弁理士の日々

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今、映像で蘇る人類最古の女性アルディ

2010-01-24 20:15:35 | サイエンス・パソコン
440万年前のラミダス猿人の化石から全身像を復元することに成功したというニュースが、昨年10月2日の新聞に載りました。東大の諏訪元(すわげん)教授らの国際的研究グループの成果ということです。
一人分の女性の全身骨格も含まれ、この女性は「アルディ」と名付けられました。
このラミダス猿人の頭と骨盤の復元模型が昨年10月に東京都文京区の東京大総合研究博物館で展示されたので、私は東大博物館まで見に行きました。東大博物館でラミダス猿人「アルディ」の骨格を見るに書いたとおりです。

そのラミダス猿人「アルディ」を描いたテレビ番組が、この1月10日にディスカバリーチャンネル「今、映像で蘇る人類最古の女性アルディ」で放映されると知り、ビデオ録画した上で最近見終わりました。

話は1974年、アフリカのエチオピアで320万年前の猿人「ルーシー」の骨格化石が発見されたところから始まります。ルーシーはその骨盤形状から、れっきとした直立二足歩行の猿人でした。こちらでも、東京大学「異星の踏査」展で紹介したように、ルーシーの骨格模型を私は東大総合研究博物館で見たことがあります。
ルーシー発見時のメンバーだったティム・ホワイトとオーウェン・ラブジョイらは、ルーシーよりもさらに前の化石を探すことを企てます。

1981年、デズモント・クラークらは、アメリカ国立科学財団の援助を得て、エチオピアのミドル・アワシュで調査を開始します。最初はアワシュ川東岸を調査していたのですが、付近の部族間抗争のために調査区域を反対側に変更します。これが幸いでした。
1992年、アラミスで調査隊員である東大の諏訪元教授が猿人の歯の化石を発見します。翌シーズン、隊員のハメッドが10本の歯を発見しました。さらに猿人17個体の骨化石が発見されます。
1994年、付近の川の氾濫がおさまった後、1人の個体を構成する90個の骨格破片を採取することに成功しました。これが後に「アルディ」と名付けられる猿人の化石です。
骨格破片はばらばらに土中に埋まっており、ボロボロです。周辺の土ごと、回りを石膏で固めて採取し、そこから化石を抽出します。
アルディは、犬歯が小さいことから女性、永久歯が全部生え、すり減っていないことから若い成人であると推定されます。

アルディが生きていた年代については、古すぎるので放射性炭素年代測定は用いることができず、火山岩中に含まれる火山ガラスのアルゴンガス含有量を測定することによって年代を決めます。アルディが発見された地層の上と下とに火山岩層があり、測定したところ、それぞれ435万年前、445万年前という結果が出ました。つまり、アルディは今から435~445万年前に生きていたことがわかったのです。

次は、採取された骨の断片から、アルディの全体骨格を復元する作業です。
ここで、東大の諏訪教授の研究室が活躍します。やっと日本を舞台にした映像が登場しました。
東大総合研究博物館の諏訪研究室には、マイクロCTスキャンという装置があります。この装置で、骨破片の一つ一つについて、三次元の形状をコンピュータで計測するのです。計測だけで8週間かかりました。続いて、コンピュータ内の三次元画像で破片をつなぎ合わせて全体の骨格を再現するのに数年かかりました。
頭蓋骨破片は34個採取されました。バークレーでは、それぞれを石膏レプリカとし、手作業で頭蓋骨の全体を復元していきます。一方、東大では、マイクロCTスキャンで測定した破片をコンピュータ内で組み合わせ、コンピュータ内で全体を復元します。復元した結果をプラスチック模型として作成しました(こちら)。
バークレーの手作業での復元結果と、東大でのコンピュータによる復元結果は、見事に一致していました。
それによると、アルディの脳は小さく、チンパンジーなみであるようです。

一方、骨盤を再現した結果からは、アルディが2足歩行であったことがわかりました。

足の骨の特徴、特に内側楔状骨の形状から、アルディの足は親指が残り4本と離れ、チンパンジーのように物を掴むことのできる足であったことがわかりました。

手の骨については、中手骨が小さく、チンパンジーのようなナックルウォークをしていなかったと推定されます。またチンパンジーと異なり、手首が柔らかかったこともわかりました。

次に、アルディが生活していた地域が、森林だったのかサバンナだったのかを調査します。アルディが発見された地層について、さらに10年以上の歳月をかけ、動物化石・植物化石を採取しました。
その結果、猿については、地上性の猿ではなく、樹上性の猿が見つかりました。また、樹木の化石も見つかっています。これらの結果から、アルディはサバンナではなく、森林地帯で生活していたことがわかりました。

最後は、アルディの姿形の再現です。
ここでは、自然史専門の画家であるジェイ・マターネスが作業を受け持ちました。まずは採取した化石一つ一つのレプリカのスケッチから始めます。そして、解剖学の知識も活用し、全身骨格の絵を完成し、さらには筋肉、そして皮膚(体毛)まで含んだ外形の絵を完成します。筋肉と皮膚だけで2年かかりました(こちら)。

エチオピアでアルディの化石が見つかってから、すでに18年が経過しているのですね。その間、地道な研究を進め、やっと最近になってアルディの全体像が明らかになり、報告された、ということになるのでしょうか。
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