大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

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2014年04月24日 | 万葉の花

<963> 万葉の花 (119) ねつこぐさ (根都古具佐) = オキナグサ (翁草)

       蟻の目と なりて見よとぞ 翁草

   芝付の 御宇良崎なる 根都古草 逢ひ見ずあらば 吾恋ひめやも                                      巻十四 (3508)  詠人未詳

 『万葉集』に根都古草(ねつこぐさ)の登場する歌はこの一首のみ。巻十四の相聞の項に見える。歌は「芝付の御宇良崎なる根都古草」までが「逢ひ見ずあらば」にかかる序としての役目にあるのがわかる。で、その意は「あのとき逢わず見ていなかったら、私は恋などに苦しむことはなかったはず」となる。

  芝付(しばつき)は枕詞か、もしくは、地名かと言われるが、不明である。また、御宇良崎(みうらさき)は相模国三浦(神奈川県の三浦半島)かとも言われるが、これも定かではない。根都古草の「ねつこ」はともに寝るという意が込められ、「逢ひ見ずあらば」に続く言葉として選ばれていると見て取れる。

 では、この恋した女性に喩えられた根都古草とは如何なる植物なのだろうかということになるが、これにはオキナグサ(翁草)が当てられている。オキナグサ(翁草)はキンポウゲ科の多年草で、全体に白い毛が生え、春に内側が暗赤紫色で、外側に白い毛が密生する花弁状の萼片六個の花をやや下向きに咲かせる。

                                                               

  草丈は二十センチほどだが、花の後、毛の生えた花柱が伸びて、その先端の白い多数の毛も伸びて羽毛状になり、この姿によって翁草と名づけられた。本州、四国、九州に分布し、山野の日当たりのよい草地に生え、昔から薬草として知られ、園芸用にも好まれて来た。結果、採取が甚だしく、大和では自生種が絶滅寸前にあるとしてレッドデータブックにその名をあげられている。

  根都古草の名はネコから来ているとする説と根っこから来ているとする説があるが、オキナグサを見るに、全草がふわふわとした軟毛に被われ、ネコを思わせるところから「ネコグサ」と呼ばれ、これが「ねつこぐさ」になったのではないかという。一方、根っこに由来する説によれば、オキナグサは草丈のわりに根が太く大きいからで、根のことを「ねつこ」と呼ぶ地方があることによるという。

  どちらにしても、根都古草はオキナグサであるというのが有力な説である。ただ、根都古草を恋しい女性に喩えた万葉歌の内容と白髭が生えた翁のオキナグサはぴったりしないように思われる。だが、これについては宮沢賢治の童話「おきなぐさ」が次のように言っている。「うずのしゅげを知っていますか。うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますが、おきなぐさという名は何だかあのやさしい若い花をあらはさないやうにおもひます」と。これは、即ち、オキナグサの花が見かけによらず、内実は美しいということを言っている。

  私たちが普通の目線でオキナグサの花を見ると、暗赤紫色の花がより黒ずんで見え、その上に白い毛が生え、とても美しいとは見て取れないところがある。しかし、その花に入り込む蟻の目線で花を見ると、花は陽に透けて燃えあがるようにまっ赤に見える。そして、白い毛も銀白色に輝き、それは美しく見える。つまり、根都古草の万葉歌は宮沢賢治のこの「おきなぐさ」の視点をもって詠まれていると見て取れるところがある。

 言ってみれば、この万葉歌は女性に対し、外見ではなく、内実だと言っているところが見受けられる。歌をこのように解釈すれば、この万葉歌が根都古草のオキナグサを引き合いに出しているのも納得される。詠み手の男性は共寝して女性のよさを見出したのである。この歌は根都古草のオキナグサによってこの女性にまことの讃辞を示し、そして、悩むに至ったことを詠んだと知れる。 写真はオキナグサの花。

 

 


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