行き着けなくても一日一歩の気構えで。たそがれおやじの覚醒。
日暮れて途遠し



編集長、スタッフが替わって誌面一新の「諸君!」7月号の白眉の対談です。
9章から成る長大な内容ですが、ここでは「訴訟、また訴訟の怪」「アジア女性基金は何を残したか」の2つの章を紹介させていただきます。
ここに書いてあることは多分殆どの人は知らない内容なのではないでしょうか。私も大変参考になりました。特に「アジア女性基金」については、以前に佐藤優氏が触れていたことがあった(下記参照)のですが、細かい内容はありませんでした。今回の対談の結論は佐藤さんの指摘と一致しているようです。

★ 佐藤優氏の週刊アサヒ芸能連載「ニッポン有事!」第12回(3/29号2007/3/20発売)
<米下院「慰安婦問題」は中国少数民族政策に突破口>
(前略)
日本政府は宣伝戦が下手だ。保守主義の原則は、日本政府が過去に行った声明や約束は、現在の為政者にとって気に入らないものであっても、継承し、その上で変容を図っていくところにある。河野官房長官談話は政府として行ったものだ。従って、まずはそれを継承するという前提で宣伝戦を組み立てればよい。
ここで重要なのが慰安婦に対する謝罪文の交付と金銭的補償を行った「アジア女性基金(女性のためのアジア平和国民基金)」について、アメリカの政治エリートに正確な認識を持たせることだ。同基金は基本的に役割を終えたとして今月末(2007/3末)に解散する。「アジア女性基金」の専務理事をつとめている和田春樹東京大学名誉教授をアメリカに派遣して同基金の活動について説明させれば、アメリカの有識者の理解を得ることが出来る。
「アジア女性基金」については左派・市民派は日本国家の責任をあいまいにするものだと非難し、右派・国家主義陣営は自虐史観が体現された組織だと忌避反応を示すが、そのような左右両翼方法が満足していない基金の実態をそのままアメリカ人に説明すればよい。
そこから日米の有識者の間で慰安婦問題を巡る建設的な対話が可能になると思う。
(後略)

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「従軍慰安婦」置き去りにされた真実
日米首脳の露骨な政治決着をどうとらえるか。
対立する研究者が一堂に会して白熱の討論

諸君!2007.7月号

荒井信一
1926年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。茨城大学教授、駿河台大学教授等を歴任。現在は「日本の戦争責任資料センター」共同代表を務め、元慰安婦への公式謝罪と個人補償を日本政府に求める活動に従事している。著書に『歴史和解は可能か』(岩波書店)など。

大沼保昭
1946年山形県生まれ。東京大学法学部卒業。現在、東京大学大学院法学部政治研究科教授。「アジア女性基金」設立時の呼びかけ人を務め、基金による償い事業に参画。著書に『「慰安婦」問題とアジア女性基金』(共著、東信堂)『人権、国家、文明』(筑摩書房)など。

秦郁彦
1932年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。大蔵省財政史室長、千葉大学教授、日本大学教授等を歴任。97年から99年まで「アジア女性基金」資料委員会委員を務める。著書に『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)、『昭和史の謎を追う〈上・下〉』(文春文庫)など。

● 慰安婦問題「第三の波」…略
● マイク・ホンダのリベンジ…略
● 安倍総理の「一知半解」が招いた失敗…略

◎ 訴訟、また訴訟の怪

秦) 少し前の話に戻ります。戦争犯罪を追及する運動には訴訟がつきものですが、これが私にはどうもわからない。講和条約で解決済みとされている以上、実際に勝てる見込みは限りなく低いはずです。いくら「へイデン法」があるからといって、運動体や議員が講和条約を知らないわけがないでしょう。条約を州法で覆せると思っているのでしょうか?あるいは、さきほどのローラパッカー議員のように、講和条約の解釈を変えられる余地があると踏んでいるのでしょうか?

大沼) 講和条約締結後も個人の請求権が認められるかという問題は、国際法学者の間でも見解が分かれます。「国家の講和と個人の請求権は別」と強く主張される学者もおり、学学問的には議論の余地がある問題です。個人補償を求める運動体や議員は、そのような解釈に依拠して主張を繰り広げています。しかし、反対の学説も強い。特に、判例は圧倒的に反対説が強い。

秦) ところで、国際法では「時効」という概念は通用しないのですか?

