大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年06月26日 | 植物

<2729> 大和の花 (830) ウチョウラン (羽蝶蘭)                                 ラン科 ウチョウラン属

               

 山地や渓谷などの岩場に生える多年草で、草丈は10センチから20センチほどになり、花茎は斜めに立つことが多い。葉は長さが3センチから10センチほどの広線形で、2個から3個つき、基部は鞘状になる。

  花期は6月から8月ごろで、茎の上部葉腋に直径1センチほどの花を数個総状につける。花弁は唇弁が大きく3深裂し、長さが1.5センチほどの長い距を有し、ラン科植物特有の花の形を見せる。花弁は紅紫色が普通であるが、白色や青みが勝ったものなど変異が見られる。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地の一部に自生地があるが、園芸用採取のターゲットにされ、減少が著しく、2007年版のレッドデータブックでは絶滅危惧種にあげられていたのが、2016年の最新版では、最悪の絶滅寸前種にランク変更され、環境省でも絶滅危惧Ⅱ類にあげられ、自生の厳しさが訴えられている。

 写真は岩場に咲くウチョウラン(天川村)。なお、ラン科植物は見つかり次第根こそぎ採取されるので、この欄で扱うに当たっては奈良県版レッドデータブックの2016改訂版の『大切にしたい奈良県の野生動植物』に倣って、撮影場所を市町村名に止めるということで進めて行きたいと思う。  鳴き響(とよ)む生きゐる証ほととぎす

<2730> 大和の花 (831) オノエラン (尾上蘭)                                       ラン科 カモメラン属

                 

 寒温帯から冷温帯に当たる深山山岳の日当たりのよい岩場の草地に生える多年草で、草丈は10センチから15センチほどになる。葉は長さが5センチから10センチの長楕円形で、茎の基部に普通2個が斜め上向きに反るようにつき、先は尖る。

 花期は6月から8月ごろで、花茎の先に短い総状花序を出し、数個の白い花をつける。花は唇弁がくさび形で、唇弁の基部にw形(逆M字形)の黄色い斑紋がある。この斑紋がオノエランの特徴で、花を一見すればそれとわかる。オノエラン(尾上蘭)の名は尾根筋に生えるランの意。

 本州の東北から中部地方と紀伊半島の高所に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では大峰山脈の高所や大台ヶ原山の稜線部の岩場の草地に自生する。だが、個体数が極めて少なく、園芸用に採取されることもあって、奈良県のレッドデータブックは絶滅寸前種にあげている。写真は岩場に咲くオノエラン(唇弁にW字の黄斑がある。十津川村と上北山村)。 ほととぎすこの世は夢の在処なり

2731> 大和の花 (832) イワチドリ (岩千鳥)                                   ラン科 イワチドリ属

                    

 主に川や渓谷沿いの岩壁に生える多年草で、高さは10センチから20センチほどになり、茎の途中、中ほどより下のところに長楕円形で先の尖る葉をつける。花期は4月から6月ごろで、茎頂に淡紅紫色の花を数個つける。花は直径1センチから1.5センチほどで、花の直ぐ下に小さな苞葉がある。3深裂する唇弁が大きく、基部に濃い紅紫色の斑紋がある。

 本州の中部地方から近畿地方、四国に分布し、伊豆諸島にも見られる日本の固有種で、大和(奈良県)では十津川村と下北山村に見られるが、自生地も個体数も少ないうえ、観賞ブームもあって、採取され、激減したとのことで、奈良県版レッドデータブックでは絶滅寸前種にあげられ、環境省では絶滅危惧ⅠBにあげられている。

 イワチドリ(岩千鳥)とは美しい名であるが、岩場に群れ飛ぶチドリのイメージか、花を紋章の千鳥紋に見立てたことによるとも言われる。ということで、実物の花も魅力的で、その魅力が採取の嵐を誘引し、激減に繋がったようである。 写真は渓谷の岩壁のイワチドリ。ウチョウランに似るが、花期が異なり、イワチドリは春から初夏のころ見られる(十津川村)。 岩千鳥千年超の岩の花

<2732> 大和の花 (833) カキラン (柿蘭)                                           ラン科 カキラン属

                      

 日当たりのよい湿地などに生える多年草で、花茎の高さは30センチから70センチほど。長さが10センチ前後の広線形から狹卵形の葉が7、8個互生し、鞘状になって茎を抱く。花期は6月から8月ごろで、茎の上部に黄褐色の花を10個ほどつける。花は長さが1.5センチほどの広鐘形で、横向きに開く。唇弁は白色で、紅紫色の斑点が目立つ。カキラン(柿蘭)の名はこの花の色を柿色と見たことによる。

 北海道、本州、四国、九州、南西諸島に分布し、国外では朝鮮半島、中国東北部、ウスリー地方に見られるという。大和(奈良県)では北部や南部に自生地が見られるものの、「人里近い手近な所にあり、用地開発や農地の整備のため生育地が失われることが多く、園芸用に採取されることも多い」として、奈良県版レッドデータブックでは絶滅危惧種にあげられている。全国的にも希少種として絶滅の危険性が高いとされている野生ランの一つである。別名スズラン(鈴蘭)。 写真は柿色の花がかわいらしいカキラン(曽爾村)。  ほととぎす思ひの丈を吐く如し

 

 


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