弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

タキトゥス「ゲルマーニア」

2006-09-15 00:18:48 | 趣味・読書
二千年前のヨーロッパを知る原典として、カエサル著「ガリア戦記」とともに、タキトゥス著「ゲルマーニア」が有名です。泉井久之助訳(岩波文庫)で読みました。
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ゲルマーニア (岩波文庫 青 408-1)
コルネーリウス・タキトゥス
岩波書店

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ガリア戦記で書いたように、二千年前、今の西ヨーロッパの大部分、ライン川の西側、ドナウ川の南側フィレンツェまで、及び現フランス、スペイン、イギリスを含む領域は、ローマ人がガリアと呼び、ガリア人が住む地域でした。カエサルのガリア遠征の結果として、ガリアのほぼ全域はローマの属州化しました。
一方、ライン川の東、ドナウ川の北側の領域は、ゲルマニアと呼ばれ、ゲルマニア人がやはり部族ごとに割拠していました。

ゲルマン民族というのは、もともとスカンジナビア半島からバルト海沿岸に住んでいたようですが、気候の変化か何かによってゲルマニア地方(ライン川東側ドナウ川北側の領域)に移り住んだようです。

ガリア人と異なり、ゲルマニア人は勇猛で戦闘的であったようです。カエサルは何回かライン川を越えてゲルマニア遠征を試みますが、最終的にライン川西側支配で満足します。カエサルの後のアウグストゥスのときには、ライン川東側に遠征して軍団が全滅するという悲劇にも見舞われます。結局ローマによる支配をゲルマーニアに及ぼすことはできませんでした。

ローマの歴史家のタキトゥス(紀元後55年頃~120?年)は、このころのゲルマン民族の起原・土地・習俗およびその民族について、「ゲルマーニア」を執筆しました。そして現代のわれわれはその本を翻訳書で読むことができます。

この本も、カエサルの「ガリア戦記」と同様、強い印象を植え付けられた本です。
ゲルマニア人が、森林と沼沢地域で非文明的な生活を営み、男は常に戦闘に従事し、各部族が独立心旺盛で誇り高く、贅沢を受け入れない生活をしている様子が、あたかも昨日のように彷彿としてきます。
一方では一夫一婦が徹底しており、不倫は御法度だったようです。
文明化したローマ人にとって、背が高く青い目を持ち、どう猛なゲルマン人というのは恐ろしかったようです。

私はこの本を読んだ後、町で青い目をした外人に出逢うと、「二千年前のあの野蛮でどう猛で誇り高いゲルマン人の末裔か」と思ってつい吹き出しそうになってしまいました。

19世紀から20世紀にかけての全世界は、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカという、かのゲルマン民族の末裔が建国した国々によって切り回されてきた感があります。
彼らゲルマンの末裔にとって、タキトゥス「ゲルマーニア」の存在は自分たちのアイデンティティーを立証する強い味方だったのではないでしょうか。その点は実にうらやましい限りです。
機会があったらゲルマンの末裔にその点について聞いてみたいと思っています。
コメント
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