大沼) 厳密に言えば、時効について規定している条約は極めて少ない、というべきでしょう。戦争犯罪と人道に反する罪の時効を否定する「戦争及び人道に対する罪に対する時効不適用条約」(1968年、国連総会決議で採択)が有名ですね.西ドイツはこの条約を批准して、国内法でもナチスによるユダヤ人迫害などには時効がないとしています。日本の裁判ではむしろ国内法を根拠に個人の請求権が争われ、ここでは時効は請求の大きな壁になります。

秦) しつこいようですが、それでも訴訟を起こすからには、運動体の側にも何らかのメリットはあるんでしょう?

荒井) 米国でナチスに加担したドイツ系企業をヘイデン法で訴えた際は、巨額の補償が認められましたから、弁護士も非常に儲かったようです。そうした実利もあって、米国の法曹界も力を入れたという側面は否定できません。

秦) なるほど。逆に言えば、対ドイツの訴訟でおいしい思いができたのに、なぜ対日本の訴訟では旨みがないのかという不満が法曹界に残り、それも不完全燃焼感として残されたのかもしれませんね。
一方、日本国内での訴訟の場合、国家無答責、時効、条約の存在など二重、三重の壁があって、米国内での訴訟よりもさらに難しい条件での戦いを強いられることになります。勝ち目があるとは到底思えないのですが、なぜ国を相手取った訴訟が次々に起こされるのでしょうか?勝訴した例は皆無なのに。
運動体の弁護士が「勝ち目があるよ」と原告になる被害者をだまして訴えさせているのかと勘繰りたくもなりますが……。

大沼) 勝てる見込みが非常に低いことは疑いありません。私自身、七○年代から八○年代にかけて、指紋押捺制度など在日韓圏・朝鮮人永住者の権利制限を撤廃させる運動に関与しましたから、自らの体験をもってそう言えます。法的な観点からみて一番裁判で勝てる可能性が高いのは、在日韓国・朝鮮人の元軍人・軍属の年金問題でした。かつては大日本帝国の軍人・軍属として同じ仕事をしていたにもかかわらず、戦後は日本人でなくなったという理由で年金が貰えないとなれば、こんな不公平な話はありません。フランス政府が、戦前の植民地であるセネガルの軍人・軍属に年金を支払わなかったケースで、フランスは自由権規約委員会で違法と認定されました。
ところが、一番勝てるはずの軍人・軍属の年金問題でさえ裁判で勝てなかった。在日韓国・朝鮮人の軍人・軍属による請求は、最終的にすべて棄却されています。ことほど左様に、日本の裁判所は保守的なんです。

秦) なぜ、それでも訴訟が続くんですかね?

大沼) それはメディアの報道と、それによる世論の高まりを期待しているからです。たとえ裁判で勝てなくても、メディアが大々的に報道することによって政府に対する圧力になるだろうという目論見があります。迂遠な作戦ではありますが、これが奏功することも多々あります。
たとえば指紋押捺拒否運動。裁判では敗訴し、押捺拒否者の逮捕も相次ぎましたが、メディアの報道で世論が喚起され、ついに92年に条項は撤廃されました。また、サハリン残留朝鮮人の帰国問題も同様で、裁判では負けたけれども、原文兵衛、五十嵐広三等、超党派の国会議員の働きかけで行政が動き、最終的には千四百人を韓国に帰還させることができました。
しかし、裁判は時間がかかりすぎるため、裁判に訴えてメディアの注目を集めようという手段は必ずしも有効ではありません。指紋押捺の場合は関係者が若かったため、十年間闘うだけの余裕がまだありました。在日韓国・朝鮮人の原告たちが公判途中に亡くなるなどということはまずなかった。ところが慰安婦問題では、裁判に十年以上もかかって、その間相当数の原告が亡くなっています。弁護団は、国連人権委員会に提出された「クマラスワミ報告書」(96年)が慰安婦制度を国際法違反であると指摘し、日本政府は慰安婦に対して賠償すべしと勧告していることに着目して、クマラスワミ報告書を盾に圧力をかければ日本政府は屈服するだろうとのプランを描いていたようですが、これは完全な作戦ミスですね。弁護士たちの間には、同報告と国連に対する過大な幻想があったのでしょうが、それにすがりついて十年以上も勝ち目のない裁判を続けた挙げ句、裁判では全面敗訴、原告も裏切られた気持ちで亡くなってしまっては、元も子もありません。
そのような理由から、私は慰安婦問題で裁判闘争を中心に据えることには否定的でした。だからこそ、和田春樹さんとアジア女性基金をつくったわけです。


