弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

分割出願とシフト補正禁止

2009-10-08 21:13:30 | 知的財産権
平成18年特許法改正により、同法の施行日である平成19(2007)年4月1日(以下「18年法施行日」)以降の特許出願については、いわゆるシフト補正が禁止される(特17条の2第4項)とともに、分割出願については1回目の拒絶理由通知が「最後の拒絶理由通知」となる場合があります(特17条の2第5項、50条の2)(分割制度の濫用防止)。

今回話題にするのは、「分割出願であって、もとの出願は18年法施行日以前の出願であり、分割出願が18年法施行日以降の出願であった場合、分割出願には、上記規定が適用されるのか否か」という点です。
問題をさらに2つに分けます。
[1]分割出願が分割要件を満たしている場合
[2]分割出願が分割要件を満たしていない場合

[1]分割出願が分割要件を満たしている場合には、問題はさほど複雑ではありません。特許法44条2項で、分割出願はもとの特許出願の時にしたものとみなされますから、18年法施行日以前の出願とみなされ、シフト補正の禁止、分割制度の濫用防止のいずれも適用されないはずです。

念のため、特許庁に問い合わせてみました。
結論は、「分割出願が分割要件を満たしている場合には、分割出願日が遡及するので、もとの出願が18年法施行日以前の出願であれば、シフト補正の禁止、分割制度の四用防止のいずれも適用されない」ということでした。

次に[2]分割出願が分割要件を満たしていない場合です。
分割出願を行う場合、従来から私は、「もとの出願と全く同じ明細書・特許請求の範囲のものを、分割出願とする」方針をとっています。そしてその後の補正で、もとの出願で特許を取得する発明とは別の発明を選択することとしています。
分割出願で出願日がもとの出願日に遡及するのは、あくまで「分割出願ともとの出願の両方に記載されている発明」に限られます。そうであれば、分割出願の内容を元の出願の内容と完全一致させた場合が、出願日の遡及効を受けることのできる最も広い範囲となるからです。

しかし、このような形態で分割出願を行った場合、分割出願当初の特許請求の範囲の記載は、分割要件を満たさない可能性が高くなります。
分割出願に関する審査基準(pdf)において、分割要件のひとつに「②-2 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと」があります。分割出願をもとの出願のデッドコピーとした場合、この分割要件に牴触する可能性があります。

さて、分割出願後に自発補正を行い、請求項の一部を削除等して分割要件(②-2)を満たすようにすれば問題はありません。
しかし、自発補正の前に拒絶理由通知を受けてしまった場合はどうでしょうか。
拒絶理由通知では、「分割出願は分割要件を満足しないので、独立の出願として扱う。18年法施行日後の出願なので、シフト補正は禁止される。」とのスタンスです。
これに対し、請求項1から始まる最初の請求項を削除し、後の方に記載された請求項を残すような補正を考えます。これは明らかにシフト補正です。
しかし、補正が認められれば、補正は出願時になされたとみなされ、補正後の明細書等は分割要件を満たしていますから、出願日はもとの出願の出願日に遡及し、シフト補正は禁じられなくなります。
以上の考え方に従えば、シフト補正であっても補正は認められることになります。

ただし、「補正書提出時には補正要件違反であったのに、補正提出後にその瑕疵が治癒する」と本当に安心して良いのでしょうか。

そこで、この点についても特許庁に確認してみました。
その結果、特許庁審査基準室から
「分割が適法に行われていない場合には、出願日は遡及しません。その結果、出願日が平成19年4月1日以降となる場合には、特許法17条の2第4項及び特許法50条の2が適用される可能性はあります。
ただし、その後の補正により、分割要件を満たした場合には、出願日が遡及することになり、その結果、平成19年3月以前の出願日となれば、上記拒絶理由は解消することになります。」との回答を得ることができました。
まずはお墨付きが得られて一安心ということです。

良く考えてみると、補正が補正要件違反であっても、補正却下されない限り、補正によって補正が出願日にされたことになるので、瑕疵が治癒することは妥当でしょう。
問題は、補正要件違反によって補正却下される可能性があるかないかです。
分割出願について、審査官が特17条の2第5項、50条の2に基づいて最初に「最後の拒絶理由通知」を発した場合、補正要件違反だと特53条によって補正却下されてしまうので問題です。
この点についても、「審査官が分割要件違反と認めれば50条の2の通知は出さないから、補正却下されることはない」「審査官が分割要件違反でないと認めれば、分割出願日がもとの出願日に遡及するのでシフト補正禁止も50条の2も適用されない」と考えれば、補正却下される可能性はない、という結論で問題ないということでしょう。

取り敢えずは安心することにしました。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 民主党政権の公務員制度改革 | トップ | コーチ21・五十嵐朝青さん »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (のり)
2012-06-21 10:50:01
はじめまして、しらべものをしていえて、ブログにたどり着きました。
いきなりの質問で、大変失礼しますが、
ご存知でしたら教えていただけませんか?

拒絶理由の根拠条文等見ても分割について記載されているわけでは、ないように思います。
分割要件を違反(例えば、新規事項を追加)した場合、出願日が遡及しないだけで、権利取得できる場合もあるのでしょうか。
返信する
分割要件違反の場合 (snaito)
2012-06-21 15:27:03
のりさん、こんにちは。

分割出願が分割要件違反であり、補正によっても違反が治癒しなかった場合ですね。
おっしゃるように出願日が遡及しないだけです。
一般に、分割出願はほとんどの場合原出願から1年半経過後になされることが多いので、出願日が遡及しないと、原出願の公開公報によって拒絶されていまいます。1年半経過前の分割出願であれば、原出願で拒絶されることはないので、権利取得できる場合もあるでしょう。
返信する

コメントを投稿

知的財産権」カテゴリの最新記事