大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年10月20日 | 植物

<2843>  大和の花 (916) ヨモギ (蓬・艾)                                          キク科 ヨモギ属

         

 山野のいたるところに生え、普通に見られる多年草で、地下茎が横に這って繁殖し群生する。茎は紫色を帯びることが多く、白い毛が密生し、立ち上がって高さが50センチから1.2メートルほどになり、やや木質化する。葉は上部で披針形、または3裂し、下部では羽状に深裂して縁には不規則な鋸歯が見られる。葉の表面は緑色で、裏面は白い毛に被われ、灰白色になる。

 花期は9月から10月ごろで、茎の先に大きな円錐花序を出し、小さな頭花を多数つける。頭花はミリ単位の管状花ばかりで、タンポポのような舌状花はなく、中心部に両性花、周辺部に雌花が位置し、キク科では珍しい風媒花として知られ、ともに結実する。実は痩果。

 ヨモギ(蓬・艾)の名には、葉の綿毛だけを集めたものをもぐさ(艾)と言い、灸に用い、よく燃える意の善燃草(よもぎ)。また、よく繁殖するので四方草(よもぎ)など諸説がある。艾はヨモギの漢名。モチグサ(餅草)の別名があるが、これは風味のある春の若葉を搗き込んで草餅を作ることによる。この草餅のほか、食用としては浸し物、和え物、汁の実、てんぷらなど。また、ヨモギ茶やヨモギ酒にする。

 薬用としても知られ、漢方では乾燥した葉を艾葉(がいよう)と呼び、煎じて健胃、下痢止めに、冷湿布してあせもや湿疹に用いる。また、浴湯料としても知られ、神経痛、リュウマチ、肩こりなどに効くという。独特の香があり、民間では生の葉の汁を虫刺されや切り傷につけ、乾燥した葉を喫煙し、喘息に用いるという。

  また、前述したごとく、葉の綿毛を艾(もぐさ)にして灸に使用する。伊吹山は古くから艾(もぐさ)の産地として知られ、「けふも又かくや伊吹のさしもぐささらば我のみもえや渡らん」(『新古今和歌集』・和泉式部)などの古歌にも見える。

 なお、ヨモギは古くから邪気を払う植物として『万葉集』にもショウブ(菖蒲)とともに髪の飾りにした歌が見える。言わば、ヨモギは万葉植物で、『枕草子』などにも貴重な植物としてとり上げられ、今も5月の節句に風習として用いられている。例えば、5月5日に行われる宇陀市大宇陀の野依白山神社の御田植祭には神社の本殿や祠の屋根にショウブとともにヨモギが上げられ、邪気祓いの風習が見られる。

 一方、ヨモギは繁殖力が強く、生い茂るので、平安時代以降、ヤエムグラとともに荒れ果てた住居の様子などを表現するのに用いられるようになり、「これや見し昔住みけむ跡ならむ蓬が露に月のかかれる」(『新古今和歌集』・西行)というような歌も見える。なお、蓬はよく茂る草の意で、植物自体の意ではないが、ヨモギがよく繁茂するので、蓬の字が当てられたようである。

  という次第で、良しにつけ悪しきにつけ、ヨモギは身近な植物で、古来より各方面に利用され、親しまれて来たということが出来る。 写真はヨモギ。左から花を咲かせた群落(曽爾高原)、道端に生え、花をつけた個体(広陵町)、花を咲かせた花序(二上山)、ショウブとともに祠の屋根に上げられた茎葉(野依の白山神社)。  秋に秋我に我ありつまりその

<2844>  大和の花 (917) カワラヨモギ (河原蓬)                                        キク科 ヨモギ属 

                                       

 石がごろごろしている河原や砂地の海岸などに生える多年草で、高さが30センチから1メートルほどになり、茎の下部は木質化する。春先に出る茎は短く、白い絹毛に包まれた軟らかな根生葉が見られるが、その葉は間もなく枯れ、その後、花をつける花茎が伸び、よく分枝し、春先の葉と違って普通2回羽状に裂ける細い葉をつける。

 花期は9月から10月ごろで、茎や枝の先に大きい円錐花序を出し、多数の頭花をつける。頭花は舌状花がなく、黄色い管状花のみで、直径2ミリほどの卵形になるが、花は総苞に被われ、緑色がかって見える。実は痩果。

