大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年08月26日 | 植物

<2789> 大和の花 (879) ツルボ (蔓穂)                            キジカクシ科(旧ユリ科) ツルボ属

              

 日当たりのよい棚田の畦や道端、土手、草地などに生える多年草で、地中にネギのような臭いのある黒褐色の外皮に包まれた卵球形の鱗茎を有し、花茎が直立して高さが20センチから40センチほどになる。葉は長さが15センチから25センチほどの扁平な線形で普通2個が根生する。

 花期は8月から9月ごろで、花茎の先に4センチから7センチほどの穂になった総状花序を出し、小さな淡紅紫色の花を多数つけ、下から上へと咲く。ツルボ(蔓穂)の名の語源は不詳であるが、スルボとも呼ばれるところから、花が咲く穂になる総状花序に由来するものと考えられる。

   サンダイガサ(参内傘)の別名があり、この別名の発想に同じであることが思われる。つまり、サンダイガサ(参内傘)は公卿が参内するとき従者が差しかける長い柄の傘で、ツルボの長い花茎と穂状の総状花序が参内傘をつぼめる(すぼめる)形になるのでこの名がある。この例に等しく、ツルボ、スルボはその傘をつぼめる(すぼめる)意よりなると考えられないか。蔓穂はツルボの漢字表記に際し「蔓」を当てたと考える。

 北海道から琉球列島まで、日本全土に分布し、朝鮮半島、中国、台湾、ロシアに見られるという。大和(奈良県)では各地で見るが、明日香の里でよく見かける。因みに、ツルボは有毒植物であるが、鱗茎にデンプンが含まれ、ヒガンバナ科のヒガンバナと同じく、水に晒して食用にされ、昔は救荒植物としてあった。ヒガンバナとともにツルボが明日香の里でよく目につくのは棚田の多い歴史の地、明日香の土地柄によるものだろう。 写真はツルボ(明日香村)。 昨日あり今日ありそして明日がある即ち生は移ろひにある

<2790> 大和の花 (880) ニラ (韮)                           ユリ科 ネギ属

        

 東アジア原産の多年草で、インドから中国、日本などに野生すると言われるが、日本のものは古くに渡来し、栽培されていたものが野生化したものではないかと言われている。地下に小さい鱗茎を有し、長さが20センチから30センチの扁平で軟らかい線形の葉を束生し、群落をなすことが多い。茎や葉に辛味と臭気がある。

 花期は8月から9月ごろで、葉間に高さが20センチから40センチの花茎を直立、その先に半球形の集散花序を出し、長さが数ミリの狹長楕円形の白い花被片6個の花を多数つける。花被は平開し、花の中央の雌しべを囲む形で雄しべ6個が突き出し、花糸の下部が太くなる特徴がある。

 ニラ(韮)は古くから栽培され、『古事記』にはカミラ(賀美良)、『万葉集』にはククミラ(久君美良)で登場。ミラ(美良)はニラ(韮)の古名で、賀と久君は万葉仮名。という次第で、カ(賀)は臭、クク(久君)は茎のことで、ニラは古名のミラが訛ったものと言われる。全体に独特の臭気と辛味があり、『古事記』にはこの特徴をもって登場し、『万葉集』には採取の様子をもって登場する。で、ニラは万葉植物として知られる。

 今も食用にされ、臭いを嫌う御仁もいるが、和え物、汁の実、卵とじ、雑炊などに用いられている。中国やインドでは古代より栽培され、漢名は韮。で、中国ではラッキョウ、ワサビ、ネギ、マメとともにニラは五菜の1つとして珍重され、今も中華料理に愛好されている。また、薬用としても知られ、種子は韮子(きゅうし)、茎葉は韮日(きゅうひ)の漢方名を有し、下痢止め、健胃、強壮に用いられて来た。

 なお、俳句におけるニラ(韮)の季語は葉を食用にする採取の関係によって目立ちの春、晩夏から初秋のころ花を咲かせるところから、花は夏と決められている。 写真はニラ。道端の草叢で花を咲かせる群落(左)、エノコログサの仲間に混じって花を咲かせる個体群(中)、花序のアップ(右)。いずれも田原本町で。 平等を言はば時こそ 誰もみな移ろふ時に身を置く定め

<2791> 大和の花 (881) ノビル (野蒜)                         ユリ科 ネギ属

                                   

 日当たりのよい棚田の畦や土手、道端などの草地に生える多年草で、地下に白い薄皮に包まれた直径が2センチほどの球形の鱗茎を有し、長さが25センチから30センチの線形で断面が三日月形の葉が見られ、葉間に高さが50センチから80センチほどの細くてしなやかな花茎を立てる。

 花期は5月から6月ごろで、花茎の先に集散花序を出し、小さな紫色を帯びる白い6花被片の花を開く。花序にはしばしば珠芽(むかご)が出来、ときには珠芽だけで花が咲かない個体もある。つぼみは花序が膜質の総苞に包まれ、嘴のように先が尖った卵形で、ネギのつぼみを小さくしたように見える。蒜(ひる)はネギやニンニクなどの総称で、全草にネギやニンニクのような臭気があるので、この名が生まれた。

