<2735> 大和の花 (834) ネジバナ (捩花) ラン科 ネジバナ属
日当たりのよい丈の低い草地や芝地などに生える多年草で、根が白く紡錘状に肥厚し、花茎は10センチから20センチほどに直立する。葉は長さが5センチから20センチの線状倒披針形で、先が尖る。花期は5月から8月ごろと長く、花茎の先に5センチから15センチほどの花序を伸ばし、淡紅色の小さな花を螺旋状に多数連ねてつける。花序には白い毛が見密生する。花の巻き方は左右どちらもあり、途中で巻き方が変わる個体も見られ、統一されてはいない。また、ときに白い花も見られる。
花は横向きに開き、螺旋状について捻じれるように連なり咲くのでネジバナ(捩花)の名がある。古名のモヂズリ(捩摺)も花の捻じれて連なる姿に因むもので、染色技法の捻摺染めによると言われる。一個一個の花は淡紅色の萼片と側弁が兜のようにつき、側弁が庇のように張り出し、白い舌のようなざらついて見える唇弁の傘の役割を果たすように出来ている。花はチヨウやハチの類がやって来る典型的な虫媒花である。
日本全土に隈なく分布し、ヨーロッパ東部からシベリア、アジア一帯、オセアニアなど世界にも広く見られ、ランの仲間では珍しく、広汎的に分布してよく知られる。江戸時代の1695年に出された『花壇地錦抄』(伊藤伊兵衛著)には「もぢずり」で見え、当時は園芸に人気を博したと言われる。昨今では芝地などに植えられるケースが多い。 写真はネジバナ。淡紅色の花をつけた個体と白い花の個体が並んで見える草原(左・白く丸い花はシロツメクサ)と花のアップ(右)。ともに広陵町の馬見丘陵公園。
梅雨曇天青垣の山圧すなり
<2736> 大和の花 (835) セッコク (石斛) ラン科 セッコク属
樹上や岩上などに多数の根を出して着生する多年草で、高さが10センチから30センチほどになる。茎は束生し、多数の節があり、節間には縦条が見られる。葉は長さが5センチほどの披針形で、質は厚く、互生する。
花期は5月から6月ごろで、葉の脱落した節から細い花茎を伸ばし、白色または淡紅色の花を1、2個つける。萼片3個と側花弁2個はほぼ同長で、長さ2.5センチほど、唇弁はやや短い卵状楕円形で、ともに先が尖る。仲間に花が黄色を帯びるキバナノセッコク(黄花石斛)がある。
本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。石斛は漢名で、この名の音便セキコクが詰まってセッコクになったという。健胃、強壮の薬用にされることから記紀神話の医の神である少彦名命(すくなひこなのみこと)に因み、スクナヒコナノクスネ(少彦名薬根)の古名で知られる。
一時期観賞用に人気を博し、野生の激減に繋がったが、株分けが容易く出来、増産されて安価に売り出されるようになった。だが、大和(奈良県)では自生地が限られ、現在でも人目につくところのものは姿を消し、減少が著しいとして、レッドリストの絶滅危惧種にあげられている。 写真はセッコク。岩崖に群生して咲く花(左)、花のアップ(右)。上北山村。
梅雨の奈良盆地に厚き雲の蓋
<2737> 大和の花 (836) フウラン (風蘭) ラン科 フウラン属
細い気根を出し、樹上や岩壁などに着床する常緑の多年草で、広線形の厚くて硬い葉を有し、10センチ前後の草丈になる。花期は6月から7月ごろで、長さが3センチから10センチの花茎の先に芳香のある白い花を3個から5個つける。花は長さが1センチほどの線状披針形の萼片と側弁、3裂する唇弁、それに、湾曲して垂れ下がる細長い距が印象的なランである。
フウラン(風蘭)の名は、漢名風蘭の音読みから来ているもので、江戸時代のころから観賞用に開発され、多くの品種が生み出され、その名はフキラン(富貴蘭)と称せられ、東洋ランの代表的存在として今も知る人ぞ知るランとして愛好家が見られる。
本州の関東地方以西、四国、九州、琉球列島に分布し、国外では朝鮮半島と中国に見られるという。大和(奈良県)では、自生の個体に出会えるのは稀で、レッドデータブックの絶滅危惧種としてある。全国的にも希少なランで、環境省は絶滅危惧Ⅱ類にあげている。 写真はフウラン(奈良市で撮影したもので、古家の屋根に見え、逸出気味に半野生化しているようだった)。
梅雨末期日本列島豪雨危機
