<2843> 大和の花 (916) ヨモギ (蓬・艾) キク科 ヨモギ属
山野のいたるところに生え、普通に見られる多年草で、地下茎が横に這って繁殖し群生する。茎は紫色を帯びることが多く、白い毛が密生し、立ち上がって高さが50センチから1.2メートルほどになり、やや木質化する。葉は上部で披針形、または3裂し、下部では羽状に深裂して縁には不規則な鋸歯が見られる。葉の表面は緑色で、裏面は白い毛に被われ、灰白色になる。
花期は9月から10月ごろで、茎の先に大きな円錐花序を出し、小さな頭花を多数つける。頭花はミリ単位の管状花ばかりで、タンポポのような舌状花はなく、中心部に両性花、周辺部に雌花が位置し、キク科では珍しい風媒花として知られ、ともに結実する。実は痩果。
ヨモギ(蓬・艾)の名には、葉の綿毛だけを集めたものをもぐさ(艾)と言い、灸に用い、よく燃える意の善燃草(よもぎ)。また、よく繁殖するので四方草(よもぎ)など諸説がある。艾はヨモギの漢名。モチグサ(餅草)の別名があるが、これは風味のある春の若葉を搗き込んで草餅を作ることによる。この草餅のほか、食用としては浸し物、和え物、汁の実、てんぷらなど。また、ヨモギ茶やヨモギ酒にする。
薬用としても知られ、漢方では乾燥した葉を艾葉(がいよう)と呼び、煎じて健胃、下痢止めに、冷湿布してあせもや湿疹に用いる。また、浴湯料としても知られ、神経痛、リュウマチ、肩こりなどに効くという。独特の香があり、民間では生の葉の汁を虫刺されや切り傷につけ、乾燥した葉を喫煙し、喘息に用いるという。
また、前述したごとく、葉の綿毛を艾(もぐさ)にして灸に使用する。伊吹山は古くから艾(もぐさ)の産地として知られ、「けふも又かくや伊吹のさしもぐささらば我のみもえや渡らん」(『新古今和歌集』・和泉式部)などの古歌にも見える。
なお、ヨモギは古くから邪気を払う植物として『万葉集』にもショウブ(菖蒲)とともに髪の飾りにした歌が見える。言わば、ヨモギは万葉植物で、『枕草子』などにも貴重な植物としてとり上げられ、今も5月の節句に風習として用いられている。例えば、5月5日に行われる宇陀市大宇陀の野依白山神社の御田植祭には神社の本殿や祠の屋根にショウブとともにヨモギが上げられ、邪気祓いの風習が見られる。
一方、ヨモギは繁殖力が強く、生い茂るので、平安時代以降、ヤエムグラとともに荒れ果てた住居の様子などを表現するのに用いられるようになり、「これや見し昔住みけむ跡ならむ蓬が露に月のかかれる」(『新古今和歌集』・西行)というような歌も見える。なお、蓬はよく茂る草の意で、植物自体の意ではないが、ヨモギがよく繁茂するので、蓬の字が当てられたようである。
という次第で、良しにつけ悪しきにつけ、ヨモギは身近な植物で、古来より各方面に利用され、親しまれて来たということが出来る。 写真はヨモギ。左から花を咲かせた群落(曽爾高原)、道端に生え、花をつけた個体(広陵町)、花を咲かせた花序(二上山)、ショウブとともに祠の屋根に上げられた茎葉(野依の白山神社)。 秋に秋我に我ありつまりその
<2844> 大和の花 (917) カワラヨモギ (河原蓬) キク科 ヨモギ属
石がごろごろしている河原や砂地の海岸などに生える多年草で、高さが30センチから1メートルほどになり、茎の下部は木質化する。春先に出る茎は短く、白い絹毛に包まれた軟らかな根生葉が見られるが、その葉は間もなく枯れ、その後、花をつける花茎が伸び、よく分枝し、春先の葉と違って普通2回羽状に裂ける細い葉をつける。
花期は9月から10月ごろで、茎や枝の先に大きい円錐花序を出し、多数の頭花をつける。頭花は舌状花がなく、黄色い管状花のみで、直径2ミリほどの卵形になるが、花は総苞に被われ、緑色がかって見える。実は痩果。
本州、四国、九州、琉球列島に分布し、朝鮮半島、中国、台湾をはじめ、北はモンゴル、ロシア、南はネパール、ベトナム、マレーシア、フィリピンなど広く見られるという。大和(奈良県)では増水すると濁流に飲み込まれてしまうような大きい河川の河原や河川敷でときおり見かける。
漢方では全草を薬用とし、茵蔯蒿(いんちんこう)という生薬名で、ヨモギとは異なる薬効を有する薬用植物として知られる。中国最古の本草書とされている『神農本草経』に既に見え、風湿、寒熱、邪気、熱結、黄疸を治すとある。所謂、皮膚の痒み、強壮、黄疸の症状に効くという。 写真は河原に生えるカワラヨモギの株(十津川村の十津川)。 柿の里右も左も柿畑
<2845> 大和の花 (918) ヒメムカシヨモギ (姫昔蓬) キク科 ムカシヨモギ属
荒地や道端などに生える北アメリカ原産の越年草(2年草)で、世界の熱帯から温帯に広がり、日本には明治時代の初期に入って来た帰化植物で、鉄道に沿ってたちまち広がったことからテツドウグサ(鉄道草)、ゴイッシングサ(御一新草)、メイジソウ(明治草)などとも呼ばれて来た。
夏から秋に発芽し、へら形のロゼット葉によって越冬。翌春以降、茎を直立し、よく分枝して高さが大きいもので2メートルほどになる。茎葉は長さが1.5センチほどの線形で、茎を取り巻くようにして密に互生し、縁にはまばらな鋸歯が見られる。茎や葉には粗毛が生えるが、毛の無いものも見られ、これについてはケナシヒメムカシヨモギ(毛無姫昔蓬)という。
花期は8月から10月ごろで、茎や枝の先に円錐花序を出し、小さな頭花を多数つける。頭花は直径3ミリほどで、中心部の管状花を周囲の舌状花が囲む形に多数が並び、オオアレチノギク(大荒地野菊)に似るが、オオアレチノギクでは総苞に包まれ、舌状花がほとんど姿を見せないので、舌状花が開く本種と判別出来る。
痩果の実には淡褐色の冠毛があり、風によって種子が運ばれるようになっている。一時は極めて繁殖したが、今では他種に圧され減少しているという。 写真はヒメムカシヨモギ(十津川村)。 秋雨や人恋しさに午後の室
<2846> 大和の花 (919) オオアレチノギク (大荒地野菊) キク科 ムカシヨモギ属
荒地や道端などに生える南アメリカ原産の越年草(2年草)で、15世紀から17世紀の大航海時代に世界各地に広がり、日本には大正年代に渡来した帰化植物である。茎は直立して上部で枝を分ける。夏から秋に発芽し、倒披針形の根生葉で越冬。春から夏にかけて茎を直立させ、高さが1メートルから2メートルほどになり、開出した軟毛が多くつく。茎葉は狹披針形で、茎を取り巻くように互生し、両面に短毛が生える。
花期は7月から10月ごろで、茎や枝の先に円錐花序を出し、小さな頭花を多数つける。頭花は直径5ミリほどで、管状花を舌状花が囲む形につき、ヒメムカシヨモギの頭花に似るが、オオアレチノギクでは舌状花の舌状部が総苞に包まれる形になり十分に開かない特徴がある。実の痩果には冠毛があり、風によって種子の拡散をする。 写真はオオアレチノギク。 刈田増え鐘の音近し法隆寺