弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

第0次世界大戦~日露戦争

2010-12-29 18:13:04 | 歴史・社会
12月27日午後10時からはNHK『プロジェクトJAPAN「第0次世界大戦~日露戦争・渦巻いた列強の思惑~」』を観ました。
『「戦争と革命の世紀」と言われる20世紀。その最初の戦争であり、以後の大戦に大きな影響を与えた日露戦争を「第0次世界大戦」ととらえる見方が、近年、欧米の歴史学者から提唱されている。軍事技術の発達やかつてない戦闘規模といった軍事史上の意味はもとより、世界秩序の枠組みを変えたという国際関係史のうえでも、日露戦争は画期を成すというのだ。アジアの新興国に過ぎなかった日本が、巨大帝国ロシアとの戦争に踏み切ったのはなぜか。その背景に、東アジアをめぐりイギリス、ドイツ、アメリカなど列強各国の思惑が渦巻いていたことを読み解き、日露戦争が20世紀の世界対立の構造を決定づける発端となったことを見ていく。(松山放送局)』
当時、帝政ロシアはウラジオストックを清から譲り受けた後、さらに満州鉄道、旅順港の軍港化、シベリア鉄道から旅順までの鉄道敷設と進め、このままではロシアが朝鮮半島を支配下に納めるのではないかと危惧されるに至ります。
日本にとってはもちろん、「日本の利益線」といわれていた朝鮮半島をロシアに支配されるのは、その後の日本へのロシアの圧力を含めて是認することはできません。
加えて、イギリスにとっては、揚子江流域に張り巡らしたイギリスの権益が損なわれる危険を生じていました。
また、遅れて中国大陸に進出しようとする米国は、ロシアに満州の門戸開放を要求しますがロシアから一蹴されます。
一方、ドイツ(当時のプロシャ)は、ヨーロッパでのドイツの地歩を固めるため、ロシアに対して日本に圧力をかけるようにけしかけるのでした。

中国大陸をめぐるこのような列強の思惑が奔流となり、日露戦争に至った、というあたりをたどったのが上記NHKの番組でした。

ところで、最近読んだ本の中で、伊藤博文の言葉として『日露戦争は英米の「邏卒番兵の役」』と称したという記述が頭に残っていました。
その言葉があったので、今回のNHKの番組を興味深く観ました。

番組では、以下の話が紹介されています。日露戦争前、在ロシア日本大使がロシア政府に対して「日本は満州でのロシア帝国の権利を認めるから、代わりに朝鮮半島での日本の権利を認めてくれ(満韓交換論)」という提案をしたのに対し、ロシアはそれを拒否しました。ところが、日露戦争開戦直前、ロシアの外務大臣?が皇帝に対して、日露条約の締結を提案し、その中でこの満韓交換論が取り上げられていた、ということを示す文書が番組で紹介されていました。

日露戦争前において、伊藤博文は対ロ開戦反対論だったはずです。そこでWikipediaで調べると『日清戦争後、伊藤は対露宥和政策をとり、陸奥宗光・井上馨らとともに日露協商論・満韓交換論を唱え、ロシア帝国との不戦を主張した。同時に桂太郎・山縣有朋・小村寿太郎らの日英同盟案に反対した。さらに、自らロシアに渡って満韓交換論を提案するが、ロシア側から拒否される。』とありました。

そもそも満韓交換論を唱えたのが伊藤博文だったのですね。
しかしNHK番組では、伊藤博文については一言も紹介されませんでした。今回の番組の趣旨から考えたら、番組後半の主役は伊藤博文かな、と想像していたにもかかわらずです。
番組によると、日露戦争における日本の役割は、中国大陸における英国と米国の利益を増進するためであった、ということになり、まさに伊藤博文がいう『日露戦争は英米の「邏卒番兵の役」』そのものです。

日露戦争後、ロシアはフランスと手を組むようになってドイツが孤立します。その後ヨーロッパは第一次世界大戦へと突き進んでいきました。
日露戦争後、日本は韓国をまず保護国とし、満州へと進出し、アメリカと権益が対立することとなります。太平洋戦争への道が始まっていたのです。

伊藤博文の『日露戦争は英米の「邏卒番兵の役」』について私が読んだ出典がやっと見つかりました。永井陽之助著「平和の代償 (中公叢書)(1967)」(p75)でした。
『いまなら、だれも知っているように、日露戦争は、いまの言葉でいえば、帝政ロシアのアジア進出を警戒し、“封じこめ”ようとするイギリス・アメリカの軍事的、経済的、政治的支援によって辛勝した一種の“代理戦争”であった。当時、伊藤博文などの為政者は、日露戦争が、米英の「邏卒番兵の役」(伊藤の言)であることをシニカルに知っていた。だから、ポーツマスの講和会議に赴く小村寿太郎が、巨大な賠償金と領土獲得を夢想する国民の“幻想”と“期待”に拘束されて苦悩するのを知って、伊藤は「公の帰朝のときには、他人はどうであろうとも、吾輩だけは、かならず、出迎えにゆく」とその耳にささやいたのである。』
コメント
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