弁理士の日々

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セキュリティ・クリアランス

2023-02-14 22:50:41 | 歴史・社会
先端技術扱う民間人の身辺調査、政府が検討 借金の有無や家族情報
2023年2月14日 朝日新聞
『政府は、先端技術を扱う民間人の身辺調査をする「セキュリティークリアランス」(適性評価)の導入の検討を始める。14日に開いた経済安全保障推進会議で、岸田文雄首相が高市早苗・経済安全保障担当相に検討のための有識者会議設置を指示した。
首相は「情報保全強化は同盟国や同志国などとの円滑な協力のために重要なほか、制度を整備することは産業界の国際的なビジネスの機会の確保や拡充にもつながることが期待できる」と述べた。有識者会議では1年ほどかけて調査の対象や内容などを議論する。
適性評価は2014年施行の特定秘密保護法に基づく制度で、防衛、外交などの特定秘密を扱う人を対象とする。借金の有無や家族情報について政府の調査をクリアした人だけが情報を扱えるようになる。
適性評価は多くの欧米主要国で実施されているが、日本ではプライバシー保護の点から慎重論もあり、昨年成立した経済安保推進法では先端技術を扱う民間人について導入が見送られた。中国への技術流出を防ぐ必要性が指摘される中、国際ビジネス取引を円滑にするため産業界から導入を求める声が上がっていた。』

首相、機密扱う資格の創設検討を指示 「同盟国との協力に重要」
2023年2月14日 日経
『岸田文雄首相は14日、安全保障に関わる機密情報を扱える人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の創設に向けた検討を指示した。高市早苗経済安全保障相のもとに有識者会議を設け、制度設計の議論に入る。2024年の通常国会への法案提出を視野に入れる。』
『セキュリティー・クリアランスは機密情報を扱える資格者を認定する制度を指す。安全保障上の重要な情報を扱う前提とすることで先端技術や機密の漏洩を防ぐ狙いがある。米国や英国といった主要国が導入している。』
『情報の保護を巡っては14年に施行した特定機密保護法に基づく「適性評価」もある。これは公務員が主な対象で、民間人材にも広く適用できる資格制度をつくるべきだとの指摘があった。』

セキュリティー・クリアランスについて、朝日新聞の上記記事はねじ曲げた解釈になっていますね。
「セキュリティー・クリアランス」と特定秘密保護法の「適性評価」をごっちゃにしています。その上、「民間人の身辺調査をする」との解釈です。『朝日新聞は、プライバシー保護の点から「民間人の身辺調査をする」ような「セキュリティー・クリアランス」導入に反対である』との意思表示のようです。

「セキュリティー・クリアランス」について、私は最近以下の書籍で飯柴智亮さんの意見を読んだところです。
米中激戦! いまの「自衛隊」で日本を守れるか

この本は、飯柴智亮さんと藤井厳喜さんの対談本です。この本で飯柴さんはあまり主張をしていません。唯一、日本でのセキュリティー・クリアランスの必要性について強く主張しています。
『セキュリティ・クリアランス(国家の機密情報にアクセスするための資格)のシステムを構築しなければ絶対に駄目。何も始まりません。』
『国際的に日本が軍事の核心に関われない決定的な理由はここにあるんです。』
情報のレベルが、アメリカの場合、「アンクラスィファイド(非機密)」「シークレット」「トップシークレット」に分類され、それぞれにアクセスできるクリアランスが設けられています。
申請した人間の「バックグラウンド・チェック」をするなど、かなり手間が掛かるので費用が掛かります。
『このシステムをつくらないと、国際的に、特にアメリカには相手にされません。機密情報にアクセスできませんからね。このシステムのつくり方をこそ、アメリカに倣わなければなりません。』
『アメリカではクリアランスのシステムは民間にも統一されています。民間防衛産業のエンジニアもクリアランスを取らなければ働けません。』

上記新聞記事では、セキュリティー・クリアランスが必要なのは民間人であって、公務員は特定秘密保護法の「適性評価」を受けているから必要ない、と述べているようです。
しかし、飯柴さんによると、セキュリティー・クリアランス制度がない日本では、公務員といえども米国の機密情報にアクセスすることはできません。
アメリカ流のセキュリティー・クリアランスと、日本の特定秘密保護法の「適性評価」とは、全く別物である、と理解する必要があります。

《セキュリティー・クリアランスの審査で重視されること》
一番重視されるのは借金をきちんと返済しているかどうかと言うこと。
次にチェックされるのが渡航歴。
配偶者の国籍・出身地
自分のことを知っている人間を最低二人書く。抜き打ちでインタビューを受ける。

朝日新聞は、「先端技術扱う民間人の身辺調査、政府が検討 借金の有無や家族情報」としていますが、スタンスが違っています。政府が勝手に身辺調査を行うのではなく、クリアランスが欲しい人が申請し、申請があった人のみについて調査を行うのです。申請しなければクリアランスがなく、機密情報にアクセスできないだけの話です。

日本では、「国会議員に機密情報を伝えると外に漏れてしまう」ということで有名です。日本の国会議員こそ、秘密情報を入手したいのであれば、セキュリティー・クリアランスを取得することが必要でしょう。政府の役人も同様です。

飯柴氏は『こういうことを知っている日本人はほとんどいません。セキリティ・クリアランスを持っている人間で、こうしてしゃべっている日本人は今、おそらく自分1人だけですから。』と述べています。それが本当だとしたら、政府が設置する有識者会議に、飯柴氏を呼ばなければなりません。
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