 本州、四国、九州、琉球列島に分布し、朝鮮半島、中国、台湾をはじめ、北はモンゴル、ロシア、南はネパール、ベトナム、マレーシア、フィリピンなど広く見られるという。大和(奈良県)では増水すると濁流に飲み込まれてしまうような大きい河川の河原や河川敷でときおり見かける。

  漢方では全草を薬用とし、茵蔯蒿(いんちんこう)という生薬名で、ヨモギとは異なる薬効を有する薬用植物として知られる。中国最古の本草書とされている『神農本草経』に既に見え、風湿、寒熱、邪気、熱結、黄疸を治すとある。所謂、皮膚の痒み、強壮、黄疸の症状に効くという。 写真は河原に生えるカワラヨモギの株(十津川村の十津川)。 柿の里右も左も柿畑

<2845>  大和の花 (918) ヒメムカシヨモギ (姫昔蓬)                           キク科 ムカシヨモギ属

            

 荒地や道端などに生える北アメリカ原産の越年草(2年草)で、世界の熱帯から温帯に広がり、日本には明治時代の初期に入って来た帰化植物で、鉄道に沿ってたちまち広がったことからテツドウグサ(鉄道草)ゴイッシングサ(御一新草)メイジソウ(明治草)などとも呼ばれて来た。

  夏から秋に発芽し、へら形のロゼット葉によって越冬。翌春以降、茎を直立し、よく分枝して高さが大きいもので2メートルほどになる。茎葉は長さが1.5センチほどの線形で、茎を取り巻くようにして密に互生し、縁にはまばらな鋸歯が見られる。茎や葉には粗毛が生えるが、毛の無いものも見られ、これについてはケナシヒメムカシヨモギ(毛無姫昔蓬)という。

  花期は8月から10月ごろで、茎や枝の先に円錐花序を出し、小さな頭花を多数つける。頭花は直径3ミリほどで、中心部の管状花を周囲の舌状花が囲む形に多数が並び、オオアレチノギク(大荒地野菊)に似るが、オオアレチノギクでは総苞に包まれ、舌状花がほとんど姿を見せないので、舌状花が開く本種と判別出来る。

  痩果の実には淡褐色の冠毛があり、風によって種子が運ばれるようになっている。一時は極めて繁殖したが、今では他種に圧され減少しているという。 写真はヒメムカシヨモギ(十津川村)。    秋雨や人恋しさに午後の室

<2846>  大和の花 (919) オオアレチノギク (大荒地野菊)                         キク科 ムカシヨモギ属

           

 荒地や道端などに生える南アメリカ原産の越年草(2年草)で、15世紀から17世紀の大航海時代に世界各地に広がり、日本には大正年代に渡来した帰化植物である。茎は直立して上部で枝を分ける。夏から秋に発芽し、倒披針形の根生葉で越冬。春から夏にかけて茎を直立させ、高さが1メートルから2メートルほどになり、開出した軟毛が多くつく。茎葉は狹披針形で、茎を取り巻くように互生し、両面に短毛が生える。

 花期は7月から10月ごろで、茎や枝の先に円錐花序を出し、小さな頭花を多数つける。頭花は直径5ミリほどで、管状花を舌状花が囲む形につき、ヒメムカシヨモギの頭花に似るが、オオアレチノギクでは舌状花の舌状部が総苞に包まれる形になり十分に開かない特徴がある。実の痩果には冠毛があり、風によって種子の拡散をする。 写真はオオアレチノギク。 刈田増え鐘の音近し法隆寺

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年10月19日 | 創作

<2842>  作歌ノート 見聞の記  折々の光景

             乾瓢の日中の匂ひ青年に備後の国のたらちねの母

 言葉の端々に備州訛りのある青年一人。故国を同じくする感。何となくわかる。そして、青年にふと感じた匂い。何だろうと思い巡らしているうち思い当たった。乾瓢である。そう、あの天日に干された乾瓢の日向の匂い。そう気づいたとき、私は備州訛りの抜けきらない青年が一層親しく思われて来た。 写真はイメージで、秋の刈田。

          