 北海道から琉球列島まで日本全土に分布し、東アジア一帯に見られるという。日本のものは有史前帰化植物の可能性があるとも言われるが、はっきりしない。古来より知られ、『古事記』の応神天皇の条には「いざ子ども野蒜摘みに蒜摘みに」と歌われ、『万葉集』には「醤酢(ひしおす)に蒜搗き合(か)てて」と詠まれている。つまり、当時から食用にされていた。ということで、ノビルは万葉植物である。

 ニラなどに比べ、野生のものが多く、大和(奈良県)でも道端などで雑草とともに生え、普通に見られる。今は食用に採取されることはほとんどないが、春の代表的な食用野草の一つに数えられる。若芽の鱗茎に味噌をつけて生食するほか、和えもの、汁の実、酢のものなどにする。薬用としては、毒虫に刺されたとき、鱗茎を摺り下ろして塗布する。また、全草たむしに効くという。  写真はノビル(明日香村)。ノアザミやスイバなどとともに生える個体(左)と花序のアップ(花序には茶褐色の珠芽も見える)。

  大いなる錯覚大いなる誤謬諸相における実(じつ)を思へば

 

<2792> 大和の花 (882) ヤマラッキョウ (山辣韮)                                 ユリ科 ネギ属

                                          

 日当たりのよい山地の草地などに生える多年草で、その名は山に生えるラッキョウ(辣韮)の意。地下に小振りのラッキョウに似る鱗茎を有し、高さが30センチから60センチほどの花茎の基部に3個から5個の葉を出す。葉は長さが20センチから50センチの広線形で、断面は三角状になり、ネギのように中空。基部は鞘状になり、茎につく。ニラ臭はなく、冬には地上部が枯れ、鱗茎によって越冬する。

 花期は9月から10月ごろで、花茎の先に散形状の花序を出し、紅紫色の花を多数つける。花は長さが6ミリほどの長楕円形の花被片が6個、雄しべ6個と雌しべの花柱も全体に紅紫色で、雄しべも雌しべの花柱も花被より長く突出し、ラッキョウの花に似る。実は蒴果。

 本州の福島県以南、四国、九州、琉球列島に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では大和高原などで見かけるが、多くない。なお、ヤマラッキョウは鱗茎を水で晒し、酢味噌に和え、春の軟らかい葉は天ぷらなどにして食用とする。 写真はヤマラッキョウ(十津川村)。野菊とともに花を咲かせる個体(左)と花序のアップ(右)。

      如何に生きゐるとも生じ来る思ひ不束なれば不束にして

 

<2793> 大和の花 (883) ノギラン (芒蘭)                              ユリ科 ソクシンラン属

               

 山地の道端や林縁の草地に生える多年草で、長さが8センチから20センチの倒披針形の根生葉を束生し、その葉間から1個の花茎を伸ばし、高さが20センチから50センチになる。

 花期は6月から8月ごろで、花茎の先に穂になる総状花序を伸ばし、淡紅褐色に緑を帯びる小さな6花被片の花を下から順に開く。卵形の子房は上位で、雌しべは花の中央に1個、雄しべ6個雌しべを囲む形で突き出す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島南部と南千島に見られるという。別種に花茎や花柄、花被に腺毛があって粘着するネバリノギラン(粘芒蘭)があるが、大和(奈良県)では見かけない。なお、ノギランは全草に強心、利尿の薬効があり、煎じて服用するが、妊婦には危険とされている。

 写真は林縁の草地で花を咲かせる矢田丘陵の個体(左)、花序のアップ(中・小さな6花被片の花がびっしりついている)、葉にシカの食害の痕跡が見られ、花を咲かせる曽爾高原の個体(右)。  今日があり明日がある身の 身の上に涙ぐましき夕映えの空

<2794> 大和の花 (884) ソクシンラン (束心蘭)   ユリ科(キンコウカ科) ソクシンラン属

                                                                 

 低山やその山麓の草地または道端などに生える多年草で、花茎が30センチから50センチの高さになる。根生する多数の葉を有し、葉は長さが15センチから30センチの線形で、長く尖り、質はやや硬く、淡緑色。

 花期は4月から6月ごろで、花茎の先に穂状花序を伸ばし、多数の花を連ねて斜め上向きにつける。写真の個体はまばらについているが、やや密につく。花は白色または淡紅色を帯びる花被片6個の壷形で、先は6裂し、裂片は披針形。平開状態にはならない。花の基部には大小の苞がある。実は蒴果。

 本州の関東地方南部以西、四国、九州、琉球列島に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)では山地の草地などで見られる。 写真はソクシンラン(二上山・花序全体に腺毛が密生している)。

  罪と罰中也における死の意識生きゐるものは辛さも負へる

 

 

 

 

 

 

 


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