<2744> 大和の花 (843) ミズチドリ (水千鳥) ラン科 ツレサギソウ属
日当たりのよい水湿地や湿原に生える多年草で、茎は高さが50センチから90センチほど、直立し、葉は長さが7センチから20センチの線形または披針形で、下部の葉ほど大きく、茎を抱いて互生する。花期は6月から7月ごろで、茎の上部に多数の小さな純白の花を連ねて咲かせる。花は先が尖る左右の側萼片が鳥が羽を広げたように張り出し、上萼片1個が帽子の庇のようにつき、花の中の蕊柱を守る形になり、その下に長楕円形の唇弁が虫を誘い入れるようになっている。蜜が溜まる距は2センチほどと長く、淡緑色で、下垂気味につく。
この花をチドリに見立てたようで、この名がある。ジャコウチドリ(麝香千鳥)の別名は花にわずかながら芳香があることによりつけられたという。北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、ロシアに見られるという。大和(奈良県)ではごく限られたところにしか自生せず、その上、園芸用の採取や植生の遷移などが懸念され、レッドリストの絶滅寸前種にあげられている。 写真は花期のミズチドリ(花にはナツアカネが見える・曽爾村)。 花に問ふこともあるなりガラ系のぼくらはもしや絶滅危惧種
<2745> 大和の花 (844) オオバノトンボソウ (大葉の蜻蛉草) ラン科 トンボソウ属
丘陵や低山の疎林内などに生える多年草で、根は紡錘状に肥厚し、茎は高さが30センチから60センチほどになり、直立する。葉は中脈と主側脈が裏面に隆起して茎に流れ、茎の著しい翼状の稜となり、互生する。また、葉は下部の2、3個が大きく、上のものほど小さくなり、最下部の葉は長さが7センチから12センチの長楕円形乃至狹長楕円形。
花期は6月から7月ごろで、茎の上部から先端にかけて黄緑色の小さな花を多数つける。花は背萼片と左右の側花弁、下方の唇弁、花の後に垂れる距からなり、背萼片と左右の側花弁は重なって兜状になり、距は1.2センチから1.5センチほどで、花柄の子房部分よりも長い特徴がある。
本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国東南部、台湾に見られるという。大和(奈良県)では北部から南部まで自生地は点在的に見られるが、近年減少傾向にあり、レッドリストに希少種としてあげられている。花をトンボに見立てたか、同属のトンボソウ(蜻蛉草)より葉が大きいのでこの名がある。別名のノヤマトンボ(野山蜻蛉)でも知られる。 写真はオオバノトンボソウ(葉に光沢がなく、花柄の部分の子房に捩じれが見られない。ともに大和郡山市の矢田丘陵)。 生の身はいつも現(うつつ)にありながら夢を抱いて行ける存在
<2746> 大和の花 (845) オオヤマサギソウ (大山鷺草) ラン科 ツレサギソウ属
一定の標高にある冷温帯落葉樹林の林床に生える多年草で、根はやや肥厚して長く伸び、茎は直立して40センチから60センチほどの高さになる。葉は下部の2個が大きく、長さが10センチから20センチの倒卵状狹長楕円形で、光沢がある。先はあまり尖らず、基部は細くなり、鞘状となって茎を抱く、また、葉は他の仲間と同じく上部ほど小さくなって互生する。
花期は7月から8月ころで、茎の上部から先端にかけて白緑色の小さな花を穂状に多数つけ、下から順に開花する。花は、花柄の子房、背萼片、側萼片、側花弁、唇弁、距などからなり、唇弁は舌状。距は2センチほどと細長く、花の後に横向きに突き出す。オオヤマトンボに似るが、葉に光沢があることと本種の距の方が長いので判別出来る。
北海道、本州、四国、九州に分布し、南千島からサハリンにも見られるという。大和(奈良県)では、1000メートル以上の標高を有する紀伊山地に自生地が集中的に見られるが、伐採や植林が影響し、減少しているといわれ、個体数も少なく、レッドリストには希少種にあげられている。 写真はオオヤマサギソウ(天川村)。花期の姿(左)、花のアップ(中・花柄の子房が捩じれ、花柄の基部に線形の苞葉が見える)、スギの植林帯の片隅に生え出した若い個体(右・濃い緑色の葉に光沢がある)。 生の身は夢の存在そしてまた夢に背かれゆける存在