     「岡山、それとも広島」

     「広島です」

     「広島はどこ」

     「福山です」

     「なるほど、備後か。何となくわかる」

     「そんなもんですね。おじさんもそうでしょう」

     「俺は備前だよ。古里はええ。古里にはよく帰るの」

     「たまに、お袋が一人で暮らしているもんですから」

     「お父さんは」

     「亡くなりました。小学生のころ」

     「兄弟は」

     「ぼく一人」

     「じゃあ、母一人子一人」

     「そうです」

     「じゃあ、お母さんは君を離したくなかったんじゃあないかな」

     「いいえ、そんなことなかったです。親父なくてもと」

     「なるほど」

     「ぼくを一人前にすることが」

     「それで、大学目指したわけ」

     「そうです」

     「で、何を」

     「医学部に通ってます」

     「医者になる」

     「ええ」

     「それはいい。で、家は何を」

     「農家です」

     「じゃあ、お母さん一人で」

     「そうです。いろいろ助けしてくれるところはありますが」

     「お母さん 大変だ」

     「だいぶ手離しましたけど」

     「それで学費を」

     「まあ、そういうことです」

     「なるほど、それじゃあ、頑張らんといけない」

     「あと三年。そうすれば、メドもつきます」

     「君には何か田舎のにおいがして、話したくなったんだが」

     「へー、どんなにおい」

     「乾瓢」

     「えっ、乾瓢ですか」

     「いまの若いもんにはちっともにおいがない。素の匂いがね」

     「ぼくが珍しい」

     「いや、つまらんわけよ。においのない若いもんは」

     「へー、そんなものですか。乾瓢は田舎(うち)でも作ってますよ。少しですが」

     「乾瓢は昔から栃木と決まっている。でも、田舎なら多少は」

     「乾瓢好きですか」

     「ああ、いろんな料理に使えて、好きな味付け出来るし」

     「重宝な素材」

     「そう、人間も乾瓢みたいにありたいねえ。特に若いもんは」

     「花がいいですよ。真っ白で」

     「夕顔か。夕方咲くからだよな。いい名だよなあ」

     「ええ」

     「それはそうと、お母さん元気で何よりだ」

     「ええ、それだけは」

     「何にしても元気が一番だ」

     「そう思います」

     「父親なんて どうだっていい 子は母親次第だからねえ」

     「ええ」

     「母親が頑張って この世はなりたっている その位に思っていた方がいい」

     「そういうことですね ありがたいです 母は」

     「まあ これからだねえ お母さん大事に」

     「ええ 心がけます」

    行末に思ひを致し立ち居たる痩身一躯 青年の声

 


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2019年10月18日 | 写詩・写歌・写俳

<2841> 余聞、余話「台風19号に寄せて」

       経験は教訓を生む教訓は表現されて周知に及ぶ

 十二日夜、伊豆半島に上陸し、十三日朝福島県付近から太平洋に抜けた超大型の台風19号は強風と大雨をともない、記録的豪雨によって東日本一帯に甚大な被害を及ぼした。その記録をうかがうと、十七日現在、59河川の90箇所で決壊し、253河川で越水が起き、約4万棟(床上23500余棟、床下16500余棟)が浸水し、土砂災害も約170件に及び、死者77人、行方不明者14人が出ている。

  このような被災状況に対し「まずまずに収まった」とこの台風19号に対する感想を述べた政治家の感性のなさに「とんでもない」と批判が殺到し、日が経つにつれて被災の凄さが示されるに至り、政治家は自らの非を認め、その発言を撤回した。被害は人命のみならず、生活、交通インフラ、各種産業、経済活動等において広範囲に及び、日時が経つに従って深刻度を増している感がうかがえる。

 ここで思われるのが、この19号が最近にあっては極めて大きい台風であること。この点を踏まえ、記憶されるべき台風であるということにおいて、単に公式の「台風19号」という無機的な名のみでなく、日本独自の名称を付けた方がよいということ。どうであろうか。過去に例がある。その例に倣ってその個別名称の復活を提案したいと思うが、これには何か支障があるのだろうか。

           

 例えば、昭和九年(1934年)、高知県の室戸岬付近に上陸した室戸台風。同二十年(1945年)、鹿児島県の枕崎に上陸し、列島を縦断した枕崎台風。同三十三年(1958年)、神奈川県に上陸し、伊豆半島の狩野川で大洪水を引き起こした狩野川台風。同三十四年(1959年)、和歌山県の潮岬付近に上陸し、伊勢湾岸に津波の大被害をもたらした伊勢湾台風などがある。

