大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年03月19日 | 植物

<2271> 大和の花 (464) オガタマノキ (招霊の木・小賀玉木)             モクレン科 オガタマノキ属

               

 温暖地の沿岸地方に自生する常緑高木で、高さは15メートルほど。古木では20メートルに及ぶものも見られる。樹皮は暗灰褐色で、枝は暗緑色。葉は長さが大きいもので12センチほどの倒卵状楕円形で、やや肉厚の革質。縁には鋸歯がなく、表面は濃緑色で光沢があり、裏面は白色を帯びる。葉柄は2、3センチで、互生し、珍蝶ミカドアゲハの食樹として知られる。

 花期は早春のころで、直径3センチほどの香りのよい花が枝先に近い葉腋に1個ずつつく。花冠は花弁状の花被片12個からなり、上向きに開く。花被片は乳白色で、基部が紅紫色になる。実は袋果の集合果で、秋に熟す。袋果には2、3個の種子が入っている。

 本州の関東地方南部以西の太平洋側、四国、九州、西南諸島の沿岸地に分布し、国外では台湾、フィリピンに見られるという。センダン科のセンダンと同じく、海に面しない大和(奈良県)では自生しないと見られているが、神社や公園等に植栽されているのを見かける。東大寺の法華堂(三月堂)の並びに位置する手向山八幡宮には高さ約20メートル、推定樹齢300年の古木が見られ、春日若宮神社にも本殿前に植えられている。

  オガタマノキの名は、神を招く招霊(おぎたま)、或いは、神を拝する拝魂(おがみたま)から来ているとする説がある一方、花に香があり、実が玉のようであることによる小香玉(おがたま)から来ているとする説もある。という次第で、古くは賢木・栄木(さかき)として神事に用いられ、本来は、サカキ(榊)でなく、このオガタマノキであったと言われ、この木が神社の境内に見えるのもこの由緒によるという。なお、集合果はこれを振ると、妙なる鈴の音がするので、神楽鈴の起源だとも言われている。 写真は手向山八幡宮の本殿前に聳えるオガタマノキの古木(左)、オガタマノキの花(中)、花のアップ(右)。    花は時しかれど本木あらざれば時は虚しく花には会へず

<2272> 大和の花 (465) タムシバ                                           モクレン科 モクレン属

                          

 日当たりのよい山地に生える落葉高木で、高さは大きいもので10メートルほどになる。樹皮は灰色または灰褐色。滑らかで、縦に皮目が並ぶ。新枝は緑褐色。葉は長さが6センチから12センチの卵状披針形、乃至、長楕円形で、先はとがり、基部はくさび形。縁に鋸歯はなく、葉裏は白色を帯びる。1センチほどの葉柄を有し、互生する。葉は揉むと芳香があり、噛むと甘みがある。

 花期は3月下旬から5月上旬で、ほかの木々に先がけ、葉の展開前、微かに芳香のある直径10センチほどの白い花を開く。花は花被片9個からなり、外側の3個は萼状で小さく、内側の6個が花弁となって開く。花の中央に淡緑色の突起状の雌しべが集まり、その回りを淡紅色の雄しべが多数囲む。実は袋果が集まった集合果で、秋に赤く熟す。遠目には見分けがつかないほどコブシ(辛夷)に似るが、近くに寄って花を見れば判別出来る。コブシでは花のつけ根に葉が1個見られるのに対し、タムシバでは見られない。

 本州、四国、九州に分布する日本固有の植物で、本州では日本海側に片寄って多く見られるが、大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、暖温帯から冷温帯まで垂直分布でも広く見られる。これに対し、大和(奈良県)におけるコブシの自生は稀で、紀伊山地の近寄りがたい山岳に春を告げて咲く白い花はコブシでなく、十中八九タムシバと見て差し支えないと言える。

  なお、タムシバの名は、地方名のカムシバ(噛柴)が転じたものと言われ、サトウシバ(砂糖柴)の名もある。また、ニオイコブシ(匂い辛夷)の名もあるが、これらの名はみな葉や花に芳香があり、葉を噛むと甘い特徴によってつけられたものである。 写真はタムシバ。山中に散見される白い花(左・赤っぽく見えるのはカエデ類の芽立ち。宇陀市榛原)、葉の展開前の枝につく白い花々(中・野迫川村)、花のアップ(右・花のつけ根に葉がついていない)。  四季の国この身に春の来るゆゑも

<2273> 大和の花 (466) コブシ (辛夷)                                          モクレン科 モクレン属

          

 丘陵や山地に生える落葉高木で、高さは15メートル以上になる。樹皮は灰白色。滑らかで、皮目がある。新枝は緑紫色で、無毛。葉は長さが数センチから15センチの倒卵形で、先は短く尖り、基部はくさび形。縁には鋸歯がなく、葉裏は淡緑色。この葉を揉むと芳香がある。1センチほどの葉柄があり、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、葉が展開する前に枝先に白い芳香のある花を単生する。花は直径10センチ弱で、花被片9個からなり、外側の3個は小さく、内側の6個が大きく花弁状に開く。花の中央には淡緑色の雌しべを黄橙色の雄しべが多数囲む。花は同属のタムシバに酷似するが、花のつけ根に新葉が1つつくので、つかないタムシバと判別出来る。実は袋果が集まった集合果で、秋に熟し、裂けて赤い種皮に包まれた種子が現われ、糸状の柄にぶら下がる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮(済州島)にも見られるという。コブシは「白樺 青空 南風 こぶし咲くあの丘 北国の ああ 北国の春」(『北国の春』)と歌にも歌われているように北国に多く、大和(奈良県)における自生は稀で、タムシバが圧倒的に多い。コブシとタムシバの似る事情によるからか、大和地方ではタムシバをコブシと呼ぶ地域もあり、その地方名の認識は混乱しているところがある。

