナリスト) 日中衝突の余波を拡大させてはならない
岡田充(共同通信)  「ボタンの掛け違え」はなぜ起こったか
栗林忠男(慶應大学)  海洋の新しい安全保障を構想する
蔡増家(台湾・国立政治大学) 尖閣騒動で中国の「和平崛起」は終わる

尖閣問題で日中関係はなぜあんなにこじれてしまったのか、という点について、このブログでは9月28日に「尖閣問題~初動のいきさつ」として、最初のつまずきのいきさつを考察しました。今回の「世界」を読んだところでは、この9月28日の考察から大きく外れた話はないようです。

「世界」誌の莫邦富氏の記事から追ってみます。
莫邦富氏は、漁船船長逮捕の直後に出張で中国を訪問し、船長釈放の直前まで中国にいたということで、中国の生の状況を体験してきています。
中国は、漁船船長逮捕の時点では、事件の軟着陸を楽観視していました。少なくとも事件の前記段階、つまり中国人船長が連行・勾留された最初の10日間は、むしろ中国政府は軟着陸できるだろうと見て、静かな態度を取っていた、と莫邦富氏は言います。中国政府はおそらく、19日の船長釈放という可能性もあると思って、それまでは抗議を行う外交官の階級を次第に上げていったものの、少なくとも共産党直轄管理下の機関誌では、地味な誌面編集に終始していました。
『しかし、この事件を強硬に日本の意思で片付けようと考えていた前原誠司外相には、こうした姿勢と言葉による中国側の意思表示がとどかなかった。そしてついに温家宝首相までが船長の釈放を求めるようになったのである。
最初、繰り返し講義する中国側に「冷静な対応を」と余裕を持って発言していた民主党の政治家たちが、フジタ社員の身柄拘束、レアアースの「禁輸」などの中国側の「対抗措置」を前に、過激な発言を繰り返すようになった。
こうした民主党側の閣僚や政治家の発言の過激さと幼稚さに、私は再び大きなショックを覚えた。私の印象に衝撃を残したこれらの発言を拾ってみよう。』

民主党側閣僚や政治家のどのような発言が、中国人には衝撃となったのでしょうか。
まずは民主党枝野幸男幹事長代理による「中国は悪しき隣人」という罵り。さらに「中国に進出する企業、取引をする企業はカントリーリスクを含め自己責任でやってもらわないと困る」という捨て台詞。
さらに管直人首相が求めている日中首脳会談に対して「焦らなくていい」と外務省幹部に指示し、中国の対応を「極めてヒステリック」と罵倒した前原外相の発言です。
『「ヒステリック」という、外務大臣としては最もふさわしくない言葉まで口にしてしまった前原外相の頭は、ショートを起こしてしまったようだ。
あまりに幼稚すぎる発言を繰り返して、口先の瞬間的な快感を安易に求めた一部の民主党政治家の精神的な幼稚さが、今度の事件の余波を人為的に拡大させてしまった。管首相と温家宝首相の「廊下会談」でようやく事件の解決に向けて歩み出した日中両国の足取りが、よりによって日本の外相に妨害され、攪乱されてしまったのである。』

中国人の目に前原外相の言葉がどのように写るかがよくわかる感想です。

さらに、「世界」誌の岡田満氏の記事に以下の記載があります。
中国外務省の胡正曜次官補は9月21日の記者会見で、前原外相を「毎日のように中国を攻撃する発言をし、口にすべきでない極端なことも言っている」と名指しで非難していました。前原外相のどのような発言かというと、18日国会答弁での上記「極めてヒステリック」との発言の他、21日には小平が提唱した「争い(領有権)の棚上げ」について「日本が合意した事実ではない」と述べたこと、またグーグルに対して地図上の尖閣諸島の中国名併記を削除するよう要求したことを指しています。

莫邦富氏は、日本の北方領土に関する主張に対する中国政府の態度の変化について関心を寄せています。
これまで中国は、日本の北方領土に関する主張を支持していたそうです。しかし今回の漁船事件以後、中国ははっきりとこれまでの日本寄りの姿勢を変えた、というのです。
9月下旬、中国を訪問したメドヴェージェフ露大統領と中国の胡錦涛主席は、第二次大戦での対日戦勝65周年に関する共同声明を発表し、その中で、中露両国はファシズムと軍国主義と闘った同盟国であることを再認識した上で、「第二次大戦の結果の見直しは許されない」との宣言文も盛り込まれました。
その直後、メドヴェージェフ大統領は北方領土を含むクリル諸島に「近いうちに必ず行く」と表明します。
『日本の北方領土が安保理常任理事国である中国の支持を失ったことを意味する瞬間だった。』