◎ アジア女性基金は何を残したか

秦) そのアジア女性基金ですが、今年3月末をもって12年間の歴史に幕を閉じました。この間、日本国民から5億円余の寄付を集めて韓国、台湾、フィリピンなどの元慰安婦計285人に一人当たり200万円を届け、アジア各地で施設の建設や、住宅改善、医療・医薬品補助等の償い事業を提供してきました。毎年4億円程度の政府予算も計上され、合計すると50億円前後の国費を投入したことになり、日本政府としてはかなりの大事業だったわけです。しかし、今回の慰安婦騒動をみると、この12年間の業績がまったく評価されていないのではとの印象を受けます。
これでまた振り出しに戻るのかと思うと正直ウンザリしますが、アジア女性基金が評価されていないのは、果たして日本政府の責任なのでしょうか? あるいはアジア女性基金の運営に関与した人々の責任なのか……。大沼さんは基金設立の最初の段階から「呼びかけ人」として関与してこられましたが、その点の認識はいかがですか?

大沼) 今回の対日決議案が出る以前から、韓国で相当数の元慰安婦が受け取りを拒否したことなどをもって「アジア女性基金は失敗だった」という意見をたびたび開かされてきましたが、それには肯きかねます。基金は総勢364人の被害者に償いを実施しました。
これを少ないと見る人もいるかもしれません。しかし、講和条約で解決済みとされている以上、政府が自発的に個人補償する可能性はない。訴訟をしても勝ち目はない。被害者はみな高齢である。こういう厳しい条件の下で、アジア女性基金以上のものを望めたでしょうか?全国的規模で数十万の方々が献金し、合計364名の被害者が総理のお詫びの手紙と、被害者の国の物価水準からみれば日本での数千万円に当たる償いを受け取り、涙を流して喜んでくれた。これが失敗だというのなら、政府もNGOも、右も左も、私も奏さんも荒井さんも、みな等しく責任を負うべきでしょう。
アジア女性基金の業績は、ドイツを含めた他の国々と比較しても、決して見劣りするものではなく、胸を張ってよいものだと思います。ただ、それが世界に理解してもらえなかったのは、日本政府とアジア女性基金の広報能力に決定的な欠陥があったからだと思います。

秦) たしかに、基金の活動についてはずいぶん誤解も多いですね。たとえば『世界』(六月号)で事情通の山崎朋子氏でさえ「(韓国で)償いの金を受け取ったのは(中略)わずかに7人だけ」「名告り出ても法人側の審査がきびしくて、窮極のところ貰えない」と書いていますが、わずかに7人とか審査が厳しいというのは事実誤認もいいところです。しかし、基金の側も積極的に情報公開してこなかったから、この種の誤解を招いた面があるのではないか。お金を寄付してくれた国民のためにも、最低限、国別に何人受け取ったかという数字ぐらいは公表すべきだったんじゃないですか? 韓国は表向き7人ですが、実際は50数人が秘密裏にもらっていると聞きました。

大沼) そのような誤解が生じたことについて基金にも大きな責任があることは、私も率直に認めます。しかし、韓国○人、台湾△人などと単純に人数を発表するわけにはいかない深い事情があるのです。とりわけ韓国では反日的な主張を掲げる「挺身隊問題対策協議会」(挺対協)が大きな影響力を持ち、「基金から償い金を受け取るな」というキャンペーンを張っているため、基金から受け取った被害者の方々は凄まじい社会的圧力に晒されてきました。ですから、私は韓国で基金から受け取った被害者の数を言うつもりはありません。「韓国で受け取った人が何人」と公表すれば、その数は挺対協が考えていた人数よりはるかに多いわけで、「裏切り者探し」が始まるでしょう。