  大阪・奈良府県境の金剛山(1125メートル)山頂付近一帯に野生しているコブシの古木はよく知られるが、完璧な自生かどうかは問われるところとなっている。私は大台ヶ原山の周遊道の傍らでコブシの花に出会ったことがあるが、わずか一本のみで、高さは7、8メートルだった。見るからに貧弱な個体で、花は数個しか見られなかったが、花にコブシの証である新葉がついていたのでタムシバではないとカメラを向けたことではあった。わずか1本というのは自生の裏付けに乏しく思われるが、果たしてどうなのであろうか。

  最近では、公園や街路などに植栽されることが多くなり、珍しくなくなって、ハクモクレン(白木蓮)と混同されたりしているが、大和(奈良県)における野生のコブシについては自生の分布状況が明らかでなく、情報不足種として扱われている。植栽は増えているが、自然のものは減少傾向にあり、近畿地方では絶滅危惧種Cにあげられている。

  なお、コブシの名は集合果が拳(こぶし)に似ることによると言われる。辛夷は同属モクレンの漢名で、コブシは中国になく、コブシに当てるのは誤りであると言われている。写真はコブシ。左から金剛山頂付近の古木の花群、花のアップ(花に新葉が一つ見える)、大台ヶ原山で見かけた花(やはり花の下に新葉が1つ見える)、集合果の夏姿(秋に赤く熟し裂開する)。   花冷えや三寒四温の寒の意地

<2274> 大和の花 (467) モクレン (木蓮・木蘭)                                     モクレン科 モクレン属

                                    

 中国原産の落葉低木乃至は小高木で、高さは数メートル。樹皮は灰白色で滑らか。葉は長さが10センチから15センチの広倒卵形で、先は短く尖り、基部はくさび形。縁には鋸歯がなく、葉柄は1センチほどで、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、葉の展開とほぼ同時に紅紫色の花を咲かせる。花は直径10センチほどで、9個の花被片からなり、外側の3個は萼状で小さく、内側の6個が花弁の役割を担い、上を向いて咲く。別名のシモクレン(紫木蓮)はこの花の色による。仲間に花全体が白いハクモクレン(白木蓮)があり、これとの雑種に花被片の内側が白いトウモクレン(唐木蓮)がある。トウモクレンは低木で、ヒメモクレン(姫木蓮)とも呼ばれる。また、色合いに変化が見られるニシキモクレン(錦木蓮)があり、みな観賞用に植えられている。

 日本への渡来は古く、平安時代の『倭名類聚鈔』(938年)に記載がある。モクレン(木蓮)の名は、花の形がハス(蓮)、または、ラン(蘭)に似るからという。モクレンの漢名は辛夷(しんい)で、花の観賞だけでなく、蕾を生薬名辛夷として、漢方では鼻炎や蓄膿症、頭痛等に用いられる。日本では野生のコブシやタムシバの蕾をこれに代用したことによりコブシの漢字表記には中国のモクレンに当たる辛夷が用いられ、今に至っている。 写真は左からシモクレンのモクレン、トウモクレン、ニシキモクレン。   春彼岸妻手作りのおぼたかな

<2275> 大和の花 (468) ハクモクレン (白木蓮)                                      モクレン科 モクレン属

          

 中国原産の落葉高木で、高さは20メートルにもなる。樹皮は灰白色で滑らか。葉は長さが8センチから15センチの倒卵形で、先は短く尖り、基部はくさび形、もしくは円形。縁には鋸歯がなく、葉裏は淡緑色で、脈上に軟毛が生える。長さが1センチほどの柄を有し、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、モクレンよりも開花が少し早く、葉の展開前に直径が10センチほどの白い花を咲かせる。花被片は9個、すべてが花弁状で、上を向いて咲く。日本には自生しない外来で、観賞用として人気があり、社寺や民家の庭、公園などに植えられ、よく見られる。また、花卉農家の多い大和(奈良県)の山里では植栽起源の半野生のものも見られる。葉も花も冬芽も全体的にコブシに似るが、花にボリュームがある。

  日本にはモクレン(シモクレン)より遅れ、江戸時代に現われ、純白の花が高く評価されて来た。欧米には18世紀後半に広まり、品種改良されて、今や数十種の品種に上るという。なお、ハクモクレンの蕾も漢方では辛夷(しんい)と呼ばれ、鼻炎や蓄膿症、頭痛等に用いられる。 写真はハクモクレン。みごとな満開の花(平群町)と毛に被われた花芽。   球春や雨のち晴れの開花かな

 

 

 


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