もうひとつ、最後に莫邦富氏が述べた内容を紹介します。
『戴秉国国務委員が12日未明、漁船事件のために日本の丹羽宇一郎駐中国大使を緊急に呼び出したが、実はその前に、当時外相だった岡田克也幹事長に直接、電話をかけたという。ところが、なぜかこの電話に岡田氏は出なかった。それで激怒した戴国務委員が、丹羽大使を未明に呼び出した、というのだ。』

事件全体を見渡してみると、やはり「船長逮捕はまだ中国の許容範囲内だった。しかし勾留延長が中国の限界を超える線だった。」ということになりそうです。なぜ民主党政権は、那覇地検が勾留延長するに際して政治判断できなかったのか。
9月17日の午後に管首相は内閣改造を断行します。外務大臣が岡田氏から前原氏に代わりました。2日後の19日が勾留期限です。外務省幹部は「あの時はちょうど内閣改造の最中で、岡田氏も幹事長就任が決まってからは『それは次の大臣がやること』と仕事に手をつけなかった。前原氏も、直後に控えた国連総会の準備しか頭になかった」(9月28日朝日新聞)と述べたそうです。
この間のいきさつをもっと掘り下げるべきですが、今回の「世界」誌はその点についての掘り下げがありませんでした。

いずれにしろ、事件発生から船長釈放に至るまで、管直人首相、岡田克也外務大臣、前原誠司外務大臣は一体何を考えていたのか。民主党政権の外交オンチがここまで来ているのかと思うと気が滅入ります。
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Wikipediaがお年寄りの話し相手に

2010-12-02 21:12:14 | サイエンス・パソコン
90歳になる私の母親は、「長生きしたら、昔話をする相手がいなくなった」とよく嘆いています。

最近の新聞で、同じことがお年寄りによって語られていました。昔話をして、“そうそう。そうだったね”と相づちを打ってくれる人がいなくなり、それが寂しいということでした。
私の母親だけではなく、どうも一般的にそういう傾向があるのでしょうか。

iPadがついにマルチタスクに対応!iOS4.2がリリースによると、米アップルから駆けつけたスコット・ブロドリック氏(プロダクトマーケティング担当)は「タッチ操作ですから、2歳の子供でも楽しめるんです。印象深い逸話としては、99歳の女性がiPadに親しんでいるという話も聞きました。彼女にとってはこれが初めてさわったPCだったそうです」と語ったようです。99歳には負けますが、90歳でiPadを使えるかで書いたように、母親にiPadを渡してあります。本人が自分で操作できるのはiPad本体に格納したビデオや写真を閲覧することのみであり、インターネットを覗くことはしません。しかし常に、母親の手許にインターネットにつながったiPadがあるので、話し相手をするときにとても便利です。

先日は、母親が小学生だった頃、当時渋谷に住んでいたのですが、代々木練兵場にツェッペリン飛行船を見に行った、という話になりました。こういう昔話の相手をするときに便利なのがインターネットです。
さっそく私がiPadを手に取り、Wikipediaでツェッペリン飛行船について調べると、出ていました。ツェッペリン伯号は1929年に北半球周遊を行い、この際、日本の茨城県阿見町(霞ヶ浦)に寄港しているとあります。また“霞ヶ浦の歴史”の項には『1929年8月19日には、当時世界最大の飛行船だったドイツのツェッペリン伯号が世界一周中に霞ヶ浦航空隊に寄港。このときは、上野から土浦への臨時列車が運行されるなど東京からも見物客が押し寄せ、観衆は30万人に及び「君はツェッペリンを見たか!」という新聞の見出しが流行語になったと言われている。』と記されています。
1929年というと母親が9歳の時です。母親は「大きな飛行船だった。代々木練兵場の上空を通過するだけの予定だったが、代々木練兵場に大勢の観客が詰めかけていることが船に伝えられ、わざわざ上空を2回旋回してくれた。確かに“霞が関へ行く”と聞いた。このときの光景は今でもはっきり覚えている」と昔語りをしました。

代々木練兵場についてWikipediaの「代々木公園」で調べると、『1909年(明治42年)7月3日、陸軍省が28万坪の代々木練兵場を新設した。代々木練兵場は敗戦後の1945年(昭和20年)にアメリカ軍に接収され、アメリカ軍の宿舎敷地・ワシントンハイツになり、その後1964年(昭和39年)に東京オリンピックの選手村となった後、東京23区内の都市公園の中で4番目に広い公園として1967年(昭和42年)10月20日に開園された。』とあり、この記事も母親の古い記憶を呼び覚ますのでした。

私の母親の場合には、自分でインターネット検索をすることはしないので、話し相手が検索して記事を見せてあげなければなりません。もう少し若くて自分でiPadでインターネット検索ができる人であれば、自分で昔の記憶をネット記事から呼び覚ますことも可能でしょう。

このような使い方は、iPadとインターネットによってお年寄りに楽しんでいただくひとつの方策であると感じた次第です。
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