秦) たしかに挺対脇による「いじめ」はあるようです。挺対協の尹貞玉共同代表は「同情金を受け取ったら、被害者は志願して出ていった公娼となる」(97年2月27日「市民連帯国際セミナー」での発言)とまで言い、基金から受け取った被害者たちをことあるごとに痛罵しています。しかし、むやみに挺対協を恐れていても始まらないでしょう。こちらとしては名前を公表するわけじゃなし、活動の具体的イメージを世間に周知させるためにも、人数ぐらいは公表すべきです。そうした作業を怠ってきたからこそ、「基金は無駄だった」という議論を誘発していると思いませんか?
被害者も、多少のいじめぐらいはビクともせず言い返しています。むしろ韓国政府の支援金と女性基金の両方をもらおうというしたたかな人もいるし、挺対協はフェミニズムのイデオロギーからつっぱっているにすぎません。

大沼) 秦さんはご存知ないでしょうが、挺対協やキリスト教関係のNGO、さらに確信犯的なジャーナリストの韓国内における影響力は、われわれの想像を絶していますよ。基金のイメージを上げることよりも、被害者を守ることの方が大事ではないですか。べつに基金は悪者でもいいんですよ。

秦 うーん、こうもややこしいことになるのであれば、やはり最初から純民間同士の慈善活動としてやればよかったんですよ。5億円のお金を配るのに、事務費に税金を50億円も使ったと知れば、国民は怒りますよ。

大沼) では逆にお訊きしますが、すべて民間でやったところで果たしてどれだけのお金が集まりますか? たとえば、一人の被害者あたりたった十万円の償い金で、被害者が満足すると思いますか? リアリストを自称される奏さんらしくない、じつに非現実的な話です(怒)。アジア女性基金が償いをやったからこそ、日本政府だって不当な批判に反論できるし、日本の道義性はかろうじて守られたのですよ。

荒井) まあまあ(苦笑)。ところで今回の決議案ですが、米下院の外交委員会に提出された趣旨説明の最後の部分で、アジア女性基金について言及されています。その内容を見て
みると、〈慰安婦の虐待および被害の償いのための計画と事業の実施を目的として日本政府が主導し、資金の大部分を政府が提供した民間基金・アジア女性基金の権限は2007年3月31日に終了し、基金は同日付で解散される。それゆえ、以下、下院の意思として決議する……〉とした上で、日本政府に対する四項目の要求に続くわけです。この書きぶりからは、基金についての評価を決めかねているような迷いも窺えます。おそらく、ホンダ議員をはじめ米国側には基金に対する情報が行き渡っていなかったのではないでしょうか。そう考えると、基金は積極的に情報公開しても良さそうな気がしますが。

大沼) 私の意見は少し違います。基金が積極的に取り組むべきだったのは、国別の給付人数などの統計的・データ的数値を企業のIR活動のように公表することではなく、基金の趣旨と活動についての理解が広く世界に行き渡るような広報活動だったと思います。たとえば、基金がつくられた時の国民への呼びかけ文や総理から被害者へのお詫びの手紙などを、英語、韓国語へ中国語、タガログ語などに翻訳し、メディァを通じて大々的にアピールする。そうすることで、基金の理念や具体的な活動の一端を多くの人々にじかに知ってもらえたはずです。
ところが日本政府は、基本的にこうした広報活動を基金に許さなかったのです。われわれが広報活動をやろうとすると、政府はほとんど反対しました。要するに、政府としては「慰安婦」という言葉に触れること自体を避けたかったのでしょう。12年間、「目立つことは一切やってくれるな」という意思が、ありありと伝わってきました。
アジア女性基金が必死に償い活動に従事していたこの12年の間にも、韓国や日本の一部メディアによって慰安婦に関する歪んだ報道が流され、欧米にもネガティブな印象が定着していった。そんなネガティブな印象が定着してしまった後から、安倍総理が、「狭義の強制はなかった」などと言ったところで、反発を買うのは当たり前です。このように考えてみると、安倍総理は、過去12年間の日本政府の無為無策のツケを払わされているという面もあったと思いますね。

● 慰安婦とメディア…略
● 歪曲には断固「ノー!」を…略
● 日本政府の広報能力不足…略
● 本当の「国家の品格」を回復せよ…略


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