弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

検察自浄作用と女性検事

2010-10-03 09:16:19 | 歴史・社会
週刊新潮10月7日号には、今回の大阪地検特捜部におけるFD改竄事件について掲載されています。
村木さんの初公判直後、当時東京地検に応援に行っていた前田容疑者(検事)に電話をかけたのは、大阪地検刑事部から特捜部に応援に入っていた國井弘樹検事だったのですね。前田は國井検事に「FDに時限爆弾を仕掛けた」と打ち明けました。前田検事はまた、FDの正しい日付を記載した捜査報告書が公判に証拠提出されていることをそのときにはじめて知りました。
その捜査報告書は國井検事の事務官が作成したものでした。
時限爆弾発言を聞いた國井検事は、村木裁判担当の塚部貴子公判検事と、加えて公判部の主任検事にも相談を持ちかけました。そして1月末、國井検事は塚部検事を伴い、佐賀元明容疑者(当時特捜部副部長)と大坪弘道容疑者(当時特捜部長)に報告しました。

國井検事の名前は村木さんの証言の中に出てきます。
村木さん拘留中の取り調べは、最初は遠藤検事、それが途中から國井検事に代わりました(第17回公判 傍聴記 平成22年4月14日第18回公判 傍聴記 平成22年4月15日)。
『「はい、國井検事に代わりました。國井検事から事件の詳細な説明を受けました。倉沢氏→石井議員→塩田部長→私→北村係長→上村係長・・・といったストーリを克明に語られました。」と、厚子さんが答える。』
『「・・・遠藤検事とは対照的に、私が何を言っても全くメモを取らずに話を続け、口述筆記しながらパソコンに入力するよう事務官に指示しました。そして(打ち終わった調書に)サインしますかと聞かれました。」と、厚子さん。・・・・
「そのやりとりで國井検事を、どう思いましたか?」
「信頼関係が結べないと思いました。思い込みが非常に激しく、私は罠にはめられると感じました。」』

塚部検事については、週刊新潮の記事に司法ジャーナリストの話として「同僚から“潔癖症”と言われるほど・・。郵便不正事件では政治家ルートの捜査にあたり関係者を事情聴取していたが、前田と捜査方針を巡って対立し、特捜部から公判部に飛ばされた」とあります。
また、以下のような新聞報道があります。

内部告発検事「元局長は無罪になる」周囲に話す 検事逮捕
産経新聞 9月29日(水)9時2分配信
『応援検事と公判担当検事は改竄疑惑を佐賀前副部長に“内部告発”し、すでに押収元に返却されていたFDの調査と問題の公表を直訴した。しかし、佐賀前副部長が前田容疑者から直接経緯を聞き取った後、大坪前部長と相談。2人は2月上旬、「書き換えは過失だったので問題ない」と結論づけ、小林敬検事正と玉井英章前次席検事(現大阪高検次席検事)に報告したという。
この結果、地検としてFDの調査と公表は見送られたが、その後、公判担当検事は公表の見送りに納得せず、大坪前部長らとトラブルになり、同僚には「もう部長の顔も副部長の顔も見たくない」「2人にものすごく腹が立っている」などとたびたび吐露していた。
また当時、自ら担当していた村木さんの公判についても、前田容疑者によるFDデータの改竄が意図的だったとする疑惑を伏せたまま立ち会い続けていることが苦痛だった様子で、周囲に「(公判は)もしかしたら無罪になる」などと深刻な表情で語ることもあったという。』

<特捜証拠改ざん>告発検事は計4人 前部長「根拠はない」
毎日新聞 9月30日(木)12時11分配信
『郵便不正事件に絡む証拠改ざん事件で、今年1月末、大阪地検の佐賀元明・前特捜部副部長(現神戸地検特別刑事部長)に証拠品のデータ改ざんを告発した検事は、計4人いたことが分かった。いずれも郵便不正事件の担当で、4人とも佐賀前副部長に「深刻な事態」と訴えたが、翌月、直属の上司にあたる大坪弘道・前特捜部長(現京都地検次席検事)は小林敬検事正に「女性検事が騒いでいるが根拠はない」と報告していた。』

これら報道の「公判担当検事」「女性検事」が塚部検事でしょう。

この塚部検事の話から、思い出すことがあります。当ブログ記事「横田宏信「ソニーをダメにした「普通」という病」(2)」で以下の内容を紹介しました。
《消えた内部統制の鍵「お局さん」》
「お局さんとは、仕事に筋を通すことを何よりも重んじる、経験豊富な職業婦人のことであり、職場の良心である。
ソニーには、たくさんのお局さんがいた。」
お局さんは駄目な上司を容赦しません。お局さんが、若手のみならず管理職をも鍛えていました。
「それに、なにしろお局さんがにらみを効かせる職場では、社会的不祥事など、起こそうにも起こせるものではない。」
「私は、男性に多く見られる『予定調和』の発想を否定する。『予定調和』の発想とは、ビジネスとしての正解を突き詰めるよりも、内輪の納得感を優先した『落としどころ』を最初から狙うというパターンの考え方のことであり、これは世の中の進歩を妨げるものであるが、女性は、総じてそうした発想とは無縁である。
だから、そうした女性の資質というものを、もっともっとビジネスシーンで活かすべきだと私は強く考えており、その意味で、私は女性管理職待望論者でもある。
しかし、お局さんは、自身のキャリア向上を捨てでも職場の良心であり続けることを選ぶ。自分の分担すべき役割を、ここと定めて一歩も動かない。」
「ところが近頃、ソニーを含めて、大企業ではとんとお局さんを見かけない。一方、中小零細企業では、まだまだ健在だ。」

今回のFD改竄事件でも、塚部検事がいなかったら事件は闇に葬られていたかもしれません。村木さんが有罪判決を受けていた可能性すら在ります。
そういった意味で、日本の検察が今回自浄して再生できるとしたら、それは塚部検事のお陰かもしれません。


ところで、今回の内部告発検事の一人である國井検事は、最初にFDを調査して更新日が6月1日であることを当初から認識していた検事です。その事実を知った後に村木さんの取り調べを行っています。すでに見立ての矛盾に気付いていながら、よくもぬけぬけと取り調べができるものです。
さらに、10月3日朝日新聞によると、
「前田検事は改ざんから数日後に、同僚検事に告白。今年1月末の村木氏の初公判でデータが問題となったのをきっかけに、この同僚検事が公判担当の検事に打ち明けたことで、大坪前部長と佐賀前副部長も知ることになった。」とあります。
この「同僚検事」が國井検事だとしたら、國井検事がFDの改竄を知ったのは公判開始後ではなく村木さん逮捕前後です。改竄を知りながらしゃあしゃあと村木さんを取り調べていたことになります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする