弁理士の日々

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特許制度小委員会報告書の結論を抽出

2010-12-10 21:03:32 | 知的財産権
産業構造審議会知的財産政策部会第33回特許制度小委員会の「配付資料」の案内と、
同委員会報告書「特許制度に関する法制的な課題について」(案)に対する意見募集が、ともに12月3日にはアップされていたのですね。
報告書「特許制度に関する法制的な課題について」(案)(pdf)を読むことができます。100ページの大部です。

取り敢えずは、その中から結論部分を抽出してみました。以下に列記します。

《Ⅰ.活用の促進》
《Ⅰ-(1)登録対抗制度の見直し》
対応の方向
通常実施権を適切に保護し、企業の事業活動の安定性、継続性を確保するため、登録を必要とせず、自ら通常実施権の存在を立証すれば第三者に対抗できる、「当然対抗制度」を導入すべきである。

《Ⅰ-(2)独占的ライセンス制度の在り方》
.対応の方向
独占的ライセンス制度の在り方については、改めて検討を行うことが適当である。

《Ⅰ-(3)特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁
特許を受ける権利を目的とする質権設定の解禁については、改めて検討を行うことが適当である。

《Ⅱ.紛争の効率的・適正な解決》
《Ⅱ-(1)特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方》
対応の方向
「ダブルトラック」について指摘される問題を解消するためには、「Ⅱ-(2)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い」で扱われる課題を解決するため、無効審判等の審決確定の遡及効又は遡及効に係る主張を制限して再審による紛争の蒸し返しを防止すること、無効審判の更なる審理の迅速化等進行調整の運用の改善を図ることが必要である。
その上で、侵害訴訟ルートと無効審判ルートのそれぞれの制度の特徴、技術専門性を活かし紛争処理において無効審判が有効に活用されている現状、無効審判と特許権侵害訴訟の関係に関するキルビー判決や特許法第104条の3の制定等に至るこれまでの検討経緯を踏まえ、現行どおり両ルートの利用を許容することとすべきである。

《Ⅱ-(2)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い》
4.対応の方向
(1)再審を制限することの適切性について
① 再審を制限することの必要性について
再審の制限について制度的な手当てをすべきである。
(2)再審を制限する方法
再審を制限する方法としては、)先に確定している特許権侵害訴訟判決との関係で、確定審決の遡及効又は遡及効に係る主張(以下「遡及効等」という。)を制限する方法による方が適切である。
(3)再審を制限する範囲(遡及効等が制限される審決の範囲)
遡及効等が制限される審決の範囲については、)無効審判又は訂正審判を請求した時期にかかわらず、特許権侵害訴訟の判決確定後に確定した特許無効審判及び訂正審判の審決確定の遡及効等を制限することが適切である。
5.具体的な制度設計に係る論点
(1)差止めを命じる判決について
特許権侵害訴訟の差止請求認容判決が確定した後に、)無効審決が確定した場合や、)訂正認容審決が確定し、かつ訂正後の特許の技術的範囲に被告製品が含まれない場合について、差止めは解除されるべき(差止判決に基づく強制執行を認めるべきではない)である。

《Ⅱ-(3)無効審判ルートにおける訂正の在り方》
3.対応の方向
(1)「審決予告」の導入と出訴後の訂正審判請求の禁止
現行制度について指摘されている点を踏まえ、審理の遅延や無駄を解消するために、審判合議体による特許の有効性の判断を踏まえて訂正ができるという現行制度の審決取消訴訟提起後の訂正審判における利点を確保した上で、この訴訟提起後の訂正審判請求については禁止して、キャッチボール現象が発生しない制度を導入すべきである。
具体的には、審判請求から口頭審理までは現行制度と同様に審理を進め、「審決をするのに熟した」と判断されるときに、審判合議体は判断を当事者に開示する手続(例えば、名称を「審決予告」とする。以下本報告書ではこの名称を用いる。)を行う。「審決予告」は現行制度の審決と同内容47として、特許権者が「審決予告」中に示された審判合議体の判断を踏まえて訂正請求をすることができるようにする。

《Ⅱ-(4)無効審判の確定審決の第三者効の在り方》
1.現行制度の概要
無効審判の確定審決55の登録後は、何人も同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判を請求することはできないとされている(特許法第167条)。
2.問題の所在
(1)第三者の手続保障の問題
特許が有効である旨の審決が既に確定したことのみを理由に、当該審判に関与していなかった第三者に対しても同一の事実及び同一の証拠に基づいて、その特許の有効性について審判で争う権利が制限されること(このような制限がされることを、「無効審判の確定審決の第三者効」という)、ひいてはその審判の審決の当否を裁判で争う権利が制限されることは、不合理である。
4.対応の方向
指摘される諸問題に鑑みれば、特許法第167条において規定される無効審判の確定審決の効力のうち、第三者効については、廃止すべきである。

《Ⅱ-(5)同一人による複数の無効審判請求の禁止》
4.対応の方向
無効審判制度は主に紛争解決を目的として利用されている一方、公益的機能も有すると考えられるところ、それぞれの視点から総合的には同一人による複数の無効審判請求を制限し、一回的な解決を目指すという方向性を導きにくいと整理されるものと考えられる。また、最近の無効審判に係る制度改正が審理促進を念頭に行われてきているという経緯や、制度利用者の実務上の意見等も勘案すれば、現時点の結論としては、現行制度を維持すべきである。
一方で同一人による複数の無効審判請求の制限について検討すべきとの指摘がある。また、制限の方法について、無効審判請求を1回のみ請求可能とすることのほか、2回目以降に何らかの形で制限をする中間的な制度も検討の余地があるとの指摘がある。これらを踏まえ、無効審判制度の基本的な趣旨・目的等も含めた在り方について、今後、引き続き検討すべきである。