<2738> 大和の花 (837) コケイラン (小蕙蘭) ラン科 コケイラン属
山地(ブナ帯付近)のやや湿気のある林内に生える多年草で、地下の偽球茎から長さが25センチほどの披針形の葉を普通2個出し、高さが30センチから40センチの花茎を直立させる。花期は5月から6月ごろで、花茎の上部に多数の花を総状につけ、下から順に開花する。
花は萼片と側弁が黄褐色の披針形で、先は尖り、長さは1センチほど。同長の唇弁は白色で、紅紫色の斑点があり、よく目につく。中国産のケイラン(蕙蘭)に似て、ケイランより小さいのでこの名がある。また、葉がササに似て花がエビネに似るのでササエビネ(笹海老根)とも呼ばれる。
北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、南千島、カムチャッカ半島、サハリン、ウスリー地方に見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地で自生が確認されているが、自生地、個体数とも少なく、奈良県のレッドデータブックでは絶滅危惧種としてあげられている。
このようなラン科植物は自生する現場に足繁く通っていなくてはなかなか出会えないところがある。突然生え出して来るといった風に見えるが、生え出すとすぐに採取され、次の年には姿がなく、見られないということが多い。だが、また、年月を経て突然生え出すといった具合に姿を見せることがある。これは地下に潜む偽球茎の働きによるものであろうか。この写真も足繁く通っていたために叶えられたということが出来る。 写真は花を咲かせるコケイラン(天川村)。 雨の日々でんでんむしむし蝸牛
<2739> 大和の花 (838) サイハイラン (采配蘭) =参考= ラン科 サイハイラン属
山地のやや湿気のある木陰などに生える地下に卵形の偽球茎を有する常緑の多年草で、長さが15センチから35センチの大きな長楕円形の葉を地上に1、2個出す。花茎は直立し、30センチから50センチほどの高さになり、上部に多くの花を総状につける。この花のついた花茎の姿を采配に見立てたことによりこの名があるという。個々の花は細長く、淡紅色で、横向きに開き、その後下向きに垂れ下がる。
北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島の南部、サハリン、南千島、中国、台湾、ヒマラヤ地方に見られるという。大和(奈良県)では里山周辺の林下に生えるが、個体数が少なく、レッドリストの準絶滅危惧種に当たる希少種にあげられている。なお、サイハイランは長期栽培や移植が難しい植物として知られる。これは大きい葉を有しているが、この葉の光合成だけでは栄養補給が足りず、菌類の助けを必要とし、土壌の適否が難しいからと言われる。つまり、野生のものを採取しても土壌環境が変わり、土壌が適合しなけなければほぼ近々に枯れてしまうという。
写真はサイハイラン。金剛山域での撮影。厳密に言えば、撮影場所は大阪府の管内で、「大和の花」の趣旨に反するが、大和(奈良県)と同じ山塊に産するもので、「参考」としてとりあげた。 梅雨の空晴れ間を見せてまた曇る
<2740> 大和の花 (839) コイチヨウラン (小一葉蘭) ラン科 コイチヨウラン属
地下を這う綿毛の生えた根茎から1個の花茎を立て、1個の葉をつける小さなランで、花茎は10センチから20センチほどの高さになる。葉は長さが1.5センチから3センチの広卵形で、先はあまり尖らず、基部は心形。長さが2センチから5センチの葉柄を有する。
花期は7月から8月ごろで、下部に鞘状の鱗片葉が少しつく花茎の先に淡黄白色の花を2個から数個つける。花は極めて小さく、長さが5、6ミリの長楕円形の唇弁に紅紫色の斑紋が入り、印象に残る。別種のイチヨウラン(一葉蘭)より小さい1葉のランで、この名がある。
北海道、本州の中部地方以北と紀伊半島、四国に分布し、国外では千島列島、サハリンに見られるという。大和(奈良県)では冷温帯域から寒温帯域に自生するが、自生地も個体数も極めて少なく、レッドリストの絶滅寸前種にあげられている。大峰山脈の尾根筋に生えるものは本州の南限と思われる。 写真はコイチヨウラン(十津川村・登山道脇に生え、踏みつけが心配である)。
梅雨の日々晴れ間恋ほしき奈良盆地