弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

従軍慰安婦決議

2007-08-02 21:28:58 | 歴史・社会
米下院本会議で、旧日本軍の従軍慰安婦について「対日謝罪要求決議案」が採択されました。
決議の内容について、例えばニュースは以下のように伝えています。
「米下院本会議は2007年7月31日未明(日本時間)、旧日本軍によるいわゆる従軍慰安婦問題で日本政府に公式に謝罪を求める決議案を可決した。決議案は1月末にマイク・ホンダ議員が提出したもので、2007年6月27日(日本時間)には米下院外交委員会で可決された。決議案は、旧日本軍の「強制集団売春制度」によって、「集団レイプ」「堕胎の強制」が行われたとするもので、「残虐性に前例がない」「20世紀における最大の人身売買の一つ」などと断じられている。さらに、本会議での可決が決まった翌日の米国では、ラントス下院外交委員長が、「(日本での)性奴隷の徴用を否定する試み」について「吐き気をもよおす」とまで批判していることなどが報じられている。」

私自身、従軍慰安婦の実態について本当のことはほとんど知りません。いくつかの書籍を通じて、概略をなぞっているのみです。しかしそれにしても、ナチスのホロコーストと並び称されるような大規模な残虐事件でなかったであろうと推定できます。私よりももっと無知であろう米国人から、そこまで言われる筋合いはないように思われます。

委員会で可決されたときは、無性に腹が立ち、胸くそが悪くなりました。しかし良く考えると、これこそが「偏狭なナショナリズム」の萌芽であるように思われます。こうして国家間の憎しみが増幅されていくのかもしれません。
そうこう考えていたら、本会議での議決があっても何とか平常心で対応することができました。

しかし、日本国民の皆さんは、やはりこの決議には我慢ができないでしょうね。
上のニュースでは、各新聞紙の社説を比較しています。私も、日経と朝日の社説は読みました。
日経を含め、朝日以外のすべての主要国内紙が批判しているようです。日経では
「米側での対日イメージの低下や日本国内での反米感情の高まりにつながりかねない動きは、双方にとって有害である」とあります。


われわれが考える上で、根底としてあるのは、従軍慰安婦問題について「実際はどうだったか」がクリアーになっていない点です。
全体で何人ぐらいの人が従軍慰安婦として就業していたのか。平均就業期間はどの程度だったのか。日本人、台湾人、朝鮮人、満州人の人数比率はどうだったのか。各出身毎で、どのような人たちが連れてこられたのか。騙されて連れて来られた人はどの程度の比率だったのか。騙したのはどんな人たちなのか。

従軍慰安婦を診察した軍医の記録によれば、特に朝鮮から連れてこられた人の中に、素人が騙されて連れてこられた人が多いように思います。
軍医として従軍慰安婦の健康を管理していた医師の記録が、「昭和陸軍の研究」にも登場します。日本人9人、朝鮮人4人、中国人2人の女性を診た医師によると、女性の大半は仕事の内容を承知しているが、朝鮮人2人は、このような仕事とは思わずに連れてこられたと話しています。そうしたケースは、軍による強制連行か、女衒によるものかははっきりとはわかりません。また、中国に送られた婦女子百余名(朝鮮人女性と日本人女性)の健康診断を行った別の軍医によると、朝鮮や北九州で募集された女性であり、日本人女性はその筋の職業に従事した者が多かったのに対し、朝鮮人女性には肉体的には無垢を思わせる者がたくさんいた、ということです。

現地の日本軍首脳も、そういった事実は知っていたと考えるのが妥当でしょう。知っていながら、騙して連れてくることを阻止しなかったのですから、やはり責任は免れません。

ただし、河野談話はいただけませんね。
「いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。」
「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」

これでは、「官憲自身が、甘言、強圧によって本人たちの意思に反して集めた」と読めてしまいます。
何を証拠にこのような文言が採用されたのか。
西岡力東京基督教大学教授が、外政審議室の人に「『河野談話』の官憲等という記述は何なのか」と質したところ、「これはインドネシアにおけるオランダ人を慰安婦にした事例だ」と答えたそうです。
オランダ人女性の例は、「大多数の従軍慰安婦」とは事例が異なりますから、分けて考えるべきです。これを一緒くたにしてしまった結果として、「大多数の従軍慰安婦において軍の強制連行があった」と取れるような談話になってしまったのです。

一方で、河野談話が日本政府の正式コメントとして採用された以上、安易にこれを否定することは問題をこじらせるだけです。河野洋平この野郎!とは思いますが、河野談話を継承していくしかありません。
その点、日本の超党派議員らによるワシントンポスト紙全面広告はまずかったです。

ところで、河野談話のあと日本は、「アジア女性基金」を創設して償いを実行してきました。私は読んでいないのですが、「諸君!」7月号の対談で取り上げられているようです
「そのアジア女性基金ですが、今年3月末をもって12年間の歴史に幕を閉じました。この間、日本国民から5億円余の寄付を集めて韓国、台湾、フィリピンなどの元慰安婦計285人に一人当たり200万円を届け、アジア各地で施設の建設や、住宅改善、医療・医薬品補助等の償い事業を提供してきました。毎年4億円程度の政府予算も計上され、合計すると50億円前後の国費を投入したことになり、日本政府としてはかなりの大事業だったわけです。しかし、今回の慰安婦騒動をみると、この12年間の業績がまったく評価されていないのではとの印象を受けます。」
基金サイドが、基金について広報活動を行おうとすると、日本政府が反対したそうです。
「ところが日本政府は、基本的にこうした広報活動を基金に許さなかったのです。われわれが広報活動をやろうとすると、政府はほとんど反対しました。要するに、政府としては「慰安婦」という言葉に触れること自体を避けたかったのでしょう。12年間、「目立つことは一切やってくれるな」という意思が、ありありと伝わってきました。」

残念なことです。
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