弁理士の日々

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NHK「日本海軍 400時間の証言」

2009-08-10 20:39:55 | 歴史・社会
NHKスペシャル、8月10日は「日本海軍 400時間の証言 第一回 開戦 海軍あって国家なし」でした。
サイトの番組紹介では以下のように紹介しています。
「太平洋戦争の開戦の鍵を握った大日本帝国海軍・軍令部。全ての基本作戦の立案・指導にあたり、絶大な権力を持った『軍令部』の実態は、資料が殆どなくこれまで闇に包まれていた。
「海軍反省会」。戦後35年が経過した昭和55年から11年間、海軍の中枢・『軍令部』のメンバーが中心となって秘密に集まっていた会合である。70~80代になっていた彼らは、生存中は絶対非公開を条件に、開戦に至る経緯、その裏で行った政界・皇族・陸軍などへの働きかけなどを400時間にわたって仲間内で語っていた。戦争を避けるべきだと考えながら、組織に生きる人間として「戦争回避」とは言いだせなくなっていく空気までも生々しく伝えている。・・・
当時の日本のエリートたちはなぜ開戦を決意したのか。
彼らが残した教訓とは何か。シリーズ第一回は太平洋戦争に突入していく経緯を当事者の証言から浮かび上がらせる。」

太平洋戦争当時に日本海軍の軍令部に出仕していた旧海軍参謀が、延べ400時間にわたって開催した「反省会」の記録テープを、NHKが入手しました。反省会に関与した幹事の一人が保管していたようです。録音当時は「公表せず」という申し合わせでしたが、出席したメンバーの大部分が帰らぬ人となった今、公表することに決めたのでしょう。
このテープを題材として、3回にわたってNHKスペシャルで放映するということです。

「新しく発見された一次史料」ということで、念のために第1回を視聴してみました。

全体の印象としては、まず、やはり一次史料ですから、テープの音声を聞いただけでは全体を整理することができません。ここは歴史家にテープの全体を聞いてもらい、その中から新たな事実などを抽出し、今まで分かっていた歴史を修正してもらうことが必要でしょう。その修正した歴史をわれわれが読むことにした方が効率的です。

それともう一つ、司会者は何度も何度も「国民の命のことを考えていない」と参謀たちを非難します。しかしその価値観は、現代の日本における価値観です。太平洋戦争当時に日本全体を支配していた価値観の元で検証を行わないと、歴史における意味づけを間違う可能性があるでしょう。
終戦直前、日本には「一億玉砕」という標語がありました。意味するところは、「日本の国民全員が死ぬまで戦争を続けよう」ということでしょう。国民全員が死ぬまで戦うって、一体何を守るための戦争なのでしょうか。たぶん「国体を守るため」当時の言葉で「国体の護持」が目的なのでしょう。そうまでして守らなければならない「国体」というものを、戦後生まれの私は理解できずにいます。
そのような当時の価値観を念頭に置かずに、当時の軍人たちの発言を評価しても、真相を究明することは困難であろうと懸念されます。

今回のNHK番組とオーバーラップする内容を述べた書籍として、私が所有しているのは、半藤一利著「ドキュメント太平洋戦争への道―「昭和史の転回点」はどこにあったか (PHP文庫)」の第7章「バスに乗った海軍--対米強硬論が制す」です。
「昭和15年(1940)9月は、日本が対米戦争への道を運命的に、大きく踏み出したときである。中国に対する援助ルートの遮断と、作戦上の必要から9月23日に北部仏印(北ベトナム=当時)に武力進駐を強行し、27日には日独伊三国同盟を締結した。」
「(昭和13、4年当時から)省部(海軍省と軍令部)には(三国)同盟推進派かつ対米英強硬派が勢力を拡大しており」「(昭和15年当時)部内の中堅層が『陸・外(陸軍と外務省)急進派の大勢におされ、これに盲従し、あるいは迎合して』いたのである。彼らはドイツの勝利を確信し、“ヒトラーのバスに乗り遅れるな”と、陸軍に吾して、つぎつぎと強硬策をうち立てた。こうして15年夏以来、海軍中央は“天皇の名代”伏見宮体制(伏見宮が軍令部総長)のもと、無定見な強硬論の支持する方向へと流されていった。」
(11月、山本五十六連合艦隊司令長官が及川海相を訪れ)「『たとえば、軍務局第二課長の石川信吾大佐のごときは、南部仏印進駐の由々しきことを次官(豊田貞治郎中将)に進言しているというが、あのまま放置しておけば大変なことになる』と迫っている。」
「15年12月12日、海相の認可を得て、海軍中央に『海軍国防政策委員会』が発足した。・・その中心になったのは第一委員会で、これが国防政策や戦争指導の方針を分担業務とした。委員は海軍省から高田軍務局一課長、石川同二課長、軍令部から富岡一課長、大野戦争指導部員の四大佐で、幹事役として藤井、柴、小野田の三中佐が配属された。」「高田利種大佐がのちに語った。『この委員会が発足した後の海軍の政策は、ほとんどこの委員会によって動いたとみてよい。海軍省内でも、重要な書類が回ってくると、上司から、この書類は第一委員会をパスしたものかどうかを聞かれ、パスしたものはよろしいと捺印するといったぐあいに、相当重要視されていた』」

半藤著書で、第一委員会が主導して海軍を対米戦争に導いていく状況が逐次語られています。
番組では、この第一委員会についての反省会での議論、伏見宮軍令部総長の問題議論、などが断片的に紹介されます。あくまで、当事者たちの断片的な発言に過ぎません。これら発言を、例えば半藤一利著の内容と照らし合わせ、新事実は発見されたか、従来の仮説を裏付けているか、といった観点で整理を行ってほしいものです。

NHKスペシャルの1回目を見たことにより、今回NHKが発掘した400時間のカセットテープの状況はだいたいわかりました。第2、3回はスキップすることにします。
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