 これらの台風は死者、行方不明者が千人以上に及び、今回の台風19号とは人的被害において比較にならないが、これは最近の気象予報の信頼性にともなう状況であり、時代の違いと察せられる。仮に今回の台風19号が昭和年代に起きていれば、その被害は未曾有に及んだであろう。言わば、それだけ時を重ねて現代人は完璧ではないにしても台風に備える心構えが出来ている証と思える。

 しかし、河川の決壊の数などを見ると、今回の台風19号による被災は極めて甚大で、今後の教訓とすべき課題を各方面に示したと言え、この点において考えるに、「台風19号」という無機的番号による公式の名だけでなく、前述したような過去の例に倣って固有の名称を付けて置くのが、記憶に残し、今後に引き継ぐ歴史の観点からしてよいのではないかと思われる。ということで、ここに提案する次第である。 写真は河川の決壊と洪水に襲われた住宅地。東日本の各地でこうした光景が見られた(テレビの映像による)。

 


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2019年10月17日 | 写詩・写歌・写俳

<2840> 余聞、余話 「ペアの光景」

        秋日和番ふものらの天下かな

 秋のこの時期、ペアになって、交尾に勤しむ昆虫たちが見られる。秋に番って卵を産み、冬の間、卵で越冬し、春に幼虫、或いは幼虫からサナギになって、羽化し、成虫になるのであろう。まずはオンブバッタ。

              

     オンブバッタおんぶして秋迎へけり

  オンブバッタはオスがメスの上に乗っかりおんぶされているように見えるのでこの名がある。そのオスを乗せたメスのオンブバッタがブロッコリーの葉にいるのが見られる。この間からずっと、交尾の雰囲気づくりをしているのであろうか。その名のとおり、おんぶしてペアを組んでいる。おんぶされている小さい方がオスであるから、少々不思議に思える。

    アキアカネ茜の色に燃えにけり

 湿地になった池の水辺に交尾を終えて連結したアキアカネのオスとメスが湿地の水辺でしきりに飛び、ときに浅瀬に近づいて連結した後ろのメスがしっぽの先を水面に打ちつけている。連結打水産卵というらしく、その行為を繰り返している。つまり、交尾してオスの精子によって整った卵をメスが尻の先にある産卵管から水中にその卵を放出し、産みつけている図である。オスは交尾が終わってもメスを離さず、産卵場所へ導いているように見える。オスの体が燃えるように赤いのが印象的な光景ではある。

    シジミチョウ雌雄もつれて草に落つ

 実を沢山生らせ、野鳥の飛来が見られる落葉高木のエノキの繁った梢の間を縫うように激しくもつれ合うように飛んでいたシジミチョウが、そのまま林縁の草叢に舞い落ちて消えた。その消えた辺りに穂が出し始めたススキがあった。そのススキの長い弓なりに垂れた葉の上に大胆に番うシジミチョウがいた。カメラのレンズを近づけても逃げる気配がない。完璧に連結している。大仕事のときか、幸せのときか、大きい方がオスと思われる。夢中の状況にある感。

 写真は左からオンブバッタの番、連結して飛ぶアキアカネ、交尾中のシジミチョウ(馬見丘陵公園ほか)。

 


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2019年10月13日 | 植物

<2836>  大和の花 (912) コマツカサススキ (小松毬薄)                カヤツリグサ科 ホタルイ属

                                      

 日当たりのよい山野の湿地に生える多年草で、太くて硬い3稜形の茎が叢生して直立し、高さが80センチから120センチになる。葉は根生状の葉と節につく茎葉とからなり、偏平な線形で、基部が筒状の鞘になって茎を包み、葉鞘は3センチから10センチ。全体にしなやかである。

 花期は8月から10月ごろで、茎の先や上部の節の葉腋から花序の枝を出し、10個から20個の小穂が球状に集まる濃緑褐色の花穂をつける。花穂は直径1.5センチ弱で、普通茎の先では数個、上部葉腋では1、2個つく。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では湿地でよく見かける。仲間のマツカサススキ(松毬薄)は花穂が多く、花序がにぎやかであるが、絶滅が危惧されている。マツカサススキ(松毬薄)の名は花穂に松毬(まつかさ)を連想したことによる。マツカサススキにはまだ出会えていない 写真はコマツカサススキ(曽爾高原のお亀池湿地)。 秋祭り町家の道に太鼓台

