弁理士の日々

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特許行政年次報告書2006年版

2006-09-17 00:22:17 | 知的財産権
9月15日、特許庁ホームページに特許行政年次報告書2006年版がアップされました。
〈統計・資料編〉第2章 主要統計(8)特許出願件数上位200社の出願・審査請求関連情報 には、出願上位200社の出願件数、審査請求率、特許査定率などの数値が詳細に紹介されています。

それぞれの数値については、業界毎の競業関係にある会社の数値を比較することが可能となるので、これから各社さまざまな議論が開始されることになるでしょう。

取り敢えず、審査請求率について着目してみました。
審査請求期限については、出願からの年数として定められています。2001年9月までの特許出願については出願から7年間でしたが、2001年10月以降の出願については出願から3年間に改められました。
その結果、例えば2005年については、1998年出願分の7年期間満了時であると同時に、2002年出願分の3年期間満了時でもあります。以前から、日本においては審査請求期間満了ぎりぎりに審査請求する案件が多いので、結果として、2005年あるいはその前年には、1998年出願分と2002年出願分の審査請求が重なってなされることになり、通常の2倍の審査請求件数があってもおかしくないのです。

特許出願件数上位200社の出願・審査請求関連情報 を見ると、審査請求率について2005年請求終了分として、「7年請求分(1998年出願)」と「3年請求分(2002年出願)」の2つの数値が並んでおり、両者を比較することが可能です。

資料の1ページ目には、出願件数が多い順に55社の数値が記載されています。この55社について、「7年請求分(1998年出願)」と「3年請求分(2002年出願)」の審査請求率を加重平均で求めてみました。
pdfファイルからエクセルファイルに数値を移植することができたので、エクセル上で計算を行いました。出願件数については、1998年、2002年いずれも、2002~2004年の平均値を用いました。
その結果、55社平均の審査請求率は、「7年請求分(1998年出願)」が54.1 %、「3年請求分(2002年出願)」61.6%という結果でした。7年請求分に比較し、3年請求分は7.5ポイントほど高い審査請求率になっています。

審査請求要否は、その発明が事業で役に立ったか否かを見極めてから決定できればベターです。発明完成から事業が軌道に乗るまでは長い年月が必要なので、出願から3年程度では見極めが完了しない場合が多いです。そのため、審査請求期間が3年に短縮された以降については、見極めがつかないためにやむを得ず取り敢えず審査請求をしておく、という案件が増えていると想定されます。
上記計算結果から、3年請求分が7年請求分よりも7.5ポイント高い審査請求率になりましたが、この差額が、まさに「取り敢えず審査請求」による増分であると思われます。

特許庁は、「最近になって審査請求件数が急増した」と問題視していますが、その原因の第1は審査請求期間が7年から3年に短縮されたために毎年2年分の審査請求がされているからであり、原因の第2は3年期限の出願については審査請求率が7.5ポイント高くなっているからです。

7年期限分と3年期限分とのダブりは、これから数年に限った現象であり、2008年10月以降は3年期限分のみが残ります。従って、審査請求件数急増については、この数年さえ乗りきればいいのです。
そして、3年請求分については、審査請求後に事業見通しが明確になって特許が不要になる案件が出てくるはずですから、そのような案件はその段階で審査請求を取り下げればいいのです。
さらに、「事業化の目途がまだたたないので、当面は特許は不要である」という案件については、審査請求はしたものの、審査を延期することが可能です。

6月21日に審査期間短縮対策案として提案したように、「この出願は権利化を急がないから、審査の順番を下げてもらって結構です」と意思表示させ(不急出願)、不急出願については審査の順番を後回しにする対策がやはり有効であるようです。
審査を後回しにしている間に事業化のめどが立ち、やはり特許は不要だとなったら審査請求を取り下げます。審査請求費用が全額返還されるというわけです。
コメント
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