《Ⅱ-(6)審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方》
3.対応の方向
(1)請求項ごとの取扱い
無効審判を請求項ごとに請求できるとする無効審判制度の基本構造は維持しつつ、明細書等の一覧性の確保といったわかりやすい公示に一定の配慮をしたうえで、特許無効審判における訂正の許否判断及び審決の確定を、請求項ごとに行うことを前提とする制度整備のための改正を行うべきである。また、訂正に係る制度の一貫性を図るため、訂正審判についても請求項ごとの扱いを行うよう制度改正を行うべきである。

Ⅲ.権利者の適切な保護》
Ⅲ-(1)差止請求権の在り方》
4.対応の方向
本小委員会においては、特許法において差止請求権を制限する規定の要否を検討していくに当たって、いわゆる「パテントトロール」や国内外の技術標準をめぐる権利行使の実態、諸外国における議論、国際交渉や我が国における判例などの動向を踏まえつつ、差止請求権の在り方について多面的な検討を行うことが適当であるとの指摘がなされた。
この点を踏まえ、多面的な検討を加速化しつつ行った上で、引き続き、我が国にとってどのような差止請求権の在り方が望ましいか、検討することが適当である。

《Ⅲ-(2)冒認出願に関する救済措置の整備》
4.対応の方向
近年冒認等が発生しやすい状況となってきているにもかかわらず、真の権利者の救済が十分とはいえず、また、諸外国の制度との調和の観点や、産業界等からのニーズも踏まえれば、真の権利者が出願したか否かにかかわらず、特許権設定登録後に、特許権の移転請求を認める制度を導入すべきである。

《Ⅲ-(3)職務発明訴訟における証拠収集・秘密保護手続の整備》
3.対応の方向
以上のような指摘があることを踏まえ、職務発明訴訟における証拠収集・秘密保持のための制度設計の在り方については、検討を継続することが適当である。

《Ⅳ.ユーザーの利便性向上》
《Ⅳ-(1)特許法条約(PLT)との整合に向けた救済手続の導入》
、)我が国の外国語書面出願1における翻訳文の提出期間、、)外国語特許出願3の翻訳文の提出期間、、)特許料等の納付期間については、PLTに準拠した救済手続を導入することとし、その主観的要件と時期的要件については、以下の方向で対応するべきである。
なお、PLTへの加盟を含めた他の手続の導入については、新システムが安定的に稼働した後に、改めて検討を行うべきである。
(1)救済を認める要件(主観的要件)について
欧州等が採用するDue Care(相当な注意)の救済例を参考に、PLT上のDue Care(相当な注意)に相当する主観的要件を導入するべきである。
(2)救済規定により手続が可能な期間(時期的要件)についてPLTは権利の回復の申請を行うにつき「理由がなくなった日から2月以内(期間経過から1年以内)」という期間を最低限のラインとして規定している。諸外国においても、同様の水準の救済手続が設けられており、国際調和の観点からして、我が国もこの時期的要件に従うべきである。

《Ⅳ-(2)大学・研究者等にも容易な出願手続の在り方》
(3)具体的な対応
大学・研究者等も含めた特許制度利用者が、広く強い権利を取得するためには、適切な特許請求の範囲や実施例の記載が必要であり、現状においては、こうした認識を大学・研究者等に広めていくことが必要である。
ただし、論文をベースに一刻を争って出願しなければならない場合には、現行制度においても、
・ 明細書については、出願日の確保に必要な最低限の様式を整える
・ 特許請求の範囲については、研究者が把握している発明のポイントを最低限記載することによって、容易に方式上の不備のない出願を行うことも可能である。
しかし、この出願手法により論文の記載をベースとして出願した場合には、権利範囲が狭すぎる特許権となってしまう等のリスクが発生し得ることから、そのリスクについて十分な注意喚起も同時に行うべきである。

《Ⅳ-(3)グレースピリオドの在り方》
4.対応の方向
(1)改正点について
現行の新規性喪失の例外規定は、限定列挙された公表態様によって公知となった発明だけを適用対象とするものであるため、法の趣旨に照らせば本来適用対象とすべきものを網羅できていないといった問題や、同様の二つの発明公表行為について、一方は適用対象となり、他方は適用対象とならないといった不均衡が顕在化してきている。
よって、本来適用対象とされるべき公表態様によって公知となった発明を網羅的にカバーするため、特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に公表したことによって特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明17については、その公表態様を問わずに本規定の適用対象となるよう、新規性喪失の例外規定の適用対象を拡大すべきである。
なお、猶予期間については、少なくとも日米欧の三極で統一されることが好ましい等の意見があることから、現状どおり(6月)とすべきか、米国と同様に12月に拡大すべきかの判断は国際的議論のすう勢を見極めつつ行うべきである。現在、国際的な制度調和の議論が継続中であることから、現時点で現行の猶予期間を変更することは時期尚早である。
《Ⅳ-(4)特許料金の見直し》
1.特許料金の見直し
(3)対応の方向
特許特別会計の収支状況は、今般、特許料金の引下げが可能な見込みである。
① 審査請求料の引下げ
審査請求料に重点を置いて行う必要がある。審査請求料は基本料金(168,600円)と請求項毎の料金(4,000円)から構成されるが、審査請求料の引下げは基本料金について行うべきである。
② 国際出願の調査手数料等の引下げ

2.中小企業等減免制度の拡充

それぞれの内容の検討についてはまた改めます。
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