大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年10月13日 | 植物

<2836>  大和の花 (912) コマツカサススキ (小松毬薄)                カヤツリグサ科 ホタルイ属

                                      

 日当たりのよい山野の湿地に生える多年草で、太くて硬い3稜形の茎が叢生して直立し、高さが80センチから120センチになる。葉は根生状の葉と節につく茎葉とからなり、偏平な線形で、基部が筒状の鞘になって茎を包み、葉鞘は3センチから10センチ。全体にしなやかである。

 花期は8月から10月ごろで、茎の先や上部の節の葉腋から花序の枝を出し、10個から20個の小穂が球状に集まる濃緑褐色の花穂をつける。花穂は直径1.5センチ弱で、普通茎の先では数個、上部葉腋では1、2個つく。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では湿地でよく見かける。仲間のマツカサススキ(松毬薄)は花穂が多く、花序がにぎやかであるが、絶滅が危惧されている。マツカサススキ(松毬薄)の名は花穂に松毬(まつかさ)を連想したことによる。マツカサススキにはまだ出会えていない 写真はコマツカサススキ(曽爾高原のお亀池湿地)。 秋祭り町家の道に太鼓台

<2837>  大和の花 (913) ウキヤガラ (浮矢柄)                               カヤツリグサ科 ホタルイ属

                  

 池沼や川などの浅い水の中に根を張る多年草で、直径4センチ弱の球状の根茎から地下匐枝を伸ばし、群生する。地上茎は太い3稜形で、直立し、高さが70センチから150センチほどになる。葉は幅が1センチ弱の線形で、茎の中ほどより下につき鞘となる。

 花期は8月から10月ごろで、茎頂に葉状の長い苞を2個から4個つけ、その上に花序を見せる。花序は3個から多いもので8個の小穂がついた枝を出す。小穂は長さが3センチ弱の長楕円形で、はじめに雌性期の雌しべの先熟があり、鱗片の間から白い柱頭が3個ずつ伸びる。遅れて雄性期の雄しべが熟し、黄白色の葯が伸び出す。実は3稜の倒卵形で、光沢のある灰褐色。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、北アメリカで確認されている。大和(奈良県)では、ウキヤガラの生育出来るような浅い水辺が少なく、自生地に欠けるところからレッドリストの希少種にあげられている。なお、ウキヤガラ(浮矢柄)の名は一説に枯れて枝のまま落ちた実が水に浮いて矢筈のように見えたことによるという。  写真はウキヤガラ。雌性期の花序(左)、雄性期の花序(中)、果期の姿(右)。 秋祭り老若ありて太鼓台

<2838>  大和の花 (914) サンカクイ (三角藺)          カヤツリグサ科 ホタルイ属

                               

 池沼、濠、川などの水辺に生える多年草で、根茎を横に伸ばし、節から高さが1メートル前後の茎を直立し、群生する。茎は三稜形の中空で、先が尖る。葉は変形して鞘となり茎の下部を包む。ときに短い葉が見られることもある。

 花期は7月から10月ごろで、茎の先端部に長さが2センチから5センチの苞が一個直立し、その腋に2、3個の枝を出し、その先に小穂をつける。小穂は長さが1センチ前後の緑褐色乃至茶褐色の長卵形で、柱頭が2個つく。実は黄褐色のレンズ状。

サギノシリサシ(鷺の尻刺し)、シリクサ(尻草)の古名で知られるが、これは尖った茎の先がサギの尻を襲うという意による。『万葉集』にはシリクサ(知草)の名で1首に見える。

    湖葦(みなとあし)に交れる草の知草の人みな知りぬわが下思(したもひ)を            巻11(2468) 柿本人麻呂歌集

  これがその歌で、シリクサ(知草)は「知りぬ」という言葉を同音によって導くために用いられているのがわかる。という次第で、シリクサのサンカクイは万葉植物ということになる。なお、日本での利用はないが、台湾ではサンカクイによって大甲蓆(たいこうい)というムシロが作られる。 写真はサンカクイ(春日大社萬葉植物園)。 躊躇なく鵯毛虫を浚ひ行く

<2839>  大和の花 (915) コイヌノハナヒゲ (小犬鼻髭)           カヤツリグサ科 ミカヅキグサ属

           

 日当たりのよい明るい湿地に生える多年草で、細い花茎が斜上し、高さが30センチから60センチほどになる。葉は幅が1.5ミリ弱の線形。花期は8月から10月ごろで、茎の上部に小穂が数個集まった花序がとびとびに離れてつく。小穂は先の尖った長さが6ミリから9ミリの狹倒卵形で、褐色の鱗片数個に包まれ、普通その中の1個が小花をなす。

 イヌノハナヒゲ(犬鼻髭)によく似て判別し難いが、本種は全体に小振り。その名は花序の花穂からイヌの鼻髭を連想したことによるか。北海道、本州、四国、九州に分布し。国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)ではコイヌノハナヒゲもイヌノハナヒゲもともに自生地が限定的で、レッドリストの希少種にあげられている。  写真はコイヌノハナヒゲ。群生(左)、花茎のアップ(中)、果期の姿(右)。いずれも曽爾高原お亀池。  遠花火過去は記憶にほかならぬ