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カエサル「ガリア戦記」

2006-09-13 00:00:16 | 趣味・読書
塩野七生著「ローマ人の物語」を読み進める勢いで、カエサル著「ガリア戦記」(國原吉之助訳、講談社学術文庫)を読みました。
ガリア戦記 (講談社学術文庫)
G.J. カエサル
講談社

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紀元前60年前後、ローマ本国は今のフィレンツェあたりまでであり、その北側はまだローマ本国ではありません。イタリア半島東北端の国境はルビコン川で画されています。カエサルの「ルビコン川を渡る」で有名になる川です。
今の西ヨーロッパの大部分、ライン川の西側、ドナウ川の南側フィレンツェまで、及び現フランス、スペイン、イギリスを含む領域は、ローマ人がガリアと呼び、ガリア人が住む地域でした。
紀元前60年当時、アルプス以南のガリア(現北イタリア)及び(現)南仏プロヴァンスのあたりは、ローマの属州(プロヴィンキア)になっていましたが、それ以外のガリアの領域は、ガリア人といわれる人々が部族ごとに割拠する領域でした。
ライン川の東、ドナウ川の北側の領域は、ゲルマニアと呼ばれ、ゲルマニア人がやはり部族ごとに割拠していました。

ところで、ローマ本国の市民権保持者と属州住民との差異は、
市民権保持者は納税の義務がないが兵役の義務がある
属州住民は十分の一税納付義務があるが兵役の義務がない
と表現することができます。
ローマ市民は税金を納めないかわりに自分の血を流すわけで、これが「血税」の語源だそうです。

紀元前58年から8年間、ガリア属州の長官だったユリウス・カエサルがガリア全域に遠征し、あるときはブリタニアやゲルマニアまで足を伸ばし、結果としてガリア全体をローマ属州にすることに成功します。この遠征記録をカエサル自身が執筆したのが「ガリア戦記」です。

ガリア戦記は「ガリア全体は、三つの部分に分かれていて、その一つにはベルガエ人が住み、もう一つにはアクィタニ人が住み、三つ目には、その土地の人の言葉でケルタエ人とよばれ、われわれローマ人の言葉でガリア人とよばれる民族が住んでいる。」との文章で始まります。
ベルガエとはベルギーと同義であり、ベルガエ人が住む領域も今のベルギー近辺です。アクィタニ人が住む地域はピレネー山脈の付近です。そしてその両方に挟まれた領域に住む人々がケルタエ人=ガリア人ということです。今のフランスのあたりが中心でしょうか。ケルタエはケルトと同義、ガリアはフランス語のゴールと同義のようです。

カエサルのガリア遠征については、「ローマ人の物語」と「ガリア戦記」の両方を読んだわけですが、なぜかガリア戦記の印象の方が強いです。今から二千年前の西ヨーロッパの情景が、あたかも昨日のできごとのように印象づけられました。

カエサルのガリア遠征は、どのように位置づけられるのでしょうか。ローマによるガリアの侵略・征服であると位置づけることもできます。
塩野氏は、カエサルが紀元後44年に暗殺された後もガリアで反乱が蜂起しなかったことを挙げ、ガリア人にとってもガリアのローマ属州化はそれほど悪いことではなかったのではないかと推測しています。
ローマ属州化により、ガリア諸部族の独立は失われましたが、ローマの笠の下にはいることで平和が訪れ、都市や道路・水道などのインフラが整備され、生活は豊かになっただろうと推測されます。それまでは、ガリア部族間の争いが絶えず、またライン川東側に住むゲルマン人の侵入に怯えて暮らしていましたが、ライン川をローマ軍団が守備することにより、その心配もなくなりました。
カエサルによる属州経営も優れていたようです。ガリア部族と講和が結ばれると、ガリア部族から人質を取ります。部族有力者の子弟です。この人質をローマに送り、ローマ貴族の家にホームステイさせます。これにより、ガリア部族有力者の跡取りを皆ローマ文明の肯定者に変えてしまうのです。

属州とローマとの防衛分担を日米安保条約、人質のローマホームステイをフルブライト留学生と置き換えれば、日本(ガリア属州)と米国(ローマ本国)との関係と似ていますね。

われわれの世界史の知識によると、このようにして、ガリア人が住み、ローマ文明に組み込まれたフランスのあたりの地域は、ゲルマン民族大移動の結果として、フランク王国が成立し、現在のフランスになったとされています。
二千年前のこの地域を昨日のようにイメージした私としては、ローマ化したガリアとしてのフランスと、ゲルマン部族であるフランク族が打ち立てたフランスとが、結びついていません。現在のフランスとは、どのような成り立ちなのだろうか、というのが次の疑問です。
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