<2837>  大和の花 (913) ウキヤガラ (浮矢柄)                               カヤツリグサ科 ホタルイ属

                  

 池沼や川などの浅い水の中に根を張る多年草で、直径4センチ弱の球状の根茎から地下匐枝を伸ばし、群生する。地上茎は太い3稜形で、直立し、高さが70センチから150センチほどになる。葉は幅が1センチ弱の線形で、茎の中ほどより下につき鞘となる。

 花期は8月から10月ごろで、茎頂に葉状の長い苞を2個から4個つけ、その上に花序を見せる。花序は3個から多いもので8個の小穂がついた枝を出す。小穂は長さが3センチ弱の長楕円形で、はじめに雌性期の雌しべの先熟があり、鱗片の間から白い柱頭が3個ずつ伸びる。遅れて雄性期の雄しべが熟し、黄白色の葯が伸び出す。実は3稜の倒卵形で、光沢のある灰褐色。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、北アメリカで確認されている。大和(奈良県)では、ウキヤガラの生育出来るような浅い水辺が少なく、自生地に欠けるところからレッドリストの希少種にあげられている。なお、ウキヤガラ(浮矢柄)の名は一説に枯れて枝のまま落ちた実が水に浮いて矢筈のように見えたことによるという。  写真はウキヤガラ。雌性期の花序(左)、雄性期の花序(中)、果期の姿(右)。 秋祭り老若ありて太鼓台

<2838>  大和の花 (914) サンカクイ (三角藺)          カヤツリグサ科 ホタルイ属

                               

 池沼、濠、川などの水辺に生える多年草で、根茎を横に伸ばし、節から高さが1メートル前後の茎を直立し、群生する。茎は三稜形の中空で、先が尖る。葉は変形して鞘となり茎の下部を包む。ときに短い葉が見られることもある。

 花期は7月から10月ごろで、茎の先端部に長さが2センチから5センチの苞が一個直立し、その腋に2、3個の枝を出し、その先に小穂をつける。小穂は長さが1センチ前後の緑褐色乃至茶褐色の長卵形で、柱頭が2個つく。実は黄褐色のレンズ状。

サギノシリサシ(鷺の尻刺し)、シリクサ(尻草)の古名で知られるが、これは尖った茎の先がサギの尻を襲うという意による。『万葉集』にはシリクサ(知草)の名で1首に見える。

    湖葦(みなとあし)に交れる草の知草の人みな知りぬわが下思(したもひ)を            巻11(2468) 柿本人麻呂歌集

  これがその歌で、シリクサ(知草)は「知りぬ」という言葉を同音によって導くために用いられているのがわかる。という次第で、シリクサのサンカクイは万葉植物ということになる。なお、日本での利用はないが、台湾ではサンカクイによって大甲蓆(たいこうい)というムシロが作られる。 写真はサンカクイ(春日大社萬葉植物園)。 躊躇なく鵯毛虫を浚ひ行く

<2839>  大和の花 (915) コイヌノハナヒゲ (小犬鼻髭)           カヤツリグサ科 ミカヅキグサ属

           

 日当たりのよい明るい湿地に生える多年草で、細い花茎が斜上し、高さが30センチから60センチほどになる。葉は幅が1.5ミリ弱の線形。花期は8月から10月ごろで、茎の上部に小穂が数個集まった花序がとびとびに離れてつく。小穂は先の尖った長さが6ミリから9ミリの狹倒卵形で、褐色の鱗片数個に包まれ、普通その中の1個が小花をなす。

 イヌノハナヒゲ(犬鼻髭)によく似て判別し難いが、本種は全体に小振り。その名は花序の花穂からイヌの鼻髭を連想したことによるか。北海道、本州、四国、九州に分布し。国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)ではコイヌノハナヒゲもイヌノハナヒゲもともに自生地が限定的で、レッドリストの希少種にあげられている。  写真はコイヌノハナヒゲ。群生(左)、花茎のアップ(中)、果期の姿(右)。いずれも曽爾高原お亀池。  遠花火過去は記憶にほかならぬ