弁理士の日々

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6月18日東電報告書(5)2号機-2

2011-07-09 12:57:14 | サイエンス・パソコン
第1報に引き続き、6月18日東電報告書「地震発生当初の福島第一原子力発電所における対応状況について」の2号機について解析します。

2号機では、15日6時頃に圧力抑制室付近で大きな衝撃音が発生し、同時に格納容器と圧力抑制室の圧力が急速に低下したことです。これにより、格納容器内のガスが一斉に外部に放出し、とてつもなく高い線量(1000μSv/h以上)が観測されるとともに、飯舘村や福島市が放射能汚染される原因となりました。

《2号機格納容器破損トラブルとベントとの関係》
2号機格納容器のベント準備が最初に整ったのは13日11時頃です。
「ベントライン」というのは、格納容器あるいは圧力抑制室から外気にガスを逃がすラインを意味します。ライン途中の弁を開くだけではベントは開始しません。途中に「ラプチャーディスク」というのが挿入されています。「破裂板」と訳すのでしょうか。内部の圧力が427kPaG(ゲージ圧で4.3気圧)以上になったらこの破裂板が破裂し、やっとベントが開始されるという仕組みのようです。

2号機の格納容器圧力推移は、5月23日東電報告書の図3.2.1.3.でわかります。
13日11時にベントラインが構成された後も、格納容器圧力は427kPaG(約530kPa abs)を超えません。そのためラプチャーディスクが破裂せず、ベントを実施することができていません。
格納容器圧力が思ったほど上昇しなかった原因を、5月23日報告書のシミュレーションでは「地震後21時間後に格納容器に穴が開いたため」と推定しています。

その後、14日11時に3号機建屋が水素爆発した影響で、ベント弁(AO弁)大弁が破損して閉じてしまいました。
爆発後、16時頃にAO弁大弁の開操作を実施しましたが作動用空気圧力が不足し、開けませんでした。そこでAO弁小弁を操作し「微開」としました。まだラプチャーディスクを破るまでの圧力に達していません。

14日22時50分頃、格納容器圧力が上昇を開始しました。上図では700kPa absを超えています。
ところがここで、妙な現象が発生しました。格納容器圧力は上がったのに、圧力抑制室の圧力は逆に低下したのです。これを6月18日報告書27ページでは「圧力が均一化されない状況が発生」と表現しています。これでは、圧力抑制室に通じるラプチャーディスクは破れません。
そこで、格納容器のベント弁(AO弁)小弁を開けるという方針を決定しました。15日0時2分にベントのラインナップが完成しましたが、報告書では「数分後に同弁が閉であることを確認」と記載されています。
ベントは実施されませんでしたが、格納容器圧力は750kPa abs程度で一定しています。ベントで下げることはできませんでしたが、高め安定で推移、という状況でした。

ところが15日6時頃、圧力抑制室付近で大きな衝撃音が発生し、その後、圧力抑制室圧力が0MPa absを示したのです。
「0MPa abs」はさすがに正しい圧力ではないでしょう。穴が開いたのであれば、圧力は0MPa gage、つまり0.1MPa abs程度となるべきだからです。格納容器圧力については、同じく破損後圧力が下がり始め、0.1MPa abs程度に落ち着いています。

15日6時頃の2号機圧力抑制室破損は、飯舘村、福島市の現在の放射能汚染の直接原因となったものです。その意味で、この破損は今回原発事故で最大の被害をもたらしました。しかし,格納容器圧力の設計上限は427kPaG(約530kPa abs)ですから、これよりも倍以下の圧力である750kPa abs程度程度で本当に圧力抑制室は破損する可能性があったのかどうか、極めて疑問です。設計上限には十分な安全係数がかかっているはずだからです。今後検証していくべきでしょう。

以上のような状況が報告書には開示されていますが、まだ謎だらけです。今後の情報開示を待つことにしましょう。
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